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【完結済】その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~  作者: みなと


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母と娘の思い出話

「と、いうわけなんですよお母さま」

「あらまぁ……」


 帰宅早々に母親であるカトレアときゃっきゃと双方抱き締め合いながらはしゃぎ、お茶会だお茶会だと勢いのままにカトレアの執務室に入り、メイド長にお茶の準備をしてもらってから事のあらましを説明した母親の反応を聞いたオフィーリアは、あっはっは、と笑った。


「まさか(一応)私の同期的な感じの、アルティナ嬢がねぇ……筆頭聖女狙ってたのかどうかは良く分からないんですけど、あの殿下の婚約者になるなんて」

「オフィーリアちゃん、駄目よ。言葉は正しくね?」

「う?」


 オフィーリアはお気に入りのクッキーをもりもりと食べながら、カトレアの言葉に首を傾げた。


「婚約者になった、んじゃないでしょう?」

「でも、一応ティアラ渡しましたし」

「神霊様、ぜーったいにお認めにならないでしょうに……。まぁ、貴女のお手紙から察するに、っていうだけなんですけど……でもねぇ」


 うーん、と唸るカトレアは可愛らしい。

 オフィーリアの年齢からしても、こんなに可愛いお母さんいないんじゃないか、っていうくらいにはオフィーリアは母親のことが大好きだし、自慢したい。

 ふわふわのくせっ毛を丁寧にまとめてはいるが、日に当たるときらきらと綺麗に光る金色。

 目の色は翡翠色で、健康的ではあるけれど白くてきれいな肌。子供を産んでいるとは思えないくらいにプロポーションも良い……が、家族愛はびっくりするほどに激重な奥様である。


「ああそっか、お母さまには神霊様のことお手紙で報告してたんだった」

「そうよ。でも、オフィーリアちゃん」

「はい」


 またクッキーをかじったオフィーリアを見て、カトレアは苦笑いを浮かべた。


「お父さま、王都にいたんだから一緒に帰ってくれば良かったのに」

「…………」


 クッキーを食べる手を思わず止めたオフィーリアは、『そういえば……』と何か呟いている。

 あまりにも両親に会う機会が少なかったせいか、『ここに行けば親に会える』あるいは、『ここに手紙を送れば大丈夫』といった思考がどこかにすっぽ抜けてしまっていたらしい。


『ほーんとよね、オフィーリアったらその辺お間抜けさんだわ』

「ちょっと、リューリュ? あなただって知らなかったでしょう?」

『使い魔にそれを求めちゃってどうすんのよ。そもそも、アタシはそういうの詳しくないんだから、主のアンタがしっかり指示してくれないといけないと思いまーっす』

「うぐ」

「リューリュちゃんの言う通りよ、オフィーリアちゃん」


 めっ、と軽く注意をしつつ、リューリュの頭を撫でたカトレアは、にっこりと微笑んで言葉を続けた。


「まぁ、旦那様に関してはどうせすぐにこっちに帰ってくるでしょうし……ちょっと王太子殿下対策でも練っておきましょうか。って、オフィーリアちゃん。お友達は?」

「ああ、彼女たちにはあとで伝言でも送っておきます。どうせ卒業はしておりますし、聖女に選ばれたおかげであの学校にも通うことができたこと、お友達と知り合えたことは一番大きな収穫、とも言えますし」


 大きく口を開けてもりもりとカップケーキを食べているリューリュを見つつ、しみじみと呟くオフィーリア。

 領地から王都にある学園に通うためにどうしようか、と両親が相談していたところに、オフィーリアが聖女認定された、と連絡がきたことで幼いオフィーリアはそのまま教会に、更には筆頭聖女に選ばれたことで王宮に連れていかれ、王太子妃候補にまでなってしまったのだ。


