第18話 狩宴、追い詰められるハナ
「ハナさん、敵の分析が終わりました!」
エルミナが叫んで、情報をハナとフクオカに共有する。
前方には、コロンニャ星系要塞への進路に立ちふさがるようにナ=ポダン提督の「放たれる毒針」艦隊。
そして、左後方からハスク=ザミク提督の「屠殺の顎」艦隊。
右後方からはロ=エセーク提督の「誉れ高き毒液」艦隊。
「そっそれに東西南北上下の星系境界にも我々の退路を遮断すべく、主力艦隊が現れました!」
いつも陽気なエルミナが血の気が引いた顔をした。さすがにハナもすぐに指示が出せなかった。
「…ありえない。私達1艦隊のために9艦隊!?主力の大部分をここに集結させた?
9倍の敵?!どっ、どうしたら?」
「提督、星系境界の6艦隊は一切動いていません。あくまで我々の逃走を防止する目的かと。」
「どういうこと?」
「今回は狩の宴、6艦隊はギャラリーでもあり、獲物を逃がさない盾でもある。
あくまで我々を追い詰めるのは選ばれた勇者3人、そんな感じでしょうか?」
フクオカは、顔が焦って引きつりつつも、冷静な声でハナに報告する。
「全く理解できない。奴ら、殺しを楽しんでるってこと?!
でも、まだ3艦隊なら絶望しなくて済む!
退却できないなら、選択肢は一つ!
全艦、ナ=ポダン提督の『放たれる毒針』に向けて突撃。
前面にシールドと追加装甲を展開!
攻撃にはエネルギーを回さなくていい!
極力シールドに回して、実弾兵器で牽制!
奴らの隙間をすり抜けて、一隻でも多く、コロンニャ星系要塞に逃げ込んで!!」
艦隊クルーたちは、ハナが諦めていないことに勇気づけられて、この逃避戦に臨んだ。
第7艦隊に対して、「放たれる毒針」は魚鱗隊形を敷く。これは魚の鱗のように展開して隙間を埋め、仮にその鱗を強制的に剥がしても後方にいる予備艦が進み出て新たな鱗になる。
前方から迫る第7艦隊に対する鉄壁、まさにハナの思惑を封じる最適な隊形。
「各隊、散開して!各々最善を尽くして要塞へ……いや、待って!?」
散開して魚鱗を避け、要塞に逃げ込もうと考えたが、後方からの「屠殺の顎」と「誉れ高き毒液」が急速に迫ってきていた。
奴らは後方から第7艦隊が退却できないことを知っているため、前に進むしかないことを読めている。
そして「放たれる毒針」に阻まれて、散開せざるをえないこともわかる。
大型魚が小型魚の群れを捕食するかのように、散開した各艦船を狙い撃ちするため迫ってきていた。
「散開はしちゃだめ!!各隊密集、防御隊形。こうなったら緊急FTLジャンプでこの星系から強制離脱する!」
ハナは最後の手段を選んだ。
「緊急FTLジャンプ」。
FTLジャンプはあくまで安全が確認されたワープ経路をジャンプして進むものだ。
緊急FTLジャンプは星系境界の安全な航路を使わずにAIによって自動計算された地点へランダムワープする。
これは艦船への負荷も高く、途中で消失する船や、大破する船も少なくない。
場合によっては、ジャンプ先が惑星だったならば、いきなり激突爆破する恐れすらある。
ワープ経路を抜けるまでの時間もランダムとなり、艦隊全体が行方不明になる、非常事態でしか行わないリスクの高い退却方法だった。
だが、ハナの選択は間違ってはいない。
敵は全てにおいて、こちらの取れる手段を把握しており、それを押さえる最適な戦術で待ち受けている。
この状態で戦闘を続けても勝ち目は薄く、いずれ撃ち負けて全滅する。
それならば一か八かで、このタイミングで緊急FTLを選択したハナの判断は何よりも正しいと言えた。
名誉を重んじるような提督であれば、部下の命を顧みず、ここを武人としての死に場所と決めるだろう。
そんな提督に比べたら、ハナは柔軟にして、優しい思考の持ち主だった。
「FTLドライブにエネルギー充填!15%!」
ジャンプ用のエネルギーを充填完了するまでには時間がかかる。厳しい戦いが待っていた。
ジソリアン三艦隊は第7艦隊が要塞への逃避を諦め、緊急FTLジャンプを行うつもりであることも見抜いた。三艦隊が小さく密集して防御に徹するハナ達に容赦のない攻撃を繰り広げた。
次々と第7艦隊の艦艇が大破・爆散していった。
「早く!早く充填完了して!」
祈るようなハナの言葉も空しく、小型・中型の耐久力の低い艦の沈没情報が次々とモニタ上に現れた。
「FTLドライブにエネルギー充填!95%!」
その時、別の情報士官が泣きそうな声で叫んだ。
「敵、実弾並びにエネルギー弾多数、本艦に接近中!!
後方50隻以上からの集中砲火です!
