執着心を利用しまくった
『アンタが手紙を破るなんて……』
「いらないし」
『中身は?』
「嫌だけど覚えてるのよね、これが」
ああ、覚えてるんだ……と納得しているリューリュだったものの、アルティナの執念たるや。
凄まじいものがあるというか、ライバルだとか張り合っているとかいう割に、自分が出来ないことをやれと言ってくるのはいかがなものなのだろうか。
「まぁ、タイミング的にちょうど良かった、ていう感じなのかしら」
『そうかもねぇ』
「リューリュ」
『この前みたいに爆速で飛んでいくの、嫌よ』
先回りとして拒否されたオフィーリアは、ちぇ、と軽く舌打ちをする。もう一度あれをやりたかったのだろうが、リューリュは爆風の中で結界を張って耐えるのが嫌なのだ。
吹き飛ばされるのはごめんだ、としっかり意思表示をしてから、リューリュはじっとオフィーリアを見る。
『ねぇオフィーリア』
「ん?」
『アンタ、確か筆頭聖女として活動してる時さ』
「うん」
『聖魔力、ちゃんと使ってた?』
「……ん?」
にこ、と意味ありげに微笑んでいるオフィーリアは、良く気付いたね、と言わんばかりにリューリュの頭を撫でた。
『アンタ』
「えー? ああそっか、リューリュには全部見えていなかったのよね」
『まさかとは、思うけど』
「うん」
『……』
まさかこの人、全部計算づくだったのか、とリューリュはぱかり、と口を開けてしまった。
アルティナは、オフィーリアのことをとんでもなく敵対視していた。いや、現在進行形で敵対視している。
そんな人、いつものオフィーリアなら基本的に無視を決め込むのだが、如何せん親からの煽りもあってかアルティナのオフィーリアへの執着具合はとてつもない。
最初こそ、オフィーリアは超絶真面目に業務をこなしていた。
だがしかし、ある程度の時期になってくると、アルティナがいかに何も出来ないのかが見えてきてしまった。
執着してきて、自分こそがオフィーリアのライバルだとか何だとか叫んでいる割に、ちょっとだけ聖女の業務をして、金の力を使って後は何にもしない。とはいえあちこちに金をばらまいているので、文句を言ったとしても『まぁまぁ、アルティナ様にも色々ご事情があるのですよ』と、笑われて終わるから、誰しもが苦情を入れることを諦めたのだ。
そう、アルティナには、聖魔力がない。
だから、聖女としての業務を行うときには、魔力を聖魔力に交換してから運用してきていた。だから、見た目には聖魔力があるように見えていたのだ。
オフィーリア、そしてオフィーリアのことを信頼している聖女たちが、一体何が起こっているのかとこっそりと調査してから、アルティナの美味しいとこ取りの事実を突き止めてしまった。
金の力ってすごいなおい、と全員一致の認識になったが、しかしアレをどうにかして追放出来ないかと悩んでみたものの、うまいこと知恵は出てこなかった。……この時は。
「いやぁ、アルティナさんって色々杜撰だから出てくるのよ。きちんと業務できない、っていう証拠が」
『…………』
コイツ、結構とんでもないことしてやがる。
リューリュの顔には、そうやってありありと書かれているから、オフィーリアは『えへへ』と照れ臭そうに微笑んでいるのだ。いやぁ分かりやすい使い魔ちゃんだこと、とリューリュの頬をふにふにとつつく。
『やめい!』
「あっはっは、そうよね。リューリュには教えてなかったから、そりゃそうなるわよね、っていうお話なんだよねぇ」
つまり、オフィーリアは『魔力変換をすることで、オフィーリアでなくとも筆頭聖女の業務ってできますよ』という種をアルティナの目の前で巻き散らかし、丁寧に丁寧にやり返してやろうと機会を虎視眈々と狙っていた、というわけだ。
『……アンタ、意外と策士、っていうか……』
「殿下がデブ専だったからできたのよね」
はっはっは、と笑っているオフィーリアだったが、思いついたのは結構最近だったりもする。
