王妃の放った追手たち
「待ちわびたぞ!」
「我らは王妃殿下直属の騎士である!」
何故かは分からないが、恐らく兜の下ではとてつもないドヤ顔を披露しているであろう騎士団の名乗りなのか何なのか分からない台詞に、カトレアとジェイドは揃って微妙な笑顔を浮かべている。
王妃直属、だから何だ。
とりあえず何をしに来たのかも真っ先に言わない、とりあえず王妃直属ということだけを真っ先に主張しているだけの馬鹿です、と名乗ってくれている。ああなるほど、これは馬鹿発見器だったのか、とカトレアが想っていると、ジェイドがすっと前に出た。
「王妃殿下直属、ということは分かるよ。だって、君たちの纏っている鎧は、王妃様がよく好んで着用しているものだからねぇ」
「ははっ、そうだ!」
「で」
「?」
「あなた方、開口一番にそれを言っただけなんですけれども、結局何をしたいんです?」
ジェイドの笑顔の質が変わった、ということに彼らは気付いていない。
「何を、って簡単な話だ!」
「筆頭聖女さまをお迎えにあがった!」
「さぁ、さっさと我らに引き渡して……」
「おや、まるで罪人のような言いようだ」
あっはっは、とジェイドが笑ってから、すっと目を細める。
「嫌だなぁ、筆頭聖女様はもう新たに選出されているそうじゃないか」
「な、何を」
「王太子殿下が、お選びになったんだろう?」
「いやだから」
「しかも、我が娘の頭の上には、もう筆頭聖女だと知らせるためのティアラはない」
「おい!」
「……何だね、うるさいなぁ……」
「こちらの話を聞け!」
「何故」
「何故、って」
ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う、と言わんばかりに、ジェイドはとても軽く、そして遠慮なくずばずばと指摘しているのだが、今ここに来ている騎士団にはどうもお気に召さないらしい。
「筆頭聖女の解任をされた娘を迎えに来る理由の説明もしないし、例えばそういった件に関しての令状などもお持ちでないようですし……」
「うぐ」
「それに」
ジェイドに続いてカトレアがにこり、と微笑んで言葉を続けていく。
「そもそも論、我が娘はもう筆頭聖女でもなければ、王太子殿下の婚約者でもございません。そこはご存じですわよねぇ?」
低く迫力のある声に、全員がじり、と一歩下がってしまう。
いけない、こんなことでは王妃直属の名が泣くぞ! とどうにか自分たちを鼓舞しようとする彼らだったが、カトレアの言葉に『え……婚約破棄?』という言葉が聞こえてきてしまった。
「ほう」
「あらあら」
にこ、と微笑んだ夫妻の迫力は、二人揃っているから二倍とかいうことではなく、どちらかと言えば二乗されているようなもの。
オフィーリアとルークの婚約破棄を知らない馬鹿が、まさかオフィーリアを連れ戻しに来る、だなんて誰が想像しただろうか。
「……せめて、状況確認だけでもしてから、ここに来るべきでは?」
「婚約者だったらまだいいようがあったけれど、そうでもない単なる貴族令嬢を……って、誘拐?」
「はぁ!?」
誘拐、という単語は許せなかったらしい。
しかし、実際それに近しいことをしようとしているのだから、言われても仕方がないというべきなのだが、彼らはそこまで考えていなかった。
それに、王妃からは『筆頭聖女様が、ご実家に帰ったらしいので連れ戻しなさい』しか聞いていなかったのだ。
まさか筆頭聖女を解任されていて、新しい筆頭聖女がいるとか知らん! と喚きたいところだが、そもそも筆頭聖女の解任騒動は結構な勢いで広がっている。
知らないということは、普段から基本的な情報収集すらしていない、とここで遠慮なく暴露しているのだが、彼らは今ようやくそれに気付いたらしい。
『あ』と呟いた騎士の一人の声に、カトレアはまたにこりと笑顔で凄んでから、一歩、前に出る。
「情報収集もできないような部下の皆さまをお持ちなんだな、と把握いたしました。さすが王妃様、人を利用することにだけは天下一! というわけですわね。ああ面白い」
おほほ、と偉そうに高笑いをしているカトレアを見て、ジェイドはするりと視線を逸らしてから小声で『うちの奥さんとっても怖い……』と呟いている。
「あなた、聞こえておりましてよ」
「ひえ」
「でも、本当のことなんですから仕方ないじゃありませんか?」
「……それはそうなんだけどさ、こう、心を抉ってあげなくても良いんじゃないかな、って」
「抉りますわ、それはもう」
カトレアは笑顔のままで言い放ち、先頭に立っている騎士をじっと見て、更に言葉を続けていった。
「そもそも、ですが。オフィーリアは王太子殿下から婚約破棄されたんですし」
「……」
「しかも卒業パーティーの場で、色んな生徒がいる中で」
「…………」
「もう既に色んな方面にお話しが広まっているというのにも関わらず、ここにいるいい大人は全く知らない、だなんてこととかあります?」
「……………………」
「オフィーリアのお友達全員も把握しているということは、学園の生徒は皆知っているでしょうし。あと、そもそも殿下と王妃様がお話しているはずですし……」
物凄く、釘を刺されまくっているというか、遠慮なく言葉で殴られている感じしかしない。
というか遠慮なく殴りにかかっている。
母は強し、というところなのだろうか。
これまで我が子を護れなかった分も含めて、遠慮なくやってやるからな、という強すぎる意思を感じる。
そもそも、相手にしている人が悪いのか、と思う騎士団の皆さまだが、隣にいるジェイドを見て、視線がかち合い、全員ばっと視線を逸らす。
「何だい?」
駄目だ、この人敵に回しちゃいけない。
本能的にそう察した彼らだが、ふと視線を上にやれば、オフィーリアと視線が合う。やっぱりいる! と叫びたかったが、きっと彼女まで行くためには、この両親を乗り越えなければいけないのだ、という今更過ぎる事実に、彼らは打ちひしがれることしかできなかった。




