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第一話 鉄道襲撃

 異世界人がこの世界に現れて、三十五年が経った。彼らは《恩恵ギフト》と呼ばれる特別な力と、「科学」という未知の知識を携えていた。その力と知識によってこの世界は急速に発展した。しかし、それに伴い「もつ者」と「もたざる者」の二極分化が進んでしまった。


 ◾️


 貸切の酒屋に五人の傭兵達が椅子に座って、依頼主を待っていた。

 彼らは情報屋から「金になる仕事」ということだけを聞いて、この酒屋に集まっていた。誰もが胡散臭さを感じながらも、期待と警戒を胸にこの場にいた。


「十年は遊んで暮らせる金額の報酬、だが依頼内容は現地でしか教えられない。なかなかに怪しい。……まさか地雷ってことはねぇよな?」

 顔に大きな傷がある傭兵が呟く。

「さぁ、それはわからないが、情報屋の目はギラギラしていたぜ。仲介手数料もかなりの額と踏んでいいだろうな」

 年季の入った鎧を着た傭兵が答えた。


 そのほかにも、仮面をつけた者、片腕がない中年の女、年端もいかないような子供がいた。

 この場に集まった者は皆、戦場で暴れ回っていた猛者ばかりであった。


 すると、酒屋の二階から階段の軋む音がした。誰かが降りてくる。傭兵達の視線が一斉に階段へと向かった。

 姿を現したのは、短剣を携えた細身の男だった。高めに留めた外套の襟が彼の首元を隠していた。彼は鋭い目つきで傭兵達の顔を一人一人、丹念に見渡していく。


 そして、男は無言のまま傭兵達を一望できる位置に移動し、話し始めた。

「今日はよく集まってくれた。情報屋を通して皆を集めたアレンというものだ」

 男はそう名乗り、顔に笑みを浮かべた。しかし、その目は冷たく、何ひとつ感情を映していなかった。


 少し間を置いてアレンが言葉を続ける。

「早速だが今回の依頼について話そう。今回君たちにやってもらいたいことは『鉄道襲撃』だ」

 その言葉に空気が一瞬で凍りつく。


「鉄道を……襲う?」

 仮面をつけた傭兵が小さく呟いた。

「……そうだ。標的は今夜、ルシナから王都に向かう予定の便だ。積み荷は食料品、それとちょっとしたおまけだ」

 アレンが頷きながら答える。

 傭兵達は互いに顔を見合わせ、重い沈黙が流れる。


 それもそのはず、鉄道は今や流通の要であり、それを掌握しているのは貴族達だ。

 その利権を巡っては、貴族同士でさえ激しい争いが繰り広げられている。

 それを襲撃するということは、すなわち貴族への反逆を意味する。捕らえられれば、最も軽い罰でも終身の監獄送り、最悪の場合は処刑されてしまう。

 いかに数多の修羅場を潜り抜けた傭兵達であっても、尻込むのは当然であった。


 そんな空気を察したのかアレンが口を開く。

「聞いた以上、君たちはこの依頼を拒否することはできない。もし降りるというのなら組織総出で始末する」

 アレンは外套の襟元に手をかけ、無造作にそれを引き下ろした。

 彼の首にはタトゥーが彫り込まれていた。

 そのタトゥーには、王冠を貫く一本の矢が描かれ、その下に鋭い筆致で《ARROWアロー》と刻まれていた。

 《ARROWアロー》——裏社会ではその名を知らない者はいない。非人道的な手口で知られている悪名高い犯罪組織の名だ。


 傭兵達は互いに目配せをして、全員が依頼を受ける意思表示をした。

「そうか、賢明な判断をしてくれて良かった。無駄な血が流れずにすむ。それじゃあ、今から作戦の概要を説明する」

 アレンは少し安堵したような表情を見せ、腰に差していた巻物を取り出す。傭兵達に集まるよう指示し、巻物を酒屋の木のテーブルに広げた。


 そこには地図が描かれており、鉄道の線路、地形、周囲の村などが事細かに記されていた。

 アレンは地図の一点に指を差し、説明を始めた。

「ここは、王都とルシナのちょうど中間に位置する峡谷地帯。線路がカーブしており、速度が落ちる箇所だ。周囲には集落もなく、監視の目も薄い」

 傭兵達が静かに地図を覗き込む。

「ここに爆薬を仕掛ける。鉄道が通過する瞬間に起爆。爆破で車輪を脱線させ、列車を停止させる。止めることができれば、第一段階クリアだ」


「……爆薬は用意しているのか?」

 一人の傭兵が尋ねた。

「あぁ、《ARROWアロー》の手で、すでに現地に運ばせてある。爆薬の扱いに慣れた者が一人同行する予定だ」


 アレンは手早く巻物をしまい、視線を傭兵達に向ける。

「爆破の後、君たちは速やかに列車を制圧し、積み荷を確保してもらう。抵抗する奴は始末しても構わない。そして、積み荷の制圧が完了したら狼煙玉を撃ち上げろ。絶対に積み荷の中身には手を出すなよ。特におまけには。詳細は現地で伝える」

