第12話 誤送信にはお気をつけください
「ハナちゃん、司令部から帰還命令が出たよー。」
「エルミナ、職務中は”ちゃん付け”禁止!」
「いいじゃん、提督室には私とハナちゃんしかいないんだし。」
「でも、私、エルミナの上司よ?評点下げて減給とかもできるんだから。」
「わ、また出た。パワハラだ!」
「いやいや、軍規の乱れを正して、正常な人事評価をするのは上司の役目!」
「あ~、もう、恋参謀もやめちゃおうかなぁ。」
「いや~エルミナ様、冗談です。またご助言下さい。」
「うむ。上下関係をわきまえてくださいね。」
「エルミナ、恋ハラだぞ、それ。」
「とにかく、ニャニャーンに戻ったら作戦開始です。」
「ようやくだね。コロンニャにはあの作戦を実行できるようなお洒落な戦場がなかったからなぁ。」
「そうですね。それにやはり決戦はホームでやるべきです。
その方が奴も”お持ち帰り”しやすいはずです。」
ハナの猫耳がパタパタと動く。
「ハナちゃん、その癖、やめた方が良いです。
興奮しているのがバレバレです。
恋愛は駆け引き。戦場と同じです。」
「戦場……。」
「はい、感情を見せた方が負けます。」
「なっなるほど……確かに戦場と変わらない。
そして相手は策士のフクオカ君。
感情を読まれたら勝ち目がない。
きっとお持ち帰りされる前に退却されるっ!」
「はい、その通りです。最近ハナちゃんも分かってきましたね。
恋愛年齢が15歳から16歳くらいには上がった気がします。」
「ン………。評価低すぎない?」
「ハナちゃん、結構自己肯定感は強めなのね?
傷つくかと思ってちょっと高めに言ったんだけど。」
「……。リアルな評価は聞くのやめとく。」
「とにかく、早く帝都に帰りましょう!」
「えぇ!」
・・・
・・
「ハナてーとく!荷物の運び入れ手伝うよ!入るからね。」
コロンニャ星系要塞内の居住区、仮執務所を引き払い、彼女の旗艦に荷物を運び入れる必要がある。
その手伝いにエルミナが現れた。
「ありがとう」
そして、遠慮がちにフクオカが覗き込むようにドアから顔を出した。
「しっ失礼します。僕もエルミナに駆り出されました。」
「ふっフクオカ君!?」
「重い書類が多いからね。男手は必須でしょ!
ほら、フクオカぼーっとしてないで、そこの書類を片っ端から運びだして。」
「もちろんです。……が、エルミナに言われると何かカチンと来るな。」
(フクオカ君優しい……好き好き)
「フクオカ君、ありがとう。」
「え?あ……いえ。当然です。お任せ下さい!!」
そう言うと、俄然張り切って、テキパキと片づけをし始めた。
その姿をよそにエルミナが近づき耳元で囁いた。
「ニャニャーンまでは100日弱、それぞれ別の船で指揮を執るからね。
中々会う口実をつくれないよね。しっかりフクオカ成分を充電しておきなよ。」
(充電?!充電?!フクオカ君の香水……。あぁん、100日も会えないのやだぁ……。)
「……エルミナ……、相変わらず気が利く!!これ、あげるから持って行って。」
「あ、サンクス!フクオカ―!このお菓子セットはあたしの船に運んでー!」
「それは自分でやれ!」
・・・
・・
第7艦隊はコロンニャ星系要塞の軍港から発進し、母星ニャニャーンを目指す。
辺境から帝都への帰還であるため、ゲートウェイを経由しても100日の道のりであり、途中星系軍港には寄港するにしても、その間は1月ほど、直接会いづらい。
もちろん、同艦隊内のため、通信は可能であり、場合によっては、個人端末を使ったパーソナル通信も可能である。
ちょっとした遠距離恋愛と言ってもいい。航行中においても、艦船付属ビークルを使えば旗艦同士の行き来も可能で会うこともできる。そこまで深刻な遠距離ではなかった。
国境内の内地を進むため、敵襲の恐れは極めて低い。
ハナとエルミナはこの間も(恋の)作戦立案に余念がない。
ぴこんっ!
