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15/18

#15 別ルート

 さて、私がエーリッヒ様の魔導砲専任の算術士となって、半年ほどが経った。

 しばらく帝国軍の動きはなかったが、ここにきて急に動き出したという情報が入る。

 それが意外な方向からの侵攻ルートであったため、王国軍の総司令部内では連日、その意図を探ろうとしていた。

 ルスラン帝国と我がラインベルク王国との間には山脈が立ちはだかるため、帝国が我が王国へ入り込むルートは2か所しかない。

 一つは、これまで何度も戦闘を繰り返してきたルート。ブルメンタール村近くにある峠で、王都アルトシュタットへ攻め込むにはこちらのルートが最適で最短だ。

 大軍が動くのに有利な広い道が多い上に、整備された橋がかけられ、ノルトバッハ鉱山近くの高台をはじめとしてあちこちに橋頭保とすべき地形があるため、攻める側としても動きやすい。

 対してもう一つは、フォレストハイムと呼ばれる森を抜けるルートだ。こちらにも峠があり、その先に大きな森が広がっている。

 が、フォレストハイムは深い針葉樹が密集しており、曲がりくねった狭い道が通る、大軍が動くにはあまりにも不利な場所だ。おまけに、王都へ向かうには大回りで、およそ帝国の侵攻ルートになりえないと考えていた。

 が、そんな不利な場所に、三千もの大軍を向かわせているというのだ。

 ちなみに、フォレストハイムの森の中には、フォレストハイム城という小さな城がある。

 小さな軍事拠点ではあるが、狭い進路を進む帝国軍をその城から魔導砲で各個撃破していけば、敵の侵攻を阻止することができる。

 ということで、我々は一週間後に、そのフォレストハイム城へと向かうことになった。


「何か、策があるのでしょうか?」


 私は地図を眺めながら、広大な森のうねった道と、その間にポツンと存在するフォレストハイム城を眺めてそう言った。


「なあに、フォレストハイム城にはすでに500の兵と5門の魔導砲、30門の火薬大砲があるから、容易には通り抜けられない。そこに僕らが到着すれば、あっという間に形勢逆転だよ」

「その通りです。ですが、そんなことくらい、敵にだってわかっているはずです。なのにどうして、こんな攻めにくいところを選んだのでしょうか?」

「正攻法のルートを、古代遺跡の技術でもって攻め入っても、撃退されてしまったからだろう。帝国も正攻法では歯が立たないと、ようやく気付いたのだろう」


 とエーリッヒ様はおっしゃるが、本当にそうだろうか? 正攻法が無理なら、こちらのルートの方がもっと勝ち目がないと考えるものだろう。それほどまでに、攻めにくいルートなのだ。

 なにやら、悪い予感がする。帝国のやつらめ、何を企んでいる。

 そんな不穏な情報が流れる中、こちら王都は平和なものだ。


「ハンナ! 今日も(わたくし)たちの魔導砲訓練に付き合っていただきますわよ!」


 103魔導砲隊の訓練が終わり、帰ろうかと思っていたところでデイジー様に呼び止められる。その後ろからは、エリザベート様が走ってくる。

 変な人たちに、目をつけられてしまったな。どうして私がこの方々の魔導砲訓練に付き合う必要があるのやら。共鳴数も弾道計算もデイジー様おひとりで可能だし、私に力仕事など不可能だから、このお二人の魔力に見合った、私の体重とほぼ同じ重さ40タウゼ・シュレベの魔導弾を持ち上げることすらできない。


「今日は、4次共鳴数で行きますわよ!」

「えっ? 4次共鳴数ですか?」

「それならば、重さが4分の1で飛距離も伸びるのでしょう?」

「ですが飛翔中にその魔導弾は暴発し、四散するがおちです」

「それよそれ、その爆発するタイミングがはっきりすれば、帝国がまた飛行兵器を繰り出してきても撃ち落せるようになるのよ」

「それはそうですが……」

「ですから、破裂するタイミングを測るのです! それが分かれば、王国のためになりますわ!」


 といって、何と重さ10タウゼ・シュレベほどの弾をたくさん用意する。えっ、本気でやるの?

