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ハナちゃんのポンコツの恋  作者: ひろの
第二部 零七の奇跡

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第19話 喪失と絶望とアノマリー

ハナは生還した。


ハナを含む数少ない生存者のほとんどは、緊急FTLの影響で意識が戻らなかった。

100日を超える昏睡状態の中、ハナは帝都まで運ばれた。


その間、艦内に残された情報の分析が行われた。

多くの犠牲を伴った今回の戦いは、ジソリアンの文化的異常性が原因であることが判明した。

ハナの指揮は最善であったことが証明され、敗戦責任が問われないことが決定した。


そしてハナは長い昏睡の末、帝都の自邸で目を覚まして、全ての喪失を知り、絶望に襲われた。


彼女は心身の衰弱により、しばらく立ち上がることもままならなかったが、今無理をしてある場所へと向かっていた。


墓地、それはフクオカ中将、現在は特進してハナと並んだフクオカ大将の墓前である。

昏睡中に葬儀が行われ、参列も叶わなかった。


花を手向けて座り込むと力が抜けて立ち上がれなくなった。涙が止めどなく流れた。

消え入るような声でフクオカへ語り掛けた。


「フクオカ君……。

 ポンコツ……ポンコツ。人の名前すら呼べないヘタレ。

 あんなにわかりやすく振舞ったのに私の気持ちに気づけないポンコツ……。」


脳裏にフクオカの笑顔が浮かんだ。


「ポンコツのくせに………最後にカッコつけて………。

 ポンコツならポンコツらしくさっさと逃げるべきだったのに……。」


挿絵(By みてみん)


その笑顔はいつものように優しく、温かかった。


「どうせあれだって第7艦隊の全将兵のためにフクオカさんは生き延びろとか思ってたんでしょ?」


ハナは墓を優しく拳で叩いた。

地面にはハナの涙が零れ落ちた。


「最期くらいもっと気の利いたセリフを遺しなさいよ。

 君のいない世界で生き延びる意味なんてあると思うの?」


しばらくうつむいていた。どれくらい経ったかも分からない。

涙も枯れてもう出なかった。


目を腫らしたハナはゆっくりと立ち上がった。


「フクオカ君、助けてくれてありがとう。

 ごめんね、責めてばかりで。

 だって……。こんなことなら私はフクオカ君と一緒に死にたかった。」


そしてもう一度優しく墓を撫でた。


「また会いに来るね。エルミナにも謝らなきゃいけないから。」


悲しい笑顔で手を振ってから、ゆっくりと歩き出した。


エルミナの墓は帝都ではなく、彼女の故郷、惑星ウトニャルドにある。

彼女は伯爵令嬢であり、ウトニャルドはその領地だ。

宇宙航行用の個人ビークルで40日はかかる。


ハナは現在特別休養中であり、エルミナの元へ私人として向かった。


一人ぼっちの惑星ウトニャルドへの道中。静寂の中に機械音だけが鳴り響く。

本来は自動操縦で向かってもいいが、何かをしていないと頭がおかしくなりそうで、自ら操縦していた。


唐突にハナは助手席に向けて語り掛けた。


「ねぇ、エルミナ。フクオカ君は天国で女の子に囲まれてたりしないかな?

 ちょっと妬けるんだけど。」


そしてゆっくり助手席を向いても誰もいない。

静かに前を向きなおすが再び涙が溢れて前が見えない。


モニタ上に警告表示が行われて、アラーム音が鳴る。

どうやら、立ち入り禁止の位相不安定宙域に入り込んでいたようだ。


ハナは不機嫌そうにスイッチを押してアラームを強制停止した。


「うるさいっ!今、エルミナと話してるんだからっ!」


そう言った後、手で目を押さえてうつむいた。


しばらくしたあと。


ガタンっ!

ビークル全体が揺れる。


「何?!」


モニタを確認すると見た事のないエラーコードが表示されていた。

慌てて、トラブルシュートを開いて解決策を探した。


「位相の乱れにより宇宙の裂け目を検出?

 え?何それ?

 至急離脱せよ??どういうこと?」


慌ててハナが窓から外を見ると、宇宙空間に見たことがない光輝く裂け目があり、このビークルが吸い込まれようとしている。


「何あれ?!」


この宇宙には、ニャニャーン神聖帝国のように科学技術が発展した銀河帝国ですら、解明しきれていないアノマリーがいくつか存在する。

その一つとして、時折、位相の乱れから宇宙空間に奇妙な裂け目が現れることは知られている。

だが、そこに入って戻って来た調査機器、探検家は今まで存在せず、入り込めば二度と出てこれない、異空間や異次元、はたまた異世界への扉とも噂されており、ただただ、近寄らないことを唯一の対策としていた。


ハナは失意のあまり、その警告を無視してその裂け目に向かって突進してしまったのだ。

慌てて操縦席に座り、逆噴射で逃げ出そうとするが、出力が足りない。

ハナのビークルは徐々に裂け目に向けて落ち込んでいく。


(あぁ、しまったなぁ。もう助かりそうにないかも……?

