第30話 待っててください
ハナが退院した。
フクオカとエルミナ、そしてレイヴが出迎えた。
病院の玄関前。朝の光が差し込む中、ハナが退院証を手に、ゆっくりと歩いてくる。
「おかえりなさい、提督。」
フクオカが一歩前に出て、敬礼。
「うん、ただいま。……って、敬礼はやめてよ。恥ずかしい。」
「じゃあ、荷物を持ちます。」
「……うん、ありがとう。」
エルミナがハナに横から抱きついて、耳元で囁く。
「ハナちゃん、落ち着いた?」
(あぁ!もう思い出させるな!エルミナぁ)
顔を真っ赤にする。それを見て、エルミナが笑顔で頬ずりした。
「ハナちゃん〜!寂しかったよ〜!もう、心配したんだから!」
そんな二人を、レイヴがじっと見つめていた。
チラッとハナがフクオカの顔を見るが、フクオカはいつも通りの優しい笑顔で佇んでいる。
(ん~!!!フクオカ君、相変わらず素敵すぎる♡
意識しすぎて、まともに見れない!!)
すぐにレイヴに話しかけた。
「君がレイヴ君ね、フクオカ君から常々聞いているわ。
とても優秀だとか。」
優雅に語りかけるハナに、聞いていたのと少し違う凛々しさを見て、緊張するレイヴ。
「光栄です!いつも中将には勉強させていただいております。
今後、提督のご期待にもそえるように精進します!」
「えぇ、お願いね。」
少し場が落ち着いたのをみて、エルミナが意地悪そうな笑顔で茶化した。
「あぁ!おーもーいーだーしーたー!
私、用事があったんだ。ハナちゃんの元気な姿を見れたからもう満足!
宿舎まではフクオカ、あんただけでもハナちゃんを送れるよね?」
「おい、エルミナ、わざとらしい。」
呆れた顔でフクオカが返す。
(エルミナぁ……わざとらしい。)
ハナも内心、心の中でフクオカの真似をする。
(でも、そういうところ大好き)
「あー!フクオカ。私の荷物持ちにレイヴ君借りていい?」
急にエルミナがレイヴの首に腕を回して引き寄せた。
油断しているところに抱き寄せられて密着されたので、さすがのレイヴも慌てた。
「あぁ、いいぞ。今日はお前の策略に乗ってやる。
フクオカさん、行きましょうか?宿舎までお送りします。」
「え?あ、はい。」
「色々溜まってる報告事項があるので、中でお伝えしますね。」
(し、仕事のためかよ!!)
フクオカは車にハナの荷物を載せると、ハナを助手席に乗せて、運転席に回った。
「じゃあ、僕達はいく。レイヴ、エルミナを頼んだぞ!」
「はい。」
抱き寄せられたままのレイヴが焦りながら返事した。
そして二人の車が発進して、見えなくなる。
すぐにエルミナが手を放してレイヴを解放した。
「あ、ごめんね!」
「いえ、大丈夫です。」
「じゃあ、またね。」
急にあっさりと一人で帰ろうとするエルミナ。
「あ、参謀長?御用があったのでは?」
「あぁ、ごめんごめん、ハナちゃん達を二人きりにさせたくて。
特に用はないよ。じゃあ、解散ね。」
そう言うと背中を向けて、駅に向かって歩き出した。
「………。」
しばらく黙っていたレイヴが勇気を出して声をかけた。
「お待ちください。参謀長。」
「ん?」
「荷物持ちでも何でもいいので、せっかくなので二人でどこかに行きませんか?
お食事でもお買い物でも、参謀長がお望みのままに。」
エルミナはレイヴに見えない角度で「にたぁぁぁ」といやらしく笑う。
そしてすぐに普通の顔に戻って振り返った。
「まぁ、そうね。暇してるのは確かだし、何か食べて帰ろうか?」
「あ、はい!」
・・・
・・
宿舎へ向かう車の中で、フクオカは仕事の報告を行っている。
「ねぇ、フクオカ君。仕事のことはいいや。
どうせ、また100日の帰還航行が待ってるんだし。
そこでゆっくり聞くよ。」
「あぁ、すみません、そうですよね。」
「ねぇ、別の事、聞いていい?」
「いえ、ダメです。」
(は!?ちょっと!この流れ、断ち切るの?!)
