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復讐のために悪女を演じた令嬢の幸せ

作者: ざっく

クラヴリー公爵家は、王家に並ぶほどの財力と議会での発言権を持っていた。

その権力の強さを危険視した王と、当時の当主が話し合い、次期当主には、力のない平均的な貴族の中から娘を娶ることにした。

力を削ることが目的の政略結婚だったが、クラヴリー公爵も、その息子、マティアスも過分な力を求めていなかったので、円滑に、成婚となった。

さらに良いことに、マティアスと、結婚相手の子爵令嬢クラリス・テオーは、政略結婚とは思えないほど仲睦まじかった。

お互いに想い合っていて、結婚するために力を削ぐためなどと、わざわざ理由をつけたのではないかと揶揄されるほどだった。

しかし、公爵家と子爵家。

公爵家は力が削がれるが、テオー子爵家は思わぬ縁談に沸いた。権力の分散のためならば、我が家に権力が与えられるのだろうと勘違いをした。

公爵家と付き合うためだと、身の丈に合わない品を買い求め、借金を繰り返したのだ。

テオー子爵が、結婚で収益が増えることがないと気が付くのと、クラリスが実家の惨状に気が付くのはほぼ同時だった。

――そうして、クラリスは最悪の判断をした。

マティアスに、借金を隠したのだ。

実家の恥を知られたくなかった。嫌われたくなかった。煩わしいと思われたくなかった。

彼を愛していたがゆえに、隠してしまった。

家格の差による負い目が、クラリスの判断力を奪ってしまった。

自分の名前を使って、借金を返済するための借金をした。それも返済できずに、別の借金を繰り返した。

貴族令嬢として社交とマナーしか学んでいなかったクラリスには、到底返済できるはずもなかったのだ。

あっというまに借金は膨れ上がり、クラリス・クラヴリーの名前だけでは借金が出来なくなった。

お金を貸してくれた貴族は言った。

クラヴリー家の情報を渡すだけで、月々の返済はなくてもよいと。

クラリスは絶望した。

マティアスに嫌われたくない一心だったのに、それが最悪の結果になった。

クラリスは、全ての事実を手紙に書き遺し、湖に身を投げた。

自分の名前で借りた借金だから、自分がいなくなれば、無くなると思ったのだ。

・・・・・・そんなわけがないのに。


――ごめんなさい。無知で、なにもできない妻で。



愛しています。


彼女の書置きは、謝罪と共に申し訳なさそうに愛の言葉を添えていた。

まるで、自分がマティアスを愛してしまったことが罪であったかのように。


後の調査で、クラリスが借りた金は全て利息の支払いに充てられており、元本が全く減っていない計算だった。

なんとも質の悪いところから借金してしまったものだ。

最初の借金は、クラヴリー公爵家であれば簡単に支払える程度の金額だった。

しかし、弱小貴族だったテオ―子爵では無理だった。

公爵夫人の生家を没落させ、クラヴリー公爵家の権力をさらに落とそうとした貴族が起こした詐欺だった。

実に幼稚で、すぐに露見する杜撰な詐欺だ。

だからこそ、それに引っかかったクラリスは、被害者にもかかわらず、嘲笑の的になった。


詐欺は確たる証拠がなく、クラヴリー公爵家はその力を落とした。


◇◇◇



「ねえ・・・・・・?私と遊んでくださるのではないの?」

ルシアは、艶やかな唇を尖らせ、大きな瞳で男を見上げた。彼女の豊かな胸が寄せられてさらに強調される。

男が迷うように視線を逸らすのに合わせて、彼女は拗ねたように体をくねらせ、柔らかな体を摺り寄せた。

「そうだな。……あー、だが、少し顔を出す必要があって」

シガールームを指さすと、彼女はさらに顔を輝かせる。

「あら!お友達?私にも紹介してくださらないの?」