 ま、いいか。こんな世界、生きていても仕方ない……。

 エルミナ、ごめんね。お墓参りできそうにないや。

 天国でもいい。二人と会いたいなぁ。)


ハナは諦めて、ゆっくりと逆噴射を停止させた。


それと同時にビークルがくるくると回転しながら裂け目に落ち込んでいった。

しばらくすると裂け目は徐々に閉じていき、完全に立ち消えた。

位相は安定し、いつもの宇宙空間に戻った。


裂け目の中はまるで濁流のようで、ビークルが激しく揺さぶられながら勢いよく流されていく。

ハナの意識は徐々に薄らいでいって、そのまま消え去った。


・・・

・・



ハナのビークルは激しく流されるまま、その流れの先、一点の光に向かっていった。

その光は揺らぎ、そして徐々に閉じつつある。

閉じきる直前にそのわずかな光にビークルは吸い込まれた。


それは宇宙の裂け目であり、そこに到達すると同時にハナのビークルは再び宇宙空間に投げ出された。


どれほど漂っていたか。ハナの意識はまだ戻っていなかった


その時、ビークル内の通信モニタから声が聞こえた。


「……督、提督。聞こえますか?」


見知らぬ兵士からの通信音が耳元で聞こえて、ハナがゆっくりと目を開けた。


(あれ?私は……裂け目に。)


「提督、ご無事ですか?!」


再び見知らぬ兵士の声が聞こえる。


辺りを見回すと、通信モニタ上で焦った表情の兵士が見える。

その腕章を見ると第7艦隊のものだ。

だが、それは狩宴によって全滅し、生存者ゼロと判明した左翼2番隊のものだった。


(あ、生存者いたんだ。よかった……。)


「提督、返事をなさってください。」


「はい、私は無事です。少し落ち着きなさい。」


そう言うとハナは乱れた髪を整えつつ、襟元を正す。


(あれ?私、なんで軍服を着てるの?

 エルミナのお墓参りのために私服だったはずなのに。

 何?ずっと違和感はあったけど、これ、私の船じゃない。

 軍用ビークルだ。どうして?)


「て、提督はご無事だ!良かった!良かったー!!」


「待って、今、どういう状況ですか?説明してください。」


「は!提督は旗艦からパファルーニャへビークルで移動なさっている間に、急に消失されたのでございます。」


「は?消失?」


「はい、我々も実はよくわかっておりません。

 ですが、『消失』という言葉を使うしか説明できない現象が発生しました。」


(ん?パファルーニャ?どういうこと?パファルーニャはエルミナと共に……。)


「現在、第7艦隊が総出で提督を捜索していたところでした。

 そして、小官がビークルを発見し、このようにお声かけさせていただいたのです!」


(状況が良くつかめない)


混乱して頭を抱えるハナだったが、その兵士はとにかくハナの無事が確認できて安堵したのだろう。

すぐに部下に指示を出していた。


「提督はご無事だ、早急にフクオカ中将とヴァルク中将にご報告しろ!」


「え?フクオカ君とエルミナ!?」

【アノマリー】‥‥統計や観測で説明できない異常値、予測不能な例外的現象

ーーーーーーーーー


【あとがき】

『タイトル:提督の「絶望」と「時空転移」日誌』


時空の裂け目を越えた先に、死んだはずの最愛の人がいた!?


ハナです…。大敗から生還した私は、長い昏睡の末、愛するフクオカ君とエルミナの死という、最大の喪失を知りました。


フクオカ君の墓前で、彼の命を懸けた行動を「ポンコツのくせにカッコつけやがって!」と責めながら、「君のいない世界で生きる意味はない」と絶望の底に沈みました。


そして、エルミナの墓へ向かう旅の途中、私は警告を無視し、宇宙の裂け目(アノマリー)へとビークルを突っ込ませました。このまま二人と天国で再会できれば、と願って...。


しかし!


激しい濁流のような裂け目から投げ出され、意識を取り戻したハナが聞いたのは、見知らぬ第7艦隊の兵士の声。


「提督は旗艦からパファルーニャへ移動中に消失されたのです」という、過去に起こったはずのない状況。


そして極めつけに、兵士が告げた捜索隊の責任者の名前は――


「フクオカ中将とヴァルク中将にご連絡しろ!」


死んだはずのフクオカ君とエルミナが、階級もそのままで、生きている!?


ハナは一体、いつの、どこの世界へ来てしまったのか?絶望の果てに、ハナ大将が辿り着いたこの世界で、彼女の**「恋」**の行方はどうなるのか…!?


完結に向けて疾走、毎日 朝8時更新です!


ご感想、スタンプ、「ハナの再会後の第一声」予想、そしてこの世界が「過去」なのか「パラレルワールド」なのか、など、どんな些細なものでも大歓迎です! もしよろしければ、評価やブクマをお願い致します。自分で書いてて泣けてきましたよ! レッツログイン、★ボタンぽんっ!


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― 新着の感想 ―
ハナちゃんがエルミナに話しかけるシーン、泣きました‼️ 第二部の最初に大丈夫だと書いてなかったら、読むのやめてたと思います。 でも落差のあと、奇跡! ビックリです!でもよかった!!
圧巻ですね。 ネタバレは避けます。ひろの先生は心情を書くのがとても得意とされておられますので、ハナの悲しみが心に刺さりました。 またストーリーもロジカルにしっかり構成されるので、とても自然な流れで…
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