第28話 秘密
遂にコロンニャ星系要塞の救援に向かうことが決定した。
再び100日の遠距離恋愛状態になる。ただ今回は『ジジキシ』という不穏な言葉がのしかかる。
「では各々、最善を尽くして!」
ハナの一言に二人が敬礼する。
その後、フクオカが申し訳なさそうにハナに声をかけた。
「提督、申し訳ありません。この戦争から帰ったら、水族館に行きましょう!」
「あ、うん」
それを聞いたエルミナが冗談っぽく茶化した。
「フクオカ、そういうの”死亡フラグ”って言うんだぞ。
どうせフラグ立てるなら『戻ったら結婚しましょう!』くらい言いなよ。」
二人して顔を真っ赤にした。
「ばっ……馬鹿なこと言うな!こんな戦いで死んでたまるか!」
「そうだよな、ハナちゃんにプロポーズするまでは死ねないよな。」
(全く・・・エルミナって奴は。
結婚はいつか申し込む。いつか必ず!
だが、まずは水族館だ。ハナさん…喜んでくれるはずだ)
「エルミナ、からかうのは勘弁してくれ。提督にまで迷惑がかかる。」
・・・
・・
『ジジキシ』という言葉は思いのほか、深く彼らを悩ませた。
その対策を練るために艦隊通信を使った軍議を日夜繰り返した。
そんな中、エルミナが今後の軍議の必要性と傍受のリスクを考えて、旗艦のメルローニャに臨時に艦隊司令部を作成することを提案する。理にかなった提案だ。
「二人とも賛成ね?じゃあ、手配しておくわ。とりあえず引っ越ししなきゃね。
フクオカ、もしかしたら廊下でルームウェアハナちゃんと鉢合わせるハプニング付きだぞ?
よろこべ~!」
「ぶふっ!馬鹿!何言ってるんだ、お前は!」
(な!?待て。これは同棲に近いということか!?
ほんの少し離れた部屋でハナさんが普通に生活し、そこで寝ている!?
たっ確かにルームウェア同士で鉢合わせるハプニングだって……。
おい、僕は何を考えてるんだ!!)
ふと横目にみるとハナの猫耳が激しく動いている。
猫耳ピーン……ぷるぷる……パタンパタン……ぴこーん!
(ハナさんも相当意識してくれてるな。
いや、まぁ大体分かってはいた。
ハナさんは間違いなく僕に好意を抱いてくれている)
「嬉しそうな顔してるじゃないか!」
(なっ!?こいつ、心を読むのか!?
いや違う、ルームウェアのことか……。
エルミナは本当に人を驚かせる。)
「……。変な邪推するな!今は非常事態なんだぞ!」
「早急に移動を完了してほしい。敵の情報は常にコロンニャから入手すること!
では今日は解散。」
ハナが慌てて閉会した。そして引っ越しの準備を急遽執り行うことになった。
(ハナさんの分かりやすい態度はさすがの僕でもわかる。
これは僕次第だ。僕が情けないばかりにハナさんを待たせている。
愛想を尽かされる前になんとかハナさんに見合う男にならねば。)
・・・
・・
ピーン、軍用端末にメールが届いた。エルミナからだ。
『非常事態につき、フクオカ提督の指令室で緊急会議を行う。参集されたし。』
(もう23時を回っている。何が起きた?!)
不安を覚えながらもフクオカはテキパキと軍服に着替えた。
そしてハナの指令室へ入室すると、二人の姿を見て噴き出した。
「プっ…なんて格好してるんですか!?」
ハナとエルミナがルームウェアのままだった。
「え?フクオカ、お前こそ、緊急なのに何わざわざ着替えてきてるんだ!
もし1分1秒を争う絶体絶命のピンチだったらどうするつもりだったんだ?」
(バカ言え!どうせお前の魂胆だろうが。
ハナさんのルームウェアを見せつけて僕を動揺させる気だろうが!)
「あ?なんで僕が悪者扱いされてるんだ?!」
「まぁ、いい、フクオカも座れ!」
エルミナにハナの隣の席に案内された。
座ると同時にハナから石鹸といつものシャンプーの匂いが届く。
フクオカの手が小刻みに震える。
(こっこれはSilken Bloom……。やばい……。
いつものこの匂いでハナさんのことを想像していたからか、急に意識してしまう。)
ハナがゆっくりとフクオカの方を向くと、髪が流れてフクオカの周りにハナの香りが満ちた。
無防備系のハナのルームウェアをチラ見した後、目を瞑る。
(ダメだ。意識しすぎて二人の話が頭にはいってこない!
ここは戦略的撤退だ。これでは議論にならん。
落ち着け!くっそ!エルミナ、覚えてろよ!)
「すみません、ちょっと頭を整理します。」
「もはや、到着時には敵の情報は掴めません。突入直前には偵察機を飛ばすなど必要です。
敵国内での戦闘と変わりありませんね。
フクオカ、あんたもそう思う?」
「……。あーもう、エルミナ、お前、僕をからかって面白がっているだろう!