これは耐えられません!!」
「う……。私だけでも必ず仕留める気か!」
ハナが目を瞑って諦めかけた。走馬灯のようにフクオカの姿がめぐる。
「あ!?ニャルローレッドです。ニャルローレッドが本艦の前に割り込みました!」
「え?ふっフクオカ君!?」
ハナのメルローニャの前に庇うように進み出て、集中砲火を全て受けきった。
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!フクオカ君!」
ニャルローレッドから爆発が多数発生、大破炎上した。
ニャルローレッドからハナの元へ通信が接続された。
その背景は炎と煙にまみれ、フクオカは頭から血を流しながらも笑顔で告げた。
「フクオカさん、逃げてください。この艦はもうだめです。
完全に機能停止しました。見捨てて逃げてください。
フクオカさんが生きていてくれたら、僕は……。」
「ダメ!今から救助船を出すから!!早く逃げて!!」
フクオカは優しげに微笑んだが、そこで通信がノイズに変わった。
「FTLドライブにエネルギー充填!100%!いつでも行けます。」
「待って!今すぐ救助船を出しなさい!フクオカ中将を必ず救い出しなさい!」
その時、艦橋のメイン通信パネルにエルミナが映し出された。
そしてハナを無視してメルローニャの艦橋クルーに向けて叫んだ。
「馬鹿者!!何をやっている!!早く飛べ!
フクオカ中将の覚悟を無駄にするな!!」
その目には涙がにじんでいた。
ハッとした艦橋クルーは緊急FTLジャンプを起動させた。
艦橋内が赤色灯に切り替わってFTLジャンプモードになる。
「いやぁぁあぁあぁぁ!!!
今すぐ・・今すぐ救助船を・・はやく!!
ダメ!待って!生きてる・・彼は絶対生きてるからぁぁぁ!!!」
ニャルローレッドが爆散すると同時に、ハナのメルローニャは粒子化されて、この星系からワープした。
エルミナがハナのジャンプを見届けて、安心した顔をした。
「ごめんね、ハナちゃん。私しかハナちゃんを慰め、励ますことはできないのに。」
そういうエルミナのモニタ上にはFTLドライブの出力が0%、エラー表示が点滅していた。
彼女は少しでも多くの将兵の命を救おうとして縦横無尽に戦いを繰り広げた。
その際の被弾の一つが、運悪くFTLドライブへの直撃であり、FTLジャンプはできなくなった。
「でも、誰かが最後まで指揮を執らないとね。」
袖で涙を拭きとると、エルミナが全艦に向けて叫ぶ。
「各艦!諦めるな!生き延びろ!前面シールドを崩すな、背後は味方で守りあえ!
充填完了したものから飛んで逃げろ!!」
1艦、また1艦とFTLジャンプ、あるいは爆散していった。
第7艦隊の大敗だった。
2か月後、ハナを含めた生存艦が隣の星系で漂流しているところを味方によって救出された。
実に70%の艦艇が生存者ゼロの戦没艦として帰ってこなかった。
その戦没艦の中に、フクオカのニャルローレッドと、エルミナのパファルーニャも含まれた。
【あとがき】
本Epはとてもショッキングな内容です。ですが2章冒頭でも告げましたが、
この物語はハナちゃんの片思いが無事成就するお話なのです。
もう少々お付き合いください。
『タイトル:提督の「最愛の盾」日誌』
フクオカ君…!「狩宴」で砕け散った、最愛の盾!
ハナです…!第7艦隊は、ジソリアンの「狩宴」という名の残酷な罠にかかりました。9倍もの戦力が私たちを追い詰め、退路を断ち、ただひたすら「生贄」として狩ることを楽しんでいたのです。
絶望的な状況の中、私が緊急FTLジャンプを決断したその瞬間—。
フクオカ君の旗艦ニャルローレッドが、私のメルローニャの前に割り込み、全ての集中砲火を一身に受けたのです。
炎と煙の中で血を流しながらも、「フクオカさん、逃げてください」と私に微笑んだ彼の姿は、もう...思い出すだけで胸が張り裂けそうです。
そして、涙を流しながらもフクオカ君の覚悟を無駄にしないと、私を強制的にワープさせたエルミナ! 彼女の艦もFTL不能になりながら、殿を務め、私たちは大敗を喫しました。
【絶望:2か月後の真実】
第7艦隊は70%の艦艇を失う大敗となり、2か月後、ハナを含めた生存艦が隣の星系で救出されました。
しかし、救出された艦艇の中には、フクオカ中将のニャルローレッドと、エルミナ参謀長のパファルーニャは含まれていませんでした。
70%の未帰還艦の中に、私の恋した人と親友の艦が含まれてしまった…。
命を懸けて私を守り、強制的に逃がしたフクオカ君。そして、そのフクオカ君の覚悟を無駄にしないと、私を逃がし、最後まで指揮を執ったエルミナ。
彼らは、ハナ大将を守るという使命を果たすため、**「狩宴」**の星系に残ったのです。
ハナ大将の心は、愛する人と親友を失った絶望と、彼らに命を救われた重い責任感で、完全に打ちのめされています。
この絶望の中で、ハナは、彼らの犠牲の上に生き残った自分とどう向き合うのか—。
完結に向けて疾走、毎日 朝8時更新です!
ご感想、スタンプ、**フクオカ君が使うであろう「願い」**予想(命と引き換えに何を求める?)、この後のハナの行動へのアドバイスなど、どんな些細なものでも大歓迎です! もしよろしければ、評価やブクマをお願い致します。 レッツログイン、ボタンぽんっ!




