拒絶は当たり前
しっかりとエルザに絞られたヴァルティス家の面々は、改めてお互いに言葉が足りていなかったことや、これまでの時間の空白を埋める必要があるということ。
オフィーリアに関しては、エルザから『私は逃げないから、きちんと、ぜーんぶ、後処理をしてきなさい!』とゲンコツを食らってしまった。
「……痛い」
『でしょうねぇ、おバカさーん』
きゃっきゃと喜んでいるリューリュを恨めしそうに見たオフィーリアだったが、言われていたことには一切反論もできないまましょんぼりするしかできなかった。
ちなみに、エルザは『一旦言いたいこと言ったし、調べものがあるから帰ります』と言い残して、しれっと帰宅してしまった。見送りたい! と主張したオフィーリアだったが、『いらないから、さっさとことを進めなさい』と釘を刺されてしまえば、従うしかない。
扱いを分かられているせいで、『興味なくしたりしたら、出禁ね』とまで言われたのでオフィーリアやジェイドは動くしかなくなってしまったのであった。
「うぅ……嫌だよぅ……」
『さっさと済ませたら、その分早くエルザのところに行ける、って考えなさいよ、ニンゲンめ』
「……正論が胸に痛い」
はふ、と溜め息を吐いたオフィーリアを見て、そういえば、とリューリュは話しかける。
『あのさぁ、気になってるんだけど』
「何?」
『この国の王様、って何してんの?』
「……あぁ」
そういえばおったわ、とオフィーリアが思い出すが、国王は王妃が国内から出たくないと駄々を捏ねたせいもあって、彼一人でめちゃくちゃ頑張って外交などをしている。
腐っても王妃。
頭は良いので国内の政治のあれこれには携わっているが、どうしても駄目な点を挙げろ、と言われれば『息子たんLoveすぎるところです』とあちこちから返ってくるだろう。
実際、ルークは頭などはいいものの、こうと決めたら譲らない上に猪突猛進型。
頭が良いからこその弊害、とでも言おうか。
なお、彼は王太子としての業務はきちんとこなしている。
ちょっとうっかり、母親そっくり体型のアルティナにメロメロなだけで、王宮に招き入れこそしたものの、彼は愛するアルティナにこう告げたという。
『アルティナは優秀だから、王太子妃教育は早めのペースで良いと思う! それに、オフィーリアより優秀だそうだから、遠慮もいらんぞ!』
これに隠れて悲鳴をあげたのはアルティナのみ。
確かに成績はオフィーリアよりも良いかもしれないが、それはあくまで学校の中でだけ、という話。
オフィーリアは筆頭聖女としての業務をこなしながらも、学年十位よりも下に落ちたことは無いのだから、ある意味アルティナよりも頭が良いと言えなくはないが、結果を見ると勉強をがっつりしているアルティナに負けてしまうのは必然だろう。
アルティナががっつり勉強できた理由は、とっても簡単だ。
だって彼女は聖女の業務をやっていないから。
神官長が賄賂に負け、アルティナをとてつもなく依怙贔屓した結果故なのだから、平穏無事に日々を過ごしている間は本当に、心からアルティナは優越感に浸れたことだろう。
上に贔屓されているから、所謂アルティナ派、のような派閥もあったのだが、あの卒業パーティーの件でそれが呆気なく瓦解してしまった。
何ともまぁ可哀想に、と思うオフィーリアだったが、リューリュをわし、と掴んで改めて抱っこをしてやると、とても艶のいい毛並みをゆっくりと撫でていく。
「王様はねー、まぁ色々頑張ってるのよ。とはいえ今結構遠くの国に外交に行ってるから、戻りたくても戻れないんじゃない?」
『国王代理とかいないの?』
「いるかもだけど、だって王妃様よ?」
『あー……』
駄目ねあの肉だるま、ととんでもない悪口が聞こえてきて、オフィーリアは思わず『んぐっ』と妙な声を出してしまったものの、見た目に関してはその通りなのだから何も言えない。
『あの王妃様もそうだけどさぁ、アンタから立場奪ったお馬鹿さんはぁ、ダイエットしないの? ニンゲンの女の子はみーんなやってるじゃない』
「それ聞く?」
『え』
リューリュの言うことはもっともなのだが、一部界隈では『魔力を多く持っているものはカロリー消費なんかも激しいから、万が一に備えてふくよかな体型が多い』という謎理論が展開されているのだ。
『なぁにそれぇ……』
オフィーリアからそれを聞いたリューリュはげんなりとしてしまい、オフィーリアをじーっと、上から下へとまじまじ観察した。
『リアに当てはまらないじゃないの』
「まぁね」
『リアがもし当てはまるなら、リアも巨漢デブじゃないとおかしいもの』
「口の悪さをどうにかしなさいね、こいつゥ」
『みー!』
むに、とリューリュの頬を引っ張ったオフィーリアは溜め息を吐いたものの、コンコン、と部屋のドアがノックされればふと顔を上げる。
「……はーい?」
「お嬢様、失礼いたします」
恭しく頭を下げたエルマを見て、オフィーリアはどうしたのだろう、とリューリュを抱っこしたままエルマの方に歩いていった。
「どうかしたの?」
「……その、こちらを」
珍しく浮かない顔をしているエルマを見て、オフィーリアは訝しげな顔になる。
エルマがこんな顔をする時なんて、あまりいいことは無いのだ。とても小さい時からエルマはオフィーリアの傍に居たので、そういう細かいところはきちんと覚えている。
「……これ、って」
差し出されたのは、一通の手紙。
差出人は誰だ、と確認すればオフィーリアがとんでもない顔になった。
『!?』
見たことの無いようなとんでもない顔だったので、抱っこされているリューリュもぎょっとしてしまうが、器用に体勢を変えて、誰からの手紙だ、と差出人を見ればリューリュは更に驚いた。
『えーーーー!! アルティナから……って、アルティナ……あぁ、デブか。デブよね』
「リューリュ、しーっ」
友人たちのお泊まり会にて、散々アルティナのことを貶し続けていたこともあり、リューリュの中ではアルティナのとっても不名誉なあだ名があれやこれやと出回っていたのだ。
だから、あまり興味がなかったのだけれど、リューリュはきちんとアルティナが誰であるかを把握していた。
『そのアルティナから、手紙。アンタ何したの?』
「何もしてない」
即座に答え、内容を手早く確認したオフィーリアは、普段ならば決してしないけれど、リューリュを頭の上にぽすん、と乗せてから受け取った手紙を容赦なく引き裂いた。
『あらまぁ』
「だっていらないし、手助けとかするわけないし」
『内容ってなんだったの?』
「聞きたい?」
にこ、と笑っていない目で問われ、リューリュは怖くてブンブンと首を横に振ったのだった。
『オフィーリアへ。アンタのせいで私は大変なんだから、さっさと王都に帰ってきて補佐しなさい! どう? とーーーっても名誉なことでしょう!?』
これだけ書かれていたのだから、破られて当たり前だということにも、アルティナは一切、全く、これっぽっちも気が付いていなかったのであった……。




