12月25日 第十二章「いそげ」
「愛美先輩が、先ほど飛び降り自殺をしました」
「……」
何も言えなかった。何も思えなかった。
カチャン――
手から携帯が滑り落ちて地面に落ちる。
ふわりとからだが浮く感覚になって私は倒れそうになる。彼がとっさに支えてくれた。
「……」
彼は落ちた携帯を拾って私を抱きながら佳奈と話す。
「どういうことだ? 新手の冗談か? だったら度が過ぎ――」
「冗談ではありません。今、愛美先輩のうちにいます。今すぐ来てください」
そして電話は切れた。
私は目をうっすらと開ける。暗い中、電飾のちかちかというひかりに照らされた彼の目にはいつもの光が宿っていなかった。絶望すら感じられる目だった。
「……香澄、愛美の家はわかるか?」
彼がかすれた声でそういう。
「うん」
「行こう」
「うん」
彼は私をゆっくりと起こした。まだ足ががくがくする。
「ほら」
彼がしゃがみこんだ。私は彼の背中に乗った。だけど、何も感じられなかった。
「愛美先輩が、先ほど飛び降り自殺をしました」そこ言葉だけが頭の中で反芻されていた。
駅を出ようとしたその時、
「よう、兄ちゃん」
暗闇から複数の人影が現れた。
「お前ら……あのときの……」
私はその中の一人に見覚えがあった。あの青坂くんが救ってくれた日に私に絡んできた奴だった。
「なんだよ~ラブラブじゃねえか」
「今はお前なんかの相手をしている場合じゃない」
「んだとぉ?」
彼らがこっちへ一歩、一歩と幅を狭めてくる。
「やんのかごらぁ!」
「だからやらねえって!」
青坂くんは走り出した。
「おい!!」
奴らも追っかけてくる。土砂降りの中、ぴちゃぴちゃという音が駅前に響き渡った。
彼は私をそっと地面に下ろした。
「いい? 僕がおとりになるから香澄は先に行っていて」
「え?」
「大丈夫、あとで行くから」
彼はそういって奴らがいる方へ駆けだしていった。
「ま、待って……!」
私はそう叫んだが、彼の耳には届かなかったようで彼の姿はやがて暗闇に紛れてしまった。遠くで怒号や水の音が聞こえた。
私は彼に言われたとおり、愛美の家へと向かった。――うしろを振り返らずに。
雨のざーっという音と私の足下からぴちゃぴちゃという音が聞こえる。
私は一心不乱に走った。
暗い中、街灯に照らされた街は気味が悪かった。
「愛美……」
私は心の中でただ一人の親友を思い浮かべていた。




