第4話 破談騒動
(ふっ……フクオカ君っ!!!)
ハナは車を急停車させ、飛び出した。
転倒しそうになりながら、必死で駆け寄る。
路肩のガードレールにこすりつけ、ドアが歪んで開かない。
「フクオカ君!!フクオカ君!!!」
ハナは大声で叫びながら、
ドアを無理やりこじ開けようとする。
(お願い、無事で。お願い、生きて。
私、まだ何も伝えてない。
こんなことになるなんて。
私のせいで……私の、せいで……!)
その時、ドアが内側から開いた。
「提督...?」
フクオカが、無傷で現れた。
「フクオカ君!!!」
ハナは思わずフクオカに抱きついた。
「てっ提督!?どうして、ここに?!」
「無事で……無事でよかった。」
「はい、提督、僕は無事です。お願いですから一度離してもらえませんか?」
(え?ああああああああ!!!!抱きついてるぅぅうぅ!?)
「あ……、ごめん。少し取り乱したわ。」
顔を真っ赤にしながら背を向ける。
「すみません。」
そういうとフクオカ中将は助手席の方に周り、ドアをこじ開けて、シャルロッテを救い出す。
シャルロッテも無傷だった。
フクオカ中将はシャルロッテの手を取って、車から脱出させた。
ようやく落ち着いて説明する。
「生体共鳴式衝撃吸収装置〈ミメシス・コア〉です。
僕達、大貴族の乗る車には、ほぼ全てに装着されています。」
「ミメシス・コア?」
ハナが振り返って不思議そうに問い返した。
「はい、対象者の筋肉・骨格の振動パターンをリアルタイムで解析し、衝撃波を”身体に合った形”で分散する装置です。」
(聞いたことあるかも。国家要人向けの最新エアバックシステムのことだ。)
「詳しい原理はわかりませんが、装置はナノレベルで身体に密着して、衝撃が”個人ごとに最適化”され”共鳴”して衝撃を散らすんです。お陰様で二人とも無事でした。」
(よかった……本当によかった。フクオカ君が……フクオカ君に怪我でもさせていたら。)
そんな心配そうなハナをよそに、今度は申し訳なさそうにフクオカ中将がシャルロッテの方に向いて謝罪した。
「シャルロッテさん、申し訳ありませんでした。僕の運転が不注意だったせいで、大変怖い想いをさせてしまいました。」
(あ、違うの!フクオカ君は悪くないの!私が!私がシャルロッテさんも巻き込んで!!)
「いえ、大丈夫です。
ミメシス・コアのおかげで、目を閉じて次の瞬間には停車していました。」
シャルロッテは冷静に答えた。
その間もハナが心配そうな表情でフクオカ中将の事を見つめている。
そして最初の抱き合うシーンから、その様子を見ていたシャルロッテは、いつものような柔らかな表情に戻ってフクオカ中将に問いかけた。
「そちらの方は?」
「あ、はい。彼女はフクオカ大将、第7艦隊の提督で僕の上司です。」
「あなたが、あのフクオカ提督ですか?シャルロッテと申します。以後、お見知りおきを。」
(え?あ?あああああ………)
「ハナです。とにかくご無事で何よりでした。」
「そういえば、提督。どうしてこちらに?」
(どど…どうしよう?!)
何を話せばよいか、分からない状態で口をパクパクと動かした。
そんな時、もう一台の車が猛スピードで突っ込んできて、路肩に急停車した。
エルミナが飛び出してくる。
「ハナ提督っ!フクオカ中将!ご無事ですか!?」
「エルミナ中将、あなたまでどうして?」
ハナが大混乱で口パクしているのを見て、何かを察したようだ。
エルミナが真面目な顔で伝えた。
「実はコロンニャ星系で大変なことが起きています。
赤毛猫海賊団の何倍もヤバイ奴らが来ました。ジソリアンです。」
ジソリアン……ニャニャーン神聖帝国の隣の強国”ジソリアン同盟列藩国”の知的生命体。
虫の姿をした異星人で、その性質は狂暴にして好戦的。
これまで何度も神聖帝国と小競り合いを繰り返している。
時折、略奪のために国境侵犯を行い、好き勝手暴れる。
赤毛猫海賊団とは比にならない被害が発生する。
「おそらくこの事故も列藩国による、防衛主力となる第7艦隊に向けたテロかと。」
(違うの、違うの!エルミナ!これは私が!!)
