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ハナちゃんのポンコツの恋  作者: ひろの
第三部 答え合わせ

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24/31

第24話 焦燥

フクオカはシャルロッテを送ってから急ぎ、ハナの指令室へ向かった。

二人が既に渋い顔で議論を行っていた。


「来たか、座って欲しい。思った以上によくない状況になっている。」


ハナはフクオカに対して一瞥しただけで着席を促す。

この姿を見るとただの仕事上の関係者に過ぎない自分にがっかりする。


どうやら敵はジソリアンの中でも名将として名高い”黒光る甲殻”の提督はクル=ポク。


(エルミナは最初から腰が引けているが、ハナさんの方がよっぽど名将だ。)


ハナはいつも部下や友軍の生存率を第一に考えている。とても難しい戦い方である。

それでいて、総司令部からの信頼も厚い。


その方針を守りながらも、上手く立ち回っている証拠だ。

フクオカがハナをべた褒めするのも、単に色眼鏡というわけではない。


今もハナは進行経路で悩んでいる。少しでも早く到達するためだ。


「トーナのゲートウェイを経由して向かうの。これなら38日で着く。」


(は?!無茶だ!

 トーナは敵領内、技術的には可能だが、危険すぎる!)


フクオカとエルミナは顔を見合わせた。


(しかし……とてもハナさんらしい。これが一番早く着く。

 すなわち味方の犠牲が少ない。

 こんなことを思いつく貴族出身の提督なんてハナさんしかいない。

 ……だが。

 ……それだからこそ、僕はハナさんをお慕いするんだ。)


「さすが……。提督、普通はそんなこと思いつかない。

 でも、これが一番、短期で民の救出に向かえる!

 僕は提督のそう言う考えが素晴らしいと思います。」


(そして、同時に、こんな戦術を思いつけるハナさんに、置いて行かれたようで、焦燥を感じてしまう。)


「今、ジソリアンは隣国のイリアキテルア聖王国とも国境衝突を起こしてるの。」


ハナが誇らず、冷静に追加の情報を出した。


(あ?!そういうことか。決して無謀な作戦というわけでもない。

 リスクが低い事まで考慮して、友軍救出の最善策を考えていたのか。

 ……、ハナさんの戦術眼には敵わない。)


「それに、トーナ方面からコロンニャに急行したら”黒光る甲殻”艦隊の背後を突ける!」


(こんな短時間で”短期”、”低リスク”、”奇襲”という3重の意味を持つこの作戦を立てた。

 ハナさんと自分のこの差が嫌になる。)


出陣式……


(ハナさんは飾らない。低リスクとはいえ、ワープ後は敵領地内に取り残される。

 一歩間違えば生きて帰れない。それを素直にクルーに告げた。

 クルーに大きな混乱はない。

 それは提督としてハナさんを信頼しているからだ。)


そんな中、出陣式を終えて下りてきたハナが自分の手を見つめている。

その手は震えていた。


(当たり前だ。クルーは簡単にハナさんを信頼する。

 だけど、皆を危険に晒す覚悟を背負うのはハナさんだけなんだ。

 あんな小さな手がその重い決断を握っている。)


そう思ったフクオカは何も考えずに、ハナの傍へ向かった。

そして衝動的に手を握る。


「不安なのは当然です。提督は凄いです。

 こんなに小さな手なのに、これほど重い決断を握っている。

 僕で良ければ何でも命じてください。

 少しでも提督の重荷を分担できれば!」


(?!……しっしまった!?僕は何を言っている!?

 ちゃっかり手まで握ってしまった。

 まっ、まずい。ドン引きされる!?)


ハナも目を丸くしている。


(だぁぁぁぁ!!完全に引いてる!?さりげなく逃げよう。)


ニッコリと笑ってフクオカは退散した。


・・・

・・


ついに第7艦隊はトーナへワープした。

皆に緊張が走る中、その中央にいるハナは冷静に指示を出す。


それはまさに適確で、敵の援軍、視界、そして通信手段を次々と攻撃。

最初から配置を分かっているわけではない。

ここへワープしてすぐに、状況を把握、そして最善ともいえる行動を指示する。


「さ……さすがフクオカ提督。」


思わず言葉が漏れた。そこへエルミナからのパーソナル通信が届いた。

二人して、ハナの偉業を称えあった。エルミナの方も相当興奮している。


(さすがハナさん。僕は本当にこの人の隣に立つことができるのか?!

