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【完結済】その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~  作者: みなと


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お泊り会

 全く……と、ぼやきつつもカトレアは溜息を吐いている。


「あなたが一緒になってお茶しないでくださいまし!」

「ごめんって」

「私だって、オフィーリアちゃんとお茶したかった!」


 デスクに突っ伏して心底悔しがるカトレアだったが、執事長がすす、とカトレアの背後に回る。


「奥様は会議のご予定がありましたので」

「うわーん!」

「お嬢様はもうヴァルティス家に帰ってこられたわけですし……その、時間はおありになるでしょう?」

「……」


 そうだといいなぁ、とカトレアもジェイドも遠い目をしてしまう。

 何せ、興味のないことに関してはとことんまでやる気のないヴァルティス家の皆さま方。しかし興味のあることに関してはこの真逆。


 オフィーリアにとっての現在最もやる気のある事=おばであるエルザのところに行って薬師の勉強をすること。


 うっかりエルザに挨拶をしに行って、その場で話が盛り上がったりしてしまって、そのまま引きこもってがっつりと薬師としての研究に入ってしまえば、筆頭聖女の問題とか諸々を投げ出す可能性だってある。

 とはいえ、そうならないためにも『エルザのところに行くことはとめないけれど、せめて行く前に近況は手紙でお教えしておきなさい』と言い含めてあるから、恐らく大丈夫だとは思う(一時的に、ではあるが)。


「……まぁ、時間はあるといえばあるけれども」

「であれば、奥様は領主としてのお仕事をきっちりなさってください」

「あ、それ俺も……」

「旦那様はあくまでサポート業務に徹していただかないと」

「くそっ!」

「あなた、諦めて頂戴。貴方と私、やれることと向いていること、逆なんですから」


 はー、と思いきり溜息を吐いてカトレアは書類をちまちまと処理していく。

 んじゃ俺も手伝う~、とのんびりとした声で言ったジェイドのサポートのおかげで、書類の山はあっという間に片付いている、これだけを見れば、夫婦の役割が逆でも良いのでは、と考える人もいるのだが、逆にしてしまうと何故だか効率は下がるわ、処理能力がそもそも下がるわ、何でそうなる!? ということばかりが発生してしまう。


「旦那様が帰ってきてくださって、処理効率も上がったことですし、お嬢様たちのお友達のお泊り会の準備に取り掛かりますので」

「ちょっとそれ私も!」

「奥様はその山を片付けてから、でございます」


 執事長がパンパン、と手を叩けば、すすっとメイド長や執事見習い、カトレアの専属メイドまでもがやってくる。


「え」

「皆、奥様の見張りを頼んだ」

「かしこまりました!」


 びしっと敬礼をしてから、カトレアは文字通り机から離れることは出来ず、尚且つジェイドのサポートをMAX利用できるようにとあれこれ世話と焼き始めてしまった。

 ……こうなると、さすがのカトレアも逃げ出すことは出来ないし、ジェイドも苦笑しながら『カトレア、ささっと終わらせてリアのところに行こうね』と慰めることしかできなかったのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ん?」

「どうしたの、クローチェ」

「何か今悲鳴が……」

「お母さまのじゃないかしら、はい上がり、っと」

「うげ」


 女子四人、仲良くオフィーリアの部屋でカードゲームをしている。

 そこに聞こえてきたのは、母カトレアの執務室からの絶叫というか、悲鳴。

 エルマから聞いていたので、オフィーリアは少しだけびっくりしたものの、ああこれが実家でのいつものことなのか、と感心しつつ、エルマにはしっかりとお礼を言っておいた。


「エルマさん、お茶欲しいです」

「かしこまりましたアイシャ様、どのようなものがよろしいですか?」

「そうね……ちょっと熱中しすぎちゃったから、冷たいのっていただける?」


『氷なら出してあげるわよ~』


 お茶のお代わりを入れようとしているエルマの頭の上に、飛んできてひょいと乗ったのはリューリュ。

 全属性の魔法を使えて、オフィーリアとの契約もあるからと基本的にはとても協力的だ。自分から申し出していること以外に関しては、結構文句を言うのが玉に瑕。


「ありがとうございます、リューリュ様! やはり頼りになりますわ!」

『ふっふーん♪』


 ドヤ顔を披露しつつ、リューリュはエルマが差し出しているグラスに、氷を出現させていく。適量が入れば、エルマは嬉しそうにお礼を言って、いそいそとアイシャに対しのお茶の準備をしていった。


