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【完結済】その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~  作者: みなと


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拝啓 大好きなおばさま

 この国を支えている、筆頭聖女、ならびに聖女。

 いつから存在しているのか、歴史書にも正確な記述がないので正確な歴史は分からない。

 ずっと女性がその役割を担っていたのか、あるいは聖『女』ではなく聖人――つまり男性だったのではないか、等。色々な人が歴史を研究しているが、恐らくそれを知っているであろう神霊に聞こうとしても、教えてくれない。

 ほんの少し前、筆頭聖女だった時にどうにかして聞いてやろうと試みたことはあったものの、はぐらかされて終わってしまった。


「あの神霊様め」


 くそう、と小さく呟いてからオフィーリアは、おばであるエルザに対して手紙を書いていた。


「大体、筆頭聖女っていう役割はとっても大切なもののように聞こえるけど、国のために働き続けなきゃいけない奴隷みたいなものじゃない」


 ブツブツ言いながら、オフィーリアはおばであるエルザに手紙を書く。

 内容は端的に、しかし分かりやすくしておかないといけない。


「えーっと……」


 筆頭聖女をやめさせられたこと。

 実家に帰ってきたこと。

 エルザの元に行きたいこと。


「……」

『ねぇちょっとオフィーリア』

「リューリュ、なぁに?」

『アンタの後釜の筆頭聖女が使い物にならないから、王家から追っ手が差し向けられる、は何で書いてないの』

「え?」


 オフィーリアはリューリュの言った内容にぎょっとする。


「追っ手!?」

『もうそろそろ王妃サマのお怒り爆発! な頃合だしぃ?』

「何でリューリュは分かるの!?」

『ちょっと仕掛けをねぇ』


 リューリュは、一応オフィーリアに対して恩義を感じている。

 魔物討伐に騎士団が出陣した時、オフィーリアは当たり前のように聖女の役割を果たすべくそこに同席し、治癒魔法を使ったり、身体強化魔法を使ったりと、色々奮闘していた。

 その魔物討伐の時、リューリュがたまたま(本人曰く)散歩をしていたところ、危害を加えようとしたわけでもないのに、騎士団にいきなり攻撃魔法を放たれてしまった。だから、リューリュは自分で自分を守るしかなく、反撃をしていたところに駆け付けたオフィーリアが『その魔物は討伐対象ではないでしょう!!』と騎士たちを叱りつけたのだ。


 魔物討伐は、ただ、魔物を狩ればいいのではない。


 こういう魔物が出たから、そいつを討伐してくれ。本来なら冒険者にお願いをするが、大型で手に負えないから。そう言って、依頼が入って始めて、騎士団は討伐へと出向く。


 最初にきちんと資料に目を通していなかった新人隊員がうっかりやらかしてしまったのだが、リューリュからすれば奇襲を受けてしまい、一方的に訳が分からないままでボコボコにされていた。

 それを助けてくれたのが、オフィーリア、というわけだ。


『い、言っとくけどアンタを守るためとかそういうんじゃないからね!』

「……」


 助けてくれた人には、恩を返す。

 オフィーリアは、リューリュの身の安全を優先して、一応魔獣として使役する契約魔術を施してはいるものの、ある程度経過したらそれは解除しようとは思っているのだ。

 そう思いながらも、リューリュは何だかんだでオフィーリアを気に入っているから、彼女の身の安全の確保やら何やら、様々な名目であちこちに仕掛けをしている。


 作動するとしたら、オフィーリアに対して何らかの危害を加えようという輩に対して、なのだが、その仕掛けの位置やら仕組みやらはオフィーリア自身には一切話していない。


「リューリュ、知ってる?」

『なぁに!』

「あなたのそういう……こう、ツンケン? した態度ってね」

『な、何よ……』

「クローチェ曰く、ツンデレ、とかいう感じの、何か素直になりきれない系の言葉で表されるらしいわよ」

『ヒトと同じ基準で考えるなおバカ!!』


 きー! と叫んでリューリュはひょーい、と高く跳躍してから、手紙を書いているオフィーリアの頭に後ろの両足を揃えて遠慮なく着地した。

 ごす、と鈍い音が聞こえたが、知らん、とリューリュはそのまま後ろ足で器用にオフィーリアの頭をだすだすと踏む。


「ちょっと、そこそこ痛いんだけど?」

『痛くしたの! おバカ!』

「も~……」

『あのねぇ、状況報告はきちんとする! 確かアンタのおばさまってひっそり薬師として働いてるけど、影響力ものすごいおばさま? なんだから、頼れるとこは頼れおバカーー!!』

