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【完結済】その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~  作者: みなと


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父、帰ってくる

 いつの間にやら、アルティナが無理やり筆頭聖女の座におさまってから、一週間が経過していた。

 オフィーリアは実家にて、とてつもなく平和な日々を過ごしている。


「はー……聖女のお役目ないの、楽……」

「お嬢様、お茶のお代わりはいかがですか?」

「エルマ、たっぷりいれておいて~」

「かしこまりました」


 エルマはオフィーリアが帰宅したことで、とてもほっくほくの顔でかいがいしく世話を焼いている。

 ついでにリューリュも一緒になって恩恵を受けているのだが、リューリュはリューリュで焼き菓子をもりもりと食べている。


『エルマ、アタシにも』

「はい、リューリュ様」

「魔獣なんだから、様つけなくて良いのに」

「まぁ、そんなのいけませんよお嬢様! リューリュ様は旦那様にお嬢様のご帰還を知らせてくれた功労者ではありませんか!」

『そうよ~』


 小さなウサギの姿だからか、恐らくこのヴァルティス家の皆さまはリューリュのことを愛玩動物的に扱っている。

 見た目的には正解だが、中身はどこまでいっても魔獣なのだ。

 二人(?)の出会いは、リューリュが旅人に対して襲い掛かろうとしていたところを、当時まだ聖女として活動していたオフィーリアが、ちょっと殴って大人しくさせて、隷属の首輪をつけたことでサイズダウン、かつ、こうして可愛らしいウサギの姿になった、というところなのだが、今は割愛しておく。


「そういえばさ、エルマ~」

「何でございましょう?」

「お父さまって、どれくらいで帰ってくると思う?」


 お気に入りのクッキーをモリモリ食べながらエルマに問いかけているオフィーリアだが、リューリュに『お行儀悪いわよ』と叱られてしまって、食べる量をほんの少しだけ調整はした。したが、それでも好きなものは好きなんだと言わんばかりに、またクッキーに手を伸ばしているオフィーリア。

 ああ、ようやくお嬢様が色んな意味で解放されたんだ、とホッとしたエルマは、新しいお菓子をオフィーリアの前に置きつつ、問いかけには少しだけ考えて答えた。


「旦那様でしたら、恐らく本日あたりにお帰りになるのではないかと」

「え」

『あらぁ』


 こんなにタイミング良いってある? と思うオフィーリアだが、確かに王都からこのヴァルティス家領地までは馬車でそれくらいはかかる。

 急いで荷造りをして、足の速い馬を繋いだ馬車で駆けてくれば、それくらいになるのか……と思うオフィーリアは、少し考えてから、いれてもらったお茶をぐっと飲み干した。


「じゃあ、お出迎えしようかしら。お父さまから連絡って来ている?」

「ええ、私がここに来る前に奥様のところにご連絡が来たそうですよ」


 きっと、母であるカトレアはオフィーリアのことを気遣って、今はひたすらぐうたらして良い期間として設定してくれているのだろう。

 もしくは、父ジェイドが帰宅したらサプライズ! として喜ばせるために黙っているのかもしれない。

 どちらにせよ、カトレアの配慮に感謝だな、と思いつつも、一週間もぐだぐだしていれば、体が鈍ってしまう。そして卒業パーティーは終わっているし、卒業証明書をこちらに郵送してもらえば問題なさそうだし、仲良し三人組のことだから、そのうちここにやってくるだろうことも簡単に推測できる。


「んー……」

「お嬢様?」

「お出迎えしようかしら、お父さまのこと」

「それは良い考えでございます!」


 時間はお昼前。

 朝ごはんを食べて、読書をして、少しだけ眠くなったから寝て、思ったより寝てしまい少しだけ小腹がすいたからとお茶を用意してもらって。


 筆頭聖女だった、ほんの数日前では考えられないゆったりとした時間。


 幼い頃から、学校も含めてほとんど休みらしい休みがなく、今ようやくのんびりできている。

 しかし、その内におばであるエルザのところに行く準備をして、手紙を書いて、向かわねば、とオフィーリアが改めてやることを整理してから、よし、と立ち上がった時。


「たっだいまーーー!!」


 ずばん、と扉が開いて、とんでもなく良い笑顔でオフィーリアの部屋に突撃をしてきた人物が、一人。

 オフィーリアがエルマを慌てて見上げるも、彼女も知らされていなかったらしく、ポカンとしてオフィーリアを見ている。


「え……」

「旦那様……?」

『やぁだ、おじさまお久しぶりだわーー!!』


 三者三様。

 オフィーリアを見て、喜んでいる父・ジェイド。

 入ってきた父ジェイドを見て、呆気に取られているオフィーリアとエルザ、めちゃくちゃ喜んでいるリューリュ。


「ええ……と、お父さま……?」

「お帰りオフィーリア、そしてただいま!」

「お帰りなさいませ……?」

「あっはっは、何で疑問形なんだい。我が娘」


 ジェイドは嬉しそうに表情を綻ばせ、ずんずんと室内に入ってきて、真っすぐオフィーリアのところに歩み寄り、座っている娘のサイドに膝をつくようにして下から見上げるようにする。