筆頭聖女が王太子の婚約者だ、ということは基本的に貴族ならば知っていることなのだが、アルティナ自身も知ってはいたけれど、『どうせ他に相応しい人がいれば、そっちと婚約者同士になるんだろう』と思っていたらしい。
だって現王妃が筆頭聖女ではなかったから。
王家の中にも、筆頭聖女となりえるほどの逸材が生まれたことがなかったわけではない。
たまたま生まれなかった、というだけであって、過去には何人も存在している。だが、ここ最近生まれていなかったというだけではあるものの、元王妃の悩みの種でもあったのだ。
筆頭聖女の血を引いている=子供がそうなる、ではないというところが色々な人を悩ませるところでもあるのだが、神霊に聞いても『さすがにそこまで我管理しておらん』と突き放されてしまった。
王家の力を万全のものにするために、そして民の心をもしっかりと掴んだままの存在であり権力を有する存在でもあり続けること。
現在の王妃の願いはまさに、これである。
「ま、王妃様の野望的なものもぶち壊せるから、って思ってたら……」
『アンタの予想より早めに色々ぶち壊されてきてる、と』
「他の人に、まさかここまで影響がでるとかまでは思ってなくて……」
『……確か』
「そう、アルティナさん曰く、わたくしならできるんだ!、ってことだったしね?」
皆がアルティナとルークの言葉に振り回されてしまった結果、こうなっている。
実際、アルティナには『無能』というレッテルが残りの聖女からべったりと貼られているし、通常業務に支障しか出ていないのだが、神殿長はどのようにお考えか! と代わる代わる詰め寄っている。
こっそりとオフィーリアにこの手紙も届けられているので、物証としてしっかりと保存した。
『リアはさ』
「?」
『出来ないことをやれ、って言ってないものね?』
「ええ」
きりっとして断言すると、一旦準備の手を止めるオフィーリア。
何か忘れ物はないかなー、と呟きながら、これ必要だ、と判断したものはほいほいと収納魔法に入れていっている。先ほどの物証になり得る手紙もそうなのだが、オフィーリアの私物、もとい、一応王太子から送られているけれど王宮に与えられていたオフィーリアの部屋から盗まれていたことだって分かっているのだ。
盗人は、贈り物リストがまさかオフィーリアの手にあるだなんて、決して思っていないだろうから。
「それにほら、王宮内には手癖のお悪い人があちこちにおりますし?」
『リア、物騒なお顔しちゃ駄目よ』
「あとね」
『まだあるんかい』
「国王陛下も、無責任すぎるのよ。あのタヌキおやじ」
国王のことをこんな風に言い切るもの、恐らくオフィーリアくらいだろう。
何故、国王が国内におらずにあちこちに奔走しながら執務を執り行っているのかには、一応の理由がある。
王妃が王宮から離れないこと(愛しい息子と離れたくないという我儘)、外交が驚くほど壊滅的なのだから不出来な部分をカバーしなければいけないではないか、というのが国王の主張であるのだが、そんなもの言い訳でしかない。
必要なんだから、息子ラブだとしても夫婦で外交行かんかい、と思っている家臣たちだって少なからず存在しているが、それもこれも王妃の実家の権力が強いために、何も言えないまま、あるいは言ってももみ消されていたのだが、国の緊急事態にまでこれを貫き続けられると、国が崩壊する。
現に、今、それが起こりかけている。
「王妃様のことを愛しているのは、まぁいいとしましょ。でもね、国を犠牲にしてまでやっていいことじゃないのよ」
はい終わり、とある程度の準備が終わったオフィーリアは、リューリュに微笑みかける。
「巻き込んじゃうけど、許してくれるわよね?」
『まぁ、アンタのすることだし。別に良いわよ』
リューリュからも珍しく微笑みかけ、オフィーリアが差し出してきた手に、自分の前足をちょこんと乗せた。
「さ、反撃開始といきましょうか」