「……あう」


 耳が痛い、と呟いたオフィーリアは、手紙にリューリュに言われたまま書き連ねた。


「……これで良いのかしら」

『……まぁ、合格ラインね』


 ふふん、と何故だか誇らしげにしているリューリュを、オフィーリアは困ったように眉を下げている。

 本当に助けを求めても良いのだろうか、と思いつつも、エルザだって身内なんだから良いか、と小さく溜息を吐いた。


『なぁによ、そんな変な顔して』

「いやだって、エルザおばさまに迷惑かけないかしら……」

『……』


 あれほどまでにエルザのところにいける、と喜んでいたのに、この子情緒不安定……? とリューリュは若干心配になるが、書き終えた手紙のところにちょこちょこと移動してきて、前足を手紙の上にもす、と置いた。


「リューリュ?」

『はい、送信』

「あーーーーー!?」


 いつの間にか魔法を発動していたリューリュによって、手紙は小鳥に姿を変えてぱたぱたと飛んで行った。


『どうせ、アンタはおばさまのところに行くんだからさっさと手紙出しちゃえばいいのよ』

「いやでも」

『アンタ、まだ子供なんだから大人を頼って何が悪いのよ。脱出できて浮かれまくりのおばかちゃんが!』

「あいた!」


 またもやリューリュによってウサギパンチともいえる一撃を食らってしまったオフィーリアは、叩かれた額を押さえ、小鳥が飛んで行った方向をぼんやりと眺める。

 リューリュは、エルザを知らないわけではないから、きっともうすぐであの手紙はエルザのもとに間違いなく届く。しかし、素直に喜んでいられるわけではないということも知ってしまったため、オフィーリアはすっと立ち上がってリューリュを抱き上げた。


『なぁに?』

「お友達の見送りと、今後のお話をお父さまとお母さまも、交えてしなくちゃいけないわ」

『そうねぇ。アタシ関係ある?』

「クローチェへの貢ぎ物」

『あああああああああああああ』


 じたばた暴れるリューリュをがっちりホールドしたオフィーリアは、友人たちがいる客間へと進んでいった。なお、すぐ後でリューリュの悲鳴が屋敷に木霊し、メイドたちだけでなくその他使用人が『あら、今日も平和だねぇ』と笑いあっていたことは、リューリュだけが知らないのであった。








 一方そのころ、エルザ宅では。


「あら」


 エルザの手元に届けられた、一通の手紙。

 机に小鳥が乗ったかと思えば、しゅるしゅると形を変えて一通の手紙へと変化した。差出人は、可愛い可愛い姪っ子だが、あの子は確か筆頭聖女では……と訝しげな顔をしたエルザが手紙を確認する。


「えーっと……」


 中身を読み、思わず硬直してから、ちょこまかと動き回っている自身の使い魔を手招きして呼んだ。


「ちょっとー」

『はいな主、何か御用?』

「サルシャ、ちょっと私お出かけしてくるからお留守番お願いしていい?」

『あいな、かしこまり! どこ行く?』

「オフィーリアのところよ」

『リア! 元気? あれ、でもリアは』

「そう、気になるでしょう。色々聞いてくるからいい子でお留守番していてね」

『あいあい』


 サルシャは、エルザが卵から大切に育てた魔獣。

 普段は子供の姿をしており、エルザの仕事のお手伝いをしてくれているのだ。

 黒髪くせっ毛のショートヘアに、冒険者のような動きやすい恰好をしていて、エルザの店の看板魔獣になっている。エルザは採取などで留守にすることもあるため、サルシャが留守番をしていることもあるため、恐らく留守番を任せていても問題はない、とエルザは判断した。


 手早く荷物をまとめ、家の裏手にこっそり用意してある転移ゲートまで行くと、起動用の魔石をはめ込んで、エルザの魔力を流し込んでいけばゲートは起動する。

 オフィーリアが筆頭聖女になってから数年後に、このゲートを設置したので、オフィーリアは知らないかもしれないが今はそんなことを言っている場合ではない。メモに『今から行きます』とだけ書き、オフィーリア宅へとかっ飛ばしてから、エルザはよっこらせ、という掛け声とともにゲートをくぐった。


 なお、手紙が届いたヴァルディス家ではオフィーリアの『おばさまが来るわー!』という喜びの声の直後に、『馬車とかで来るんじゃないのおおおお!?』という叫びが聞こえたのだった。

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