何度も言ってることだけど
ガタガタと震えながらオフィーリアに対して土下座をしているアルティナ、そんなアルティナを鬼の形相で仁王立ちしつつ睨みつけているオフィーリア、オフィーリアに対して本気で怯えている神霊。
そんな三者三様な様子で戻ってきた彼女たちを、全員が不思議そうに見ている中、オフィーリアに二度目の謝罪を始めた。
「ごめんなさい、できないことをできるって言ってごめんなさい! 私はなーーんもないんです! 聖女なんかじゃないですし、お父さまの力で無理やり神殿に入っただけのただの可愛い貴族令嬢なんですううううううううう!」
『余計なこと言うでないわ、デブ』
「可愛いのは本当だもん!」
「どうでも良いんですよ、あんたが可愛いとか可愛くないとか。美意識なんて基準は人それぞれなんですし、押し付けてくるな」
神霊と元気いっぱい言い争いをしていたところを、容赦なくぶった切ったのはオフィーリア。
今にも罵詈雑言が飛び出してきそうなオフィーリアの殺気の凄まじさに、さすがに誰も何も言えないままで様子を伺っていたところに、『はぁよっこいせ』と呑気な声が聞こえる。
「ん?」
「おやリューリュ」
エルドウィン、ジェイドが反応した先にいたのはリューリュだった。
ふよふよと飛んできて、怒り狂っているオフィーリアの頭にぽすん、と着地してから、前足でいつものようにオフィーリアの頭を叩く。
『リア、落ち着いてってば』
「これのどこが落ち着いて……」
『だって、やりすぎたらアタシのリアが悪者になるんだもん。それは嫌だし、あとねぇ、今の謝罪、ちょーっと風魔法使って国民の皆さまに暴露しておいたので大丈夫だと思うんだけどぉ』
「ん?」
「はい?」
「あっちゃー……」
オフィーリア、ジェイド、エルドウィンと続けて呟き、そして三人がアルティナに視線をやった。
なお、アルティナは真っ青になって、がたがたと震えているのだが、そもそも自業自得の結果なので仕方ないし庇う必要なんてないわけで。
「あ、あの」
『アンタねぇ、アタシのオフィーリアに色々やらかしてくれてるじゃない。これくらいのしっぺ返しは来て当然だと思うんだけど~?』
とっても楽しそうに言うリューリュに対して、オフィーリアは手を伸ばし小さな体をぎゅっと抱き締めた。
ああ、いつも通りの手触りだ、と安心してオフィーリアはほっと息を吐き出した。
「(怒るのって、疲れる)」
『はいはい、お疲れ様よオフィーリア。でもねぇ本命がまだ残ってるんだし、しゃんとしなさぁい?』
「……ああ」
そういえばそうじゃん、とオフィーリアがハッとして、アルティナと一緒になって怯えていた神霊がぎくりと表情を強張らせてしまった。
しかし、色んな意味でここで片づけないと面倒なことになるし、何よりも。
「(私、エルザおばさまのところに行けないじゃない)」
――それは嫌だ、やっとやりたいことが、自分の夢が叶えられるかもしれないのに。
オフィーリアがそう思っていると、どったんばったんと賑やかな音がして、何だ、と視線をやった先でオフィーリアに向かって突進してきているルークが視界に入り、思わずオフィーリアもリューリュも『うげ』と言ってしまったのだが、別に悪くはないと思う。
何せ必死すぎる形相で走ってくる様子は、そこそこ……いや、とてつもなく恐ろしい。
イケメンだからといっても、あまりに必死な様子で、涙と鼻水垂れ流し状態で走ってくる様子は怖い。
「オフィーリアぁぁぁ、お願いだから帰ってきてくれえええええええええええ!!」
「……はい?」
「俺が悪かった、次は君だけをきちんと愛するから!!」
「あの」
「アルティナなんてもういらない! 包容力があるぁらって、聖女としての力がないからあんなデブいらん!」