「こういう国の決まり事って、どうにかならないんですかね。っていうか、私どうして聖女に……」

「ああ、その話ね。もう筆頭聖女じゃなくなったんだし、お話しておきましょうか」


 ふぅ、と溜息を吐いたカトレアは当時のことを思い出しつつ、困ったような顔で口を開いた。


「とっても簡単なお話なんだけどね……」

「はい」


 オフィーリアは、当時一体何があったのか、とごくりと息を呑んだ。


「ティアラがね、ここ……というか、我が家にいた産まれたばかりの貴女を示したんですって」

「はいはい……って、はい!?」

「選んだのが神霊様なんだけど……聖女も、筆頭聖女、普通の聖女……普通の聖女って何だ、ってお話よね。複数の光がこう、ぱっと出たらしくて」

「え、えぇ……」

「で、少し時間を置いて迎えに来た、っていうことらしいわ」

「何ですかそれ……」


 何だその適当な選出方法。

 オフィーリアもそうだが、リューリュも手にしたカップケーキを持ったままでめちゃくちゃ怪訝な顔をしている。


『神霊様の聖女の選び方って……』

「で、何人か集められた中にオフィーリアちゃん、それから今回の件のアルティナ嬢……だっけ? が、いた、っていうわけね」

「はぁ」

「尚且つ、筆頭聖女にオフィーリアちゃんが選ばれた理由なんだけど」


 何かもう想像つき始めた、とオフィーリアとリューリュが無言で顔を見合わせる。


「神霊様曰く、魔力の波長が驚くほどに初代聖女と同じだったから、っていうことで」

「アホかあの神霊様」


 そもそも神霊様ってどういう仕組みであのティアラの中にいるんだ、と思うオフィーリアだが、面倒すぎてツッコミをしないままかなりの年月、筆頭聖女であり続けた。


 実際、オフィーリアは相当な魔力を有しているし、筆頭聖女の役割も全てこなせるだけの余裕すらあった。

 アルティナが必死にこなしたあの作業、オフィーリアにとっては朝飯前、状態だったのである。ちょっとだけ神霊に贔屓されていた、という点を考慮しても、これまでの聖女よりは遥かに多い魔力量、かつ物事の呑み込みの早さもあって、王妃からは大変気に入られていたのだ。


「……筆頭聖女を押し付けられて……ああいやそれは語弊がありますね。でも、神霊様に気に入られて筆頭聖女の役割をやってきて、家族と引き離されることが嫌で嫌でたまらなかったのに、こうして実家に帰ることもできずにひたすらお役目、婚約者としての色々を押し付けられてきた、ってことですか……」

「端的にまとめると、そういうことね」

『初めてアンタに同情したわ、オフィーリア』

「リューリュ、時間を巻き戻したりとか……」

『禁呪も良いところだから、諦めて第二の人生謳歌したらぁ?』


 リューリュは器用に手を使い、ティーカップに注がれていた紅茶をぐびり、と飲んだ。

 そして、ふわふわと飛んできて、オフィーリアの頭を小さな手でよしよしと撫でつつ、にこ、と目を細めて笑いながら告げた。


『まぁ、事実を知った王妃が、アンタを家族ごと王宮に呼び出すとか色々やるでしょうけど、頑張りなさいな』

「楽しんでるでしょ」

『楽しい』


 さすがは魔獣、とでも言うべきか。

 リューリュは心底楽しそうに告げて、オフィーリアの頭の上でくつろぎ始めてしまった。


「リューリュ」

『なぁにぃ?』

「王家から物理的に距離を取ったとしたら?」

『どうもならないんじゃなぁい? だってあいつらその辺の害虫より執念深いじゃないの』


 基本的に自分のやりたいこと以外に関しては、欲を出さない。

 オフィーリアの父ジェイドが王宮務めをしていることは、『オフィーリアを見守るため』。守るべき対象が居なければ、ジェイドだって王宮務めをさっさと辞めて帰ってくることだって容易に想像できることではあるが、果たしてあの王太子が予想できていたかどうかは不明。

 娘のためだから色々注力してきただけであって、肝心のオフィーリアが居ないのであれば去る。そういう契約書だってきっちり王家と交わしているから、万が一に備えていつ何時でも対応できるようにしている、とはジェイド談である。


 なお、これはカトレアだって知っているので、オフィーリアがここに帰って来た=ジェイドもそのうち帰ってくるだろうと推測して、使用人たちには部屋の掃除などをするようにカトレアは伝えておいた。


 基本的に無欲で、人畜無害そうな顔をしているけれど、やる時はやるし有言実行あるのみ。

 何かあったときのために、用意周到に準備をしておく。そして、今がその『何かあったとき』である。


「とりあえず、お父さまもご帰宅なさることが分かったわけですし……私、おばさまのところに行く準備をしても?」

「それは問題ないけど……」


 パーティーが開催されていたのが、卒業式直後の昼過ぎだったことが幸いしたのか、今の時間は夕方少し前。

 そして、ヴァルティス領から王都まで、馬車で三日はかかる距離だが、それをあっという間に飛翔して帰って来た、となれば速度はとんでもないものだとすぐに理解できてしまう。


「お父さまって、馬車でお帰りになるのよね?」

『アンタみたいに、とんでもないバカ速度で飛んで帰るニンゲンなんかいないっての』

「リューリュ」

『にゃーーーーーーーーーー!!』


 耳をわし、と捕まれて暴れるリューリュと、むすっとしているオフィーリア。

 小さい頃には決して見ることのなかった光景だが、オフィーリアがここまで素をさらけ出しているのは、きっと穏やかに過ごせる場所だからこそ、だろう。


「ほら、もう少しゆっくりしたらオフィーリアちゃんは薬草畑に一緒に行きますよ。お夕飯で使うハーブを採りに行きましょう」

「……はぁい……」


 実家だからできる会話。

 実家だから安心できて、気も抜ける。


 とりあえず、父が帰ってくるまでに友達に手紙を書こう。そうだ、おばさまにも連絡しなきゃ。

 やらなければならないことを考えていたオフィーリアは、カップに残ったお茶をゆっくり飲み始めた。

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