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#1 魔力測定

 この世界には、魔力という存在がある。


 その魔力を最大限に発揮できる「魔導砲」と呼ばれる兵器が発明され、あらゆる国で実用化されて、戦争のやり方は一変した。

 それまでは、魔術師は詠唱して己の魔力を物質に変換し、大勢の敵にそれをぶつけることで迫る軍勢を次々となぎ倒してきた。が、火薬の発明によって、火縄を使った火縄式銃から、火縄を火打石に置き換えたマスケット銃の発明、そして火薬による大砲が発明されて、魔術師は生身のままでの戦いで苦戦を強いられるようになる。

 そこで、魔力をルナストーンと呼ばれる魔力を封じ込める性質を持つ鉱石に流し込み、それを撃ち出して魔力そのものを破壊的力に変換する方法が編み出された。それを放つ兵器こそが、魔導砲である。

 魔力の大きい魔導師ほど、その力は絶大である。従来は火や水といった魔力属性も武器としての要素ではあったが、今や魔力の量、魔力値の高さこそが魔導師の価値を決める。

 そして今、通常の10倍を超えるほどの魔力値を持つとんでもない魔導師が現れた。

 が、この魔導砲にその膨大魔力を使うには、今の時代に存在する計算尺では算出できない。魔力が高すぎるがゆえに、今の計算尺よりもひと桁大きな計算が必要となったためである。

 しかしだ、私はたまたま、その一つ上の桁を高い精度で計算できる特技を持っていた。それゆえに、その魔術師の力を引き出すことができる。

 「ラインベルクの双璧」と呼ばれる二人は、まさに今、王国を滅亡の危機から救い出すべく、起死回生の一撃を今、放とうとしていた。


「それじゃあ頼んだよ、ハンナ」


 我が王国、いやおそらくは世界一の巨大魔導砲に、大型の弾頭が詰め込まれる。重い尾栓が閉じられ、エーリッヒが私にこう告げた。

 それを聞いた私は、計算尺を滑らせる。

 まずは測量士から得た目標までの距離と風速の情報を基に砲の方位角の計算を終え、それを伝える。


「仰角44.3度、左7.2度!」


 先ほど入れたルナストーンの重さに、エーリッヒが持つ最大魔力。その魔力とルナストーンが共鳴し、最大の飛翔力と破壊力を生み出すことのできる魔力装填時間、通称「共鳴数」を正確に計算する。

 計算尺の目盛りが止まる。計算尺のカーソル線が、目盛りと目盛りの間で止まる。通常の魔導砲の共鳴数であれば、近い方の目盛りを読み近似すればよい。

 が、エーリックの魔力は文字通り「けた違い」だ。つまり、目盛り間の見えない対数値を正確に読み取らなければ、彼の魔力は発揮されない。

 そんな私は、この目盛りの間にある値を、正確に読みとれる。


 砲が目標へ向けられている間に、私はそのもっとも計算精度が要求される共鳴数の算出に入る。わずかでも狂えば、この巨砲はその力を発揮できない。弾頭の重さとエーリッヒの魔力値を計算式にあてはめ、メモに書き留めながら計算尺を滑らせる。

 そして私は、算術結果を叫ぶ。


「共鳴数、14.72!」


 私が読み上げた数値を聞き、砲手がダイヤルを回す。と同時に、エーリッヒが伝導石を通じて魔力を込める。共鳴数の示したその約14秒の後、ぱちんと音を立てて、設定された時間通りに伝導石が機械仕掛けによって弾かれる。

 と同時に、エーリッヒの強大な魔力を得たその巨砲が、猛烈な爆音とともに火を噴いた。


◇◇◇


 話は、半年ほど前に溯る。


 私の名は、ハンナ・ハルツェン。軍属として、ラインベルク王国の魔力測定所で働く。階級は二等兵。

 隣国であるルスラン帝国との戦争で、家族と故郷を失った。3千を超える帝国兵が、国境近くにあった我が故郷、ブルメンタール村に襲い掛かってきたのだ。建物はすべて焼き尽くされ、村はほぼ全滅した。その中には、私の父母兄弟も含まれる。

 が、数人が辛うじて帝国軍から逃れ、王都にたどり着く。そこで私は家族の仇を討ち故郷を取り戻すべく、軍へ志願し教練所へと入る。が、軍人にはなれたものの、算術能力の高かった私は「魔力測定」をさせられる羽目になる。

 この国で魔力を持つお方といえば、代々貴族のみである。平民でも魔力を持つ者が現れるが、魔力値の高い家系の者同士が政略結婚を通じて、より高い魔力を持つ子が産み出され続けた結果、強大な魔力を持つ者といえば貴族ということにこの国ではなっている。

 当然、平民出身の私には魔力などかけらもない。つまり、ゼロだ。ただ、計算尺により早く正確な算術を行えるというその特技だけで、女ながらもどうにか軍で働くことができた。


 つい二十年ほど前までは、剣、槍、弓矢、そして貴族の放つ魔導によって戦いが行われた。火、水、土、風といった属性はあるものの、それをより強い魔力で生み出し敵にぶつけ、敵を倒す。敵陣が魔導によって混乱したところを、魔力を持たない平民による兵士が突撃し、敵を撃ち破る。そんな戦いが、かれこれ数百年続いてきた。