そうしたら、もっと楽しいことが出来るかもしれないわ。

そっと耳元で囁かれ、男はごくりと唾をのむ。

しかし、仲間以外の人間を、今、あの場に連れていくとなると……。

「俺の一存では無理なんだ」

迷いながらも、断りを入れようとした途端、

「あら。なんだ、つまんない。だったらいいわ」

さっきまで男に媚びていた顔は、あっという間に白けて大きなため息を吐く。

あっさりと身をひるがえす女に、男は焦る。

今日こそは、寝室に連れ込めると確信していたっていうのに、ここで別の男のところに行かれてはたまらない。

「待てよ。――くそっ、まあ、いいか。お前と俺の仲だしな」

男はルシアを離せずに苦し気に言う。独り言のように呟き、大丈夫だと自分に言い聞かせているようだった。

「うふふっ。嬉しい!愛してるわ」

男はにやつき、彼女の細い腰を抱き寄せた。

細い腰に豊かな胸と尻。艶やかな金髪に大きな青い瞳。艶やかな唇に透き通るほどに美しい肌。

ルシアは男の夢を体現したような姿をしている。

男は、彼女をシガールームに案内した。

いつものメンバーが集まる違法薬物を楽しむ場だ。

「さあ、楽しもう」

男はルシアに手を伸ばす。

ルシアは、その手を避け、笑いながらもの珍し気に室内に入っていく。

「おい。何勝手に連れてきているんだ」

「いいだろう?ここにあるもの、俺がどれだけ金を出していると思っている?」

男たちが幾人か言い争っているが、ルシアにそんなことは関係ない。

無邪気にあちこちを見て回っている。

室内にいる人間は、彼女の体を舐めまわすように眺めるが、ルシアは気が付いていても気にせずに動き回る。

たまに伸びてくる手を蝶が舞うように交わしながら嗤う。

「ふふ。私に触っていいのは、最高のものをくれた人だけよ?」

こんな場で、まだ高慢な態度を取る公爵令嬢に、彼らは嘲笑する。

そんなことを言っても、彼女はこの部屋から美しいまま出ることは叶わないのに。

「どこに行くんだい?ここに座れよ」

声をかけられ、ルシアは一番奥の机に座り、妖艶に微笑む。


「――そうね。ついにここまで来たわ」


彼女の言葉と共に、大きな破裂音が響き渡る。

何が起こったのか、その場にいる人間たちには、すぐには理解できなかった。

ルシアが机の横にあった椅子を振り上げ、外に放り投げたのだ。閉じていた窓が粉々に割れ、椅子が外に飛んでいく。

彼らが呆然としている間に、ルシアは机の中から綴じられた書類を掴み、さらに外に放り投げる。

「てめえっ・・・・・・!何をしてやがるっ」

貴族とも思えぬ声をあげて男たちがルシアに向かってくる。

ルシアは腕を掴まれ、床に引き倒される。

彼女は、ホッとしたように微笑み、後は何の抵抗もしなかった。

ルシアを捕まえていない男たちは、書類を追いかけようとして――

そこに警備隊が突入してきた。

「ルシア、証拠は大切に扱ってくれ」

困ったように微笑みながら部屋に入ってきた彼女--ルシアの兄、ウイリアムは、放り投げた書類を数枚、しっかりと受け取っていた。

警備隊は、あっという間にルシアを拘束していた男も、全員を捕縛していった。

誰一人、逃げることは叶わなかった。

「終わったわ」

ルシアが泣きそうな顔で笑うと、ウイリアムも笑った。



悪名高きルシア・クラヴリー公爵令嬢は、その日いなくなった。

母、クラリスが亡くなった日から、ルシアは復讐をすると決めていた。そのために、悪女のふりをしていた。

兄、ウイリアムと父、マティアスは、ルシアを溺愛する演技だ。

本当に、愛してはくれているから、そこは演技ではないのだけど、『溺愛するあまり甘やかしすぎて、我儘に育ててしまった。ルシアが何を望んでもその通りにして、公爵家の潤沢な資金さえ底をついても、娘の言いなり』・・・・・・という演技だ。

