大騒動の原因と暴露と助っ人と
「早く!」
「待ってください、聖女様がご到着されておりません!」
ばたばたと王宮中を駆け巡る兵士たち。
一体何事なんだ、とアルティナは与えられた私室から出てくる。
「ふわぁ……何よもううるさいわねぇ……」
何事なのか、と誰かを呼び止めて聞こうかと思ったものの、アルティナが行きかう人に視線をやっても、誰も、アルティナとは視線を合わせたりはしなかった。
あれ、と思ってアルティナが少しだけくね、としなりをつけて悩殺でもしてやれば、きっと……と思ってちょっと足を止めてから彼女的に可愛いポーズをしてみたところで、たまたま進行上にアルティナがいたせいで、ぎろりと騎士に睨まれたかと思えば、苛立ちを覚えた兵士にとてつもなく怒鳴られた。
「邪魔なんだよ、どけや!」
「きゃあ!」
怒鳴られると同時に思いきり突き飛ばされてしまえば、さすがのアルティナの大きな体でさえも、ふらふらとよろけてその場にべたり、と大きく尻餅をついてしまった。
「い、いたた……」
「こっちは急いでんだから、邪魔してんじゃねぇよ役立たず!」
「おい、ソレに構ってる暇なんかねぇって」
「ああ、そうだな」
騎士たちは、じろりとアルティナを最後にひと睨みしてから、足早に走っていく。
「くそ……あいつのせいで、オフィーリア様が追放されて……!」
「何もできねぇんじゃねぇか、あいつ」
「よくもまぁ、オフィーリア様の役割を全うできるとかでっかい嘘ついたもんだわ」
そう話す騎士たちの声は、容赦なくアルティナに突き刺さっていった。
しかし事実なのでどうしようもないのだが、オフィーリアに助けさせてやってもいいんだぞ、と手紙を書いたのに何も音沙汰がない。
ああそうだ、やっぱりオフィーリアが悪いんじゃないか、という他責思考が見事なまでに働いてしまうから、結局何も反省なんかしないのだ。
だから、皆がオフィーリアを求めていることを知って、アルティナは最近いつも怒り狂っている。
「……アルティナ?」
「……!」
どうしたら良いんだ、と座り込んだまま悩みつつもオフィーリアのせいにして他責思考真っ最中だったアルティナは、聞きなれた愛しい人の声にはっと顔を上げた。
「ルーク様! 皆がひどくて……」
「いや……それは……」
どう考えてもお前のせいだろう、とルークは喉元まで出てきかけたが、アルティナを選んだのは他でもない自分だ。
そして、オフィーリアを大切にしてこなかったことも、事実。
見た目とアルティナの包容力にただ惹かれ、国としての婚約が何たるかを理解していなかった大きすぎるツケが、ここで回ってきた。
オフィーリアは、王宮の中に味方なんて、いなかったのだ。
王妃には出会いがしら馬鹿にされたから、侍女たちにもそのように扱われてきた。
ルークは、母である王妃が大好きだから、そんな人と結婚したかった、ただそれだけだった。
アルティナは、オフィーリアを一方的にライバル視していたことで、自分こそがルークの隣に立つに相応しい、と身勝手な想いから、彼女の居場所を何もかも奪った。
なお、オフィーリアは心からこの追放を喜んでいるのだが、彼らはそれを理解していないから今まさに絶望の中にいる。
「……わたくし、どうすれば……」
色々なことを考えているルークだったが、弱弱しいアルティナの声にハッとして、とりあえずここでは人の往来の邪魔になるだろうと判断し、アルティナをどうにか立たせて、廊下の脇に寄せた。
「あ、あの」
「アルティナ、お前……念のためにもう一度聞くが……」
「!」
「お前、本当に筆頭聖女の役割を果たせているのか?」
ぎく、と顔をこわばらせたアルティナだが、タイミングの悪いことに、今はティアラを頭に乗せている。
『果たせておるわけないじゃろうが』
ふわ、と神霊が現れた。
「神霊、様」
ニマと笑った神霊は、ティアラの宝石から出てきて、アルティナのことを遠慮なく指さした。
『こやつ、聖女の役割なんぞ果たせておらん。そもそも、』
「や、やめて!」
『聖魔力、ほぼないんじゃもん』
「…………は?」
ひくり、とルークの頬が引きつった。
「お前……どういう、ことだ?」
今まで信じていたものが、足の真下から全て、ガラガラと崩れていくような感覚に襲われてしまう。
あれだけ大見得切って、オフィーリアを追い出して、筆頭聖女の役目をアルティナが行えるから、と王妃のところにも足を運んだ、というのに。
『あっはっは、何じゃお前本当に我がオフィーリアに、心底興味がなかったんじゃなぁ!!』
神霊はげらげらと心から楽しそうに笑っている。
彼、もしくは彼女にどうにかしてくれ、と頼んでみたところで、救ってくれるわけはないだろう、としか思えないなら、素直に助けを求めても良いものかは分からない。
『……まぁ、今回ばかりは助けてやってもよいぞ?』
「……っ!?」
天の助け、と言わんばかりにルークは反応する。
なお、神霊が出てきたことで、他大勢もこの暴露劇を聞いているから、アルティナには批難を込めた視線しか向けられていなかったのだが、神霊の言葉には誰しもが『おぉ……!』と反応した。
『じゃが、条件はある』
「何、ですか」
『この豚、排除せよ。そしてお前』
神霊は、ひたりとルークを見据え、そしてギラついた目で告げた。
『我がオフィーリアを、早急に戻せ。そうすれば、何もなかったように、わらわが全てを担ってやろうぞ』
悪魔のような囁きの内容を聞き入れてしまえば、助かる。
でなければ、色々と危うい。
なお、現状として結界が一部破壊されてしまったことにより、モンスターが大量発生してしまった。騎士団が討伐に向かっているが、普段バフをかけてくれるはずの人がいないから、騎士団員たちはとんでもない被害を受けているのだ。
これを助けてくれるなら、乗っかってしまいたい。
そうすれば助かる。
全員の気持ちが一致しかけた時、アルティナの背後からぬっと手が伸びてきた。
「神霊様、そういう脅しやめていただけませんかね」
「え……?」
そして、アルティナの頭に装着されているティアラをがっちりと掴み、ヘアピンなどで装着されているそれを、遠慮なく思いっきり引っ張った。
「いったあああああああああああああい!!」
ぶちぶちと髪がちぎれる音がして、アルティナは涙目になるが声の主は一切の遠慮がない。
「どうせ、こうなっていると思っていました」
『ほう……?』
「そして……神霊様も最悪な取引を持ち掛けているんだろう、って」
『…………ふむ』
ニタ、と神霊は微笑んで、アルティナにはもう興味ないと言わんばかりに、その人へと向き直った。
『さすがは我がオフィーリアである。しかし、聡明なそなたがこんなにも国を見捨てる気満々だったとは……わらわは恐れ入ったぞ』
とても楽しそうに言う神霊に対し、オフィーリアは真っすぐ見返して、告げた。
「ご安心くださいませね。あなたのお力をこうして使わなくても……問題なく回せていけるように、色々と策は講じてまいりましたの」
どこか凄味のある微笑みを浮かべ、オフィーリアは言う。
そして、こうも続けたのだ。
「私が望んで見捨てたわけではありません、諸悪の根源はそこの二人ですので……悪しからず」
ティアラから出てきている神霊を一睨みし、そしてオフィーリアはすっと息を吸って、叫んだ。
「一時的に聖女のお役目、拝命いたします! さぁ、どこから手を貸せばよろしいか、全てお教えくださいませ!」




