第8話 焼肉デートは戦場です
「や……焼肉デェ~ト~~~!!」
エルミナが大声で叫んだ。
幹部しか入れない、防音性が高い提督室でなければ、周りに聞こえる所だった。
「ちょっと……エルミナ、声が大きい。」
「つ……遂に」
「なっなんでエルミナが泣くのよ!!」
「いや、何だろう。感極まっちゃって。」
「ちょっと~。そんな泣かれるとこっちまで泣けてくるじゃない!うえぇぇん!!」
「この一歩は、とても小さいけど、とても大きい!」
「哲学みたいに言わないでよ。」
「でも何で初デートが焼肉……。謎すぎる!
ちなみに……ハナさん、焼肉に行ったことは?」
「ばっ馬鹿にしないでよ!いっいっいっ、噂には聞いたことがあるわよ!」
「なんで行ったことないのに、リクエストするんですか!?」
「だって……テレビのドラマで、男女二人が楽しそうだったんだもん。」
「……。今日、行きましょう、私と。練習です!」
「え?練習が要るの?」
「えぇ!もちろん!妄想も結構ですが、焼肉を舐めてはなりません!
焼き加減の気遣い!!
取り分けのタイミング!!!
楽しむ姿勢!!!!」
「……。(ごくり)」
「焼肉とは、プライベート空間で女子力の高さを魅せる――戦場です!」
「せ……戦場!?参謀長!事前にシミュレーションを実施する!用意しろ!」
「は!恋参謀長のエルミナにお任せください!
今夜、ニャニャ苑を予約しておきます。17時に集合です!」
「分かった!参謀長………必勝の策を頼む。」
・・・
・・
「ハナさーん?準備でき…ま……おい!なんちゅー恰好で焼肉に行く気だ!」
「え?シミュレーションだから、本番みたいにオシャレしようと。」
「馬鹿モノ!焼肉とはすごく臭いが付くんです!臭いが付きにくい素材の服を選んでください。
一軍のお洒落服じゃなくても大丈夫です。
相手も臭いについて分かっているので二軍の服で問題ありません。
衣類用の消臭スプレーも必須です。袖が邪魔にならない服にしてください!
髪もまとめておくと良いです。」
「な?!そんな必勝法が!?」
「そんな臭いが付きそうな贅沢な服を着て行ったら……。
気を使うフクオカのことだから、5分で
『臭くなりそうですね。もう店を出ましょう。』
とか言い出して強制終了しますよ!
これだから公爵家の箱入り娘はっ!!もう!!」
「え?!やだ!!参謀長、服を選んで!!」
・・・
・・
「いいですか?ハナさん。
肉というのは、人によって好みがあるんです。
焼き加減を気遣うことで、繊細な気配りができる女性をアピールできます。」
「なるほど・・・・。」
「あとは、焼きあがったお肉をさり気なく取り分けるような、自然な気配りは好感度爆上がりです。」
「わかった!気を付ける。」
「あと、焼肉は臭いなどで、ネガティブな印象は付き物です。
女性が美味しそうに食べる、それが男性を喜ばせると言います。
フクオカは尽くし系なので、ハナさんが喜べば、あいつも喜びます!」
「や……焼肉。奥が深い。」
「じゃあ、早速注文しましょうか?」
「うん、へぇ、結構、お値段はするのね。」
「はい、焼肉は身近な外食の中では最も高価な部類です。
こういう格言があります。
『他人の金で食う焼肉は旨い』
これは庶民にとって焼き肉が高級な食事である証拠です。
今日、私はハナさんに奢ってもらえるので、とても美味しく食べられます。」
(……奢るって話だったっけ?)
「じゃあ、練習なので、バンバン頼みましょう!!」
「おっ……おー!」
・・・
・・
当日。
「ハナさん、あのシミュレーションを忘れないようにしてください。」
「えぇ!分かってる。この服装で大丈夫?」
「はい、決まっています。口臭ケア用品は持ちましたね?」
「持った!消臭スプレーももちろんある!」
「グッジョブ!あとは楽しんできてください!」
「参謀長!ありがとう!」
・・・
・・
(デート……デーット……。フクオカ君とデーット!)
「フクオカ提督、焼き加減の好みはありますか?」
(二人きりなんだから名前呼べよ!)
「この場で提督はやめてもらえないかな?」
「あ……そうですね。すみません。フクオカさん。」
(ちゃうだろぉ!!ハナだ、ハナ!ハナと呼べ!!
いや、ポンコツのフクオカ君のことだ。
1億倍ぐらい頑張ったんだろう。許す。許しちゃぁう!)