「だって、フクオカさん。聞きたいことが顔に出てますよ。」
「!?」
「なので、嫌です。それも含めて待ってと言ったんですから。」
「いいじゃない!少しくらい!」
「何でも言うこと聞かせる券、使ったんですよ。我慢して下さい。」
「えーー!?」
「あのシミュレーション対戦で負けたフクオカさんが悪いんです。」
「あれは本気じゃなかったの!もう1回やろ、もう1回。」
「ダメです。だから待っててください。
……全部。必ず、その時に答えますから、
僕はもう絶対に離れたりしません。」
「……。うん。」
「そうだ、次の帰還航路ですが、こういうのどうですか?
レイヴを参謀として鍛え上げたいのですが、僕だとどうしても癖が分かっていて難しい。
エルミナを師匠にして軍略を叩きこませたいので、ニャルローレッドの司令居住区を彼女に貸します。
二人の100日合宿です!」
「え?」
(あー、確かエルミナから聞いた聞いた!
今、エルミナがレイヴ君攻略中だった!
フクオカ君、エルミナのために?!)
「僕は追い出されるので、まだ残ってるメルローニャ臨時司令部を間借りしていいですか?」
(えー!?待って待って!そっちぃーー!?)
「それって……。」
「えぇ、僕の職権濫用です。
許可していただけますか?」
「も、もちろん許可する♡」
フクオカが優しく笑顔を向けた。
「これで、100日フクオカ提督と一緒に居られます。
退屈しなくてすみそうです。」
「うん。」
(退屈どころか、刺激的っ!)
(すぐハナさんは顔にでる。また良からぬことを考えてるな?)
「でも、変な期待しないでくださいね?」
「え?ちょっと……!
変な期待して間借りを提案してきたの、フクオカ君の方じゃない!」
「ちがいますよ!僕は何もしませんからね?」
意地悪そうにフクオカがからかう。
これではまるでハナが何かに期待して舞い上がっていたみたいだ。
「あっそうそう。ハナさんはお酒禁止です。没収しますから。」
「あ……。はい。」
「記憶をなくしてると、もったいないですよ。」
(ん?もったいない??)
・・・
・・
そして100日の帰還航海は静かに終わりを告げた。
もちろん、ハナとフクオカの間には”何も”起きなかった。
だが、前回と異なり、二人でお茶をしたり、食事をしたり、寄り添って銀河の星々を見たり。
ハナ本人はとても幸せな100日間を過ごせたのだけは補足しておく。
そして、軍略合宿を行ったエルミナとレイヴの恋の100日は、また別の物語である。
少なくとも、“落とす宣言”をしたレイヴの方が、エルミナに夢中になっていることも補足しておく。
当然、エルミナだって本気中の本気である。
二人は本心を微妙に隠しつつも、急接近していった。
そして、母星系に到着した一行は、ジソリアン主力9艦隊に囲まれた状況にも関わらず、敵を撃退し、コロンニャ星系要塞を最小限の被害で救出した功績によって、祝勝会に呼ばれることになった。
第7艦隊は帝都セレニャールへと進路を取った。
【あとがき】
作者子ちゃんです。
両想いになった二人、でも何も変わってない二人、尊いですよね。
そして3度目の100日航路。
さすがにバッサリと省略しちゃいました。だって何も起きないし。
でも凄い幸せだったんですよね、あの二人。
もしかしたらニアミス事故的なキュン現象が一つや二つ起きてたかもしれません。
でも、それは書きません。皆さんで想像してください。
あと、エルミナの100日恋合宿。私には荷が重い。
これも気が向いたら書きますが、二次創作とかおきてくれないかな(笑)
後半は滅茶苦茶、圧縮しちゃいましたが、この駆け足も狙い通りです。
うだうだと書くよりも、「ハナ本人はとても幸せな」という一節が、何倍も効果があると思います。
だって、思い浮かぶじゃないですか!ハナちゃんの幸せそうな顔が。
幸せな姿って人によって様々で、押し付けるわけではなくて、読者様一人一人の幸せ体験を当てはめていただければ、もっと素敵なストーリーになります。
こういうところも小説の設計として大事にしていきたいと思います。
(勢い命が流行のWEB小説っぽくないので、マイノリティすぎて人気出ないかもしれないんですけどね。)
ずっとこの3人を見ていたい欲求が作者子ちゃんにもありますが、間もなく終幕です。
この物語、他の先行作品2個の合間に割込みで書きたい欲求に駆られて。
気付けば2週間で書き終えていました。
やっぱり書きたいと思える作品だったんだと思います。
終幕が一番悲しいのは私だったか!?
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