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Eden’s Gate Guardian's ‐エデンの守護者-  作者: Red/春日玲音


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第十二話 冒険者

夕暮れの光が、街門の石壁を赤く染めていた。

静香は門の前に立ったまま、門番を見上げている。


「お願いします。中に入れてください」


もう何度目になるかわからない頼みだった。

だが門番は、困ったように眉をひそめながらも首を振る。


「悪いが規則だ。身分証も通行証もない者は通せない」


それだけ言うと、門番は槍を持ち直し、会話を終わらせるように視線を逸らした。


空を見上げる。

太陽はすでに西の山に沈みかけていた。


日没までもうわずか。

門が閉まれば、今夜は街の外で過ごすしかない。


冷たい風が吹き抜け、静香はマントの襟を握りしめた。


——どうしよう。


そう思った、その時だった。

背後からざわめきが広がる。


「どいてくれ! 道を開けてくれ!」


荒い声。

振り返ると、一人の冒険者が必死の形相で駆けてきていた。

その腕には、もう一人の冒険者が抱えられている。


ぐったりとした体。

服は血に濡れ、腕から赤い雫がぽたぽたと地面に落ちていた。


抱えている男の顔も泥と汗にまみれ、息を切らしている。


「門を開けてくれ! 仲間がやられたんだ!」


男は門の前まで来ると、ほとんど倒れ込むように叫んだ。


「頼む……医者を……!」


門番たちが一瞬顔を見合わせる。

夕暮れの門前に、張り詰めた沈黙が落ちた。


静香は、その光景を黙って見つめていたが、次の瞬間、駆け出していた。

気づけば体が動いていた。

門番の横をすり抜け、倒れ込んだ冒険者のそばに膝をつく。


抱えられていた男の体はぐったりとしている。

服は血で濡れ、呼吸は浅く、弱かった。


その顔を見た瞬間――


視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。


名前:???

状態:重傷 / 出血 / 意識不明

HP:残りわずか


静香は息を呑んだ。


(このままじゃ……)


自然と視線が装備欄へ向く。

手持ちのアイテムが表示される。


劣化ポーション ×3


すぐに効果が頭に浮かぶ。

軽傷なら治せる。出血も多少は止まる。


だけど――


(足りない)


この状態では、焼け石に水だ。

HPは回復しても、致命傷までは治せない。


抱えてきた冒険者が必死に叫ぶ。


「誰か! 回復魔法を……!」


門番たちは動けずにいる。

街の中には治療師がいるはずだが、門はまだ閉じられたままだ。


静香は拳を握りしめた。

目の前のウィンドウには、減り続けるHPの表示。


どうする?

このままでは、間に合わない。


「……そうだ、調合」


血に濡れた冒険者を見つめた瞬間、静香の頭の中にひとつの可能性が浮かんだ。

手持ちの劣化ポーションだけでは、この傷は治せない。

ステータスウィンドウが示す通り、これは軽傷ではない。重傷だ。このままでは、回復量がまったく足りない。


だが、ふと思い出した。

劣化ポーションに中和剤と薬草を加えて調合すれば、上位の回復薬――劣化ハイポーションが作れる。

静香はすぐにインベントリを確認した。

材料は揃っている。素材の質はいいとは言えないが、一応規定ラインを越えている。


しかし、胸の奥がきゅっと締まる。

手持ちの材料では――一回きり。

失敗すれば、それで終わりだ。

画面の中で、白い20面ダイスが二つ、ゆっくりと回転している。


下には判定条件が表示されていた。


0~38の間で結果が決定

成功:27以上


静香は小さく息を呑む。

成功率は半分にも満たない。

むしろ失敗する確率の方が高い。


けれど、目の前の冒険者のHPは、今この瞬間にもわずかずつ減っていく。

迷っている時間はなかった。


「……お願い」


誰に向けた言葉なのか、自分でもわからないまま、静香はサイコロを振った。


白いダイスが空中に弾けるように放たれ、石畳の上へ落ちる。

乾いた音を立てながら、二つのサイコロが転がった。

カラカラと音を立てて回り続けるダイスを、静香は息を止めて見つめる。


やがて、一つ目のダイスがゆっくりと傾き――止まった。

表示された数字を見た瞬間、静香の心は凍りつく。


0


思考が一瞬、真っ白になった。

この時点で、ほとんど終わりだった。

もう一つのダイスがどれだけ高い数字を出しても、最高でも18。成功ラインの27には届かない。

胸の奥に冷たい絶望が広がる。


(……ダメなの……)