――現実は、すっごく厳しく育てられたけれど。

愛情の裏返しとか言いながら、滅茶苦茶、家庭教師つけられたが、そのスキルのおかげで潜入までできたのだと思おう。

奔放で金遣いの荒い公爵令嬢。

ルシアを狙って、奴らは近づいてきた。

彼らは、甘い言葉で近づいて、ルシアをギャンブルに誘う。どんどんとはまらせて、最後には金をむしり取っていく。

テオー子爵も、『公爵家と親族になるのならば、これくらいは』という言葉に踊らされ、借金を繰り返したのだ。


――許さない。

母に、信じて相談してもらえなかった自分への怒りも全部、あいつらに向く。

ルシアはまだ幼かった。父は忙しかった。兄に負担をかけたくない。

そんな母が思ったのであろう想いにすがりながら、自責の念にかられる――なんて、そんなことをするのは今じゃない。

あいつらを地獄に落としてからだ。


そうして、詐欺を暴き、全てが終わった。


◇◇◇


ルシアは、普段は絶対しないほど走っていた。

ルシアを見かけた使用人たちはみんな目を丸くした。

「お兄様!」

バタンと大きな音がするほど強く、ノックもせずにドアを開けた。

「ルシア?」

兄、ウイリアムが目を丸くしてルシアを見た。

「今、お父様に私の結婚をお兄様が進めていると聞きました!どうしてですか!?私は結婚なんてしません!」

ほんの一月前の妖艶な姿は、今のルシアにはない。

それどころか、必死で背伸びをしていた反動か、少し子供っぽい言動にさえなっている。

艶っぽく男性にしなだれかかる自分に嫌悪した反動だとウイリアムは思っている。

「ああ・・・・・・もう、口止めしていたのに。ルシア、もう終わったんだ。お前は演じなくてもいい」

ウイリアムは、大きく腕を広げて、ルシアを抱きしめるために近づいていく。

しかし、ウイリアムがルシアを抱きしめる前に、ルシアはくるんと回って、その腕から逃れる。

そうして、胸を張って大きな声で宣言をした。

「私は、修道女になろうと思っているの」

予想していた答えに、ウイリアムは、ダメだと首を横に振る。

「ルシア、私たちは、お前を幸せにしたいんだよ」

弱弱しい声に、ルシアはさらにぐいと胸を張る。

「馬鹿にしないで」

彼女の強い口調に、ウイリアムの目が驚きに見開かれるのを満足げに見て、ルシアは笑みを深めた。

「幸せにしたいなんて。私が不幸みたいじゃない。私は今も幸せだし、この先不幸になる予定なんかありません」

高慢にも聞こえる口調で言いきった言葉は、家族への愛情にあふれていた。

「お兄様とお父様が愛してくれているでしょう?私は、ようやくのんびりと生活出来るのよ。あんまり夜会などが多すぎたわ。だから、修道院で普通に暮らすの。そうして、お兄様の子供が出来たら、抱かせてくださる?きっと、とても可愛いわ」

「自分の子供も望んでくれ。私は、お前の子供も抱きたい」

ぺらぺらと、未来の夢を語るルシアを遮って、ウイリアムも言う。

ルシアが今、幸せだと思ってくれているのは知っている。

ウイリアムだって、マティアスだって、この屋敷の誰もが、ルシアを大切に想っていた。

クラヴリー公爵家は、使用人までもが、クラリスを大切に想い、この計画に協力した。

使用人の助けが無ければ、このルシアが『悪女』として名を馳せるわけがないのだ。なんなら、それが本当の事だったとしても、公爵家の使用人が好き勝手に主人の噂を広めていくはずがない。