「……おまけ?」

「そう、とても貴重な物だ。横取りなんて考えるなよ。命が惜しいと思うのなら」

 アレンは無表情でそう言い放ち、移動を開始した。


 ◾️


 ——爆破地点


 傭兵達は少し緊張した面持ちで鉄道が来るのを待っていた。

 アレンは懐中時計をボケットから取り出し、時間を確認する。

「もうそろそろ鉄道がこの地点を通る時間だ。持ち場につけ!」

 アレンの一言で皆が爆破地点から少し離れた位置に移動し、その場に伏せた。


 カタン…カタン…

 微かな振動が、地面から伝わってくる。

「来たか……」

 アレンが低い声で呟く。

 徐々に振動と音が大きくなっていく。


 シュウ……シュー……ガタン

 蒸気を吐く黒い鋼鉄の車体が前方に光を投げながら、峡谷の暗闇からその姿を現す。

 爆破地点まであと数百メートル。


 アレンは懐中時計を再び取り出す。そして目を細めながら秒針を追い、カウントダウンを始めた。

「十秒……九……八……」

 傭兵達は沈黙を保ち、地面に伏せたまま視線を列車に向ける。

「三……二……——零」

 その瞬間、爆破地点から凄まじい光と轟音が巻き起こり地面が揺れた。

 ガシャアアアアアンッ!!!

 車体から煙と火花が吹き上がり、レールが捻じ曲がる。先頭車両が傾きながら軋んで止まる。脱線はしたが、転覆はしていなかった。第一段階クリアだ。


 アレンは時計を閉じ、無言のまま立ち上がった。

「行くぞ」

 アレンの言葉と共に潜伏していた傭兵達が一斉に動き出した。黒い影が爆破の煙を突き抜け、列車へと殺到する。


 ここからは一方的な蹂躙と言っても過言ではなかった。情報屋のコネを通じてアレンが集めた傭兵達の実力は凄まじいものだった。戦争帰りの猛者だけあって、彼らは対人戦に長け、どんな窮地でも冷静に判断する能力がずば抜けていたのだ。


