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【完結済】その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~  作者: みなと


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不器用さんたち

「……というわけなんですが」


 オフィーリアの報告を聞いて、カトレア、ジェイド、エルザは三人揃って頭を抱えている。

 なお、報告したオフィーリアは、リューリュを抱っこして前足をいじりつつ遊んだりしている。めちゃくちゃ平和に。


「……はぁ……」

「なるほどねぇ……」

「まさかそんなことを……ねぇ……」


 三人揃って『はあああああ』とまた溜息を吐き、どうしたものかと頭を抱えている中で、ふとエルザが顔を上げてオフィーリアを見た。


「オフィーリア」

「はい、おばさま」

「少し考えていることがあるんだけど……もしあなたが王都に行く、っていうことなら付き添うわ」


 え、とオフィーリアは目を丸くする。

 まさかエルザがそんな提案をしてくれるだなんて思っていなかったし、リューリュもきょとんとしていて、オフィーリアの膝の上でもそり、と動いた。


「おばさま?」

「ちょっと、思うところがあってね」


 思うところ、とは一体何なのだろうか。

 はて、と首を傾げているオフィーリアとエルザの視線がかち合うが、ちょっとだけ肩を竦めるぐらいでエルザは何も語ってくれない。

 しかし、エルザのことだ。

 何も当てがない状態などで、一緒に行く、などとは言わないだろうことはオフィーリアにだって理解はできている。

 薬師として働いているエルザだが、割と色々な経歴を持っている。そのため顔も広いのだが、それ以上に薬草など諸々の植物の研究者としての一面もあったりする。


「うまくやったら、例の神霊様とやらをどうにかできるんじゃないかしら、って思っているんだけど」

「え!?」

『なぁにそれ!』


 目の色を変えて反応しているオフィーリアとリューリュを、どうどう、と落ち着かせるようにエルザは声をかけ、そして今にも乗り出してグイグイきそうな一人と一匹をどうにか押し留めてから言葉を続けた。


「うまくいけば、の話。それから、やるんだったら色々準備が必要だから一回家には帰るけど」

「あー……そうですよね」

「うちの子に留守番させっぱなしだから、何にせよ一回は帰るつもりだったけどね」


 そういえば、とオフィーリアはエルザと共に暮らしている魔獣のことを思い出す。

 この人本当に何でも出来るんだよなぁ……と改めて尊敬の眼差しを向けながら、運ばれてきたお茶を一口飲んだ。

 ほっこりとした温かさに、オフィーリアが目を細めているとカトレアがポツリと呟いた。


「……ねぇ、オフィーリア」

「はい、お母さま」

「王妃様からの追手に関してはこちらで対処をします」

「? は、はい」

「貴女も色々と考えているとは思うけれど」

「はぁ……それは勿論」


 何となく気の抜けたような返事を返してくるオフィーリアに、カトレアの顔がじわじわと強張っていく。あ、これまずい、とオフィーリアが察した時にはすでに遅し。


「もうちょっと、大人を頼りなさい、っていうか」

「はい」

「その考えに行き着くまでに相談しないおバカがどこにおりますか!!」


 あ、雷落ちた。

 エルザもジェイドも、きっとこうなるんじゃないか、と予想はしていたものの、まさかこんなにも予想通りの行動と思考をオフィーリアが取るだなんて思っていなかった。

 せめて実家に帰ってきたのだから、少しは頼ってくれると思っていたけれど、神殿で過ごしていた時の癖、とでも言えば良いのだろうか。

 自分の内側に色々と抱え込むようになってしまっていたのだ。


「確かにね、帰ってきてから貴女の顔色もだいぶマシにはなってきているけど」

「は、はい」

「思考回路が働きすぎなの!」


 どういうことなの……とジェイドに助けて、と視線を送るが同じ思いだったらしく、うんうんと頷いている。

 そもそも神殿では、あれこれ考えてから動いて、ということをオフィーリアが主体になってやっていたこと。長年やっていたから体に染み付いてしまっていたのだ。

 母としてはもう少し頼ってもらいたいところではあるものの、オフィーリアが考えてずんずん進んでしまうから、母として……そもそも一人の大人としてもアドバイスができないままだった。


「いやあの、えっと」

「貴女が今までそうしてきた、ということだとは理解している。けれどね」


 ふと、カトレアが手を伸ばしてオフィーリアの頬に触れた。

 両親は向かいに座っているとはいえ、思わずオフィーリアはびくりと身構えてしまう。


「貴女は、今はもう一人ではないの。周りに、味方がいるの」

「……っ」

「頼られないことは、とても……寂しいのよ」


 少しだけ、切なそうに。困ったように言うカトレアを見て、オフィーリアはぐっと胸が詰まったような、そんな風になってしまった。


 だって、自分の婚約破棄騒動から色々と巻き起こっているのだから、自分がどうにかカタをつけないといけない。そう思っていたが、頼ってもいいものか……と悩んでいたのだ。


「あ、の」

「大体のことはできるようになってしまったんでしょうね」


 カトレアの言葉が見事にオフィーリアの胸にぶっささった。はいその通りです、とも正直に答えることができる訳もなく、しょんぼりとして肩を落としたオフィーリアを見て、ジェイドもまた手を伸ばしてきて、娘の頭をぽふ、と撫でた。


「おとう、さま」

「子供なんだから、親には甘えなさい。あと、もっと思いっきり頼りなさい?」


 とても、優しい口調と声音。

 母とは正反対の雰囲気に、オフィーリアの気持ちがここでようやく緩んだ、ような気がした。


「わた、し」

「うん」

「……婚約破棄されて嬉しかった、けど」


 言いながら、涙が滲んできてしまう。


「他の人に、迷惑、を」


 かけてしまった、と続けたかったが、止まってしまう。その代わり、とでも言わんばかりに涙が次から次へと溢れてきてしまった。


「迷惑じゃないよ」

「他の、聖女、たち、に……っ」

「その辺は、実際に王都に行ってから話すといい。でもね、オフィーリア」


 溢れてくる涙を拭えないまま、ぐちゃぐちゃになった顔で、オフィーリアはただ、ジェイドを見つめている。


「君は、そんな風に思われるような行動を取ってきたのかい?」

「え……」

「推測だけど、アホが成り代わった筆頭聖女の座をどうにか支えようと、奮闘してくれているんじゃないかな」


 言われてみれば、そうだ。オフィーリアははっきりそう思った。

 もしも、彼女たちがオフィーリアを慕っていなければ、きっと彼女たちも早々に投げ出して逃げてしまっている。


 そうなれば、言葉通り国が、終わる。


 では、そうなっていないのはどうしてか。

 少しでも筆頭聖女・オフィーリアを慕ってくれていたから、少しでも恩に報いようとしてくれているのではなかろうか。


「……っ」

『リア』


 膝の上で、リューリュがオフィーリアを呼んだ。


『アンタ、色んな意味でもう少し自分に自信、持ちなさいよ。後輩ちゃんたちを逃がすためにも、皆の手を借りなさいって』


 小さな子供に言い聞かせるようにして、リューリュの告げた言葉の内容を噛み締めたオフィーリアは、こくん、と頷いた。


「この子は……」


 困ったようにカトレアが笑っていると、エルザがぽつりと呟く。


「人との関わりが上手いようで下手くそ。貴方たち夫妻そっくりよね」


 やる気のないこと、興味のないことにはどこまでも淡々としているせいでそう見えてるのよ、と続けられてしまえば、夫妻もしょんぼりしてしまったものの、似たもの同士たちかー! と皆で笑い合った。

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