彼女の計画に協力すると決めた時から、しずかにゆっくりと、確実に噂を広め、犯人に伝えてくれたのは、使用人たちだ。

「お兄様、結婚が女の幸せだと考えるのは、古いわよ」

ルシアはプイっと顔を横に向けるが、ウイリアムは知っていた。

妹が、『結婚』に誰よりも夢見ていたことを。

あの仲睦まじい両親に育てられ、幸せを見せつけられていたのだ。

母は言っていた。

『ウイリアム、ルシア。あなたたちはどんな人を好きになって、どんなふうに私に紹介してくれるのかしら?』

父と結婚してとても幸せだと微笑む母は、世界一美しかった。

『ふふっ。きっと、とても素敵な人よ。だけど、一度は反対させてね?一度反対されたくらいであきらめるような人にはあなたたちを渡せないわ』

困難とも言えないような困難を突き付けて、母は兄妹を抱きしめる。

そんな風に言われて、結婚に夢を見ない少女など居るものか。

「強制的に結婚しろと言っているわけじゃない。しかし、会ってみないと分からないだろう」

ルシアは眉を寄せて黙り込む。

頑なな態度を見せる妹に、ウイリアムは首を傾げて問う。

「会ってみるだけだ。そんなに嫌なのか?」

優しい兄の言葉に、ルシアの目に、うっすらと涙が溜まる。

「だって、私のとの結婚を承諾くださるなんて、きっと、私の手練手管を望んでいるからだわ。どんな夢を見させてくれるんだって、きっと期待しているのよ!」

「誰かから言われたか?」

一段低くなったウイリアムの声に、ルシアは答えられない。

肯定はできないし、否定すれば嘘になってしまう。

「・・・・・・・・・・・・」

「名前を言え。抹殺してくる」

低いウイリアムの声に、ルシアは声を荒げる。

「もう!冗談じゃないのよ」

もちろん、ウイリアムも冗談ではなかったのだが、ルシアにそれを伝える気はない。

「そうじゃないと、私と結婚しようなんて思わないわ。男慣れして、時々気持ちいいことをして、別のところでもお互い楽しんで・・・・・・っていう結婚生活を望まれているの」