 簡単に言うが、2次共鳴数以上の魔力を込めるのは危険だ。砲身内で暴発する場合や、発射直後で暴発することもある。要するに、不安定なのだ。

 だから2次以上の共鳴数を使用することは、原則的に禁止されている。先日のあれは非常時だったから行っただけで、平時に訓練でやるものではない。


「重さ、12タウゼ・シュレベですわ」

「4次共鳴数、29.2ですわね」


 デイジー様自身が撃たれるようで、デイジー様の持つ魔力値321から4次共鳴数がはじき出された。それをダイヤルにセットし、魔力を込める。

 が、20秒ほど経過した時だ。突然、デイジー様がお倒れになる。


「デイジー、大丈夫!?」

「は、はい、ちょっとめまいが……」


 よく考えたら、あの伝導石に17秒以上触れるのは危険だというのは常識だ。

 が、そこでふと私は思い出す。

 そういえば、飛行兵器を落とした際、エリザベート様はとんでもない共鳴数で魔石への魔力充填を行っていた。そう、たしか40を越えていたような。

 それだけ長い時間、伝導石に触れていながら、よく倒れなかったな。

 まさかとは思うが、エリザベート様は長時間、魔石に触れても平気な体質なのか?

 そこで私は、計算尺を取り出す。エリザベート様の魔力値は145だから、12タウゼ・シュレベの弾の4次共鳴数は……


「エリザベート様ならば、4次共鳴数、43.4になります!」


 私はそう叫ぶ。


「えっ、(わたくし)に撃てとおっしゃるのですか?」

「通常、18以上の共鳴数は禁じられております。理由は、今のデイジー様をご覧になれば分かります」

「そうよね、20秒以上を耐えられる魔導師なんていないって、よく聞くものね」

「ですが前回、エリザベート様は共鳴数40以上で弾を放たれました」


 それを聞いたデイジー様は、まだ若干ふらつきながらもこう叫ぶ。


「な、なんですって!? (わたくし)、20秒ほどでめまいが起こりましたよ、どうしてエリザベート様がそれほど長い時間、伝導石に触れられるのですか!」

「さ、さぁ、(わたくし)にもさっぱりですわ。ですが、言われてみれば、そうでしたわ。なら、やってみる価値はありそうですわね」


 このお方は、40秒以上の共鳴数を試すつもりらしい。ダイヤルを43.4に合わせて、そこに炸裂石用の0.1秒を加えた後、エリザベート様は伝導石に手を触れる。


「さて、行きますわよ!」


 そこからエリザベート様は伝導石に手を置く。10秒、20秒、30秒……不思議なことに、エリザベート様は平然としたままだ。

 そして40秒を越えたあたりで、砲身が一気に火を噴く。


「すごいですわ、あの時のように猛烈な速度で飛び出していきましたわよ!」


 それはそうだ。初速度が4倍、毎秒248ラーベの速さで飛び出したのだ。45度で撃ち出したので、飛距離は6300ラーベほどだ。

 が、しばらくすると空中で炸裂してしまう。3分の1の2000ラーベほどで砲弾は破裂してしまった。やはり、4次共鳴数は不安定だ。

 前回はどうだったか……たしか、高度1500ラーベのところを真上に放って、その手前で爆発したから、この間の場合は1500ラーベだったと思われる。

 ということは、500ラーベも違うのか。結構ずれが大きいな。しかし、エリザベート様は構わず次弾を装填している。


「次は11タウゼ・シュレベね!」

「えっ、まだ撃つんですか!?」

「当たり前でしょう。そのために来たんだから」


 共鳴数を計算すると、41.6となる。再び、40秒過ぎに弾が発射される。


「いやあ、すごい勢いですわ!」


 本人は感動しているが、私は別の意味で感動している。よくもまあ伝導石を40秒以上も触れて、平気でいられるものだ。

 が、今度の弾は少し長めに飛び、3000ラーベを越えたあたりで破裂した。さらに次の弾は4000ラーベまで達するも破裂。6300ラーベ手前で必ず破裂するものの、その法則性は見いだせない。