 が、今や兵士が持つ武器が弓矢から火薬式の鉄砲や大砲に代わり、それに対抗すべく貴族らは「魔導砲」と呼ばれる兵器にその魔力をこめ、戦う時代となった。

 魔導砲とは、名前の通り魔力を強大な力へと変換する砲だ。大砲にはルナストーンと呼ばれる魔力と共鳴する鉱石で作られた砲弾を詰め込み、それをラピシディアンと呼ばれる魔力伝導石で魔力を送り込み、発射する。属性にかかわらず、魔力を得た砲弾は勢いよく発射され、かつてないほどの破壊力で着弾地点周辺の敵を粉砕する。

 一時は火薬の登場で存在価値を危ぶまれた貴族出身の魔導師たちは、この魔導砲の発明によって再び主導権を握る。これまで攻城戦といえば多数の犠牲を払いながら突撃を強いられる戦いであったが、魔導砲があれば、一撃で城壁や城門を粉砕できる。

 が、当然、その分頑丈な要塞や城壁が作られるようになる。より強大な魔力を持つ者が求められ、それに合わせた大型の魔導砲が作られる。まさにいたちごっこだ。

 その魔導砲の算術士となるべく、私はその得意な算術を活かせるよう勉学に励んだ。が、所詮は女だ。戦場に回されることなく、この殺風景な、ただ魔力量を測定する部署へと回されてしまった。


 魔力の測定方法は、単純である。魔力測定を行う者に、特殊な鉱石で作られたばねを入れたガラスの筒の両端を持ってもらう。すると魔力に応じてばねが伸びる。その長さを計れば、魔力量が分かる。

 このばねと筒は何種類もある。ばねが底付いてしまった場合は測定不能となるため、一段大きなばねの筒に持ち替えてもらう。全部で7種類あるが、私が担当する限り、7種類目の一番大きなばねは使われたことがない。

 魔力は「マジル」と呼ばれる単位でその量を示す。平民では多くても8から9マジル、貴族ならば20マジルを越えて当たり前で、中には600マジルを越えるものもいる。

 が、さすがに1000マジルを越える者は今のところ、現れたことはない。その1000マジル以上を測定可能なのが、あの7番目のばねというわけだ。

 1000マジルを越えれば、今の要塞の壁どころか、要塞中央にある鋼鉄製の司令塔すらも吹き飛ばせるという。そんな化け物の登場を願って用意されたものの、そんな非常識な者が現れるはずもなく、放置され続けている。

 そう、つい今日の、今したがまでは。


「ハルツェン二等兵!」


 と、ガラスの筒が並ぶ机の前の椅子に座っていた私を、上官が呼ぶ。私は立ち上がり、敬礼する。


「仕事だ。7番目の筒を使う」


 ところがこの上官、いきなりそのほこりをかぶった7番目の筒を使うと言い出した。


「あの……いきなり7番目とは、どういうことでしょう?」

「6番筒では測定不可の方が現れたからに決まっている! つべこべ言わず、直ちに準備せよ!」

「はっ!」


 なんと、これまで使ったことのない魔力測定をやらされることになった。慌てて私はその大きな7番筒を取り、表面の埃を拭いて取り除く。

 で、現れたのは、青い刺しゅう入りの、いかにも高位な貴族様のご子息だ。背丈は高く、金髪で洗練された男性。思わず私は見とれてしまう。


「おい、測定準備はまだか!」

「は、はい、直ちに!」


 大急ぎで私は筒を測定台の上に置く。すると、そのご子息様が私を見てニコッと笑い、こういった。


「ああ、その声、君って女だったんだ。珍しいね、女の軍人って」


 と、随分と失礼なことをおっしゃるが、事実だから仕方がない。それに、よく見なければ、胸の小さい私などは背の低い少年兵と間違われるほどだ。


「それでは、測定を始めさせていただきます。ええと……」

「ああ、僕の名はエーリッヒ・フォン・ハンシュタインていうんだ」

「ではエーリッヒ様、この筒の両端に手を当ててください」


 思わずそう答えた私だが、次の瞬間、背中にだらだらと汗が流れる。

 ハンシュタイン公爵家といえば、三大公爵家の一つだ。つまり、貴族の中でも最上位のお方のご子息、ということになる。いきなり7番筒を指定してくるほどだ、考えてみれば、それなりの血筋であることは当然だ。

 そんな天と地ほどの差があるお方を前に、私はぶっきらぼうに測定指示を出してしまった。いつもは魔力を持った平民か、準男爵程度しか来ないこの測定所に、どうして突然、これほどまで高貴なお方がやってきたのか。実に不可解だ。

