救世主は忙しい
ざわ、とそこにいた面々がオフィーリアを見てどよめいた。
まさか帰ってきてくれるだなんて、と思いながらも、その反面今までどうしてほったらかしていたんだ、とも思ってしまう。
諸悪の根源が目の前にいるルークとアルティナだとは理解しているが、一言言ってやらなきゃ気が済まない、と口を開きかけた途端、声が出なくなったのだ。
「……!?」
『黙れ。オフィーリアが帰ってきてくれただけでも有難いと思え、愚民』
大変口の悪い神霊だ、とオフィーリアは頭を抱え、思いきりティアラをぶん、とひと振りした。
『ぎゃっ!?』
「神霊様、ちょーっとお黙りくださいませ。あと、私はどこから手を貸せば良いでしょうか。もしこちらで声がかからないようであれば、私は神殿に向かいます」
「は?」
「ちょっと待て!」
オフィーリアの淡々とした言葉に、騎士団の面々はそんなことされてたまるか、と言わんばかりにどよめいて我が我が、と手を伸ばそうとするが、そこはすかさず神霊がガードした。
ばち、と静電気のようなものが走り、手を引っ込めた途端に神霊はオフィーリアの肩をちょんちょん、とつつく。
「はい」
『オフィーリア、行くぞ』
「あらどうも、とりあえずこれに関してはお礼を申し上げます」
『ふっふーん♪』
オフィーリアの役に立てた、と嬉しそうに微笑んだ神霊を見て、アルティナやルークは愕然としてしまう。
あんな風にコロコロと表情を変えるだなんて、知らなかった。アルティナに向けての笑顔なんて、それはそれは邪悪なものでしかなかったのだから、どうして、とか細く呟くことしかできない。
「お、おふ、オフィーリア、あなた、わ、私の、場所を!」
「……?」
はて、と首を傾げたオフィーリアは、『あぁ』と呟いてから冷めきった顔のまま口を開いた。
「いや、一時的に、って言いましたよね。人の話、聞いてませんでした?」
「え、あ、あの」
「まぁいいや、聞いてなかったってことで話を進めますけど」
「ぎーっ!!」
『獣みたいな鳴き声止めろ、うるさいわ』
へっ、と忌々しげに呟いた神霊に対しては、オフィーリアがしれっと注意をするものの、納得なんか一切していないアルティナはぎろりとオフィーリアのことを睨みつけた。
「アンタが帰ってこなきゃ、わたくしが筆頭聖女として!」
「オフィーリア様!」
「オフィーリア様あああ!」
「お待ち申し上げておりました!」
アルティナの言葉に遠慮なく被せつつ、オフィーリアの後輩聖女たちが全力で走ってきた。
「オフィーリア様、神殿に怪我人が多数運び込まれておりますので、広範囲治癒魔法を!」
「はいはいOK」
「あと、傷を治すだけではなく解毒が必要なものもおります!」
「はい了解、そっちは傷を治す前に解毒する必要があるので、分けておいてくれるかしら?」
「分かりました!」
「そっちは?」
「怪我人の治療などが終われば、王都周辺に発生している魔獣を」
「面倒なので吹っ飛ばしに行きます、はい行って!!」
「「「はいいいい!!」」」
さくさくと指示出しをしたオフィーリアは、ふと近くにある窓をバン、と開いてから『よっこいせ』と窓枠に足をかけた。
「おいオフィーリア、お前そんなはしたない!」
「あなたに名前を呼ばれることそのものを拒否いたします」
淡々とルークに反応し、返答し、足に力を込めたオフィーリアは物凄い勢いで神殿へと飛んで行った。
何で自分たちの手助けをしてくれないんだ、と唖然としている騎士団員は、わっとルークやアルティナに詰め寄るが、何かが解決できるわけもない。
しかし、神殿側に力を貸す=結果として騎士団を助ける、になっているのだが彼らは目の前にある『結果』しか見ていない。
怪我人は神殿へと運び込まれる。
だから、今からオフィーリアが治療すれば、結果として騎士団の助けにも繋がっている……ということなのだが、今現在てんやわんやな騎士団員の皆さまは気が付いていないようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そういえば、騎士団員の皆さま、何を慌てていたんでしょうね」
