話は短めでお願いします
「私は、数日前に生きることを止めた。そして、勇者と聖女を召喚する為に、全ての魔力を使った。夜明けには私の体は、消えているだろう。」
アンドレアは、ちょっと散歩に行ってくるよ。という感じで穏やかに言った。
「それは、命をかける程この国を守りたかったからでしょ!」
「違う、逆だよ。この国を滅ぼす為に命を使ったんだ。」
アンドレアは、小さくため息を吐いた。
「少し長くなるけど、昔話をしようか?この世で、私が話す最後の相手になってくれ。」
私が最後?ホントに?恐い、聞きたくないなぁ…
「あの、、話は短めでお願いします。」
「ク、クク、わかった。なるべく短めでね。」アンドレアは、乾いた笑いを浮かべた。
私は、パサパサなクッキーを冷めた紅茶で流し込んだ。
「国王と前王妃のナタリアと私は、幼なじみでね。政略結婚が当たり前だが、二人は子供の時から両思いだったんだ。身分も釣り合い、問題がなかった。しかし、ナタリアは体がとても弱くて、子供を産むのは難しいと云われていた。でも彼女は反対を押しきって第一王子を産んだんだよ。無事に産まれたけど、彼女は起き上がれない程体を壊してしまった。私は毎日、彼女に回復魔法をかけて、ポーションを飲ませていた。それも気休めにしかならなかったけどね。そんな時に、隣国と揉めて、私に仲裁にあたって欲しいと、国王にお願いされたんだ。交渉相手も私となら話し合いに応じると云ってきた。仕方なく、隣国に行くことにした。代わりの魔術師を用意し、治療を頼んで出掛けたんだ。
帰って来たら、ナタリアは亡くなっていた。1日遅かったんだ。国王は私を責めたよ。「なぜ、ナタリアの側を離れたんだ!なぜもっと早く戻らなかったんだ!」とね。国王は耐えられなかったんだろう。誰かのせいにしなければ。私も、私が離れなければナタリアは…っと自分を責めたよ。
それから国王は、少しずつおかしくなっていった。ナタリアに似ている王子を避けるようになった。
そこを利用する者がいた。現王妃の父である宰相だ。自分の娘を王妃にし、第ニ王子を誕生させた。そこで、第一王子が邪魔になってくる。何度も暗殺を試みるが、私が防いでいた。ナタリアの子供だからね。必ず守ってみせると。だが、私の領地に大量の魔物が、発生した。村一つが、壊滅する程だった。直ぐに王子を信頼していたメイドと魔術師に頼んで、領地に向かった。
いつもなら、いないはずの大型化した魔物達が、暴れまわっていた。様子がおかしいのは、目を見れば直ぐにわかった。魔道具で操られていたんだ。操っていた魔術師を捕らえ、魔道具を破壊して、何とか魔物を全て討伐した。
なぜこんなことをしたのか、魔術師を吐かせたら、宰相の仕業だったよ。
まずい!王子が!と思った時、王子が亡くなったと報せを受けた。嗚呼!嗚呼!何てことを!私は、怒りと悲しみと身体中が沸騰する程の憎しみを抱え、王城に戻った。
そこで見たのは、大袈裟に泣き叫ぶ滑稽な王妃、薄ら笑いを浮かべる宰相、何も理解出来ず、唯、呆然とする国王がいた。自分の息子が、死んだことさえ分からなくなっていた。ああ、ここまで国王は、心を壊されていたのか!宰相に!ナタリアの死で弱っていた国王に呪いをかけ、王子を殺させた。
「ええ!国王が、王子を殺したの?
「ああ、メイドに渡されたお茶をそのまま王子に飲ませたんだ。毒入りだと知らずにね」
「知らなかったなら、国王は悪くないんじゃない?」
「知らなかった。分からなかった。で済むはずがない。
王子を殺したのが、国王でなければいけなかった。国王が、我が子に手をかけた。そんなことを発表できるはずがない。国を混乱させないため、王子の死は、不慮の事故だと発表された。
死を追及させない為に、宰相が、国王を利用したんだ。そして自分の孫を国王にする為に。自分がこの国を手に入れるため。」
「どうして宰相を許してるの?誰も宰相を捕まえようとしないの?」
「宰相に意見をいうもの、反発する者は、もう殆ど残っていない。亡き者にされ、貶められ身分を失くした者が、大勢いた。次は自分の番かと恐れ、みな口をつぐんでいる。
誰もが、自分の命はかわいい。責めることは出来ない。
国王に毒入りのお茶を渡したのは、私が信頼していたメイドだったよ。娘を人質に強迫されていたんだ。
苦しんでいるのを気付いてあげられなかった。その後メイドは、、
残されたのは母親を失った小さな娘だけだ。
自分の欲の為、どれだけの人を犠牲にするんだ。恐ろしいのは、魔物ではなく人間だよ。本当にこの世に絶望したよ。生きる意味を失った。」
アンドレアはその時のことを思い出しているのか、感情を持たない人形の様な眼をしていた。
この眼を知っている。
数年前の私だ。両親を一度に失くし、好きだった人に裏切られ、泣きすぎて、涙が枯れて生きることさえ手放そうとしていた私の眼だ。