「これほどばらつきが大きいと、ちょっと兵器として使いづらいわね」


 ようやく元気を取り戻したデイジー様が、そう呟く。


「あら、デイジー。(わたくし)の魔力が使い物にならないと?」

「いえ違います、エリザベート様。やはり4倍共鳴数で放った弾がいつ破裂するかを予測するのは不可能だと申し上げたのです。それよりもです」

「なんです?」

「どうしてエリザベート様は、20秒以上も伝導石に触れていて平気なのでございますか? エーリッヒ様でも18秒で限界だとお聞きしましたよ」

「どうしてと言われても……なぜなのでしょうね?」


 まあ、本人の体質としか言いようがないな。しかし、共鳴数40を越えられるのならば、今以上の弾を撃つことも可能だということだ。

 私は、計算尺を滑らせてみた。


「エリザベート様、もしも1次共鳴数である46秒間、伝導石に触れられるならば、質量220タウゼ・シュレベの弾を撃ち出せることになります」

「えっ、ほんと!?」

「つまり、エレオノーレ様の倍近い重さの弾頭を撃ち出せます。ただし、飛距離は400ラーベほどと火薬大砲とほぼ同じ程度の飛距離ですが」

「ちょっと待って、(わたくし)ってば、そんなとんでもない力を持っていたの!?」


 いや、力ではなく体質といった方がいい。40秒も伝導石に触れて平然としていられるその体質が、特殊なだけだ。

 どうして前回、この特異性に気づけなかったのだろう? 飛行兵器に夢中で、この特異体質のことに全く気が回らなかった。が、これはとんでもないことである。

 エリザベート様の思わぬ一面を、発見した砲撃訓練だった。


「へぇ、エリザベートがねぇ」

「確かに共鳴数40越えはすごいよねぇ。僕なら倒れてるよ」


 いや、エーリッヒ様が40以上の共鳴数を出さなきゃならないほどの魔導砲と魔導弾自体が存在しないんですけど。今でも十分、他の追随を許さないほどの力なんだから、それ以上を求めるのは贅沢というものだろう。


「エリザベートなんて、(わたくし)の3分の1の魔力値しかないというのに、生意気ですわ」

「まあ、いいじゃないか。敵が王都にでも攻めてこない限り、エレオノーレもエリザベートも、魔導砲を撃つことはないだろうし」

「そういえば、出発は明後日でしたわね」

「そうだよ」

「ということは、この貧弱な胸に触れるのも明日までということですか。名残惜しいですわね」


 といいつつ、私はい・た・した後のお二人に囲まれて、なぜか胸を揉まれ続けている。


「あの、お気づきではないかもしれませんが、このお屋敷にきて私の胸は、ちょっとだけ大きくなりましたよ」

「確かそうよね。でも、ほんのちょっとだけよね」

「うん、ちょっとだけだ」


 そのほんのちょっとが、私にとってはうれしい。なんと言われようが、綿を詰めなくても何となく服に膨らみを出せるようになってきた。たとえそれが、硬い軍服であっても。

 などと浮かれていたその翌日のこと。


「おい、ハルツェン二等兵!」

「はっ!」

「貴様、最近たるんでおらんか!?」

「お言葉を返すようですが、私は体力はある方ではありませんが、たるんでいるどころか、むしろ以前よりは強くなったかと思われます」

「違う! お前、まるで女みたいな体形になりつつあるぞ! それがたるんでいるのではないかと言っている!」


 私を見て、隊長のリューベック大尉が怒りだす始末である。女みたいだって、私は元より女だ。そういう体形になっても問題ないだろう。どこか腑に落ちない言われようだ。


「確かに、どこか色っぽくなったな」


 そう言い寄ってくるのは、シュタウフェンベルグ少尉だ。最近この砲手は、私の身体をいやらしい目で見ている気がする。


「えっ、何ですか少尉、いやらしい」

「何いってるの、毎晩、エーリッヒ様と寝てるんだろう?」

「いや、寝てますが、エレオノーレ様もご一緒だし、私はせいぜいお二人からいじられてるだけの存在ですから」

「へぇ、まだエーリッヒ様とはやってないんだ。とっくに使用済みだと思ってたよ」


 使用済みって……私はモノか。まあいいや、この方も一応、貴族家の一人だし、私自身も貴族の平民への辛辣な表現には慣れている。


「でも絶対にエーリッヒ様なら、ハルツェン二等兵を側室に迎えるつもりだと思ってるんだけどなぁ」


 ところがこの砲手は、さらにとんでもないことを言い出した。


「そ、それはないんじゃないですか。だって私、平民ですし」

「何いってるの、陛下から『ラインベルクの双璧』とまで言われてた二人じゃないか。しかも毎晩、寝床を共にしてるくらいだし、当然、側室として迎えるものだと思ってたけど」

