第23話 憧れ
第三部 答え合わせ
フクオカはハナのことをどう思っていたのか。
その答え合わせを第一部の始まりの過去に遡り、吐露します。
「フクオカ中将、あけましておめでとうございます!
今年もご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!」
「あぁ、リリー准将、あけましておめでとうございます。
僕の方こそ、去年は色々助けられました。
今年もよろしくお願いします。」
ここに来るまでに5人ほどの部下に呼び止められ、挨拶を受けた。
その度に律義に挨拶を返す。彼女達は皆、熱い視線を送るが彼には届かない。
(はぁ、新年のご挨拶を真っ先にハナさんにしたかったんだけど。
もう会場に入られたかな。)
軽やかな足取りで会場に向かうハナの姿が見えた。
遠くから、拍手と共に演説の声が小さく聞こえたため、慌てて舞台袖へ駆け出す。
その背筋の伸びた立ち姿、指先まで神経の行き届いた所作──フクオカは目で追う。
彼女のどんな小さな仕草も、自然と人の目を引きつける。
(いつもそうだ。傍に近づこうとしても、ハナさんは先を行く。
どれだけ努力しても、届かない存在だと思い知らされる。)
ハナを見つめるフクオカ、それはまだ憧れの瞳。
傍に近づこうと努力しても、いつも先を行くハナ。
副官として初めて彼女に会った時のことを思い出す。
(姓が同じという偶然もあって、ハナさんは気さくに話しかけてくれた。
その笑顔に、僕はすっかり心を奪われてしまったのだ。
一目惚れだった。
今年こそ、少しでも近づきたい。そしてハナさんの隣に立つ男になりたい)
演説が終わり、ハナが戻って来た。
声を掛けようとしたが、先にエルミナが傍に立つ。そして楽しそうな姿。
彼は遠慮して、遠目に眺めるだけにした。
(それでいいのか………?
あ?ハナさんがこちらに来てくれる。)
「あ、フクオカ提督。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
軽く会話を交わす。
(ハナさんはいつもながら綺麗だけど、僕が女性と話していると幾分か不機嫌そうになる。
そういう焦らしが上手い。変な勘違いをしてしまう。
舞い上がるな、ただ僕は職務上一番近くに居ることを許された男……というだけだ。)
海賊の報告に来た兵士がハナのスマートな対応で尊敬の眼差しを向ける。
「さすがですね、フクオカ提督。」
(複雑だ。ハナさんが活躍すればするほど僕との差が開いていく。
ハナさんは気取らない方だから気付いていない。
どれほど彼女自身が大勢から慕われているか。)
会議開催の指示をハナが二人に命じた。
(そうだ、僕にはアドバンテージがある。
こうやってハナさんの傍に居られる。
いくらライバルが多かろうが、いつかは………。)
会議は、少しばかりハプニングがありつつも、終わった。
そしてフクオカが言いにくい話を切り出した。
(いくら父上の命令とはいえ……。これほど気が乗らないことはないな、)
フクオカが見合いのための休暇の許可とった。
少しくらいは気にしてくれるかとも期待したがハナは簡単に了承した。
フクオカが退室するとしばらくして、エルミナが追いかけてくる。
こいつは何だかんだ言って、話しやすい。
士官学校からの腐れ縁ということもあって、遠慮なく話し合える。
(ハナさんのことをもっと知りたい。こいつを利用すればそれも叶うか?)
まるで心の声を読んだかのようにエルミナが突っ込んでくる。
「ところでハナさんってさ。あんたの事、絶対好きだよね?」
(はぁ!?まさか、そんなことあるわけがない。勘違いするな!
こいつは昔から人をからかって楽しんでるところがある。
………。悪い奴じゃないんだが。でも……そんな……ほっ本当に?!)
「え?いや。いやいや、そんなことはない。
フクオカ提督のような素敵な女性は僕には不釣り合いだ。」
「じゃ、あんたはどう思っているの?」
(……。こいつは人の気も知らずズカズカと。
それを打ち明けられたら、どれほど気が楽だと思っている!)
適当に返事を返すと、エルミナが何かを察したように笑顔で向けてきた。
(全く……。意識してしまうじゃないか!……うがっ!)
3mmほどしかない段差に躓いて転びかけた。
・・・
・・
お見合いはちょっとしたトラブルを重ねながらも問題なく進んでいった。
お相手のシャルロッテ嬢はとても美しく、そして誰もが感じるような優しさを持つ素敵な女性だった。
もしハナがフクオカの心の中に居なければ彼もなびいたかもしれない。
二人は食事を行うために、車で次の目的地に向かっていた。
時折、楽しそうに話しかけてくるシャルロッテに笑顔で応えながら、会話は弾む。
だが、フクオカの心は複雑だった。
(シャルロッテさんは素晴らしい方だ。何もかもが整っていて、申し分ない。
でも……僕の心は、もう決まっていたんだ。
あの人が僕を見つめる時の瞳。あの人が僕の名を呼ぶ時の声。
僕は……ハナさんの隣に立ちたい。)
「フクオカ様、どうかなされました?」
「あ、いえ。そういえばですが、あの映画の話ですが……」
(それが叶わないなら、誰の隣にも立つ資格はない。)
だから、僕はこの見合いを断る。僕の意志で。
僕は本当に失礼な男だ。シャルロッテさんに申し訳が立たない。)
その瞬間、大きな音がして車が回転した。
(あ。敵襲!?……違う。ここは帝都だ。
事故か!?僕が余計なことを考えているから!)
