神霊様の正体
「さて、と」
オフィーリアはゆっくりと視線を動かして、次のターゲットとでも言わんばかりに神霊に視線をやった。
『……』
「……分かってますよねぇ?」
『はて、何のことやら』
すっとぼけたような神霊の反応に、オフィーリアはぴくり、と眉を上げる。
『おお、怖い』
「そうですか、怖いですか」
『うむ、我がオフィーリアが何をするのかが分からないのでなぁ。じゃが、離れていくことはないじゃろう、という確信はある』
「ああ、そう」
それなら、と呟いたオフィーリアが、自分が適当に持っていたティアラを持ち上げた。そして。
「よっこいせ」
『あーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?』
ぺきょ、と小さな音をたてて、ティアラに装着されていた魔石を取り外した。
「オフィーリア嬢!? ちょーーーーっと待ちなさい!!」
「何ですか陛下」
「オフィーリア、落ち着きなさいませ!」
「落ち着いています、王妃殿下」
淡々と返すオフィーリア。
慌てふためく国王夫妻と神霊。
――という結構とんでもない光景に、さすがのジェイドもカトレアもぽかんとしている。
「オフィーリア、聞いても良いかな?」
「はいお父さま」
娘の手に視線をやれば、ぎちぎちと魔石を握っているようだが、確かあの魔石は神霊の宿る大変貴重なものだったような気がする。
基本的に手を出してはいけない、と聞いていたような気もするし、ジェイドが文官をやっていた時に『あの魔石があるから神霊がこの国を保護している』とか何とかも聞いたことがあるような……と頭をフル回転させていた。
「そ、その魔石を……どうする気、かな?」
「壊そうかな、って」
『やめんかお馬鹿ーーー!!』
「えー、嫌だわ神霊様にそんなこと言われたら……」
慌ててオフィーリアのところにすっ飛んでいこうとした神霊は、彼女の顔を見てびく、と動きを止める。
「私、とぉっても悲しくて、これ……壊しちゃうかもしれなぁい」
『あ……』
まずい。
あれを壊されるのは、とっても、よろしくない。あくまで神霊にとって良くないだけではあるが、色々と把握しているオフィーリアからすればこんなもの無い方が良いのだ。
ここに来るまでにエルザから色々知識を得ており、対処方法も聞いている。ちょっと不安なので、早くエルザにもここに来てほしいが、まだ到着したという報せはない。
「さぁて神霊様、ちょーっとお話、しましょうか」
にこ、ととんでもない迫力の笑顔でオフィーリアは告げ、神霊はしゅっと正座をする。それを見たオフィーリアは、魔石を掌の中にがっちりホールドしてから口を開いた。
「疑問に思いませんでした?」
その問いかけは、ここに集まっている人たち全員に告げられたもの。
「どうして、『一番力の強い聖女』を筆頭聖女にしないのか」
「……?」
ん? とエルドウィンが首を傾げているところで、オフィーリアはふと微笑んでから言葉を続けた。
「おかしいじゃありませんか、歴代の筆頭聖女様を見てみると力にばらつきがある、だなんて」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
ストップ、とエルドウィンが手を挙げるが、オフィーリアはそのまま言葉を続けていく。
「調べてみたんですよ、どんな人が筆頭聖女に選ばれているのか」
『オフィーリア』
「ねぇ神霊様、あなた……えり好みしていますよねぇ?」
『……』
図星だったのか、神霊は悔しそうに黙り込むが、オフィーリアは一切の躊躇なく言葉を続ける。
「多分、共通点はあると思うんですけどそこまではどうしても見つけられませんでした」
『……っ』
共通点、とカトレアが呟いて、何かを思い出そうと天井を見上げている。一体どうしたんだろうとジェイドがカトレアの肩をつつくと、考えを邪魔されたくないカトレアからそこそこ大きなビンタをくらい、べちん、と良い音が響いた。
「でも……って、お母さま。お父さまをいきなりビンタして何してんですか」
「考えがまとまりそう、っていうか思い出せそうなんだからオフィーリアちゃんも黙ってて!」
「……えぇ」
『おばさまったら理不尽』
ちゃっかりずっとオフィーリアの頭に乗っかっているリューリュが呟き、オフィーリアもそれにうんうん、と頷いている。
「まぁ、お母さまは一旦放置しておいていいか。んで、話を戻しますけど」
『ちっ』
「舌打ちしたところで何も変わらないですって」
真顔で神霊に突っ込んだオフィーリアは、掌の中にある魔石をじっと見てから、口を開いた。
「そもそも論、この魔石が曲者、って訳なんです。あ、陛下。筆頭聖女が『一番力の強い聖女ではない』っていうの、あまりお気になさらずともよろしいかと。だって……」
またオフィーリアの視線が、神霊に向かった。
「この神霊様が、水増ししていたんですからね」
「……はい!?」
「だってほら、お気に入りには力を貸したくなるでしょう?」
うふふ、とオフィーリアは悪意なく微笑んでいる。
エルドウィンはばっと神霊に視線をやれば、その通りですが何か、と言わんばかりに不貞腐れた態度で頬を膨らませているが、オフィーリアから『可愛くもなんともないんですが』とバッサリ一刀両断されてしまい、しょんぼりと肩を落としている。
エルドウィンの記憶の中にある神霊は、いつも威厳たっぷりにしている、まさしく『神様』だったのだが、オフィーリアの前ではこうも違うのか、とある意味感心していた。
とはいえ、どうしてこんなにも態度が異なっているのか。
今まで考えもしなかったが、改めて指摘されたり態度の違いを見せられれば、疑問が次々にわいてくる。
「……何が……どうなって」
エルドウィンが呟いた時、謁見の間の扉が開いてエルザが入ってきた。
「おばさま!」
「お待たせしました。さて、そこに……何でか分からないけど正座しているのが神霊様?」
「はい」
あっけらかんと言うオフィーリアに、エルザはどこか遠い目をしつつも持ってきていた資料を取り出した。ついでにサルシャもひょっこりと顔を出した。
「サルシャ!? 久しぶり!」
『あいな、オフィーリア! リューリュも元気そう~』
『うげぇ』
「……リューリュって、サルシャ苦手?」
『とっつきやすそうで面倒なところ、ヤダ』
オフィーリアの頭の上でぷい、とそっぽを向いているリューリュを気にすることもなくサルシャは言葉を続ける。
『というわけで~、はいなコレぇ』
オフィーリアに書類一式をふわりと届け、オフィーリアがその中身をざっと確認してからエルドウィンに手渡した。
「陛下、ちょっとびっくりしますのでお気を付けてくださいませ」
「……ん? どれどれ」
「神霊様、あなたって……本当にとんでもない人ですねぇ……」
オフィーリアがげんなりして言ったところで、報告書を見たエルドウィンが思いきり叫んだのだった。
「はぁ!?」
「あ、ご覧になりました?」
「……いや、ええ……っと、えぇ!?」
『そこなエルザとかいう女、お前……どこまで知った』
「どこまで……そうですわね。とりあえずは……どこから話そうかしら」
うふ、と笑ったエルザは手を頬に添えてから、ゆったりと言葉を続けた。
「あなたが、この国を作ったときの初代メンバーであり、大賢者様だった、っていうことくらいは突き止めちゃいました」
明るく言われたそれは、まさしく爆弾であり、その場にいる全員が凍り付いてしまうとんでもない事態を引き起こしたのであった。