ものすごい掌返しだな……と呆れているオフィーリアだったが、そこにやって来たのは当たり前だがアルティナ。
ルークのとんでもない発言を聞いて、彼が自分を助けてくれるとばかり思っていただけに、怒りが抑えきれなくなったのだろう。どっす、どどっす、どっす、と物凄い音を立てながら鼻息荒く走ってくる様子はルークとは異なり、別の意味でホラーな様子でしかない。
「誰がデブですってええええええええええええ!?!?!?」
「実際デブだろうが!」
お前、そのデブが好きだったんじゃないのか、と全員(王妃含む)に内心ツッコミを入れられているとは二人とも全く知る由はなく、オフィーリアの前でぎゃんぎゃんと言い争いをしている。
「(めんどくさー……)」
『リア、リア、このお馬鹿さんたちどこかに飛ばしちゃわない?』
「例えば?」
『怒り狂っている、民衆のど真ん中』
うふ、と楽しそうに微笑んで、かつノリノリで言い切ったリューリュを見て、オフィーリアは『その手があったか』とハッとした。
何せ『聖女』だと嘯いていたことに関しては、卒業パーティーでの一件があってから色々な人に知られている。
卒業パーティーの出来事は、実はそこそこ有名な話となっているのだから、きっと今この二人を転移させてしまえば、とんでもない暴動のようなものが起こってしまうだろう。
だがしかし、それをやるより前に、オフィーリアにはどうしてもやらなければいけないことがあった。
「やるの、もうちょっと待ってね」
『リア?』
リューリュの頭を撫でてから、ぎゃんぎゃんと言い争いをしている二人に近寄ったオフィーリアはすっと手を動かして水魔法を展開した。
『ねぇリアそれって』
「えーっと、呪文っている?」
『アンタならいらないわよ』
「あ、いらない? ほんと? んじゃ遠慮なく、ほいっと」
えい、とオフィーリアが指を動かせば、ぽこん、と生まれた水の玉二つがルークとアルティナ、それぞれの頭の上に生まれた。
「ほれ」
更にオフィーリアが指を上から下に動かせば、水の玉がぼちゃん! と二人に落ちて、頭から水を被る結果となってしまった。
「……え」
「何よコレぇ!!」
ぽたぽたと水が落ちていく中、二人は一瞬だけ呆然としていたがハッと我に返って犯人探しをしようとしたところに、次はオフィーリアから顔面に土の塊がぶつけられた。
「んぶっ!」
「あぎゃ!」
別に痛くはないだろうが、勢いと衝撃が結構なもので、二人はその場にどてん、と尻餅をついてしまった。
「あのねぇ……お二人とも。まずはうるさいのでちょっと黙ってください。それから私は殿下のことを好いたことは一度だってありませんし、興味もないです」
「……え? え、ええ?」
「それと、アルティナさんにも言えますが、貴女ができるできる詐欺をしていた結果、こうなっているんですが……それもきちんと自覚なさってくださいませね」
「あ、ええ……と」
二人揃って目がもの凄い勢いで泳ぎ始めてしまい、ルークに至ってはどうにか縋ろうとオフィーリアに手を伸ばしてみるが、ぎろりとリューリュに睨まれた。
『リアに触ろうとしてんなクソ野郎!』
ふん、と耳を長くしてからリューリュは勢いをつけてルークの手を打ち落とした。すぱん、と結構すごい音が響いて、ルークは叩かれた場所を押さえてから呆然としているままだった。
『リアのこと蔑ろにしておいて、今更縋るなつってんの! キモイ!』
「き、きもい……?」
はっきりとNOを突きつけられたルークは、今にも泣きそうな顔でずっとオフィーリアを見ていたが、何の感情もこもっていない目を向けられ、ようやくながら気付いてくれたらしい。
そんな、と一言呟いてから、がくん、と項垂れてしまったのであった。




