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ハナちゃんのポンコツの恋  作者: ひろの
第二部 零七の奇跡

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第17話 朝帰りと狩宴

完全にコロンニャ星系要塞から連絡も情報も途絶えた。


隣の星系基地から定期的に行われる偵察によると、星系要塞と敵の『放たれる毒針』艦隊はにらみ合ったままの膠着状態で、略奪等の動きは見られない。

だが、隣の星系からの偵察では正しい情報を全て入手するのは難しかった。

敵の実際の戦力も計りかねる状況だった。


第7艦隊でも軍議を繰り返すが、危機感こそ募るが、不明点が多すぎて有効な作戦を見出すことが出来なかった。


まもなくコロンニャの隣の星系までたどり着こうとしている。決戦は近い。


お風呂に入ってすっきりしたハナは、少し星でも眺めようと部屋の外に出た。

大きな窓から銀河が見える幹部用の共有スペースがある。

そして先客がいた。フクオカだ。


(フッフクオカ君!!)


フクオカも心配で、頭が冴え、少し星でも眺めようとしていたのかもしれない。

じっと星を眺め動かない。少し覗いていたハナは、すぐに自室に戻った。


(あ、またルームウェアだと警戒して逃げられちゃう!)


ルームウェアの上から軍服のジャケットを羽織り、冷蔵庫から缶のお酒を2本取り出した。

普段、お酒を飲まないハナだったが、もしもに備えてエルミナが冷蔵庫に入れていった。

分かっていない彼女は一番アルコール度数の強いストロング系缶を手にしていった。


そっと後ろから近づくと、フクオカが気付いて勢いよく振り返った。

ビックリしてハナも背筋を伸ばす。


「てっ提督!?」


「フクオカ君も眠れないんだ?心配だよね。」


「はい、そうです。どう考えても誘っている。」


「えぇ、そうね。どんな罠が待ち受けるか。

 私としては、一旦危険を突っ切って、まずはコロンニャ星系要塞に突入するのが良いと思う。」


「籠城ですか?」


「第7艦隊と星系要塞があれば、そう簡単には落とされない。

 もし、仮に敵が倍の戦力を用意してきていたとしても、

 籠城している間に第7艦隊の通信機器を使って援軍を呼ぶの。」


「さすが提督です。僕もそれが良いと考えていました。」


「フクオカ君と同じ意見で頼もしいわ。それより今はもう就業時間外よ。提督はやめて。」


そう言って、持ってきたお酒を一本、フクオカに手渡した。


「提…フクオカさんはお酒を飲むんですか?」


(飲まないわよ)


「私だって大人よ??」


(私が飲まないとフクオカ君も遠慮しちゃうよね。)


ハナは缶をあけて一気に飲む。


「あ?フクオカさん。」


「うっ……、大丈夫。」


フクオカも少しずつ口に運びながらしんみりとして答えた。


「フクオカさんは強いですね。自分が狙われているというのに。」


「まーね、みんなが居るし。」


「今回は本来ならば慎重に進みたいところではありますが、やはり要塞に…フクオカさん?」


「うぇ?」


ころん、からん、ハナのストロングチューハイ缶が床に落ちた。


「あ?もう、飲んだんですか?