「敵襲―ッ!」

 護衛の叫びが列車内に響く、だがその数秒後には物言わぬ骸と化した。

 列車の窓に赤い血飛沫が飛び散り、護衛達の悲痛な叫びと苦痛の声が四方八方から聞こえてくる。

 そして、それとは対照的に淡々と命を刈り取っていく傭兵達。彼らは何の感情も抱かず、ただ流れ作業をするだけの機械のようだった。


 それから一時間も経たないうちに狼煙玉が上がった。積み荷を確保した合図だ。

 アレンは急いで狼煙が上がった方角へと駆ける。万が一にもおまけを奪われないようにするため。


 傭兵全員が積み荷の前で待機していた。その中には疲労を隠さず、その場に座り込む者もいた。

「よくやった。今から積み荷の中身を精査していく。外の見張りを頼む」

 アレンはそう言い残し、ランプ片手に積み荷の中に入っていった。


 十数分後、彼は無言で戻ってきた。

「おまけは回収できたのか?」

 仮面をつけた傭兵がアレンに尋ねる。

「ん……?あぁ、おかげさまで無事に回収することができたよ。」

 アレンの表情が一瞬歪んだが、すぐさまいつもの仮面の笑みに戻った。


「さて、みんなお疲れ様。今回の依頼はここまでだ。後日、情報屋を通して報酬が支払われる。これにて解散だ」

 アレンから依頼完了の旨が傭兵達に伝えられ、現地解散となった。

 鉄道襲撃が終わり、現場に漂っていた緊張と殺気は次第に薄れていった。


 傭兵達は疲労を感じながら、各々の道に歩き始めた。

 そしてアレンも一通り自分の痕跡が残っていないかチェックをして、現場を後にした。


 ◾️


 アレンは暗い森を抜け、ひらけた広場へと出た。ここは見晴らしよく、人も滅多に来ない場所だった。彼はそこで立ち止まり、静かに声を発する。


「……いつまで隠れているつもりだ」

 その言葉に対する返事はなく、風が葉を揺らす音だけが響いた。


「お前がついてきているのは知っている。仮面の傭兵」

 そう言ったアレンの声には、わずかな怒気が感じられた。


 すると、暗い森の中から仮面をつけた傭兵が姿を現した。

「いやぁ、まさかバレてるとは思わなかったよ」

 傭兵は少しばつが悪そうに頭を掻きながら言った。


 アレンは彼から距離を取り、鋭い視線を彼に向ける。アレンの手は腰の短剣の柄を握り締めていた。その様子を見て、傭兵は両手を軽く上げ、慌てたように言葉を続ける。

「おいおい、別に何か悪さをしようと思って後をつけたわけじゃ——」

 傭兵の言葉が終わる前に、アレンが凄まじいスピードで彼の仮面めがけて斬りかかった。

 傭兵は一瞬反応が遅れたが、すかさず後退する。しかし、刃は仮面を裂いていた。仮面が割れ、素顔が晒される。黒い瞳をした男だった。


「やはり、貴様……入れ替わっていたな。いつからだ!」

 アレンがものすごい剣幕で問い詰める。

「あちゃー、バレちゃったか。いつからって、酒場の時からさ」

 男は飄々とした口調で答える。


「本物はどこにいる!」

「さぁ、今頃は土の中で寝ているんじゃないか?」

 アレンは無言で、腰からもう一本の短剣を抜いた。

 その瞬間、空気がガラリと変わった。

 怒気と殺気がアレンの全身から滲み出ていたのだ。

 アレンは二本の短剣を構え、今度は仮面ではなく、男の首を狙って斬りかかった。


——


 アレンと仮面の傭兵——グレイは旧知の仲だった。かつて《ARROWアロー》の任務で互いの背を預けて戦った間柄だ。二人ともスラム街出身という共通点があり、すぐ打ち解けた。今でも時折、一緒に酒を酌み交わす仲である。


 アレンが始めに仮面の傭兵に違和感を覚えたのは声だった。

「こんなに声、低かっただろうか?」

 彼はそう感じたものの、振る舞いや体格には変化が見られず、気のせいだと自分を納得させた。


 だが、再び違和感を感じる出来事が起きた。

「おまけは回収できたのか?」という言葉だった。

 アレンはおまけについて傭兵達には「貴重な物」としか説明していない。

 それにも関わらず、一見何も持たず積み荷から出てきたアレンに対して、迷いなくその質問を投げかけたのは不自然だった。


 この二つの違和感がアレンの中で疑念へと変化した。そして、それが彼の予想外の行動につながった。

 アレンは人目がつかず、かつ戦いやすい開けた場所へ仮面の傭兵を誘導し、あえて疑いを確かめるように鎌をかけたのだ。

 おまけについて気にしていた素振りがあったため、アレンは仮面の傭兵が後をつけてくると踏んでいた。

 その判断は正しく、仮面の下から現れたのはやはりグレイではなかった。


——


 アレンが間合いを詰めてくると同時に、男はブツブツと呪文を唱え始めた。

「——氷槍」

 アレンの刃が男の首を裂こうとしたその瞬間、男の詠唱が終わり、五本の氷の槍がアレンを襲った。

 氷の槍はアレンの進撃を阻み、距離を取らせる。


「チッ、魔法使いか。面倒だな……」

 アレンは舌打ちをし、再び間合いを詰めようとする。しかしそのたびに男の詠唱が終わり、氷の槍を放ってくる。

 アレンは始め何度も攻撃を仕掛け、男の魔力切れを狙っていたが、先に自身の体力の限界が来ることに気づく。アレンの予想より男の魔力量が多かったのだ。


 それならばとアレンは一か八かを賭けることにした。

 アレンは一本の短剣を男の胸めがけて投げつけた。詠唱に集中していた男は気づくのが遅れ、肩に直撃してしまう。それにより一瞬詠唱が途切れ、魔法発動がワンテンポ遅れる。そのワンテンポがアレンの攻撃を許してしまった。男の首まであと数十センチというところまで刃が迫る。


「よし、とったぞ!」

 アレンが叫んだ。


 しかし、その直後、氷の槍がアレンの体を貫いた。

「なんで……、詠唱は……まだ……」

 口から血を流しながらアレンが呟く。

「詠唱?俺が無詠唱で魔法を使わないとでも思ったのか?」

 無詠唱——使いこなすのが極めて困難なため、実戦ではまず使われることのない高等技術。

「く…そが…」

 アレンはそう言い残し、こと切れた。


 男は肩に刺さった短剣を引き抜き、地面へと捨てる。

 そしてアレンの遺体を漁り、白い箱のようなものを奪い取る。

 箱を開けると中には指輪が入っていた。

「これが、神器ねぇ。ただのアクセサリーにしか見えないけど。まあいいか、俺の任務はこれを回収することだからな」

 男は箱を胸ポケットにしまい、踵を返す。


「さて、長官に報告しに行きますか」

 そう呟き、男は闇の中へと姿を消した。

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