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【完結済】その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~  作者: みなと


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依り代破壊

 とはいったものの、どうやって破壊しようかとオフィーリアは悩んだ。

 先ほど踏んでも駄目だった。

 魔力をぶつけても駄目だった。


「うーん」


 やってやる! と意気込んだものの、方法としては一体これをどうすれば、とオフィーリアはもう一度魔石を拾い上げる。


「おばさま」

「なぁに?」

「こういうのって、どうやって壊せばいいんでしょう」

『ふっふっふ、オフィーリア。壊さずともよいぞ? 壊さなければ、我はお気に入り……もとい、かつての友たちの魂に近いものがおれば遠慮なく力を貸すから』

「黙れ悪霊」

『ひどっ!?』


 ふふん、と若干のどや顔を披露しつつオフィーリアにすり寄ろうとしていた元・大賢者は、そちらを見ようともしていないオフィーリアの言葉の一刀両断で、呆気なく撃沈する。


「サルシャ」

『あいな、エルザ』

「壊し方は調べなかった?」

『ん?』


 きょとんと眼を丸くしているサルシャに、オフィーリアは『あれ』と思う。

 この魔石を壊す前提で話をしていたのだが、そもそもこれってぎっちぎちに魔力の詰まったとんでもない結晶体なのだから、無理に壊してもあんまりいいことはないのでは、とすぐさま思考を切り替えた。


「……壊すんじゃなくて、形を変えればいい?」

『リア、正解』


 サルシャがオフィーリアのところにやってきて、にこー、ととっても可愛らしく微笑んだ。

 色々動きやすいから、と人型を取っているサルシャは、ぱちぱち、と手を叩いてオフィーリアのことを褒めてから元・大賢者へと向き直った。


『壊す必要ないもんねぇ、そこの人?』

『ぐ、ぬ』

『壊すなんてぇ、できないもんねぇ?』


 サルシャの凄味が、ぶわ、と増した。


『だぁってこれ、魔力の塊っていうかぁ、結構とんでもない代物だもんねぇ?』


 サルシャがひょこ、とオフィーリアの手の中を覗き込んで、わし、と魔石を掴んだ。


「あ、ちょっと」

『リア、一瞬貸して?』

「……う、ん?」


 一体何をするんだろう、とオフィーリアもエルザもサルシャを見ていると、サルシャがぐっと力を込めている。戦闘力は皆無だが、そこは人間と根本的に違う存在の魔獣であるからこそ、力はとんでもなく強い。

 みち、と軋むような音がしたものの、それ以上の変化はないため、サルシャは『あんがと』とオフィーリアに魔石を返した。


『何つー馬鹿力で依り代破壊を企んでくれたんじゃ、人畜無害そうなクソ悪魔!』

『誰が悪魔だし』

『お前じゃお前!!』


 んぎー! と地団太を踏んでいるような仕草で、元・大賢者はじたばたと暴れている。

 一体何が起こるんだ、と他の面々はカトレアとジェイドの背後から見ようとしているが、会話の内容から何となく想像は出来ていた。

 今のところ、何かが爆発するようなこともなさそうだな、と少しだけエルドウィンが安心したのもっ束の間。


「サルシャ、こっちいらっしゃい」

『はぁ~い』

「とりあえず、固まったものを溶かせばいいってことは分かったんだけど」

『うんうん』


 そうそう、とサルシャがとてもご機嫌な様子で頷いている。

 そのサルシャに、オフィーリアは満面の笑顔で言葉を続けた。


「とりあえず、熱で溶かす方向で良いかしら!」

『何でそうなったし』

「え? 間違っている?」


 お前……そういうところじゃ、と小さくぼやいた元・大賢者。


『あっはっは、道がない? 作ればいい!』

『なんだ、果物の皮がむけない? なら、分割して皮を残しつつ食べれば良い!』


 元・大賢者の頭を過っていく、かつての脳筋馬鹿。

 とても頼りになるし、とても良い人なのに思考回路がとんでもなく単純明快。言うことを素直に聞いてくれるのは長所でもあり短所でもあった。


『じゃから、本当にそっくりなんじゃて……』


 ちょっとだけ元・大賢者の気持ちを理解してしまったエルザだったが、元・大賢者が存在している限りはこの聖女システムは延々と続いていってしまうから、どうにかしないといけない。