「あ、えっと良く焼いてほしい。」
「わかりました。」
・・・
・・
「あはは、そうなんだ、フクオカ君も……」
ひょいひょい。
「で、私はこう言ったの!」
ひょい。
(あーーー!!!!話が楽しすぎて、全部フクオカ君にやらせちゃってる。
いや、何この気配り。私が良く焼いてほしいと言ったらちゃんと好みの焼き具合。
さりげなく、お皿に取り分けてくれる自然さ。
そして食べきれなくて、焦がさないように、量を調節しながら入れる配慮。
それでも焦げたものは自分の皿にばれないように入れてる。
な、な、なにこの繊細な気配り。)
「フクオカさん、どうかしました?」
(好き……大好き!)
「美味しいね。」
「えぇ。」
(私の出番がない。3回もエルミナに奢らされるくらい練習したのに!!)
「いや、本当に嬉しいです。フクオカさんが本当に楽しそうにしてくれて。」
「そう?フクオカ君は?」
「えぇ、もちろん、僕も楽しいですよ。フクオカさんとのお話はとても面白いですしね。」
(えー?これって大成功?大成功??)
「いやー。他人のお金で食べる焼肉はホント、美味しいんだよ。」
「ははは、何言ってるんですか?
銀河に轟くニャニャーン神聖帝国の宇宙軍大将ともなれば、使い切れないほど、お給料も貰ってますよね?」
「まぁ、それはそうなんだけどさ、そういうものじゃないんだ。
あっそうだ!今度は私が何か奢ってあげるよ?
そうしたらね、きっとフクオカ君もこの気持ちが分かる!」
(あ……私、レベルアップしてる!超さりげなく次のデートに誘えてる!
よし、フクオカ君、『うん』と言え。言えぇ~~!!!!)
「あっ、そうですね。では、よろしくお願いします。」
(え?ええええ??本当に?本当にOK?やったー!!!)
「あぁ、楽しみにしていて。」
・・・
・・
「フクオカ君、今日はありがとう。とても楽しかった。」
「フクオカさんにこんなに喜んでもらえて、僕もとても楽しかったです。」
「では、お送りしますね。駐車場が遠くてすみません。」
「大丈夫、行こうか。」
ハナが歩き出した時に、自然とフクオカがハナの手を握った。
(は……? はぁ??? はああああぁぁぁぁあぁ!?)
「すみません、失礼します。ここは人通りが多く、道が複雑で。
初見だと迷子になりやすいんです。」
(は……はぁ?………ま?迷子?
はぁ……そうですか。私、迷いますもんね、はいはい。)
「あ、ありがとう。」
「こっちです。」
(フクオカ君に手を握られてる。
フクオカ君、ずっと前見てる。私の方を見て欲しいのに。
あ、ダメダメ、顔真っ赤なのばれちゃう。)
フクオカがすっと手を放す。そして、しばらく間をおいて振り返った。
「駐車場に着きました。」
フクオカは、ドアを開けて、ハナを助手席に乗せ、その後運転席に乗り込んだ。
走行中、なぜかどちらも口を開かない。
まるで余韻に浸っているかのように。
(運転しているフクオカ君もカッコイイ……!)
そして、ハナの公爵邸に到着し、先に降りたフクオカがハナのドアを開けて、降車に手を貸す。
「今日はありがとうございました。」
「ううん、今日はとても楽しかった。また明日からよろしくね。」
「はい。それでは失礼します。おやすみなさい。」
フクオカの車が交差点を左折するまで見送り、そして邸宅へと入っていった。
(今日は―――最高の一日っ!)
【あとがき】
『タイトル:提督の初デート(?)勝利日誌』
「焼肉デート」は「戦場」でした!そして、勝ったわ!!
ハナです!宇宙軍大将、人生初の焼肉デート(?)を無事終えました!
エルミナの特訓のおかげで、気配りの戦場で惨敗することは避けられましたが、なんとフクオカ君の「焼肉力」が強すぎた!
焼き加減、取り分け、気配り…全てが完璧! 私の出る幕なし!
彼は本当に尽くし系で紳士で…もう、好きが溢れて大変でした!
そして!デートの最後に、手を繋いじゃいました!
「人通りが多いから迷子になる」という理由でしたが、そんなのどうでもいい!フクオカ君に私の手を握られたんです!
彼は「提督が喜んでくれて僕も嬉しい」と言ってくれましたが、次のデート(奢る約束!)も取り付けることができました!これは大きな進展です!
しかし!
彼はまだ私を「尊敬する上司」としか見ていない様子…。「提督」呼びから「フクオカさん」呼びにレベルアップしましたが、**「ハナ」**と呼んでもらう日は来るのでしょうか!?
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(ひろの)
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