誰が筋肉馬鹿だ
さすがのオフィーリアも、神霊……もといかつての大賢者の暴言は許せない。
何のデリカシーの欠片もない発言に、王妃がめちゃくちゃ同情した顔でオフィーリアを見ているし、すす、と近寄ってきたカトレアに『帰ったらオフィーリアの大好きなおやつ、用意しておくわね』と言われたからギリギリで耐えているけれど、元・大賢者の暴言はまだまだ続く。
『何せあの筋肉馬鹿はな、可愛らしゅうてたまらんかったのだ! 容姿端麗であり格闘センスも最高、更に……って、どうしたオフィーリア』
「誰が……」
『ん?』
「誰が筋肉馬鹿なのよ、ふざけないでくださいませんか!?」
『え、だってお前面倒になったら最終は力業で……』
『リアのは力業なんかじゃないわよ、目ぇ腐ってんの?』
オフィーリアが今度こそ更にブチ切れそうになった時、リューリュがさらりと反論した。今から怒鳴りつけようとしていたオフィーリアは毒気を抜かれ、リューリュに視線をやる。
『そもそも、オフィーリアがそんな手段に出るのってアンタのせいじゃん』
『え?』
何でそんなことを……を首を傾げている元・大賢者は心底分からない、という顔つきになっている。本当に、心の底から悪気はなかったのだろうし、純粋な気持ちで褒めていると言うことも分かる。
だがしかし、褒められている側がそう感じれないものを、何でつらつらと続けられるのかは、その神経を疑って当然、といったところだろうか。
「……まぁ、そういう無神経さ故に、国民をだまし続けていられたっていうことでしょうけど」
『エルザ、矛盾してない?』
「無神経だから『こういうもんだ』と断言しちゃえば、『そういうものか』と納得できちゃうっていう厄介な心理をついている、っていうか」
『めんど! ってかそれって大賢者が単なる無神経なクソ馬鹿野郎ってことぉ!?』
遠慮のないリューリュの一言に、何やら『うぐぅ』とうめいている声が聞こえてくているが、オフィーリアは物凄い反論をしてくれているエルザとリューリュの存在に救われている気がした。
「……あの」
『オフィーリア、ちょっと待って! アタシあの馬鹿にもっと言わないと気が済まない!』
「そうじゃなくて、エルザおばさまが持っているその液体のこと、まだ聞いてないから落ち着いてリューリュ」
『にゃー! 耳掴まないで! 雑! 扱いが雑!』
「(あら仲良し)」
ほっこりしているエルザだったが、逃げようとしていた元・大賢者を視界の端でしっかりと捕え、くるりとそちらを振り向いた。
「どちらへ逃げようと? 元・大賢者様」
『……うげ』
「まぁ、ずいぶんなお言葉。とりあえず、あなたのあれこれを暴露したついでに、あのティアラの魔石の秘密もお話したいので、さっさとこちらにお戻りくださりやがいませ?」
コイツ、容赦ないところオフィーリアそっくり……と思った元・大賢者だったが、逆だ。
オフィーリアが、このエルザにもそっくりなのだ。
今でこそ勢いに圧倒されているカトレアだが、そもそもカトレアが怒ると大変恐ろしいのである。
オフィーリアも『お母さまだけはキレさせちゃいけない』とこっそり言っているし、リューリュもうっかり悪戯をしてしまって、オフィーリアとは比較にならないくらいにはちゃめちゃに叱られたことがあるから、『おばさまは……おばさまだけはダメ』と震えていたことがあった。
何なら夫のジェイドも『カトレアだけはね……怒らせちゃいけない』とも呟いているので、ヴァルティス家の支配者は紛れもなくカトレアであるのだが、一旦それは置いておく。
こわぁ……と呟きつつ戻ってきた元・大賢者は、エルザの迫力に負けてしょんぼりしつつ唇を尖らせた。
『んで、何じゃ』
「あなたがこだわっている、というか縋っている『コレ』ね」
エルザは、手にしている液体の入った瓶をもう一度エルザは自分の目の高さまで上げた。
「ちょっと頑張って手に入れたのよね、聖樹の樹液」
「……は」
「えええええええええええ!?」
エルドウィン、オフィーリアがぎょっとする。
あれって傷つけて良いもの!?と二人が驚いている中、元・大賢者だけがだらだらと冷や汗をかいている。というか、エルドウィンには『そもそもあんなに大切なものを傷つけて良いのだろうか』といった不安しかない。
「ああ、大丈夫ですよ陛下。無難そうなところをこう……ざくっと」
『ざくっと!?』
「オフィーリア嬢、君の身内は一体何つーことを」
「おばさまなので」
とっても良い笑顔で、ぐっと親指をたてているオフィーリアを見てエルドウィンは頭を抱える。
「オフィーリア嬢……」
「そうでもしないと、きっと進まないんじゃないかな、って思ったので魔獣討伐に馳せ参じた次第です」
「ってことは……」
「はい、陛下」
ふ、とエルザとオフィーリアは微笑みあう。
「お願いしました、姪っ子に。魔獣討伐に参加することは大変かもしれないけれど、お願いできるかしら、って」
「後輩たちからの救援要請を、こそっとおばさまにお話しして、私がここに来るついでにおばさまには聖樹のあるところに行ってもらった、って訳なんです」
『オフィーリア、そなた!』
「元・大賢者様はきっと私の存在ばかり気にかけるだろう。そう思ったので」
不敵な微笑みを浮かべたオフィーリアに、元・大賢者はやられた! と苦い顔をした。あの騒ぎに乗じて、まさか裏でそんな動きをしているだなんて、誰が想像できようか。
元・大賢者の性格と、いかにオフィーリア自身が気に入られているのかを逆手に取って行動した、というわけだった。
「オフィーリアが持っている魔石に関しては、恐らくこの樹液の結晶体、と考えて良いかと思います」
エルザは微笑んで、樹液の入った容器を再度ゆるりと動かした。
色味は同じ、しかしあれが硬化したもの……もとい結晶化したものが、これかー、とオフィーリアは掌の中の魔石を眺める。
どんな原理で、とは思うが、琥珀と似たような感じなのだろうか。あるいはまるで地中深くの鉱石に宝石の原石があるかのような、そんな仕組みなのだろうか。
「現在までに、消滅してしまっているであろう古代魔術の一種でも何でも、きっと貴方ならお使いになれたのでしょう。この国を愛するがあまりに、色々と歪めているというご自覚を、そろそろきちんとお持ちになっていただきたいわ。可愛い姪っ子の将来、潰されたくなんかないんですもの」
ちくり、と嫌味を放ちつつエルザはにこやかな笑みを崩さないまま、きっぱりと告げる。
オフィーリアは、エルザの対応にさすがだ、と表情を綻ばせてから、へら、と破顔したのだった。