 だからシステムごと破壊しようと思っていた矢先の、うっかり理解出来ちゃいそうなこの姪っ子の発言とか行動とか、どうしましょうねぇ……とエルザは頭を抱える。


「溶かす、って熱以外なんかある?」

『リアって案外お馬鹿さん』

「ひどくない!?」

『ひどくないよう~。あのねぇ、溶かすって言っても魔力を使った融解術とかあるでしょ~?』

「ああ」


 あったわ、と思い出したオフィーリアは、じっと魔石を見つめてから掌に魔力を集中させていく。


「熱い」

『だろうねぇ』


 じわじわと魔力を込めていけば、魔石に熱がこもってくるのが分かるが、一定の温度になってからふと止まった。


「……うーん」


 これじゃ足りないのか、あるいは魔力の種類を変えるのか。あるいは。


『何じゃ?』


 オフィーリアが、じっと元・大賢者を見る。

 そして、ゆっくりと上から下まで観察したかと思えば、ニィ、と微笑んだ。


『お前』

「固めた人の魔力波長なら、良いのかしら」


 一瞬でそれを察知したオフィーリアは、元・大賢者を観察。そしてその人が持っている波長をすぐさま解析してしまったのだ。

 治療をするうえで必要なスキルだったから、ちょっと頑張って身につけてみたものの、まさかこんなところで役に立つだなんて思っていなかった。


「……展開」


 ふわ、とオフィーリアの髪が揺れる。

 元・大賢者の魔力波長は、さすが賢者、というほどに繊細なものであったが色々な人の波長を調べまくり、同調もしていたオフィーリアにとっては『ちょっと難しい波長だなぁ』くらいのもの。


「こっちは経験積んできてるし、努力だってしてきてる。舐めないでいただきたいわ」

『……っ!』


 まずい、本当にこの子は厄介だ、と元・大賢者が察するには時間はさほどかからなかった。


『リア、これ使って~』

「あら、ありがとうサルシャ!」


 オフィーリアが元・大賢者の魔力波長に合わせた魔力を、魔石に注ぎ込んでいけば、手の中の魔石が、つるりとした綺麗な楕円形からスライムのように形を変えた。

 うにょ、と変化したそれを、オフィーリアはサルシャがさっと用意してくれた容器に入れる。


「サルシャ、この容器って」

『ちょっと収納魔法から出した』

「……」


 あれ、と思ってエルザを見れば、エルザが何かに気が付いたのか、自身の収納魔法を展開し、ずぼ、と手を突っ込んでいる。


「(まさか)」


 もしかしてこれがエルザのものだったら、結構貴重なものなのでは……とオフィーリアが思った通り、収納魔法から手を引っこ抜いたエルザがとても大きなため息を吐いて、そして一言サルシャに告げる。


「サルシャ、あとでお仕置きね」

『んにゃ、バレたぁ!?』

「もーーーー。別に使うには良いけど、確認しなさいってあれほど言ったでしょ!」


 どうやら何かとっても貴重なものだったらしく、エルザは困ったような顔のままで『続けなさい』と促した。


「おばさま、ありがとう!」

「良いのよ。後でサルシャをめっ、ってするから」

『うわあああああん、それ嫌~』


 ほのぼのとしているように見えて、オフィーリアはずっと魔力を注ぎ込み続けているから、魔石の形はあっという間に変化してきていた。


「(……そうよね、だってこれは元・大賢者様が作成した魔石。魔石、なんて呼んでいるけれど、あの人が結晶化させたものだから、正確には鉱石なんかの類ではない)」

『ま、て……やめ、あ、ぐ……』


 ぜぇはぁ、と元・大賢者は苦しそうにしているが、オフィーリアはそんなこと知ったことではない。


「自業自得な結果、とも言えません? どうせこの国に未練があるなら、聖樹にでも宿ってくださいね! そうすれば問題ないし、そこから離れないからあなたの力も思う存分に使えるでしょうとも!」

『おま、え』

「さぁ、元・大賢者様。私、本当にあなたの大好きなお仲間さんとそっくりかしら?」


 楽しそうに問いかけたオフィーリアを、元・大賢者は忌々しそうに見る。


『……全く、違っておる。くそ、我の見る目は』

「間違っていた、ってことです」


 じゅわ、と容器の中で音がする。

 じくじくと魔石は解けていき、形をもう既にほぼ留めていない。


『我に、愛されていれば……良かった、ものを』

「嫌です。愛される人も存在も、自分で決めたいので悪しからず!」


 喉元を押さえている元・大賢者の姿が、じわじわと薄くなっている。魔石という依り代がなくなったので、きっと他に宿れる場所を探して聖樹のところへ行くんだろう。


「……さようなら、神霊様。いいえ、元・大賢者……アルミュスティ様」


 本来の名前を聞いた元・大賢者は、目を見開いた。


『……何百年ぶりじゃろう、その名を聞いたのは』


 今まで聞いたことのないような、とても落ち着いた声音でそれだけ言うと、アルミュスティは微笑みを浮かべたままでふっ、と姿を消したのだった。

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