そう思ったときだった。

まだ、転がり続けていたもう一つのダイスが小さく跳ね、角がぶつかり、回転がゆっくりと弱まっていく。


カラ……カラ……


そして、静かに止まった。

静香は反射的にその目を見た。

そこに刻まれていた数字を理解するまで、ほんの一瞬、時間が止まったように感じた。


0


次の瞬間、ウィンドウ全体がまばゆい光を放つ。

表示が書き換わる。


00 クリティカル


白いダイスが淡く輝き、空気が震える。

静香の手の中で、調合していた薬液が一瞬きらめいた。

濁っていた液体が、みるみる澄んでいく。

透明だったはずのポーションが、やがて淡い金色へと変わった。


成功率を超えた――奇跡の調合だった。


「これをっ!」


静香は出来上がったばかりのポーションを、抱えている冒険者へ差し出した。

淡い金色に輝く薬液。

だが事情を知らない者から見れば、ただの見慣れないポーションにすぎない。

冒険者は一瞬だけ怪訝そうな顔をした。

見知らぬ少女から差し出された得体の知れない薬だ。警戒するのも当然だった。


それでも――今はそんなことを言っている場合ではなかった。


腕の中の仲間の呼吸は弱い。

このままでは助からない。

藁にもすがる思いだったのだろう。


「……っ、分かった」


冒険者はポーションを受け取ると、すぐに栓を抜いた。

そして手早く仲間の体に半分ほど振りかけ、残った薬液を口元へ運ぶ。


「飲め……! 頼む、飲んでくれ……!」


意識のない仲間の顎を押さえ、無理やり流し込む。

周囲の空気が張り詰める。

静香は祈るような気持ちで、ステータスウィンドウを見つめていた。


しばらくして――


倒れていた冒険者の傷口が、ゆっくりと塞がり始める。

裂けていた皮膚が少しずつ閉じ、血の流れが止まっていく。

効果は確かに出ていた。


「……!」


冒険者の顔に希望が浮かぶ。

だが、静香の視界にあるステータスウィンドウは、別の事実を示していた。


HP:減少(緩やか)


ほんのわずかだが、数値が下がり続けている。


(……どうして?)


傷は治っているのに。

静香は慌ててウィンドウを見直した。

状態異常の欄に、小さく表示された文字がある。


毒・Lv3


静香は息を呑んだ。


毒Lv3がどれほど危険なのか、静香には分からない。

だがHPが減り続けている以上、放っておけば危ないのは確かだった。


(解毒……)


静香は急いでインベントリを開く。

そこには、いくつかの小瓶。


解毒ポーション ×3


足りるかどうかは分からない。

それでも、今できることはこれしかない。

静香は三本まとめて取り出すと、冒険者に差し出した。


「毒……これで……」


短く、そう伝える。

冒険者はまた怪訝そうな顔をしたが、すぐに視線を仲間へ戻した。

そして静香の言いたいことを理解したのだろう。


「毒か……!」


ポーションを受け取ると、栓を抜き、倒れている仲間の口へと流し込む。


「飲め……! まだ終わってねえぞ……!」


解毒ポーションを飲ませてから、しばらくの時間が流れた。


門前にはまだ緊張した空気が残っていたが、やがてそれも少しずつ和らいでいく。

倒れていた冒険者の呼吸が、ゆっくりと落ち着いてきたのだ。

浅く不安定だった胸の上下が、次第に穏やかなものへと変わっていく。


静香はステータスウィンドウを確認する。

毒・Lv3の表示は消え、HPの減少も止まっていた。

むしろ、わずかだが回復し始めている。

どうやら――峠は越えたらしい。


「……よかった」


小さく息を吐いたその瞬間。


「嬢ちゃん、助かったぜっ!」


大きな声が門前に響いた。

仲間を抱えていた大柄の冒険者が、満面の笑みで静香を見ていた。

先ほどまで必死だった顔が、今は安堵でいっぱいになっている。

男はぐったりした仲間をひょいと担ぎ上げると、静香の方へ歩み寄った。


「いやぁ、本当に助かった。あのままだったら危なかったぜ」


そう言ってから、ふと思いついたように続ける。


「礼がしたい。ギルドまで一緒に来てくれ」


その言葉に、静香は一瞬だけ固まった。

ギルド。街の中だ。

そこでようやく思い出す。


(……あ)


静香は、少し気まずそうに視線を逸らした。


「その……」


小さく口を開く。


「お金が……なくて……街に……入れ……ない……の」


門番に止められていた理由を、ぽつりと話した。

すると、大柄の冒険者は一瞬きょとんとしたあと――


「なんだ、そんなことか!」


豪快に笑った。


「それなら俺が払っとくよ。命を助けてもらった礼にしちゃ安いもんだ」


そう言って、門番の方へ歩いていく。

事情を簡単に説明すると、男は迷いなく入門料を支払った。


「ほら、これで問題ないだろ?」


門番も特に反対する様子はなく、道を開ける。


「……通っていい」


その言葉とともに、門の内側へ続く道が静香の前に広がった。

静香は少し驚きながらも、小さく頭を下げる。


こうして――


静香は無事に街の中へ入ることができた。

視界の端で、半透明のウィンドウが静かに現れる。


ミッション達成:街に入る


静香はその表示を見て、ようやくほっと息をついたのだった。

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