 いや、立てるかじゃない!立つんだ!焦るな!いつか必ず追い付く!)


「ねぇ、フクオカ、さっきから、あんた目がキラキラしてるけど、ハナ提督に惚れてるでしょ?」


(おふっ……。なんだ、こいつは!?人の心でも読むバケモノか?)


「僕のこの高揚感が惚れているというならば、この艦隊の1万人全員がフクオカ提督に惚れていることになるぞ。」


(我ながら無茶苦茶な言い訳だな。)


「ふぅん、あっそ。じゃあ切るね。」


(ちっ……。あいつは昔から勘が鋭いから困る。

 人の気持ちが分かってるなら聞くな。焦るだけだろうが!)


・・・

・・


ついにコロンニャ星系までジャンプした。ここからが本番だ。

ハナとエルミナが戦術を議論している。フクオカは先ほどから意識しすぎてその二人の戦術議論には入りこめていない。

そして各々が分散して敵分艦隊を各個撃破する作戦となった。


(ええい!悩むな!焦るな!1戦1戦確実に勝利を掴め。

 それがハナさんと並ぶ最善の道!)


各所で激戦が繰り広げられた。


ハナやエルミナは順調に敵を打ち倒しているのが、モニタ上の情報で把握できた。


(僕も二人には負けていられない)


「副提督、大変です!民間人が分艦隊に狙われています!」


情報士官が叫んだ。


(民間人!?彼らを助ける余裕があるのか?!

 いや、救出第一だ。ハナさんならきっとそうする。

 そして僕がそうすることを望むはずだ。)


「全艦、民間人の保護を最優先にせよ。

 シールドへのエネルギー供給を増やせ!

 ただし、攻撃の手は緩めるな。

 僕達のせいで作戦失敗させるわけにはいかない!」


・・・

・・


激しい撃ち合いが続くが、民間人を守りながらの攻撃は非常に難易度を高かった。

有利だった戦況もほぼ互角、あるいはこちらが劣勢になる。


(いや、これをやり遂げなければハナさんの隣に立つ男にはなれない!)


「皆、苦しいだろうが、耐えてくれ!民間人も守り、そして敵も打ち破る!」


「副提督、大変です。敵本隊が我らに向けて急行!挟撃するようです!」


「まずい!目前の敵の撃滅を急げ!」


フクオカの善戦も空しく、敵の挟撃を許す。

この状況下で民間人を守りながらの防御は極めて難しく、敵2隊からの攻撃は、徐々にフクオカ分艦隊のシールドや装甲を損傷させていった。


(僕はハナさんには、まだなれないのか!?)


圧倒的不利な状況の中、敗色が濃厚になるが、その時ハナの本隊が援軍として到着した。

遂に形勢の逆転に成功した。


「フクオカ中将、包囲は解除した!敵は名将クル=ポク。

 すぐに立て直してくるぞ!

 その隙を与えるな!!民間人は私達が必ず保護する!!

 やり返してやれ!!」


ハナの指示が飛んだ。

心なしか幻滅したような、冷たい口調に聞こえた。


(そりゃそうだ、僕は……、僕だけが敗北した。

 ハナさんの期待に応えられなかった。

 こんな僕はまだまだ、ハナさんの隣には立てない。

 それどころか置いていかれないように、追いかけるだけで精いっぱいだ。)


・・・

・・


そして、この戦いはハナの天才的な軍略により、奇襲が成功し、”黒光る甲殻”と名将クル=ポクを撃滅するという快挙をなした。


軍港に戻り、艦体の補給と修理が急ピッチで行われることになった。


エルミナがハナの快挙をほめたたえた。


(……、僕もハナさんに祝福を伝えたい。だが……。どの顔して会えばいい)


二人が笑顔で勝利を祝いあっている。


(羨ましい、僕もハナさんと……。)


