第2話 ぼでーたっち
「ぼ…ぼ…ぼ…ぼ…ぼでーたっち?!」
「ただのボディタッチですよ。
いや、そんなベタな態度取らないでくださいよ。」
(”ただの”だとぉ!?あの……あのフクオカ君に触れるんだぞ!?)
ハナは顔を真っ赤にしながら、目をそらしつつ、そっと尋ねた。
「参謀長、……ぐ…具体的な作戦を教えてくれ。」
「急に提督ぶらないでくださいよ。どもってますよ。」
(どもったりするわよぉ!!)
「具体的も何もないですが、例えば何か、こう話しかける時に少し寄り添ってみるとか。」
「よっ……寄り添う!? 他には?」
「資料を確認する時に、さりげなく手が触れるとか。」
「て……手が触れるぅ!?他には!?」
「いえ、それくらいですけど。」
「……。それだけ?え?ほんとにそれだけ?」
「はい、それだけです。どんなのを想像したんですか?」
(え?え?え?どっどんなって言われても。)
「えっと、手をこう………重ねて……指を絡めるとか。」
「ぷっ!ははは。いいですねぇ!それいいです!
やれるならやってください!
フクオカ、どんな顔するだろう!」
「なっ何か馬鹿にしてない?」
「いえいえ、初恋もここまで拗らせると、色々考えるんだなぁとか思ってないですよ。」
「エルミナ、2か月10%減給!侮辱罪!」
「職権濫用ですって!パワハラで密告しますよ!
……ふふふ、ははは!でも応援します、頑張ってください!」
「ふー。なんか、寄り添って、手触れるくらいなら私でもできる気がする。」
「はい、ハナさんなら余裕ですよ!」
(よっ……余裕!!!)
「まぁ、普通ならこの年でそれくらいされても、何とも思わないと思いますが。
多分二人ともアオハル真っ最中だと思うので、効果抜群のはずです。」
「馬鹿にしてない?」
「あーいえいえ、フクオカは堅物だからハナさんみたいな美人に寄り添われたら、絶対意識しますよ!」
(ホント?!ホントにフクオカ君、意識してくれる!?)
「大丈夫です。恋の名参謀・エルミナ様を信じてください。」
「分かった。成功したらボーナス0.2か月上乗せしてあげる。」
「だからそういうの職権濫用ですってば。」
そうこうしている内に提督室に到着した。
二人は室内の会議テーブルに腰かけてフクオカ中将が来るのを待つ。
「緊張しますね。」
「なんでエルミナが緊張するのよ!」
「だって、すごい(面白い)ことになりそうで。」
(えー?そう?どうしよう!一気に進展したら!!!)
「なっ何も起きないってば。こっこれは今後の軍事方針を決める真面目な会議だぞ!」
「あーそうでしたね!」
コンコンコン。
「フクオカです。」
「どっどーじょ、入って。」
「ぷっ!」
いきなり噛んだハナを見て、エルミナが盛大に噴き出した。
「失礼します。申し訳ありません、お待たせしました。」
「フクオカ中将、あなたはここに座って。」
エルミナがフクオカをハナの隣に案内する。
「では、失礼します。」
フクオカ中将がハナの隣に座った後、持ち込んだタブレット機器を操作する。
ホログラフによって、コロンニャ星系の恒星から各種惑星、軍事基地が空中に浮かび上がった。
(ぼ…ぼ…ぼ…ぼ…ぼでーたっち)
「フクオカ君、せっ説明してもらえる?」
「はい、総司令部からは第7艦隊はコロンニャ星系への哨戒の指令を受けております。」
「なるほど。」
ハナはそういうと「ドン」と大きな音を立てながら椅子を寄せてフクオカ中将の傍へ半歩近づいた。
「……!」
フクオカ中将もさすがにこれには、びくりと驚く。
あまりのあからさまな動きに、エルミナは口にドングリを詰め込んだリスのように頬を膨らませて、笑いを堪えている。
「フ…フクオカ提督?」
「続けて。」
「あっはい。最近、コロンニャ星系には、あの赤毛猫海賊団が跋扈しており……。
て……提督?どうしました?」
「ど……どのあたり?!」
「あ……はい。この小惑星X-22E1の辺りで現地哨戒艦隊が撃退され……」
フクオカ中将がその場所に対して指さそうとした時、ハナもそこを指さした。
ピチン!
派手な音がして指と指がぶつかった。
(あー!!!!!!!!強く行き過ぎたっ!!)
「あ……すみません」
(や………………や…ら…か…し…たーー!!)
フクオカ中将が謝ったと同時に、エルミナの我慢の限界が訪れ、盛大に噴き出した。
「エルミナ、どうした?」
真面目な顔でエルミナの方を向いたフクオカだったがすぐに顔を真っ赤にして震えているハナにも気づく。
「て……提督、大丈夫ですか?」
フクオカは戸惑いながらも、心配そうにハナを見つめる。
「え?あ……大丈夫です。ごめんなさい。説明の邪魔をしました。」
(あ~~!!!!絶対変に思ってる、思ってる。思って……うえぇぇぇん)
「提督?お身体の調子でも?」
「あ…はい、さっき体調が急に悪くなりました……。」
「ぷぷぷ……。」
エルミナも笑いが止まらず、真面目な顔を維持するので精一杯だった。
「あまり無理はしない方が。方針は別の日に議論しましょうか?」
(はぁ……ぼでーたっち……難しすぎる……。)
「あ、はい?あーそうですね。今日は気分がすぐれないのでそうして貰えると助かります。」
「大丈夫ですか?無理はしないでください。
今日は演説もありましたし、少し無理をなさったんですね?