エルミナの端末にハナからメッセージが届く。
『ねぇ、フクオカ君の香水ってMaison Étoileの奴だよね?
Silent Valorかな?Morning Accordかな?』
「既読スルーするとめんどくさいから返事しとくか。」
『多分Silent Valorです。
洗いたてのリネンのような清潔感に、ほんのりとしたホワイトティーとアイリスの甘さを重ねた香りがしました。で、それが何か?』
ぴこんっ!
「はやっ」
『やっぱりそうだよね!!欲しい。部屋の片隅に匂わせて、いつもフクオカ君を感じていたい。』
「……。恋してるねぇ。ふふふふ。」
『次の星系基地で手配しときます。』
ぴこんっ
『ありがとう。今度何がほしい。欲しいものが有ったら言ってね。』
「勝手に貰っていくので、気にしてもらわなくていいです。スタンプで締めよ。」
ぴゅこ。(スタンプ送付音)
・・・
・・
ぴこんっ
乗艦ニャルローレッドのフクオカの執務室。フクオカ中将が仕事中に彼の個人端末にハナからメッセージが届いた。
「ん?提督から??」
『どう、これ可愛いかな?似合う?』
そこには私服を着て恥ずかしそうに笑うハナの写真が添付されていた。
いつも通り清楚な感じを出しながらも、そこまで主張しない可愛さが浮き出ており
ハナのセンスの良さが分かる。
「ぷっ……。エルミナ宛を誤送信したか?提督、たまにそういう所、抜けてるからな。」
送られてきた私服をじっと見つめるフクオカ。
「これが、提督の私服か………。とても綺麗だ……。
いやいや、誤送信を伝えよう。覗き見たみたいになるからな。
いや、待てよ。『とても可愛いです』と一言添えるべきか?
いやいやいや、それは送られた側は気持ち悪いだろう。
だが『誤送信です。』と素っ気なく返していいのか?
待て待て待て。」
ぴこんっ
しばらくしてもう1通メッセージが届く。
『ど………どう……かな?』
そこには、エルミナと一緒に選んだ、勝負下着を身につけて、顔を真っ赤にしているハナが映っていた。
「ぶふっ!!」
思わず噴き出すフクオカ。
「てっ提督、なんてものを送信してるんだ!!待て、既読にしてしまった。
どどどどどうしたらいい?!」
フクオカは震える手で個人端末を握り締め、個人ビークルに向けて走り出した。
そのまま、心配する兵士を無視して、エルミナの旗艦パファルーニャまで乗り継いだ。
そして、その足でエルミナの執務室まで走る。
フクオカの態度をみて、兵士達はとんでもない非常事態が発生したのではと緊張した。
ドンドンドン!
「フクオカだ!入って良いか!?」
「え?あぁ、いいぞ。」
顔を真っ赤にしながら息を切らせて入ってきたフクオカにエルミナは恐る恐る尋ねる。
「なっ、何があった?」
「はぁはぁ、僕にとって……人生最大の非常事態だ。」
「?!」
「これを……。」
ロックを解除した状態で個人端末をエルミナに手渡した。
エルミナがそれを確認する。
「ぶふっ!!……やらかしてる!よりによってフクオカに。あはははははは!!!