 そのエーリッヒと名乗る貴族様は、測定器の両端を手で触れる。すると、これまで誰も動かせたことのなかったあのばねが、勢いよく動き始めた。

 しばらく振動し、やがて止まる。私はそのばねの長さを測るため物差しを当てる。

 その長さからマジルに変換するため、私は計算尺を滑らせる。スケール軸が、目盛りと目盛りの間の中途半端なところで止まる。

 こういう時は普通、近い方の目盛りを読むものだが、冷静に考えたらこの魔力量は桁が違う。正確に測るには、この中途半端な位置の目盛りを正確に読まなくてはならない。

 ところが、計算尺というのは対数軸だ。つまり、目盛りと目盛りの間は等間隔ではない。普通の物差しなら、目盛りと目盛りの中間ならば0.5だ。ところが計算尺は対数軸であるため、目盛りの中間は0.5ではない、ということだ。

 ところが、私にはその対数軸の目盛りの間を正確に読めるという特技がある。

 ついひと月ほど前に軍の算術士大会が開かれ、私は優勝した。それはつまり計算が正確だったからである。勝敗を決めたのは、まさにこの目盛り間を読む力だった。

 私はその目盛り間の値から、このお方の魔力の正確な値を算出する。


「魔力値測定、一回目、7372マジルです!」


 ただ、一度の測定だけでは正確とは言えない。もう一度、測定器に触れてもらい、測る。そして算出する。


「2回目、7372マジルです!」


 これを3度繰り返すが、いずれも同じ値だった。その結果を聞いた上官は、その貴族様にこう伝える。


「この者は二等兵ながら、軍でも一、二を争うほどの正確な算術士であり、今までの算術士と違い、三度とも同じ値を出しております。おそらくこれが、エーリッヒ様の正確な魔力値なのでしょう」

「そうだな。しかも、他の測定所で算術士が弾き出してきた値と比較しても、これが一番しっくりくる数値だよね」


 7番筒くらい、どこの魔力測定所でもあるのが普通だ。しかし、おそらく算術士がへぼすぎて、正確な数値を計算できなかったのだろう。そのためこのお方は、あちこちの測定所を回っていたようだ。なにせ魔力値の桁が大きすぎて、普通の計算尺では目盛り間まで読まなくてはならないほどの、とんでもない魔力値だ。

 が、それを聞いて、上官は頭を抱える。


「いや、それにしても、困ったものでございますな」


 不思議なことを言う。桁違いの魔力を持つことが分かった、それだけでも素晴らしいことだというのに、何を困ることがあるのだろうか? 私は上官に尋ねる。


「この魔力値は、私の知る限り膨大な値です。帝国に大打撃を与えられることは間違いありません。何がお困りなのでしょうか?」


 それを聞いた上官は、私にこう言い捨てる。


「お前も算術士ならわかるだろう! これほど桁違いの魔力値を使う際の魔導砲の共鳴数の、計算の難しさを!」


 この上官のひとことで、ようやく私も理解した。ああそうか、膨大過ぎる魔力は、共鳴数の計算を困難にしている。言われてみれば、その通りだ。

 ところがである、この貴族様はとんでもないことを言い出した。


「何を言っているんだい、ちょうど今、問題が解決したじゃないか」


 それを聞いた上官が、怪訝な表情で聞き返す。


「あの……何がどう、解決されたと申されるので?」

「その困難な共鳴数を計算できる者が、すぐ目の前にいるじゃないか」


 そう言ってエーリッヒ様は、なんと私を見る。きれいな青い瞳をしたこのご貴族様が、背が低くて胸も小さく、しかも平民階級の私にそのまなざしを向けてきた。私には、あまりにも刺激が強すぎる。


「えっ、ちょ、ちょっと待ってください! こいつは女ですよ! まさか女の算術士を魔導砲隊に加えるので!?」

「だが、先ほど軍で一、二を争うほどの算術士だと貴殿は言ったではないか」

「いや、それはそうですが、まさか女に魔導砲の共鳴数算出をやらせるというのですか!」


 それを聞いたこの青年貴族は、急に鋭いまなざしに変えて上官にこう答える。


「前線では、多くの兵士が死線をさまよっている。僕の魔力が活かされれば、戦局は大いに変わる。西方の失われた領土を取り返すことだって、可能になるかもしれないんだ。そんな王国の危機を前に、女かどうかなんて、こだわっていられる状況ではないのではないか?」


 そう上官を恫喝したエーリッヒ様は、私の方を振り向く。そしてにこりと笑みを浮かべ、こう言った。


「さて、私の役に立ってもらおうかな、算術士、ハルツェン二等兵殿。」


 そのさわやかすぎる笑顔を前に、私は無言で、ただ敬礼で応えるしかできなかった。しかもこの公爵家のご子息様、エーリッヒ様は、とんでもないことを口走る。


「しかし、こうしてみると可愛い顔してるよね、君」


 そんな言葉をかけられたことは、生まれてこの方、一度もない。平民ではごく普通の娘に過ぎないが、貴族様から見ると違って見えるんだろうか?

 いや、この「可愛い」という言葉は、あれだ。愛玩動物に向けられる言葉と同じ意味だ。天と地ほどの身分さがある私は、貴族様から見れば愛玩動物のようなものだ。

 とまあ、こうして私は、魔力測定所から魔導砲の算術士に転属されることとなってしまった。

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