消滅
大通りの裏道を入ると一軒の小さなバーがある。
ここに店が有ると知らなければそのまま通り過ぎてしまうような、目立たない店だ。
まだ開店前だか、マイクカイザーは、入って行った。
カウンターと椅子があるだけの
狭い店内だ。
カウンターの中で男が、グラスを洗っていた。
この店のマスターは、中肉中背で特徴のない顔をしている。街中で出会っても気付かないだろう。
マイクカイザーは、何も言わずその男の前の椅子に座った。
マスターは、いつもの酒を作りマイクカイザーに出した。
マイクカイザーは、酒代にしては多すぎる金貨をカウンターに置いた。
マスターは何も言わず受け取った。
「先月死んだ冒険者のことを聞きたい。」
マスターはグラスを洗い始めた。
洗いながら、
「あんたが可愛がってた若い子か、残念なことだったな」
「あいつを嵌めたのは誰だ?」
マスターは、グラスの汚れを確認しながら、
「名前は、バンゴ。C級冒険者で
ギャンブル依存症の男だ。」
「そいつが、何故、ロイドを狙ったんだ?」
「借金で首が回らなかったらしい。
そこであんたがロイドにやったロングソードに目を付けた。
高く売れたようだな、
出入り禁止になっていた賭場にまた出入りしているよ。負け続けているらしいけどな。」
「そんなことで、ロイドを狙ったのか?」
「依存症の奴っていうのはどうしようもない。その事で頭がいっぱいだ。
早く金になるならなんだってやるさあ」
マスターは、棚に酒を並べ始めた。
「ロングソードを買ったのは誰だ?」
「その賭場をやってる黒龍会の頭だ。
太った醜い男だ。」
「その頭がバンゴにやらせたのか?」
「それはわからん。バンゴが、金の為に売れそうな物を探して目を付けたのか?
頭がバンゴに借金の代わりに要求したのか?俺にはわからん。ただ言えることは
あんたのロングソードを持ってるのはその頭だ。そしてバンゴは、また賭場に通ってる。」
マスターは、酒を並べ続けている。
「その黒龍会と揉めてるのはどこだ?」
マスターの手が、一瞬止まった。
「なぜ、そんなことを聞くんだ?」
「別に、子供は喧嘩をするもんだろ?」
マスターは、また酒を並べ始めた。
「ああ、子供はな┅
黒龍会がいま揉めてるのは、
正道会だ。」
「ふ、正しい道…笑わせる名前だな」
マイクカイザーは、カウンターに追加の金貨を置いた。椅子から立つと
「マスター水が出しっぱなしだ。」
そう言ってそのまま店から出て行った。
マスターは一度もマイクカイザーを見なかった。
それからマイクカイザーは、
ロイドの仲間が入院している病院に寄って、マーサ婆さんの宿ヘ帰った。
その日の夜
一人の男によって、この街から黒龍会が、消滅した。