「その前に、女として見られてるかどうかすら怪しいですよ」

「そうかい? 隊長が嫉妬するほど、女らしくなったくらいだし、そっち方面もそろそろ自信を持った方がいいよ」


 と、言いたい放題言われた。しかし、隊長が嫉妬? どうして私が女らしくなると、嫉妬されるんだ?


「あの、隊長が嫉妬って、どういうことです?」

「そりゃ嫉妬するだろう。だって隊長、エーリッヒ様のお気に入りになろうと頑張ってるのに、二等兵である君に負けっぱなしだ。おまけに君の魅力がさらに上がったら、ますます嫉妬しちゃうだろう」


 驚いた。まさか男の人にから嫉妬されることになるなどとは、考えたこともなかった。それ以前に、嫉妬の対象になること自体、想定外だ。どおりで隊長の私への風当たりが強いなぁと思ってたが、それはそれで、軍隊なんてそういうものだと思ってたから、あまり気にしたことはない。

 で、その翌日、我が隊はフォレストハイム城に向けて出発する。およそ4日の行程だ。

 平坦な道ではない。途中から坂道になり、殺風景な荒れ地を越えて、そして深い森に入る。およそ人の通る場所ではない。

 そんな中を、私は馬車に乗っている。


「いやあ、森の中にあるそのお城、楽しみだねぇ」


 殺伐とした荒れ地をがたがたと揺れる馬車で通る中、エーリッヒ様がそんなことを呟く。


「えっ、だって、ただの針葉樹の森が広がるだけの殺風景な場所だと聞きましたよ」

「そういう殺風景な場所って、王都の近くにはあまりないじゃないか。かえって珍しいよね」


 能天気というか、好奇心旺盛というか、ともかくこのお方はいついかなる時も前向きである。

 我が隊の他の隊員は皆、歩いている。唯一隊長だけが馬に乗っており、それ以外は4頭の馬が引く魔導砲の脇を歩く。唯一、私だけが隊員の中で馬車に乗せられているのだ。


「そろそろ、森が見えてきたな」


 エーリッヒ様が、馬車の左側の窓から外を指差す。なにか、刺々しい木々がうっそうと茂っているのが見えてきた。

 あれがフォレストハイムか。だが、フォレストハイム城自体はそのさらに奥にあると聞く。森の中を丸1日行軍した先に、その城はある。

 聞けば、帝国軍3千はすでに国境を越え、フォレストハイムの森の道に入り始めたと聞く。しかし、たとえ3千の兵士がいたとしても、フォレストハイム城から細い路地を行軍する間に狙い撃ちされて、手酷い被害を受けるだけではないだろうか。

 ましてや、我々が到着すれば、なおのこと形勢は帝国軍にとって不利になる。長射程のエーリッヒ様の魔導砲が、狭い道をかいくぐって進む帝国軍に向けて放たれたなら、全滅は確実だろう。

 いくら考えても、帝国軍に勝ち目はない。

 なのに、どうしてこんな不利なルートを選んだのか?

 そのことがずっと、私の中でモヤモヤしている。


 その不安が形となって現れたのは、そのフォレストハイムの森を少し進んだあたりだ。

 突然、王国軍の前進が止まる。


「あれ、行軍が止まったぞ?」


 我が魔導砲隊の前には1千の兵士らがいる。後方にも1千。ちょうど2千王国軍の中間に我々がいるのだが、その前方の1千の兵士たちが歩みを止めたのだ。

 妙なこともあるものだ。何かあったのだろうか?