「すぐに向かう必要がありそうですね。」
そういうと心底申し訳なさそうな顔で、フクオカ中将がシャルロッテに語り掛けた。
「大変申し訳ありません。シャルロッテさん。
僕達はすぐに出陣しなければなりません。
あの…その…貴女はとても魅力的で……一緒に居た時間はとても楽しかったです。
ですが、その……。御父君には、何卒よろしくお伝えくださいませ。」
(フクオカ君……)
先ほどからずっと熱烈に、そして、心配そうに見つめるハナ。
また、フクオカ中将のそれに応える優しげな瞳。
その両方を見たシャルロッテは何かを悟ったかのように笑顔になった。
そして優雅に返事をした。
「いえ、フクオカ様、謝らなければならないのは私の方です。
あなたはとても誠実で素敵な方でした。ずっと一緒に居たいと思えるほど。
ですが、私はあなたとの、この出会いをお断りしようと考えておりました。」
(え?!)
「私は軍人というものを理解できていなかったようです。
あなた方、軍人は常に戦場と隣接し、いついかなる時に命を失うか定かではありません。
私は、愛する方を、いつ失うかもわからない状態で待ち続けることはできそうにありません。
フクオカ様の方こそ御父君に良しなにお伝えいただきたく。」
「シャルロッテさん…。」
(あ……え……ええ?)
「ですが、申し訳ありませんが、家まではお送りいただけませんでしょうか?」
「はい、もちろんです。」
シャルロッテのお願いに、返事をしたフクオカ中将だったが、彼の車は派手に壊れていて動きそうにない。
「ハナ提督、認証カードを出してください。」
「ひゃい??」
全く状況についていけてなさそうなハナから、エルミナがカードを奪い取ると、フクオカ中将の元へ指で投げ渡した。
「フクオカ中将、シャルロッテ様をハナ提督の車でお送りしてください。ハナ提督は私が宿舎までお送りします。」
フクオカ中将は飛んできたカードを受け取って礼を言う。
エルミナとフクオカ中将がそれぞれの車に近づいていくと、二人が取り残された。
そしてシャルロッテはゆっくりとハナの傍に近づいて耳元で、囁いた。
「私にはフクオカ様はもったいないお方です。ハナ様にお譲りします。」
(は??はあ??)
「はぁ………お羨ましい。ハナ様、今度私にも合う殿方をご紹介くださいな。」
そういうと意地悪そうな笑みを向け、フクオカ中将の方に歩いて行った。
「あっはい。」
”羨ましい”…絶賛大混乱中のポンコツハナはその意味を理解できなかった。
適当に返事をして、そのままエルミナの元へ歩いて行った。
車の中。
「ごめん、エルミナ。あなたのおかげで助かった。あれは私が悪いの。」
「知ってます。」
「フクオカ君やシャルロッテさんを危険に巻き込むところだった。」
「はい、もう巻き込んでいます。」
「私、どうしちゃったんだろうね?」
「えぇ、どうしちゃったんでしょうね。
面倒くさいので自分で考えてください。」
「でも、よかった。フクオカ君、まだフリー。」
「そうですね。でも、今後はちゃんと恋参謀の私の意見もきいてくださいね。」
「うん、わかった。」
「でも、エルミナ。よくあんな嘘、咄嗟に思いついたわね?」
「嘘?何言ってるんですか!嘘じゃないです。本当にきたんです。
戻ったら、フクオカを呼んですぐに会議です!」
「へ?」
「今、私達にとって大事件が発生しているんです!
見合いなんかよりもっ!」
【あとがき】
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次回以降、数話分、軍事的な描写が続きます。
ラブコメ派の読者さんは、軽く流し読みしていただいてOKです。
ハナちゃん、結構やる女だな!くらいでいいんです!
だってハナちゃんの片思いがテーマなんですから!
ハナちゃんの勇姿が見たい読者さんは応援よろしくです!
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『提督の絶体絶命日誌』
あぁ、もうハナです!フクオカ君が、フクオカ君が無事でした!!
皆さん、本当に聞いてください!私のせいで車はぐちゃぐちゃ、心臓は爆発寸前でしたが、フクオカ君は無傷! しかも、シャルロッテさんがお見合いを断ってくれました!
(フクオカ君は私に相応しいってことよね!勝った!大勝利よ!)
そして、あの車が爆発しても無事だった生体共鳴式衝撃吸収装置〈ミメシス・コア〉!
流石はフクオカ君、乗っている車まで最強でした。思わず抱きついてしまいましたが、これもミメシス・コアのお陰だと思っておきましょう。
さて、恋のライバルが消えて万々歳…と思いきや、エルミナ参謀長が言いました。
「今、私達にとって大事件が発生しているんです!見合いなんかよりもっ!」
ジソリアン……そう、あの狂暴な虫型異星人です。
まさか、このタイミングで彼らが動くとは……。
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ひろの
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