その中でもハナは、戦死者へのケア、コロンニャ星系への支援を真っ先にエルミナに指示する。


(やはり、ハナさんだ。

 大貴族の令嬢でありながら、こうやって下々と気持ちが触れ合える。

 その優しさこそが、僕の心にその存在感を刻み込んでいる。

 そして、ただ見ているだけではダメなんだ。

 僕もハナさんと……。)


フクオカがハナに話しかけた。ハナはいつもの優しい笑顔で応じてくれた。


「提督、この度はありがとうございました。」


「いえ、フクオカ君らしいと思ったわ。民間人を守る。

 これ、口では簡単に言えるけど、軍人として実行できるのは尊敬に値する。

 私はフクオカ君を誇らしく思ってるわ。」


「あ……ありがとうございます。

 僕の方こそ、先ほどの提督とエルミナの会話を聞いて胸が熱くなっています。」


(お慕いしている……。そう伝えることが出来たら、どれほど楽か。)


「宇宙軍大将にまでなって、そこまで一兵卒や、民間に目を向けられる方はいません。

 尊敬の念が絶えません。」


(今はまだ尊敬の念を伝えるまでしかできない。だがお礼はしたい。)


「あの………。提督!!

 今度、お食事でもご一緒にいかがですか?

 助けていただいたお礼がしたいのです。」


(……。唐突だっただろうか?いや、お礼としては自然なはずだ。)


「えぇ、喜んで。フクオカ君と食事か。少しだけ楽しみ。」


(あ、受けて頂けた。あ……。しまった。その後のことを何も考えていなかった。

 美味しい店?雰囲気が良い所?いきなり夜景が綺麗とかは狙い過ぎか?)


「えっと……帝都のニャントルホテルのレストランで良いですか?」


(あれ?不満そう?ハナさんだとニャントルなんかはもう飽き飽きだったか?)


「あ……。リクエストがあれば、率直にお願いします。」


「や…焼肉食べたい」


(は?え?待て待て。焼肉?あ………。どこがいい?

 いや?わからん。適当にはぐらかして、しっかりとリサーチせねば!)


「あ、はい。わかりました。

 焼肉、なかなか我々の立場ではいけないですもんね。

 えっと。穴場的な個室がある美味しいお店を探しておきます!」


「うん、楽しみにしている。」


(よし…よしよしよし!!……個室デートだ!!)


・・・

・・


後日、調査に余念がないフクオカ。


(待て待て、初デートで焼肉か!本当にそれでよかったのか?!

 僕は大間違いをしたのか?この雑誌を見ると…。)


女性にとって焼肉とは?

・焼肉特有の匂いが服についたり、油がはねて服が汚れたりするから”なしっ!”


・デートでは食べ方を気にしてしまい、思い切り食事ができないと感じるから”なし!”


・食後の口臭を気にして、キスなど親密な行動への抵抗を感じることがあるから”なし!”


・初デートにしてはカジュアルすぎる、もっと特別感が欲しい!


⇒初デートとしては、ネガティブな印象があります。

 これはデートじゃなくてお食事だね!


(なっなんだと?!

 この雑誌が必ずしも正しいとは限らないが……。

 いや、僕は乙女心が分からない。

 雑誌に頼るしかない!

 つまり……、ハナさんはデートではなく、ただの食事として応じた?!)


雑誌を閉じて、フクオカは頭を抱えた。


(僕は......大失敗をしたのか?

 でも...ハナさんは楽しみにしていると言った...。

 いや、社交辞令だったのか?

 わからない...わからない...。

 恋愛は戦場より難しい...。)


フクオカの落胆は計り知れなかった。

【あとがき】

挿絵(By みてみん)

作者子ちゃんです。


いやー、ほんと、この答え合わせ難しいです。

過去のストーリーを適度に25%に圧縮するだけでも至難の業ですが、

そこにフクオカの心情を足す。


いや、これ……私自身を褒めてあげたい。

私の力量を超えた会心の一撃だ!


はい、まだまだフクオカモードは続きます。

これって過去のストーリーと並べてみると面白いですよ。

お互いポンコツだな~!!って。


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― 新着の感想 ―
まさかの第三部はこういう感じで来ましたか。 視点変更はよくあるけど、同じシーンを別の表現で違和感なく伏線回収しながら書けてる作家さんってかなり少ないと思います。 この答え合わせ、焦れが全部報われて…
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