「知らないわ」
神殿にある治療院の中で、オフィーリアはとんでもない速度で怪我人を治療していっていた。
まず、遠慮なく広範囲治癒魔法をバンバン展開することで、あちこちで寝かされていた騎士団員たちのささやかな怪我から切り傷などはあっという間に治っていく。
解毒が必要な人たちはまず解毒魔法を展開させてから、こちらもまとめて治癒してやろうと広範囲治癒魔法を展開して、さくっと治療した。
「はやっ……」
「使い方の問題よ」
「いやまぁそうなんですが」
「オフィーリア様みたいにさくさくいかない、っていうか」
「練習あるのみ」
「厳しいー!」
「まったく、私がいなくなるであろうことは話していたでしょ?」
もー、と軽い口調で言いながら、今運び込まれているけが人の治療は終わったな、とオフィーリアが伸びをしていると、ドタバタと王妃が駆け込んできた。
「オフィーリア!」
「……げ」
来ちゃったよ、この人……と、心底嫌そうな顔をしたオフィーリアに、王妃は目をぱちくりとさせている。
これまでは『王妃様、お会いできましたこと大変嬉しゅうございます』と丁寧に挨拶してくれていたのに、どうして!と叫ぼうとしたところ、後輩の聖女がすっとオフィーリアの前に出てきてくれた。
「殿下の婚約者からは外れておりますし、オフィーリア様の態度は別におかしなことではないのでは?」
「はぁ!?」
苛立った様子の王妃を見て、びくりと体を震わせた聖女だったが、オフィーリアが更に彼女を庇うように前に出てから、王妃の手の上にぽすん、とティアラを置いた。
「私はもう殿下の婚約者でもありませんし、そもそも立場を奪われましたし、神殿が危ない、とこの子達から聞いたので神殿に力を貸しに来ただけのことです」
「あ、あんた!」
「ついでに、めんどくさい聖女システムとかあれこれを、根本から撤廃してやろうかなー、とも思いまして」
「何でそんなことする必要があるのよ!」
「え?」
オフィーリアは、きょとんとして王妃の言葉に淡々と反論していく。
「私がやりたいことをやるために、こちらの問題を片付けにきたにすぎません。それに、もう聖女なんて懲り懲りなんですよ……自由はきかないし、国のために祈り続けるって有り得ませんし、神霊様にも雁字搦めに縛り付けられるのもそろそろ嫌でしたし?」
『オフィーリア!?』
「だってそうでしょう? 色んな意味で厄介すぎますよ」
『うぐ』
本当のことをズバズバ指摘され、王妃も神霊もぐぎぎ、と言葉に詰まってしまった。
ヴァルティス家の皆様は、やりたくないことに関してはとことんやでやる気はない。やる気を上げようともしない。だがしかし、やりたいことがあるのであれば、話は別だ。
現在のオフィーリアがまさにそれ。
エルザのとこに行きたいから、面倒なことをさっさと済ませてしまいたい。あと、後輩たちも助けてあげたい。
それだけ。
別にルークに対して何らかの情があるとか、アルティナに友情感情を抱いているとか、なーんにもない。
ルークがどうなろうと、アルティナが魔力すっからかんになって干からびてダイエットに成功してルークから振られようが、色んなことがどうでもいいのだ。
「そもそも、私ここにいる間色々と考えてたんですよね。後輩たちと一緒に」
「へ?」
「生まれた時から役目を押し付けられるって最悪じゃないですか。おかげで私はいちばん楽しいであろう時を、神殿にガッチガチに縛られていたんですからね」
「いやあのそれは、国のために」
「王家の人がやればいいじゃないですか」
「はう!?」
遠慮なく真実を突きつけ続け、オフィーリアは今まで王妃にもアルティナにも見せたことのないような、忌々しげな、まるで汚物を見るかのごとく冷えきった目で、王妃と神霊をギロりと睨みつける。
「おばさま呼んで、このシステムから崩壊させますのでお覚悟を」