フクオカ提督、エルミナに誑かされてはだめですよ。
僕は男です。あまり油断してはなりません!」
(無防備すぎる!!)
「あ…、はい。」
「状況はよくわかりました。明日には考えと戦略をまとめて持ってきます。
今日は夜遅いので解散しましょう。」
そういうとフクオカは撤退した。
・・・
・・
別の日
(今回の敵は明らかにハナさんを狙っている。心配だ。)
不安な夜は、フクオカはいつもこうやって共用スペースの窓から、銀河の星々を眺めて、気持ちを落ち着けていた
(人の気配!?)
勢いよく振り返るとそこにはハナがいた。ちゃんと軍服を羽織っている。
少し安心したのと、二人きりの時はルームウェアのハナを見たかった欲望が葛藤する。
「てっ提督!?」
「フクオカ君も眠れないんだ?心配だよね。」
二人で静かに今後の戦略を検討した。
ハナが笑顔で缶酎ハイを手渡してくる。
そして自分の分の缶を開けて口に運んでいた。
「提…フクオカさんはお酒を飲むんですか?」
「私だって大人よ??」
フクオカも少しずつ口に運びながらしんみりとして答えた。
「フクオカさんは強いですね。自分が狙われているというのに。」
「まーね、みんなが居るし。」
「今回は本来ならば慎重に進みたいところではありますが、やはり要塞に…フクオカさん?」
「うぇ?」
ころん、からん、ハナのストロングチューハイ缶が床に落ちた。
(あ?!ハナさん!?)
「あ?もう、飲んだんですか?
それはジュースみたいで飲みやすいんですが、アルコール度数は高いんです!」
「うぇー?」
「あぁ……。もう何やってるんですか。」
(ハナさんの部屋までお連れしよう)
「きしゃあぁぁぁぁ!!!!」
ハナがネコの”やんのか”ポーズで拒否する。
(ハナさん……。ちょっと可愛い。)
「ふっフクオカさん、酔ってますね?」
「違う!酔ってなぁい!帰らにゃい!」
(こういう酔い方するんだな。)
「ワガママ言ってはダメです!」
そういうとお姫様抱っこで抱え上げた。
「ひゃうぅ!!」
そして、ハナの自室に向かおうとするとそれに気づいて手足をジタバタした。
「やだ、帰らない!部屋に戻す気なら大声だす!!」
(まったくもう……。これからはハナさんにお酒は飲まさないようにしないと)
「もう、フクオカさん、やめてください。じゃあ、どうしたらいいんですか?」
「フクオカ君の部屋で酔いを醒ますぅ。」
(はぁ?!やめてくれ、理性がもたない!!)
「ダメです。」
再び足をばたつかせる。
「あぁ、もう!
わかりました、だから暴れないでください。落ちます!」
(仕方ない、今日は外で寝るか)
分かったという言葉を聞いてハナが嬉しそうにフクオカの首に手をまわした。
ハナの髪が顔にあたって、シャンプーの香りが再びフクオカを心拍数が上がる。
「ふ…フクオカさん、勘弁してください……。
弱いくせに何で飲んでるんですか……。」
お姫様抱っこされたまま、フクオカがハナを部屋に招き入れると、ハナは体をひねって床に降りて、よろよろとフクオカのベッドに近づき、勢いよくダイブした。
(うぐぐぐぐぐぐ………。ジソリアンが100匹……だめだ!
100匹くらいじゃ、この邪念は全然追い払えない!)
「フクオカさん!?……はぁぁぁぁぁ。」
フクオカがため息を吐くと同時に、ハナから寝息が聞こえた。
「あ?良かった…寝たか。」
フクオカが布団を掛けようとした時、急にガバっとハナが起き上がる。
目の前にハナの顔が。
フクオカが大きく目を見開いた途端、ハナがフクオカの頭に手をまわしてそのままキスをした。
(んんんんんん?!!??!!!!!?!!?………プチン)
理性の糸が切れた。
フクオカもハナの背中と頭に手をまわし、ハナの唇の感触を堪能した。
どれくらいそうしていたんだろうか。
数秒か、数分か、永遠にも感じられた。
ゆっくりと二人が離れると糸が切れた人形のようにハナは再び、布団に倒れ、寝息を立てはじめた。
(このファーストキスは、多分、ノーカウント…だよな……。)
その後、顔をブルブルと横に振ってフクオカは外に出て行った。
(これ以上いたら理性が保てない。)
そして再び銀河の星を眺めた。
(……ハナさんとキスをした。
……。
やはり僕はハナさんを世界一愛している。)
【あとがき】
作者子ちゃんです。
いかがでしたか?今回は焦らしの臨界点を突破する回でした。
ハナちゃんはキスの記憶がないので、何にもされなかったと思ってるみたいですが、何にもしない中にもハプニングがあったんですね!
どきどきしますね!
さて、これにて答え合わせは終了です。
次回からは相思相愛となった二人が、どのように甘々に、そして焦れ焦れに進んでいくのか。
最終章、どうか最後までお付き合いください。
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