お帰りくださいませ
「いたぞ!」
「筆頭聖女さまだ!」
騎士団員たちは、わっと騒ぎ出すがオフィーリアはすす、と引っ込んでしまったので慌ててヴァルティス邸に押し入ろうと駆け出すが、カトレアやジェイドが許すはずもない。
「はい止まって」
「誰の許可を得て入ろうとしているの?」
二人が立ちふさがるが、この機会を逃してたまるものかと腰にさしている剣に手をかけた途端、ジェイドの雰囲気が一変し、先頭にいる団員の目の前に掌をすっと出した。
「はっ、お前はまともな魔法が使えないんだろう!? だったらこんなこと」
「無意味、そう言いたいんだねぇ。でも、これくらいはできる」
にこ、とどこか得体の知れない微笑みを浮かべたジェイドは、少しだけ自嘲気味に呟いてからぐっと魔力を押し出すように意識を集中させた。
「……え」
瞬間的にジェイドとカトレアは自分たちの目をバッと覆い隠し、その衝撃に備えた。
少し強い光を発生させる魔法ではあるが、これを目の前で発動されればどうなるのか。
「うわああああああああああ!?」
「何だこれ!」
「っ、痛い! 目が、目が痛い!」
「え、君団長だったの」
「こんな大馬鹿者が……団長だなんて……」
あらまぁ、とカトレアがのんびり呟いている。もしかしてこうなるかもしれない、と夫妻は別に打ち合わせをしているわけではなかった。
先ほど団長が言った通り、ジェイドは魔法が得意ではない。むしろ苦手な方だ。
だが、魔力量が少ないか、と聞かれれば答えは『No』である。むしろ多い。
これがオフィーリアに受け継がれているのだと思われるが、何せジェイドにはそもそもの魔法の才能がなかった。代わりにと言っては何だが、文官として働く才能はとてもあったらしい。本人は『そんなものより他の才能が欲しかった』とぼやくことになっているが、今は一旦置いておく。
カトレアはジェイドの魔法の発動を察知し、目に魔力を込めてから魔法防御を行った。魔法の発動をしている夫にも同じように防御魔法を展開させていたことで、夫妻はケロッとしている。
結婚しているからこその連携プレー、とでも言えるべき行動はさすがだな、とオフィーリアはこっそりと門の様子をうかがう。
同じくエルザもひょっこりと顔を覗かせた。
「眩しすぎることがあるかもしれないから、って」
「こういうことだったんですねぇ……」
二人は揃って『へぇ……』と呟きながら、オフィーリアとエルザはうんうんと頷き合っている。
使用人の皆が無事なのだろうか、とオフィーリアがふと思い、手をパンパン、と叩けばどこからともなくエルマが現れる。
「エルマ、皆は無事?」
「はい、旦那様から念のためにと通りすがりに警告をいただき、使用人全員に情報を拡散していたことで、対策はばっちりでした」
「今までも、こういうことあった?」
「いえ、基本的にはございません。不審者対策として、屋敷に色々と仕掛けはしてくださっている、と奥様が仰っておられましたが」
「なるほど」
ふむ、と頷いたオフィーリアは他に被害がないと知り、ホッとしたように微笑んだ。
「皆に被害がないのであれば、全く問題はないわ。王妃様の騎士団は……まぁ、どうでも良いわ」
「そういえば、あの人たちってオフィーリアのことを筆頭聖女とか何だとか」
「そうなんですよおばさま、まさか情報を知らないとかいう人がいるだなんて……」
困りましたねぇ、とあまり困っていないようで呟くオフィーリアは、このまま父と母に任せようと決めてもう一度テーブルに向かう。
「おばさま、あの人たちについてはお父さまとお母さまにお任せします。なので、こっちはこっちでお茶しましょう!」
「本当に……興味のあることに関してだけはやる気があるんだから」
困ったさんねぇ……と微笑ましく言うエルザと、のほほんと笑っているオフィーリアを見て、リューリュは『なんだこのニンゲン』と呟いていたのだった。
そして、目つぶしともとれるような魔法を使ったジェイドだったが、座り込んで喚いている団長を、とても愉しそうに見ていた。
「さて、君たちを止めるために目つぶし? をかけさせてもらったけれど……何か文句はあるかい?」
「ぐ……っ、あるに、決まっている、だろう!」
「へぇ?」
少しだけ、ジェイドの声音が冷たくなる。
「我が家に不法侵入をしようとしている不審者を、撃退しているだけなんだが……何が悪いというのか教えていただきたいんですが」
「王家に対して、正式に抗議をいたしましょうか。そもそもオフィーリアが婚約破棄や聖女解任についてはきちんと話してくれておりますので、書類にまとめましょ」
「は!?」
カトレアの言葉に、団長に寄り添っていた副団長が驚きの声をあげてしまう。
だがしかし、自分たちに危険が及ばないように防衛手段をとっただけにすぎず、正当防衛はあっという間に成立してしまうだろうと推測は可能。
副団長はとても悔しそうにギリギリと歯ぎしりをしているが、そんなことをしたところで無意味なだけ。
「うん、王家に抗議文を出そう。ああそうだ、君たちはさっさとお帰り願えるかな?」
「……っ、貴様!」
「先に仕掛けてきたのは、そちらだ」
城で文官の仕事をしているだけあって、ジェイドは淡々としている。
そもそも、まともに己の情報を更新していない馬鹿に、可愛い娘を連れ去られてなるものか、という気持ちしかないので、ジェイドもカトレアも、野良犬や野良猫にするかのように、しっしっ、と手を払う。
「「さっさとお帰りください(ませね)」」
綺麗に声を揃えて言う夫妻は、とてもよろしい笑顔でさっさと帰れ、と念押しする。
しかし帰ろうとする気配のない騎士団の面々は、全員が殺気立っているし、うっかりすればこちらを殺しにかかるかもしれないなぁ、と考えたジェイドとカトレアは、ふと視線を交わし、そして頷き合う。
「帰る気配がないので」
「強制送還、とまいりましょう」
二人は手を合わせ、ジェイドの魔力をカトレアに。
カトレアは物凄い勢いで魔法を構築していき、転移魔法を作動させる。
「え?」
「何だ!?」
「お、おいこれって」
戸惑っている騎士団を、眩い光が包んでいく。
「転移魔法だ!」
その一言を残し、全員まるっと消え去ったのだった。
「王妃様めっちゃ怒るかな」
「自業自得なので、仕方ございません」
「ちなみにカトレア、どこに転移させたんだい?」
「王妃様のところ、ですわ」
にっこり、と可愛らしく微笑んだカトレアは、悪気なく告げた。
一度会ったものの魔力反応を覚えている、という何とも奇妙な特技を持っているカトレアは、朧気ながらも覚えていた王妃の魔力を思い出して、彼女のいるところに転移させたのだ。
――たとえ、王妃が眠っていても、社交の場にいたとしても。
『王妃がいるところ』に、強制転移させたのだった。