 それはジュースみたいで飲みやすいんですが、アルコール度数は高いんです!」


「うぇー?」


「あぁ……。もう何やってるんですか。」


落ちた缶を拾ってポケットにしまうと、ハナの手を引いてハナの自室へ連れていこうとした。


「きしゃあぁぁぁぁ!!!!」


ハナがネコの”やんのか”ポーズで拒否する。


「ふっフクオカさん、酔ってますね?」


「違う!酔ってなぁい!帰らにゃい!」


「ワガママ言ってはダメです!」


そういうとお姫様抱っこで抱え上げた。


「ひゃうぅ!!」


そして、ハナの自室に向かおうとするとそれに気づいて手足をジタバタした。


「やだ、帰らない!部屋に戻す気なら大声だす!!」


「もう、フクオカさん、やめてください。じゃあ、どうしたらいいんですか?」


「フクオカ君の部屋で酔いを醒ますぅ。」


「ダメです。」


再び足をばたつかせる。


「あぁ、もう!わかりました、だから暴れないでください。落ちます!」


分かったという言葉を聞いてハナが嬉しそうにフクオカの首に手をまわした。

ハナの髪が顔にあたって、シャンプーの香りが再びフクオカを刺激した。


「ふ…フクオカさん、勘弁してください……。弱いくせに何で飲んでるんですか……。」


お姫様抱っこされたまま、フクオカがハナを部屋に招き入れると、ハナは体をひねって床に降りて、よろよろとフクオカのベッドに近づき、勢いよくダイブした。


「フクオカさん!?……はぁぁぁぁぁ。」


フクオカがため息を吐くと同時に、ハナから寝息が聞こえた。


「あ?良かった…寝たか。」


フクオカはそう言うと、ハナに布団を掛けて、そのまま電気を消し、再び星を見に外へ出て行った。


・・・

・・


ハナが目を覚ます。頭が重い。

寝起きは最悪だったが、一瞬で最高に切り替わった。


(こ……こ……ここ、フフフフ…フクオカ君のベッド)


辺りを見回してもフクオカはいない。枕に顔をうずめて深呼吸する。


(フクオカ君のベッド……。あれ……記憶がない。これ…あれじゃない。

 やらかした奴……いや……いい意味でやらかした奴!?

 でもフクオカ君どこ!?)


よろよろと辺りを見回しても、どこにもいなかった。

そしてゆっくりとドアを開けて外を見回す。


ちょうど、その時、エルミナが通りかかって目が合った。


「ハッハッハッハッハナちゃん!?」


「あ!あはははぁ……。」


「ついに、ついに!!よくやった、ハナちゃん!!」


「いや、でも実は記憶がなくて。よく覚えてなくて。

 お酒の勢いで………。」


「いや、いいんだ!!初めての記憶がないのは可哀想だけど、これで既成事実はできた!」


「でも本当に記憶がないんだよ。」


「溺愛している女が、酔って自分の部屋で寝てるのを、無視できる男は99.9%いないはず!

 絶対に大丈夫!で、フクオカは?」


「部屋にいない。」


「ん?どこ行ったんだ?ちゃんと責任を取らせないと!」


二人して探すとすぐに見つかった。

星が見える共有スペースのソファで軍服のまま横になって眠っていた。


「これ何?」


エルミナが恐る恐る尋ねる。


「フクオカ君。」


「そうじゃなくて、なんでコイツ、軍服のまま、ここで寝てるの?