「なんだって? 落石?」

「はい、大きな岩が、森の中の道をふさいでおります」

「まさか、帝国軍が?」

「わかりません。確かにそこには崖があって、その岩が崩れて落ちてきたものと思われますが……」


 どうやら道をふさがれてしまったようだ。困ったものだ、これでは兵士らはともかく、巨大な魔導砲は前に進めないじゃないか。


「困ったものだな。もうすぐフォレストハイム城が見られると楽しみにしていたのに……」


 残念の仕方が、並みの兵士たちとは異なる方向を向いているエーリッヒ様が馬車を出て、そう呟く。前線の兵士たちによれば、なんとかそれを砕いて先に進めないかと思案しているところだという。


「でもさハンナ、ふと思ったんだけど」


 と、エーリッヒ様が何かを思いついたらしい。


「はい、なんでしょう?」

「岩が道をふさいだ、ということは、それ自体が帝国軍の侵攻を食い止めることになるんじゃないかと思ったんだけど」


 と、エーリッヒ様がおっしゃる。ああ、確かにその通りだ。兵士たちだけならともかく、魔導砲や火薬大砲の類いは通れない。三千の兵士が来たところで、強力な武器を持ち込めなければ攻め込まれたところで大した脅威ではない。

 それならば、フォレストハイム城の兵すらも引き上げて、森の入り口付近の荒れ地で陣を張って、敵が現れ次第、攻撃する方が楽ではないか。

 王国軍の指揮官である王族の将軍も、そのエーリッヒ様の意見を聞いて、同意する。


「ということで、いったん後退することになった。そこで帝国軍を迎え撃つ準備に入ろう!」


 そう、エーリッヒ様が叫んだ、その時である。

 森の木々の間から、何かが飛んでくる。

 ビシビシと音を立てて飛んできたのは、その速さから明らかに銃弾だ。だが、並みの銃弾ではない。

 なんというか、その弾痕が大きいのだ。通常のマスケット銃よりも大口径の銃、そんなものが森の中から放たれた。


「重騎兵、集まれ!」


 この攻撃を受けて、分厚い甲冑に身を包んだ重騎兵らがエーリッヒ様を取り囲む。が、その重騎兵の囲いの前に、一人の兵士が姿を現す。

 帝国軍兵士の軍服を着たその人物は、手に持った銃をこちらに向ける。そして、一撃放った。

 狙いは、エーリッヒ様だ。それを一人の重騎兵が身を挺して阻む。が、銃弾はその分厚い鎧を着た重騎兵の身体を貫き、弾はエーリッヒ様に達する。

 エーリッヒ様の右肩をかすめ、後ろに倒れる。それを見た帝国軍兵士が、さらに弾を撃つ。

 ちょっとまて、弾の装填が早すぎないか? マスケット銃なら、次の弾を撃つまでに普通30秒はかかる。が、この兵士はすぐに次の弾を撃ってきた。

 幸い、身体を撃ち抜かれたあの重騎兵がまたしても身を挺してその弾を受けとめる。その銃弾は重騎兵を貫いたが、エーリッヒ様には当たらなかった。

 その瀕死の騎兵が、渾身の力で剣を抜き、その帝国軍兵士に切りかかった。やつは3発目を撃とうとしていたが、それを放つ寸前で、重騎士の剣によって斬り倒された。

 が、二発の銃弾を受けたその騎兵もついに力尽き、その場で倒れる。重騎兵と帝国軍兵士、両者の大量の血が地面を染める。

 いや、それどころではない。エーリッヒ様だ。致命傷ではないと思うが、エーリッヒ様にも弾が当たった。


「エーリッヒ様!」


 倒れたエーリッヒ様は、意識を失っておられる。右肩からは、血が流れている。それを見た兵士の一人が、どこからか布を持ってきて縛る。


「エーリッヒ様、エーリッヒ様ぁ!」


 私の叫び声もむなしく、エーリッヒ様は立ち上がる様子がない。意識を、失ったままだ。

 はめられた。帝国軍の狙いは、最初からエーリッヒ様ただ一人だったようだ。

 それから我が王国軍は、気を失ったままのエーリッヒ様をつれて王都に引き返すしかなかった。

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