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みんなキレイになーれ  作者: きのせい
14/26

宿

大通りには、人がいっぱい歩いている。

やっぱり中世のヨーロッパみたいだなあ。行ったことないけど。

外人さんがいっぱいだ。

ん?私が外人になるのか?

まあいいや。早く宿を知ってる人を見つけなくちゃ。


しばらく歩いてると、大きな籠に野菜をいっぱい入れて、ヨタヨタ歩いてる小さな女の子がいた。危ないな…

あ!大きな男の人とぶっかった。

小さな女の子は、転んで籠の野菜が全部転がっちゃた。

男の人は知らんぷりして、そのまま行ってしまった。


私は直ぐに小さな女の子に駆けよった。肩までの茶色の髪で瞳は青い。ベージュ色の綿のシャツに茶色のワンピースを着て、お人形さんみたいに可愛い女の子だ。

小さな女の子を立ち上げて、

「大丈夫?」と声を掛けたら

小さな女の子は、俯いて泣きそうだ。

手の平と膝小僧が擦りむけてる。

「痛い?」と聞いてみた。

小さな女の子は、

「アマトが…」

「アマト?この野菜のこと」

小さな女の子は頷いた。自分のことより野菜が心配のようだ。

野菜の何個かは潰れている。

見た目は、トマトのようだ。

「このアマトは、買ってきたの?それとも売りに行くの?」

「売りに行くの。ダメにしちゃったらおにちゃんに怒られる。」小さな女の子は泣き出した。


「じゃ、これ全部買うよ。だから、

泣かなくてもいいよ。」

「本当に!」

「ホント。」

「やったー!」

小さな女の子は笑顔になった。


「その代わり道を教えてくれる?」

「道?」

「そう!マーサ婆さんがやってる宿を探してるんだけど、知らない?」

「マーサ婆さん?…知ってるよ!家の隣だよ。」


そんなまさか!

「本当に?」

「本当だよ。いつもうちの野菜買ってくれるんだ!」

「そうなんだ。じゃ案内してくれる。」

「いいよ!」


私は、野菜を全部拾って籠に入れて

小さな女の子の手を繋ぐ振りをして、

手の平と膝の傷をキレイにした。


思った通りに、手の平と膝小僧の傷は治った。




少し歩いた所にマーサ婆さんの宿はあった。三階建ての赤レンガの

建物だった。


小さな女の子は、元気よくドアを開けて入って行ってしまった。


え、ちょっと!まって!

私もそーと入ってみた。


そこには椅子に座って編み物をしているお婆さんがいた。白髪を頭の上で結って、ふっくらした体型だ。


「あら、リサちゃん?今日は早いね。

店のお手伝いはもう終わったのかい?」

お婆さんは優しく小さな女の子に話し掛けた。

「終わった!全部この人が買ってくれたの!」

「この人?」


お婆さんは、今私のことに気づいたみたいで、

「あら、いらっしゃい、お客さんかい?」と言った。

「はい!いい宿があると、ここを教えてもらったので、泊まりたいんですが?」

「せっかく来てくれたのに申し訳ないねえ…実はもう、宿は、廃業したんだよ。」

「え!そうなんですか、残念です。」

「すまないねえ…、もうあたしも歳だし、膝を悪くして、階段の登り降りがつらくてね…跡継ぎもいなくなっちゃたし…やめることにしたんだよ。」


跡継ぎもいなくなっちゃたし…?

はて?いなくなっちゃた?

そうなんだ、どうしよう?

探すしかないか…トホホ…


「分かりました。残念ですが、他を探します。おじゃましました。」

「じゃ!リサの家に泊まる?」

「リサちゃんの家も宿なの?」

「違う!うちは八百屋さん!」


ガックリ…

「じゃ無理だよ。案内してくれてありがとう、これ野菜のお金ね。」


私は、リサちゃんにお金を渡して、宿を出た。


う…どうしよう?