 これ、昨日からここに?」


「え?」


「0.1%がここにいた。」


「ええ!?」


慌ててエルミナが叩き起こした。


「うあ…あ、エルミナ、それに提督。」


「これはどういうことだ!」


怒り気味にエルミナがフクオカを問い詰める。


「まっ待て、違うんだ。

 提督がお酒に酔って、どうしても僕の部屋に入るというから。

 招き入れたら僕のベッドでそのまま寝てしまって。

 だから僕はここに。信じてくれ、何もしていないんだ!」


エルミナは”何もしていない”のところでフクオカを拳骨パンチした。


「いてっ!」


「何かしろよ、バカ!!」


エルミナの怒りをよそに、またもハナは呆然と星の海を見つめていた。


・・・

・・


そうして遂に第7艦隊はコロンニャを目の前にして最後の補給のため、星系要塞に寄港した。

フクオカとエルミナは再び自分の分艦隊を指揮するために、各々の旗艦に帰っていった。


100日の同棲で、二人の間には”何も”起きなかった。


・・・

・・


事前に偵察機による偵察であたりに危険がないことを確認した上で、

第7艦隊はコロンニャに向けてFTLジャンプを行った。

コロンニャについてすぐに艦隊レーダーをフル稼働させる。


あたりには敵の熱源反応は一切なかった。


「全艦、全速前進!目標はコロンニャ星系!敵にかまうな!まずは籠城する!」


ハナの号令によって、第7艦隊は警戒を怠らず、星系要塞に向けて進んだ。


「静かだ。このまま何も起きなければ良いけど。」


ハナが感想を述べた。その途端、急に艦内に人工知能による警戒アラームが鳴り響いた。


『後方に多数、敵艦を確認!多数のエネルギー兵器が迫っています。』


慌てて確認させると、実際に敵の第一射が迫ってきていた。


「全艦、衝撃に備えよ!!」


ハナの指示とほぼ同時に後方のシールドが手薄な箇所に多数の被弾があり、艦隊内の被害報告がモニタ上に立て続けに表示された。


「伏兵!?」


敵は後方の無人惑星の山脈に艦隊を隠しており、全ての出力を停止させて静かにハナが通り過ぎるのを待っていた。

第7艦隊が通り過ぎたと同時に急浮上して、背後から襲い掛かった。


すぐにハナは判断を下した。


「全艦、後方の敵は無視して要塞に向けて突き進め!!」


その頃には要塞を囲んでいた『放たれる毒針』艦隊も一斉に第7艦隊に向けて回頭し、襲い掛かって来た。


「『放たれる毒針』を討ち破り、そのまま要塞に逃げ込む!」


ハナが指示を出した途端に今度は全速力で突き進む第7艦隊の横腹から多数の攻撃を浴びて艦隊の損傷情報が繰り返し、更新された。


「まだ居る?!」


伏兵艦隊がもう一隊存在した。奴らはハナ一人を狙うために3倍の戦力でただひたすら待ちわびていたのだ。


その時、ハナとエルミナに向けてフクオカから通信が入る。


「提督、ちょうど今、僕が調べさせていた言語学者からの報告が入りました。

 あの『ジジキシ』ですが、我らニャニャーン神聖帝国には存在しない文化概念であるため

 相当する言葉がなく『敵』と翻訳されていました。

 実際は、『祭』、『生贄』、『名誉』、『強敵』、『狩』、これらの言葉を足して平均を取ったようなニュアンス、無理やり訳すなら『狩宴しゅえん』となるそうです。」


「何それ、ハナさんと私達が狩りの宴の生贄?」


エルミナが不快感丸出しで呟いた。


「ジソリアンには家族という概念がありません。

 女王が大量に卵を産みます。

 卵からかえったら、そのまま、すぐに兵士、あるいは労働者です。

 奴らには両親や子供、友の概念すらないのです。

 これは仇討ちでも何でもない。

 戦闘民族である奴らにとって、これは……。

 我らを狩るための狂宴です。」


ハナも一瞬固まった。


「エルミナ!敵戦力を分析、一番弱い敵に集中攻撃!

 要塞に逃げ込むか、コロンニャ星系から退却する!!」


(まずい!想像を超えた事態だわ。敵は私達を仕留めることだけを目的に動いている!!)

【あとがき】

『タイトル:提督の「朝帰り」失敗日誌』


「何もしてないんだ!」...バカ!何かしろ!!


ハナです!97日の航海の折り返し、ついにフクオカ君と**急接近(?)**しました!


酔っ払い暴走:ハナはストロング缶一本で撃沈!フクオカ君にお姫様抱っこされる夢の展開!


「朝帰り」:目覚めたらフクオカ君のベッドの上!「ついに大人の階段を上ったか」と喜んだのも束の間...。


衝撃の0.1%:フクオカ君は、何・も・せ・ず、共有スペースのソファで軍服のまま寝ていた!!


恋参謀、激怒:エルミナから**「何かしろ、バカ!!」**の愛の拳骨パンチ炸裂!


何なのよ、フクオカ君! 私の「お持ち帰り作戦」は、彼の究極の紳士的ポンコツさという、宇宙最強のシールドにまたしても阻まれました...!


そして、恋の戦場から、本物の戦場へ!


フクオカ君が命懸けで調べていたジソリアン暗号「ジジキシ」の真の意味が、戦闘突入直前に判明!


その意味は「狩宴」!


敵はクル=ポクの仇討ちではなく、ハナ大将を生贄として、3倍の戦力と二隊の伏兵で待ち伏せしていました!コロンニャ星系要塞への突入は、完璧な罠だったのです!


敵の背後からの第一射で、第7艦隊は壊滅の危機。ハナ大将は、この絶体絶命のピンチをどう乗り切るのか!?


完結に向けて疾走、毎日 朝8時更新です!


ご感想、スタンプ、「フクオカが『願い』を使うなら今?」予想、そして「狩宴」を打ち破るハナの次の一手など、どんな些細なものでも大歓迎です! もしよろしければ、評価やブクマをお願い致します。 レッツログイン、ボタンぽんっ!


(ひろの)

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― 新着の感想 ―
甘々シーンから、緊迫シーンの落差がもの凄いですね。 ここをどう切り抜けるか楽しみです。
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