第15話 水族館デートはおあずけ!?
第二部 零七の奇跡
本章は、ハナの受難が待ち受けます。
ですが、第一部の冒頭を忘れないでください。
この話は彼女の”難易度低めな片思いが成就”する物語です。
第7艦隊執務フロアの幹部区画、廊下の交差点、そこにどんよりとした重苦しい空気が漂っていた。
そこに、この重苦しさの要因が壁から覗き見る形で、ある一点を見つめている。
エルミナとフクオカが「ジジキシ」について情報交換をしていた。
「……。ストップ、フクオカ。この話は後にしよう。」
「あ、待て。話の途中だが。」
「緊急事態だ。私では収められそうにない。お前の出番だ。
ハナちゃんは水族館か遊園地に行きたがっていた。
この情報料は高いぞ。後払いでいい。」
「え?」
「じゃ、フクオカ。その情報について精査した内容を共有して。」
そういうとエルミナが、資料を押し付けて、自分の執務室に向かって歩いて行った。
フクオカが恐る恐る振り返る。
廊下の角からバレバレな状態で盗み見ているハナがいた。
そこからどす黒い瘴気が立ち込めているようだった。
「あ、提督?こんにちは、どうなさったんですか?」
極力さりげなく、挨拶を行った。
ハナはぬるっと廊下から現れて瘴気を放ちつつも、平静な顔で挨拶を返した。
「フクオカ君、こんにちは。最近ずっとエルミナと難しい顔で会話しているけど何か問題でも?」
「あ、ご心配をおかけして申し訳ありません。
実はジソリアンで気になることがあるのですが。
ただ、確証がもてないため、もう少しだけ待っていただけますか?
現状ではただ提督の不安を煽るだけになりそうで。」
(なに?なによ、それ。私だけ仲間外れ?!)
「そう、分かったわ。二人を”信じてはいる”けど、問題が大きくなる前には私にも共有してね。」
「はい。もちろんです。ところで……。」
フクオカは辺りを気にした後、誰もいないことを確認して、少しだけ顔を近づける。
(ひぃあ!?)
「前回は……。その……。僕にとっても消化不良で、できれば、提督ともう一度。
あの……。その…。水族館でも一緒に行きませんか?
セレニャール水族館の巨大銀河イワシトルネードがとても幻想的で。」
(ああぁぁぁぁ!?フクオカ君の方からデートのお誘い!?)
瘴気が立ち消え、まるでハナから清涼な風が吹き出すようだった。
(来週行きたい!明日でも行きたい!いや、今日今から行きたい!
待て待て待て、ハナ。戦場では常に主導権をにぎるんだ!)
「えぇ、喜んで。でも……。再来週の土曜日でいいかしら?」
「はい、もちろんです。楽しみにしています。」
(きゃああああああ!!!!エルミナ!エルミナ!作戦会議よ、作戦会議!)
「私も。じゃあ、失礼するわね。」
ハナが見えなくなってから、フクオカが呟いた。
「エルミナには頭が上がらんな…。」
・・・
・・
バーッン!!
ノックもせずにいきなりドアを派手に開けてハナがエルミナの執務室に飛び込んだ。
エルミナは大口を開けて驚いているが、ハナの顔がこぼれんばかりの満面の笑みだったのを見て悟った。
「ハナちゃん、どうしたの?もしかしてフクオカにデートにでも誘われた??」
「フフ……。わかる?そうなの!次はエルミナが言ってた水族館デート!!」
「おー、よかったですね。水族館は暗い雰囲気だし、自然と手を握れますよ。」
「えー?ほんとー!?!わっ私から握りに行って良い?」
「もちろんですよ。見たい展示に手を引いて誘導するんです。
楽しいですよ!」
「うんうん!絶対に楽しそう!!」
「そうそう、ニャニャーンペンギンの館内お散歩が15時からあります。
可愛いので凄い人だかりになるんですよ。
ぎゅうぎゅうに押し込まれるので、こそっと腕を組んでください。」
「腕も組んでいいの!?」
「はい、その時にさりげなく胸を押し付けてください。
フクオカは純情無垢ムッツリなので、その攻撃に対するシールドは持ち合わせていません。
奴の本体(心)に致命傷を与えることが出来ます。
もうハナちゃんに意識しまくるはずです。」
「な…なんて高等テクニックを?!そっそうだよね。私も大人だし、それくらい誘惑しても!」
「はい!効果てきめんです。あいつ絶対エッチですから!」
「どどどどどどっどうしよう?スイッチが入っちゃったら?」
「な・り・ゆ・き・に、身を任せなさい!」
「は、はぃー!!」
「で、いつですか?」
「再来週にした。それまでに完全諜報と、今週末は、リハするよ!エルミナ!」
「え?この年でハナちゃんと二人で水族館ですか?高くつきますよ?」
「問題ない!何でも買ってあげる!」
「契約成立です!土曜日に水族館の魅力を叩き込んで差し上げます。
もちろん、近くの雰囲気の良いカフェ情報だってオマケしますよ。」
「エルミナ!頼りにしている!」
・・・
・・
「明日がリハ日ですね。服装とか助言要りますか?」
「もちろん!恋参謀、完璧なのを頼む!」
「はい、えっと……。」
ピコンっ!