「リューリュって、基本的に根は素直だよね」

「そうね」


 クローチェはとてもリューリュのことを気に入っているので、しっかり観察は欠かさない。

 リューリュの様子を見ながらオフィーリアに問いかければ、オフィーリアもにっこりと微笑んでからリューリュに視線を移す。


「最初から割とリューリュって、素直というかとても優しいというか」

『アンタとの契約後から、よ!』


 シャー! と威嚇するように叫んだリューリュは、用意されているお気に入りのクッションにぽふ、と飛び乗ってから小さく丸まった。

 ああ、寝るのか……と全員がほっこりとした様子で眺めていると、少しだけオフィーリアが寂しそうな笑みになって言葉を続ける。


「……神殿内にいると、リューリュを呼び出すのもそう簡単じゃなかったのよね……」

「まぁ」

「神殿だし」


 アイシャ、クローチェが頷いている横で、デイジーが思わずジト目で呟いた。


「っていうか、聖なる場所で魔獣呼び出しとかやめなさいよ」

「やってみないことには、でしょ?」


 この子基本的に、やれそうかどうか、って試すのよね……とデイジーが苦い表情をしていると、リューリュが薄目を開けて彼女たちを観察し、内心呟く。


『(……オフィーリアが怪我したアタシを拾ってくれたからこその縁だけど、よくもまぁウサギに擬態させるだなんて思いついたわね)』


 拾われた当時を思い出しつつ、神殿とは違ってとても過ごしやすい空気のこの場所を堪能しながら、リューリュはすっと目を閉じて眠りの体勢に入った。

 眠る様子を眺めていた女子四人組と、オフィーリア専属メイドのエルマは、とてもほっこりした表情を浮かべている。

 すよすよと眠ることで、小さな体が上下している様子は、何とも愛らしいな、と思う。


「……もし、オフィーリアがおばさまのところに行っても、会えるのよね?」


 エルマから冷たい飲み物を受け取り、一口飲んだアイシャは、少しだけ固い口調でオフィーリアに問いかける。

 あ、とクローチェやデイジーが声を上げて慌ててオフィーリアを見れば、当の本人はきょとんと眼を真ん丸にしており、すぐににっこりと微笑んだ。


「勿論! 神殿のあの面倒な面会システムとかないし、普通に会えるわよ!」

「良かった~……」

「神殿のあの厳重さを考えると仕方のないことだとは思うけど……面倒だったんだよねぇ」


 あはは、と笑うデイジーや、安心して力が抜けたクローチェを見ると、本当にこの人たちと友達になれてよかったなぁ、としみじみ思うオフィーリアなのだった。


 そしてその少し後、時間にしておおよそ三十分程度のこと。


「オフィーリアちゃん、お母さまともお茶しましょ!」


 ノックをし終わったかと思えば、全力で走ってきたのかぜぇはぁと荒い呼吸で娘の部屋に突撃をかましてきたカトレア。


「……お母さま?」

「すみません、お嬢様。もうお夕食の時間だからダイニングでお待ちくださいと言ってみたのですが……」

「ごめんねぇ、オフィーリア。さ、カトレア行くよ?」

「うう……」


 私だってオフィーリアちゃんとお茶……とものすごくしょんぼりしているカトレアを見たオフィーリアは、こっそりと『明日、お母さまとお茶会したいです』と伝えたところ、ダイニングに向かって歩いている最中にも関わらずがばりと抱き着かれてしまったため、カトレア諸共転んでしまった。


 だが、それすらも楽しくて仕方なくて。


 オフィーリアは、笑いすぎて涙が出てしまうほどに笑って、これ以上ないほどに幸せに包まれていた。

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