 おずおずとオフィーリアがジェイドに視線をやれば、父はとても嬉しそうに笑って、オフィーリアの頬に手を伸ばした。


「リア、ようやく言えるね。ただいま、そしてお帰り」

「お父さま……」


 とても、久しぶりに父を見たような感じがして、オフィーリアはじくりと目元が熱くなる。

 そして、じわりと涙が滲んでくるのを必死に我慢しながら、遠慮なく父親にがばりと抱き着いた。


「お父さま……!」

「うん、頑張ったね。偉いよ、リア」

「っ……」


 ぽんぽん、と優しいリズムで背中を叩かれ、オフィーリアはわんわんと泣き出してしまった。


 辛かった。

 助けてほしい時もあった。

 家に帰りたくて、何度泣いたことだろう。


 役目だから仕方ない、と諦めてしまえば気持ちは楽になったけれど、そうなるまでにどれくらい逃げ出そうと企んだことか。

 あぁ、でもそんなことしなくて良かったんだ、とオフィーリアは父の腕の中で子供のように泣いた。


「うんうん、辛かったねぇ。頑張ったね、オフィーリア。父さまも、出来るだけお前の傍にいようと、とりあえず文官勤めをしてみたものの……」

『嫌だわおじさま、そんな情報、オフィーリアに一切入ってきていないわ』

「……里心を出したくないバカ王家のやりそうなことだ。王妃はオフィーリアを大層気に入っていたからなぁ……」

『えー、おバカさんの王妃がこの子を気に入っている、というよりは、神霊様がオフィーリア贔屓かつ、何よりも大好きだったからでしょう?』

「まぁ、そうとも言うねぇ」


 リューリュは厳しいなぁ、というのほほんとした父の声には、僅かながら怒りが込められている。

 幼い我が子の傍に居たいという思いを、あの王家が台無しにしたのだろう。


「……あの王家のことだ、オフィーリアがわたしに会いたいと言っても仕事が忙しいだとか、うまいこと理由をつけて会わせないように仕組んでいたんだろうねぇ……」

『あ、あの、おじさま』


 普段は見られないジェイドのブチ切れ顔を見たリューリュは、オロオロしながら宥めようとしてみるが、悪意なくオフィーリアがトドメを刺しにかかる。


「……っ、いわれ、ました。お父さまに会いたい、って泣いても、仕事が、忙しい、とか……会いにくる、暇、ない、とか、領地、遠い、とか……」


 あー……小さかったから信じちゃったんだなぁ……と、リューリュがどことなく遠い目をしていると、更にブチ切れかましているジェイド。

 更に、オフィーリアは吐き出して、泣いて、スッキリしたのか、ジェイドから一旦離れて、リューリュに対して何やらヒラヒラと手を振っている。


『オフィーリア、なぁに?』

「リューリュ、ハンカチ取って」

『あぁ、はいはい』


 ふよふよと飛んで、涙を拭うためのハンカチを取ってオフィーリアに届けると、涙を拭いたあとで思いきり鼻をかんでいる。


『お嬢様としての嗜み、どこに捨てたの!』

「家だから良いじゃないの……」


 ずび、と鼻水を軽くすすって、オフィーリアは大きく深呼吸をしてから、落ち着いたのかジェイドにもう一度抱き着いた。


「リア、大丈夫かい?」

「ありがとう、お父さま。もう平気、私は大丈夫よ」


 にこ、と微笑んでジェイドに言うと、ようやく二人で笑いあった。

 ふとエルマの方を見ると、親子の感動の対面にボロボロと涙を零しており、『お嬢様……良かったぁぁぁ』と泣き続けている。


「……お父さまと……うっかり感動の再会しちゃったから……」

「エルマもお前の帰りが嬉しかったんだなぁ……専属になって時間があまり経ってなかったにも関わらず、いきなり引き離されただろう? 良かった、ここに帰ってこられて」

「……うん」


 へら、とオフィーリアが微笑めば、エルマはいきなり泣き止んで、思いきりオフィーリアの元へと走ってきてがばりと抱き着いた。

 なお、オフィーリアはジェイドに抱き着いているので、エルマはうっかりジェイドごと抱き締める形になってしまったのだが、本人は感極まっているから気付いていない。


「お嬢様ぁぁぁ! 私、幸せでございます! 改めてお世話係として精一杯努めてまいりますね!」

「ありがとう、エルマ。色々と期待しているわね」

「……なぁエルマ、抱き着くにはもうちょっと状況を考えてから抱きつこうな?」

「…………あら?」


 ハッとして気が付いたエルマは、今更ながら状況を察してそろりと離れる。

 あぁ、ようやく落ち着いて家族の話も出来るな、とほっとしているオフィーリアだったが、よっこらせ、と立ち上がったジェイドが手を差し伸べてくれたのを見て、手を取り立ち上がる。

 すると、ジェイドがオフィーリアの背を軽く叩いて何かを合図しているが、一体何なのだろうと首を傾げるオフィーリアは目を丸くしている。


「ふふ、遅くなったけれどオフィーリアにお土産があってね」

「お土産?」


 ジェイドが己の側近に合図をすると、側近二人がにこりと微笑んで部屋の扉を開ける。

 ──と。


「オフィーリア!!」

「リア、会いたかったわー!!」

「お元気かしら、オフィーリア!!」


 扉が開くと同時に、オフィーリアの友人三人が一気に部屋に駆け込んできたのだ。


「な!?」

『あら嫌だわ、にーげよっと』


「いやぁぁぁ、リューリュちゃんもいるぅぅ!!」


『うげ!』


 飛んで逃げようとしたリューリュだったが、友人たちの勢いに押され、逃げ場を失ったためにもみくちゃにされてしまうと気づいたのは、あと数分後。

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