宿…



宿の前で考えていると声をかけられた。


「どうした?」


見るとマイク…何とかさんだった。

「ああ、こんにちは。ここの宿を勧められて、来てみたんですが、もう廃業しているみたいで、泊まれないんです。また宿を探さないとなあ…と思ってたんです。」


「廃業?」

マイクさんは驚いてるみたいだ?

マイクさんはそのまま宿に入って行ってしまった。

え!行っちゃた!


暫くすると、中からマイクさんに呼ばれた。

「入ってこい!」


中に入ると、お婆さんが、

「マイクさんの知り合いだったのかい!だったら大歓迎だよ。

廃業したから、食事を出したり、お世話は出来ないけど、部屋は空いてるから使ってくれていいよ!もちろんお代は要らないよ。」

そう言ってくれた。

マイクさんが

「どうする?」と聞いてきた。


「泊まりたいです!」と私は言った。


「じゃ、婆さん部屋だけ貸してくれ。」

マイクさんがそう言うと、

「ああ、いいよ!」

と言いながら、お婆さんはカウンターから部屋の鍵を取ると、私とマイクさんに渡してくれた。

「部屋は二階にあるからね。好きなだけ居ていいよ。」

「ありがとうございます。」

「お姉ちゃん、良かったね」リサちゃんが、笑顔で言ってくれた。

「うん!良かった。案内してくれてありがとうね。」


「うん!」リサちゃんは笑顔だが、ずっと左目を擦ってる。

「リサちゃん、そんなに目を擦ったらダメだよ。どうしたの?」

「目が見えないの…」リサちゃんは困った顔をしてる。


「左目が見えないの?」私は聞いた。

「うん…」

「すぐに病院に行かないと!」

「そんなお金ないから、お医者さんは無理だってお兄ちゃんが…

擦ってればそのうち治るって…」


そんな馬鹿な!

「まあ確かに医者は高いからね…あたしらには無理だよ。安いポーションを飲んで良くなるのを待つしかないよ。」


お婆さんが、悲しそうに言った。


そうなんだ。ここは日本じゃないんだ。すぐに病院に行って治療出来るのが当たり前に思ってたけど、違うのか。

なんだかやり切れない気持ちになる。


私のスキルで何とかなるかな?でもまだこのスキルのことよく分かってないからなあ…

一時的にキレイになるだけかもしれない、また悪くなった時、治してあげられない。

人の体を勝手に何とかしようなんて、

私は偉くない。

けど、ほっとけない。


目が悪いのか、脳からきてるのかわからないけど、やってみよう!



「リサちゃん、ちょっと目を視せてくれる?」

私はリサちゃんの目を覗き込むと、


「目がキレイになるおまじないがあるけど、やってみる?」


「おまじない?」

「うん!一回しか効かないけど、

キレイにならないかもしれないけど、いい?」

「やる!」


「じゃ、目を閉じて、手で目を覆って

そう!そう!そのまま、目の悪いところがキレイになりますように!って言ってみて?」

「目の悪いところがキレイになりますように!」


私は、リサちゃんの目と脳の悪いところ全てが、キレイになるところを想像してみた。


「リサちゃん、もういいよ。目を開けて!」


リサちゃんはゆっくり目を開けると、パチパチと瞬きをした。


「どうかな?」

リサちゃんはキョロキョロと周りを見て、


「見える!すごい!ウアーい!」

リサちゃんは跳び上がって、喜んでる。


良かった。


「おまじないすごいね!」リサちゃんは興奮して言った。

「たまたま、効いただけだよ。

それに一回しか使えないんだ。」


「一回?」

リサちゃんはしょんぼりした。

でも仕方ない。いつも効果があると勘違いしたら大変だ。


「そう。一回だけ。」


しょんぼりすりリサちゃんをお婆さんが抱き締めた。

「一回でも、治って良かった良かった。もう転ぶんじゃないよ。」

「うん!もう転ばない。こんなによく見えるんだもん!ふふふ!」




マイクさんは何も言わず黙って見ててくれた。














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