第21話 未来改変
「よし。フクオカ成分もらったから大丈夫、フクオカ君、放してくれていいよ。」
フクオカは微動だにしない。
「おっ、おーい。フクオカ君、もういいよ。エルミナも見てるよ。」
「ハナちゃん、許してあげなよ。フクオカは今、ハナちゃん成分を充電中だよ。
コイツ、ポンコツだから急速充電できないのさ。」
「え?」
(フクオカ君、マジで?!あー、いい!許す。いくらでも私成分あげちゃう!
さぁ、もっと、ぎゅっと。なんなら壁にドンして顎クイもおっけ!
さぁ、どんとこいっ!!)
「あ、すみません。」
ハナのチュー顔を無視してフクオカはハナを解放した。
(あ?)
ハナのチュー待ち顔をみていたエルミナは笑いを堪えるのに精いっぱいだ。
「こっこほん。最後に。
これ一番大事な命令よ。絶対に守って。心に刻んで!」
二人して真面目な顔で背筋を伸ばす。
「死なないで。絶対に。どんな場面でも。諦めずに生きて。
私を置いて死ぬな!ばかども!」
「え?死ねって言われても死にませんよ~。
私、まだフクオカに別荘を買って貰ってない。」
「は??」
「いや、こっちの話。」
「フフ、おっけ!フクオカ君もね!」
「はい、もちろんです。まだ死ぬわけにはいきませんから。」
「よし、では出撃する!各々、最善を尽くせ!」
「は!」
・・・
・・
ハナの第7艦隊はコロンニャにFTLジャンプした。そして艦隊レーダーの統合情報を即座に確認する。
(うん、前回と全く同じ状況!絶対にあの悪夢は繰り返さない!)
「全艦、有毒惑星のY-222Aに向けて移動!」
「え?星系要塞ではなく?あ、いえ、了解!」
エルミナも通信越しににっこり笑って従う。
Y-222Aの軌道上で第7艦隊が待機した。
「主力戦艦は反物質ミサイルを装填。」
反物質ミサイル、これは前宇宙時代の核ミサイルの系譜を持つ次世代破壊兵器。
主力艦隊でもごく一部にしか配備されない最終兵器だ。
ハナは不審がる艦長達をよそに立て続けに指示を出す。
「デコイバルーン艦を全艦放出、宙域133に向け、微速前進!」
デコイバルーン艦、いわゆる風船だ。
それに簡易エンジンが取り付けられており、熱源反応も示す。
これは囮、あるいは戦力を騙して過剰に見せかけるために使うことが多い。
全デコイバルーン艦を一斉に目的もなく放流することは珍しかった。
だが、フクオカとエルミナは何の疑いもなく部下に実行させた。
そしてハナが次の指示を出した。これも目的が分かりかねる指示だった。
「反物質ミサイルをY-222Aの北緯122.3,西経160.3地点の山脈地帯に向けて一斉射撃!
その後は、急速離脱!小惑星帯に沿って大回りしてデコイバルーン艦隊を追え。
1400時に宙域134へ到達せよ。」
命じられた戦艦の艦長達が不審に思うが、徹底して従う。
反物質ミサイルを無人の山脈に撃ち込み、第7艦隊が急速に離脱して小惑星帯にまぎれた頃、突然山脈の奥から、多数の熱源反応がレーダーに現れた。
おそらく反物質ミサイルの存在に気づいて、逃避行動に出たと思われる。
手遅れだ。
点のように小さくなった惑星Y-222Aの形が変わるほどに大きな爆発光が照らした。
それと同時に、現れた60隻近い熱源反応が一瞬で全て消失した。
エルミナが興奮しきった顔でハナに通信を繋いだ。
「はっハナちゃん、あそこに敵艦隊が隠れてるってなんでわかったの!?」
「……勘。」
「うそでしょ?神業?!」
冷静を装っているが、こちらも目を輝かせたフクオカが通信を繋いだ。
「フクオカ提督、情報照合完了しました。
先ほどの熱源反応はハスク=ザミク提督の「屠殺の顎」艦隊。
過去にいくつかの友軍艦隊が犠牲になった大物です。
……瞬殺しましたね、信じられない。大戦果です。」
その賛辞を無視して、ハナは真剣な顔を崩さない。
まるで何かに取りつかれたかのように必死に指揮を執る。
「もうすぐ宙域134に着く。各艦一旦出力停止、完全に気配を消せ!」
その約20分後、敵艦隊が一斉に目の前に現れ、通りかかったデコイバルーン艦に向けて突撃を開始した。
「まだ伏兵がいた!?」
エルミナが再び興奮して叫んだ。
それと同時にこの星系の東西南北上下の6境界に敵艦隊が現れた。
前回の狩宴と同様に第7艦隊を逃がさないための盾、かつギャラリーだ。
「まだ居た!?6艦隊!?なにそれ!これが宴!?