その時、指令本部からのメッセージ到着音がハナの端末から鳴った。
「……。嫌だ……見たくない。」
「子供みたいなこと言わないでくださいよ!」
「ふぅ…。あーあ、出撃命令よ。しかも緊急。全クルーに出撃準備を指示して。
出発は来週。フクオカ君を呼んで。今から軍議よ。」
「水族館デートは延期ですね。」
(はぁ……。そうだ。ギリギリ間に合わない。今週末にしておけば行けたかもしれないのに!?)
ハナは両ひざから崩れ落ちて、本気で落ち込んでいる。
「あ……。とりあえずフクオカを呼んでくるので、早く立ち直ってください。」
・・・
・・
「敵は再びコロンニャ星系の国境を越えて侵攻してきました。
今回は略奪ではなく、積極的にコロンニャ星系要塞に対して攻撃を仕掛けてきています。」
「今度は略奪ではないと。」
「はい。そのようです。
トーナのゲートウェイはロックされているため使えません。
スロニーニャ星系のゲートウェイを経由して97日かけて向かいます。
コロンニャ星系要塞は現在籠城中で、相当量の被害を受けるでしょうが、100日程度であれば耐えます。」
「今回はその救援ということね。」
「はい、そうです。敵は主力艦隊の一つ、『放たれる毒針』艦隊です。
第7艦隊とはほぼ互角。
相手のナ=ポダン提督は前回のクル=ポク提督ほどの名声はなさそうです。」
「そこまでは難しい任務ではないかもしれないと。だが油断は禁物ね。」
「はい、それに実は気になることがあるのです。
奴らが頻繁にやりとりしている暗号のようなものがあります。
『ジジキシ、ゼゼゾゾジジゾ』、翻訳機で直訳すると『敵、零七の刃羽』です。」
「今回は私が敵、つまり狙いということ?」
「そうです。もしかするとナ=ポダンはクル=ポクの身内で、復讐戦なのかもしれません。」
「なるほど、なおの事、油断はできないわね。」
「一つ、僕とエルミナが気にしていることですが。『ジジキシ』という言葉です。
ジソリアン語で『敵』は『ジジャ』と発音するそうです。
ですが、『ジジャ』ではなく『ジジキシ』という別の単語を使っています。
これには別の意味も含まれている可能性があります。」
「その意味は?」
「今、調査中です。」
「不気味ね。」
「はい。とにかく、まずは出撃の準備を急ぎましょう。
遅れれば遅れるほどコロンニャで死傷者が出てしまいます。」
「えぇ!では各々、最善を尽くして!」
ハナの一言に二人が敬礼する。
その後、フクオカが申し訳なさそうにハナに声をかけた。
「提督、申し訳ありません。この戦争から帰ったら、水族館に行きましょう!」
「あ、うん」
それを聞いたエルミナが冗談っぽく茶化した。
「フクオカ、そういうの”死亡フラグ”って言うんだぞ。
どうせフラグ立てるなら『戻ったら結婚しましょう!』くらい言いなよ。」
二人して顔を真っ赤にした。
「ばっ……馬鹿なこと言うな!こんな戦いで死んでたまるか!」
「そうだよな、ハナちゃんにプロポーズするまでは死ねないよな。」
いやらしく笑うエルミナにフクオカが焦りながら反論した。
「エルミナ、からかうのは勘弁してくれ。提督にまで迷惑がかかる。」
あまりの高火力な空中戦にハナは目を丸くしてオーバーヒートした。
(ぷっプロポーズ?!)
【あとがき】
『タイトル:提督の「プロポーズ」妄想日誌』
水族館デートは延期!でも、プロポーズフラグが立ちました!?
ハナです!前回の「歴史的敗北」から立ち直れないでいたら、フクオカ君が自らデートに誘ってくれました!
デート場所:暗くて手を握りやすい水族館!
エルミナの作戦:腕組みからの胸アタックで、フクオカ君を致命傷(恋)に追い込む!
完璧な作戦会議を終えた矢先、緊急出撃命令! 楽しみにしていた水族館デートは97日間の戦いの後におあずけになってしまいました…(今週末にしておけばよかった!泣)
しかも、今回の敵はクル=ポク提督の復讐戦を思わせる「零七の刃羽」狙いの艦隊! さらに、フクオカ君とエルミナが調査している謎の暗号「ジジキシ」が不気味に絡んできます。
そして、衝撃のエルミナの煽り!
フクオカ君が「戦争から帰ったら水族館に」と言ったとき、エルミナが「どうせフラグ立てるなら『戻ったら結婚しましょう!』くらい言いなよ」と一言!
フクオカ君が「こんな戦いで死んでたまるか!」と反論したのに対し、エルミナは「ハナちゃんにプロポーズするまでは死ねないよな」と、さらに追い打ち!
(プ、プ、プロポーズ!?)
ハナ大将、大戦を前にして、プロポーズの妄想で頭がオーバーヒートしています!
水族館デートは延期になりましたが、結婚フラグという最高の一手をゲット! 97日間の大航海の先に、勝利とプロポーズは待っているのか!? そして、「ジジキシ」の真の意味とは…?
毎週日木 朝8時更新!
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(ひろの)