車は派手に転がったが、最新のエアバックシステム、〈ミメシス・コア〉によって二人から衝撃が分散され、全くの無傷で済んだ。
「シャルロッテさん、申し訳ありません、僕の不注意でこのようなことに。
今から僕が先に外に出て、あなたをお助け致します。」
「はい、お願いします。」
歪んで開かなくなったドアを、力いっぱい押し込んで無理やり開けた。
その途端、
「フクオカ君!!!」
ハナが涙を流しながらフクオカに抱きついてきた。
(ハナさん……?
この距離……この温度……この震え……
僕のことを……心配してくれて……。
でも、なぜここに!?)
フクオカも思わずハナの背中に腕を回しそうになりかけて、慌てて肩をもって引き離す。
「はい、提督、僕は無事です。お願いですから一度離してもらえませんか?」
(ダメだ。冷静になれ。みろ、僕の心臓が苦しいぐらい高鳴っている。
これ以上近づかれたら、それを聞かれてしまう!)
「あ……、ごめん。少し取り乱したわ。」
きわめて冷静に装いながらフクオカはシャルロッテを救い出した。
先ほど抱き着かれたことが、いまさらになって意識してしまい、まともにハナのことを見ることが出来なかった。
〈ミメシス・コア〉の説明をしつつ、気持ちを落ち着かせた。
(今日、この事でもわかった。僕の心の中にはやはりハナさんがいる。
シャルロッテさん、申し訳ありません。僕はあなたをお断りするしか……。)
「大変申し訳ありません。シャルロッテさん――」
フクオカが頭を下げると、シャルロッテが何かを悟ったかのように笑顔で、そして優雅に返事をした。
「いえ、フクオカ様、謝らなければならないのは私の方です―――」
結果としてシャルロッテの方からフクオカは振られることになった。
内心ホッとするフクオカ。
(シャルロッテさん……。本当に申し訳ありません。)
フクオカはシャルロッテを家まで送る道のり、車内でハナへの想いとシャルロッテへの申し訳なさで胸が張り裂けそうだった。
そこへ再びシャルロッテが優しく語り掛けた。
「フクオカ様?
ハナ様をどう思われていますか?
こんな状況で私とのお見合いに応じられたのは
少々悔しい気もしますが、
お二方を見ていると新鮮で応援したくなります。」
「え?」
「私は少し羨ましくなりました。」
「羨ましい…ですか?」
「はい。ハナ様は、間違いなくフクオカ様をお慕いしておられます。
あの方の瞳は、誰かを守りたいと願う人のものです。
そして、フクオカ様の瞳も、同じように見えました。」
「……。」
「どうか、大切になさってください。
私には、フクオカ様はもったいないお方でした。
でも、ハナ様には、きっと相応しい。」
「……ありがとうございます。」
(シャルロッテさん、あなたは本当にお優しい方だ。
むしろあなたの方こそ僕にはもったいない。
僕はハナさんの隣にも立てないダメなやつだ。
でもあなたの励ましはありがたく頂戴致します。
この御恩は必ず返します。いつか、何らかの形で。)
「もうすぐ、着きますわね。
今日は本当にありがとうございました。
願わくば、今後もお二人と仲良くさせていただければ幸いです。」
「ありがとうございます。僕もあなたと出会うことが出来て良かったです。」
(シャルロッテさんほどの方から応援される。
僕は期待していいのだろうか?
ハナさんの隣に立てるような男に……なりたい。そう、心から思う。)
【あとがき】
作者子です。よろしくお願いします!
遂に答え合わせが始まりました。同じシーンを別の視点で描く。
超難しい。
フクオカ君の心の声は、ハナの心の声の何倍も何倍も筆が遅くなりました。
とりあえず終盤に向けて頑張ります。
男性、女性、両方の読者様からキュンキュンしてもらえるように頑張ります。
ちなみに別視点で過去の同じシーンを違和感なく、書き切るって凄い難しかったです。
しかも同じことを書いていたら飽きるので、ほどよく圧縮が必要です。
この、再構築と圧縮はかなり私には負荷の高い高等テクニックでした。
いやー、背伸び背伸び!
これは第1話の段階からしっかりとプロットを組んで、それを意識したシーン設計にしていたから、まだ書きやすい方でしたが、ものすごく面倒くさいので、思いついてもやらない作家さんは多いかもしれません。
答え合わせできるって、すごく心弾みますよね!
こいつ、こんなこと思ってたのかって!
本作の推しどころは、この第三部です!
序盤、あえて淡白だったのは、このためなのですっ!!
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