聖女モドキ
「わ、わたくしは、聖女で」
「だからその役目、果たしてくださいよ」
「それ、は」
げぇげぇと吐き続け、ようやく喋れるようになったアルティナの口からは、どうしても自分自身を悪者にしたくない、とでも言わんばかりの言葉が出てきそうになったが、オフィーリアがすぐさま口をはさんだ。
何が聖女だ、何が身内がすごい、だ。
アルティナ自身は何もすごくなんかないし、結局のところは虎の威を~というなんちゃら。
オフィーリアはオフィーリアで、自分のやりたいことに向かって突っ走りたいために容赦なんかしない。
「何度でも言ってあげるわよ。できるから奪った、だったら、やれ」
オフィーリアの口調はいつもの優しいものなんかじゃないし、視線だってとても鋭い。
怒っていることがありありと分かるし、その怒りは真っすぐにアルティナに向けられている(今は)。
「だ、って」
「だってじゃないでしょう。自分の発言には責任をもってくれませんかねぇ」
「う……」
ぐっと黙ってしまい、また同じ押し問答を繰り返すつもりなのか、とオフィーリアが思っていると、アルティナが地面に突っ伏して大声で泣き始めてしまった。
「うわああああああああん! ひどい! ひっどおおおおおおおおおおい!」
『何がひどいんか分からん、うるせぇ』
「神霊様、口が悪いです」
『うるせぇもんは、どう足掻いてもうるせぇのよ』
おんおんと泣いているアルティナだったが、内容はこれっぽっちもない。
ひどいひどい、私は被害者なのに、と相変わらずの他責志向でわんわんと泣き喚いているだけで、何もしない。地面をどむどむ叩いているが、そんなことしたら土煙が舞うだけだ。ほんのちょっと。
何か起こるわけでもないし、アルティナにめちゃくちゃ聖魔力が降って湧いて出るとかいうわけでもないし、ただ泣き声が喧しいだけ。
「あああああああ、ひどいひどいひどい! オフィーリアばっかり!」
「……」
「オフィーリアが贔屓されているから、こんなことになるんだわ! 私はなーんにも悪くないんだからああああ!」
『オフィーリア、コイツ殺すか?』
「……」
なんかもう面倒だなぁ、とオフィーリアはうっかり思うが、さすがに殺してはいけない。
「殺したら今後何も罰することが出来ないじゃないですか」
『うわぁ』
真顔で言い切ったオフィーリアに、さすがの神霊も唖然とする。
「殺すなんていつだってできますよ、王家が『聖女として今まで国を欺いてきた』とか何とかこじつけて、さっくり処刑することだってできます。でもね、それで終わりだなんて、許しません」
『オフィーリア……』
そんなに筆頭聖女の座を奪われたことが悔しいのか、と一瞬考えた神霊だった。
「人のやりたいことを妨害し続けるって、万死に値するどころか、死をもってしても償えないことだな、って思っているんですよねぇ。うふふ」
『…………』
目が、据わっている。
いつものオフィーリアなら決して見せないガチギレな状態に、神霊もひゅっと息を呑んだ。
「わああああああああああん!!」
「……いい加減……」
す、とオフィーリアが手をゆっくりを上げた。
「やかましい!!」
一言、そう叫んでからオフィーリアは上げた手を握って拳を作り、アルティナの脳天に思いっきり振り下ろした。
「ひどいひどい、うわああああああああ、んぎゅ!!」
ごつん、とかではなく、『がづん』という鈍い音が響く。
『うぅわ……痛そう』
神霊ですら真っ青になって、叩かれたわけではないけれども自分の頭をそっと押さえている。
思いっきりぶっ叩かれたアルティナは、頭を押さえて呻き声をあげている中、オフィーリアはもう一度振りかぶって、先ほどとは違う位置にもう一度拳骨をお見舞いした。
「いだーーーーーーーーーーー!!」
「やかましい!! まずはごめんなさい、って謝ることでしょう!? 他責思考の何もできないタダの貴族令嬢なんだから、せめてきちんと責任を取りなさい!!」
「う、うぅ……」
『おい、デブ』
神霊は遠慮なくアルティナのことを悪く言いながらも、ふよふよと飛んでいき、生ぬるい目で肩にそっと手を置いて優しく言葉を続けた。
『こうなったオフィーリアはな、所謂マジギレ、というやつなんじゃ。はよう謝って、自分とあのぼんくら王子のせいなんです、とひたすらに謝れ。でないと、オフィーリアは持てるもん全て使って、お前を潰しにかかるぞ?』
「……へ?」
涙と鼻水でぐっちゃぐちゃな顔で、アルティナはポカンとする。叩かれたところはじんじんとしていて、とても、めちゃくちゃ、痛いがそれどころではなさそうだった。
「あの」
『いやぁ、我もあんなにキレているオフィーリアはな、初めて見る。命のあるうちに、自分の非を認めることがとっても大切じゃし……』
「はぁ」
『注意してくれる人がおらんなったら、お主、終わりじゃ」
何でも受け入れてくれる家族がいて、自分が優位に立てていれば、それでいいと思っていたアルティナは、神霊の言葉にポカンとする。
「(そういえば……きちんと怒ってくれたの、ってオフィーリア、だけ?)」
ルークは『アルティナが良いと思うように』としか言わないし(多分これはルークがアルティナにべたぼれだから)、家族は皆揃って『アルティナちゃんはお姫さまなんだから、思うように動いて良いのよ、お父さまやおばあさまが何とかしてくれるわ、うふふ』しか言わない。
有頂天になって、何でも手に入ると思い、動きまくってきたツケが、今ここで回ってきているだけなのだが、ここまでとてつもなく叱られて初めてアルティナは気付けた、ような気がした。
「間違って、たの?」
「ここまでして何で間違ってないとか思ってるんです?」
「ひぃ!」
「怯えてる暇あるなら、謝れや」
「(口調! アンタそんな口調じゃない! 怖い!)」
『まぁまぁオフィーリア、その辺で……』
「次、お前だからな」
『ひいいいいいいいいいいいいいい!』
オフィーリアからあふれ出ている殺気と怒気が混ざり合って、とんでもないことになっている。これはまずい、とさすがに察したアルティナはその場で勢いよく土下座をした。
「大変申し訳ございませんでしたああああ!!!!!!!!」
「それ、国王夫妻の前と民の前でもう一回。神霊さま」
『はいいい!!』
転移させろや、というオフィーリアの圧に負けて、神霊は先ほどと同じように王宮にしゅばっと転移させた。
「……え?」
「おやオフィーリア、おかえり……って」
「……うわぁ」
エルドウィン、ジェイド、カトレアが順にドン引いている。
何せそこに現れたのは、仁王立ちをしてアルティナを見下ろしているオフィーリア、土下座をしているアルティナ、怯えている神霊だったのだから。