ある?こんなこと!?あはははは!!」
「わっ笑いごとじゃない。ぼっぼっ僕はどうしたらいい?教えてくれ。
もうお前にしか頼れない。」
「フクオカ、しっかり既読になってるけど、やっぱりお前ムッツリだったんだな。」
「ちっ違う、見ていない。」
「何色だった?」
「水色……いや、違うんだ!ちょっと目に入っただけだ!!」
「あはははは。分かってるよ。あははは。お前も災難だったな。
私がちゃんと消して、取り繕ってやるよ。この貸しは大きいけどな。」
「頼む。」
「本当に消して良いんだな?後悔しないな?」
「………………………………後悔……………しない」
「滅茶苦茶考えたな?あははは。このムッツリめ。消したよ。
ちゃんと私が消えたのを確認した。
中身を見ずに私の所に相談にきたから、私が消した。
この作戦で行こう。」
「恩に着る。今度、何でも欲しいものを1個奢る。それでいいか?」
「契約成立だ。」
その時、外から声が聞こえる。
「えっエエエルミーナーーーーーぁぁ!!」
「ハナさん?!フクオカ、隠れろ!!」
「あ!?」
フクオカが会議机の陰に隠れた。
ばん!!!勢いよくドアが開いてハナが飛び込んできた。
涙と鼻水で見るに堪えない。
「やらかした。私はやらかした。今から自害する!
でも怖くて引き金が引けない。エルミナ、代わりに撃ってくれ。」
「いやいやいや、待って待って。嫌ですよぉ。
それじゃあ上官殺しで私が軍事裁判で死刑です。」
「でもぉ、でもぉ………。もう死ぬしかないの、死ぬしかないの。」
「あ、待った待った。銃を下ろして。えっと聞きました。
フクオカから聞きました。誤送信ですよね?
見る前に消したそうです。あいつは紳士です。」
「ほ……ほんとに?」
「ホントホントです。」
「ぐすん、ぐすん。私死ななくていい?」
「はい、死ななくて良いです。はい、良い子だから銃を渡して。」
エルミナがハナから銃を奪い取る。
「フクオカ君、なんて言ってた?」
「ビックリして既読にしたけど、何も見てないそうです。」
「よかった……よかった……。
でも、なんでフクオカ君の香水の匂いがするの?」
よろよろと会議机の方に向かうハナ。
「あっハナさん、ストップ。」
ハナと隠れているフクオカの目が合った。
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」
目を丸くするフクオカをよそに、大声で悲鳴を上げたハナはそのまま崩れ落ちて気を失った。
「・・・よほどショックだったみたいね。気を失ったわ。
ここにあんたは居なかった。夢をみていただけ。
あんたは画像を見ずに、すぐに消した。
そして消えているのを私が確認した。
この貸しは好きな物1個ではなく3個。
それでいい?」
「構わん。すまないエルミナ。提督の看病を頼む。
個人端末を預けておく。パスコードは“●●●●”だ。
提督に画像が消えてる証拠を見せておいてくれ。
3つ、好きな物をそこから買え。
遠慮はいらん。」
フクオカは逃げるように立ち去った。
「ハナちゃん、ポンコツすぎるよ…。
フクオカもご愁傷様。
でもおかげで私は3個もお礼してもらえる。
始めから遠慮なんてしないよ。
何買ってもらおうかなぁ?車とぉ……」
その後、ハナは気を取り戻したが、しばらくエルミナの看病が必要だった。
100日の航海は、ドタバタの内に、あっという間に終わった。
【あとがき】
『タイトル:提督の自害未遂日誌』
まさか…フクオカ君に「勝負下着」を誤送信!?
ハナです!宇宙軍大将、最大の失態を犯しました!
エルミナに送るはずの勝負下着の写真を、まさか、まさかのフクオカ君に誤送信!
絶望のあまり、私は自害を決意…(しかし怖くて引き金が引けず)。
そして、フクオカ君はエルミナの艦まで飛んできて、**「人生最大の非常事態だ」**と大パニック!
フクオカ君は「見ていない」と紳士的な嘘(ただしムッツリ疑惑)!
エルミナは「消した」と証拠隠滅!
私は卒倒して記憶が曖昧!
もう、この100日の航海、何がなんだか!
さて、次は帝都ニャニャーン!
いよいよ、**「お持ち帰り作戦」**の決戦の地です。
ハナは、この大失態を乗り越えて、フクオカ君とのデートで愛の告白(?)にたどり着けるのか?
フクオカ君の「願い」とは一体何なのか?
毎週日曜日 朝8時更新!
ご感想、スタンプ、「フクオカ君は本当に見ていないのか?」など、どんな些細なものでも大歓迎です!
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(ひろの)