ハナちゃん、どうする!?」
「エルミナ、心配いらない。奴らは動かない。
私達は目前の敵と『放たれる毒針』艦隊に集中して!」
「え?!あ、うん、わかった!」
「全艦、一斉にシステム再起動!敵艦隊はこちらに気づいていない。
完全に背後を取った。全力で攻撃せよ!
弾を惜しむな!エネルギーも全てレーザー砲に回せ!!」
敵がデコイ艦を破壊している隙に、第7艦隊が完全に背後を取った。
ハナの号令と共に第7艦隊が敵伏兵艦隊に襲い掛かった。
それも苛烈に。
完全に裏をかかれた敵艦隊は背後から撃ち抜かれ、抵抗しようとして艦船の回頭中にとどめをさされた。
まるで花火のフィナーレのような、敵艦の爆発光が連続した。
まさに――ハナの”神懸った”采配による圧倒的な攻めだった。
「データ照合完了、敵はロ=エセーク提督の『誉れ高き毒液』艦隊!!
彼も名高き猛将です!
先ほど旗艦の撃沈を確認しました。あの猛将を討ち取ったようです!
フクオカ提督、これも勘なんですか!?」
さすがにここまでくるとフクオカも興奮を隠しきれない。
「そう、勘!そんなことより二人とも、最後の敵が来るわ!
ナ=ポダン提督の『放たれる毒針』艦隊。
こいつは元々囮艦隊、それほど脅威ではないわ。
真正面から正攻法で討つ!
奴らはこの状況で私達に恐れを抱いているはず!」
「は!」
フクオカとエルミナが再度気合を入れると、確かにレーダーに「放たれる毒針」艦隊が表示された。
だが、明らかに動きに勢いがなく、かなり動揺しているようだ。
逆にハナはこれまでにないほど落ち着いており、フクオカとエルミナも良い意味で高揚している。
真正面からの撃ち合いになった。
だが、士気の差は明らかだった。
徐々に形勢が固まっていく。逃げ腰の「放たれる毒針」を正確に撃ち抜いていく第7艦隊。
敵の左翼隊が崩れた。
それを機に、第7艦隊全体で追い打ちをかけて、敵の隊形が完全に崩れた。
勝利がほぼ確定した。
「全艦、畳みかけて!一気に全滅させる!」
ハナの号令と共に第7艦隊が攻撃の手を強めた。
そんな時、情報士官が焦りながら叫んだ。
「提督、大変です!!
敵艦隊、敗北を覚悟したのか、全艦が当艦隊左翼隊に捨て身の突撃をかけています!」
「え?左翼?フクオカ中将の!?」
「はい!奴ら、左翼隊だけでも道連れにして、玉砕するつもりのようです!」
ハナの顔に急激に焦りの色が浮かぶ。
「まって、そんな。左翼単体で言えば、まだ敵艦隊の方が戦力が高い!
このままでは左翼が危ない!」
(なんで!?私は最善を尽くした!これでもダメなの!?
未来は変えられない?!それが時の流れの摂理とでもいう気!?
そんなことはさせない!!)
ハナの目に決意の炎が灯る。
(二度とフクオカ君を失いたくないっ!)
【あとがき】
『タイトル:提督の「絶命回避」戦術日誌』
ファーストチューは不発、でも戦場では神采配でした!
ハナです!「壁ドン&顎クイ」待ちだったのに、フクオカ君に「指示には絶対に従います」と真面目に返されてしまい、恋はまたしても不発…(エルミナの爆笑に耐えるのが大変でした!)。
しかし、戦場では違います!未来の記憶を武器に、常道ではない戦術で「狩宴」の罠を打ち砕きました!
無人惑星への反物質ミサイルで第1の伏兵(屠殺の顎)を瞬殺! デコイバルーンを囮にした背後からの奇襲で第2の伏兵(誉れ高き毒液)を殲滅!
神懸かりの采配で、過去の敗戦艦隊を圧倒し、勝利は目前でした。
ですが、運命は簡単に変わりませんでした。
最後の敵ナ=ポダン艦隊が、前回の悲劇と同じように、フクオカ君の左翼隊に向けて捨て身の玉砕突撃を開始したのです!
「二度とフクオカ君を失いたくないっ!」
フクオカ君は**「提督の指示には絶対に従う」と誓っています。 この絶対絶命の瞬間に、ハナが命じる「未来改変の絶対命令」**とは!?
完結に向けて疾走、毎日 朝8時更新です!
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(ひろの)
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作者子:
ここで使ったデコイバルーン戦術。
私のニャニャーン大乱記で天才軍略家シノが既に使ってるので
再利用だったりしますが、時代的にはシノの方が後世なので、
ハナちゃんの戦術は教科書に載って、シノがそれを勉強したと
いうことになるのです!
こういうリンクがこの物語に出てきてたりします。
赤毛猫海賊団とかね!」