明日にしましょう。」
「はい、それで構いません。」
「今日はゆっくり休んでください。」
(はぁい……ゆっくり反省会します……)
「あ……、そういえばですが、提督。来週1週間休暇を頂きたくて。」
(え?!1週間も会えないのっ!?)
「どうしました?珍しいですね。」
「あ、はい。実は………。
言いにくいのですが、父上から実家へ顔を出すように指示をうけておりまして。」
「え?侯爵が?」
「はい、アルヴェリオン侯爵家のご令嬢と見合いをしろと。
父上曰く、美しく聡明で、家柄も申し分ないとのことで。」
(はああああぁぁぁぁあぁ!?美しく聡明!?
私だって美しいし聡明なのに!!!)
ハナとエルミナは無言で顔を見合わせた。
エルミナの目が「了解しました、提督」と語っていた。
「私自身、あまり乗り気ではないのですが。父上には逆らえず。」
(なんで!?なんでよ、おい!侯爵!うちのほうが家格は上よ!
あなたの息子には私が一番お似合いっ!気づけ気づけぇぇ!!!)
ハナは、椅子に深く座り直し、大将としての顔を作った。
「……フクオカ君。体調の回復に時間を要しそうだ。
当艦隊の重要作戦会議を軽々しく扱うわけにはいかない。
打ち合わせは、君が見合いを終えて、戻ってきてからの再来週にしてもらえるかしら?」
(こんな打ち合わせしてる場合じゃないっ!
エルミナ!!謀略!策略!妨害工作!お願い助けてっ!!)
そして、会議は強制終了し、フクオカ中将が先に退室した。
「エルミナ、緊急作戦会議よ。」
「了解です、提督。」
ハナは真剣な表情で立ち上がった。
その目は、これまでの恋愛ポンコツな提督ではなく、
1万人の将兵を率いる、第7艦隊提督の目だった。
「作戦名は――『見合い阻止作戦』。
フクオカ君は、絶対に渡さない。」
「ハナさん、私は明日までに完璧な作戦を考えてきます。」
「うん。エルミナ、貴女だけが頼りよ!」
エルミナが慌てて退室する。そのあと、走り出してフクオカ中将に追い付いた。
「フクオカ―!!」
「ん?エルミナ中将、どうした?」
「今日のハナさん、ちょっと変だったね?」
「え?あ……まぁ、そうだね。」
「見合い、どうするの?」
「断ろうとは思っているけど、父上の顔を潰すわけにもいかないからね。
一応、きちんとお会いするよ。」
「フクオカは真面目だな。
ところでハナさんってさ。あんたの事、絶対好きだよね?」
「え?いや。いやいや、そんなことはない。
フクオカ提督のような素敵な女性は僕には不釣り合いだ。」
「じゃ、あんたはどう思っているの?」
「素敵な女性で、尊敬している。お支えしたいと考えている。
例え、この命を投げ出すことがあっても提督はお守りしたい!
そう思っているよ。」
真面目な顔から、一転してエルミナは笑顔で返した。
「そうだね。私もだ!一緒に支えようね!」
「あぁ。」
そういうと再びフクオカ中将は歩き始めた。それを黙って見守るエルミナ。
何も無い所で、少し引っかかって転びそうになるフクオカ中将。
「……。動揺しとる。ふふふ。素直じゃないなぁ、君達!」
【あとがき】
『提督の反省日誌(第2話公開記念)』
あー!!も、もうダメです!ハナです!
『ぼでーたっち』……難しすぎました……。指がぶつかるって、そんなことあります!?
(絶対、エルミナのせいだ!私がかっこいいフクオカ君に触れる姿で慌てるを見て、笑いたかっただけだ!)
さて、私の大失敗はさておき。
大問題発生です! なんとフクオカ君が、「美しく聡明で、家柄も申し分ない」ご令嬢とお見合い!?
「フクオカ君は絶対に渡さない!」
見てください、この私の本気になった目を!
第7艦隊の将兵を率いてきた、私の全能力を、この恋に注ぎます!
そしてフクオカ君が帰った後、慌ててエルミナも出て行ったんですが、その後、彼女はすぐに戻ってきて顔だけドアから出して、にやぁーって笑ったんですよ。
変ですよね?多分こけて頭でも打ったんだと思います。
さて、ご安心ください!
三連休の初日ということで、連続して第3話『お見合い妨害工作』を公開します!
ハナ、公私混同!軍の力を私的な恋路のためにフル活用します!
第3話で、作戦開始です!
この後すぐにお楽しみください!そして、ご感想やご意見、スタンプ、フクオカ君が転びかけた理由など、どんな些細なものでも大歓迎です。
(ひろの)
ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。
もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。
レッツログイン、ボタンぽんっ!