夢見ていた結婚ができないならば、苦しい結婚なんてする必要がない。

したくない。

今までのルシアを見ていた人ならば、妖艶なルシアを望んでいるだろう。

それが全く違うと分かれば、失望するはずだ。詐欺とまで言われるかもしれない。

さらに言えば、演じたものの、実際本番はやったことがないのだ。

「絶対に無理よ!頑張って勉強しようとしても、あんなこと、慣れた感じでなんてできないわ!お兄様、練習に付き合ってくださるの!?」

「するわけないだろう!!」

「当たり前だわ!!」

コントのような掛け合いの後、ルシアは肩で息をしながら、真っ赤な顔で俯いた。

「自分の胸を強調しながら体を寄せていって、ピーをピーして、ピーするなんて・・・・・ああ、無理よ!考えるだけで恥ずかしい!!」

「待て!その偏った知識は家庭教師か!?」

ウイリアムは、ルシアの閨の教師を即刻交代させることを決定した。

外部からの人間なので、ルシアの本性を知らない。悪女なルシアに教えたつもりなのだろうが、知識が偏りすぎだ。偏見が過ぎる。

真っ赤な顔をするルシアに、これ以上は話が通じないと判断すると、ウイリアムは後ろを振り返った。


「――ったく、こんなのだが、どうだ?」


どうだ?・・・・・・って。

ルシアは俯いていた顔を上げる。

ウイリアムの部屋は、3部屋の続き部屋だ。

寝室が一番奥にあり、手前に二つ並んでプライベートな私室と、友人を招くための客室。

友人以外の客の場合は応接室を使うが、ごく親しい人は自室に付随した客室を使う。


――とんと、ウイリアムがこの客室を使っているのを見たことがないから油断していた。

天気がいい日は、ドアが開いて空気を通していることも珍しくないから、全然考えてなかった。


そこに、人がいるだなんて。


客を部屋に通し、ウイリアムはここで少しだけ用事を済ませていたのだろう。

全開のドアから見える、ソファーに座る客の前にはお茶が準備されていた。ルシアがきてから準備されていれば、さすがに気が付く。

ということは、ルシアが入って来る前から居たということだ。

「お客様がいたの!?どうして教えてくれないの!」

「ルシアが突然来てわめきだしたんだろ」

「言い方がひどいわ!」

ルシアはウイリアムに言い返しながら、もう一度客に目をむける。

客室で目を丸くしているのは、近衛騎士のノア。

さっき、ちらっと見た時に見間違いであってほしいと願ったのは無駄だった。

彼が現実にそこにいると認識した瞬間、倒れそうになった。

「なんて人選をしているの!私と正反対じゃない!悪女を娶る必要なんかない方でしょう!?」

伯爵家次男として生を受け、伯爵家を継ぐ兄のスペアとして、または補佐として、力をふるっていると聞いている。

ルシアも、いろいろな男性を誘惑するために、人気のある男性は調べた。

清廉潔白、品行方正、謹厳実直・・・・・・まあ、どれも同じような意味だが、他に言いようがない。

女性に圧倒的な人気があるにも拘らず、彼は、騎士の代名詞のごとく、浮いた噂のないひとだった。

・・・・・・というわけで、ルシアの誘いに絶対に乗ってこないという確信をもって、公衆の面前で誘ったことがある。

当然断られ、逆切れすると言う演技を一方的にぶちかました相手だ。

嫌われているのが、ここまで確信を持てる、ほぼ話したことがない相手。

どうして、結婚相手の候補に、その彼を連れて来れるのか。


「同級生なんだ。本来のお前となら、合うだろうと思って」

ウイリアムと仲がいいので、付き合ってくれたということか。

友達のために、嫌悪する女性と見合いを了承するなんて、何ていい人。

そう考えて、ハッと気が付く。

「しかも、私、さっきまで・・・・・・」

手練手管とかいろいろ言った・・・・・・!

令嬢が発していい言葉じゃないものまで、いろいろ言った!

「お、お兄様なんか・・・・・・!もう、知らない!」

身体中が真っ赤になっているのが分かる。恥ずかしすぎて涙まで出てきた。

それもこれも、ウイリアムのせいだと、口をへの字にして睨みあげた。

ノアへ顔を向ける勇気はないが、兄のことは叱り飛ばしておく。

これを機に、友人としての付き合いを考えた方がいいと思う。


しかし、ウイリアムはルシアの怒りなんてどこ吹く風で、ニヤリと笑った。

そうして、顔だけ振り返ってノアに声をかけた。

「な?どうだ?」

渾身の怒りをさらりと受け流されて、ルシアの頬が膨らむ。

「どうだ、じゃないわよ!嫌がってらっしゃるでしょう!?」

なんという杜撰な薦め方だ。どうだもなにも、いいはずがない。

ルシアは、羞恥に染まる頬をそのままに、申し訳なさに彼に頭を下げる。

「申し訳ありません。兄が失礼なことを」

そっと顔を上げて彼を見るが、ノアは目を見開いて、こちらを凝視したまま動かない。

ああ、やっぱり呆然としている。

悪女を押し付けられそうになっているうえに、実際にはこんなに子供っぽくて言葉使いも乱暴だなんて。

ルシアは泣きたくなりながらも、謝罪を繰り返す。

「私のことはお気になさらないでください。兄が何を言ったとしても、私と結婚など・・・・・・」

ルシアの言葉に、ノアは、ハッとしたように体をびくりと震わせ、慌てたようにこちらに来た。

「そうですね。この先のお話をしていただいても?」

怒って帰るかと思ったノアが近寄ってきて、ルシアは目を丸くする。しかも、返答がおかしい。ルシアの言葉が微妙に通じていないような気がする。

「ウイリアム」

ノアに声をかけられたウイリアムは、親指でルシアを示す。

「まずは、本人を落としてくれ。なかなか頑固なんだ」

落とすとは。

まるでノアがルシアとの結婚を望んでいるようではないか。

それは、さすがに失礼だと口を開こうとしたのに、それよりも早くノアが頷く。

「そうだな。それが道理だ」

ウイリアムへ答えて、ルシアの目を真正面からしっかりと見つめられてしまった。

「まずは、お互いを知っていきましょう」

そうして、ルシアだけを見つめて、彼女の手を握る。

驚きすぎて、目も口も大きく開けてしまう。

「本気ですか!?」

「もちろんです」

「だろう?お前の好みだと思ったんだ」

ウイリアムだけが、けたけたと笑っていた。




一年後、簡単に落とされたルシアは、国一番の清廉潔白な騎士と結婚することになった。



「いつかは、『もう、知らない』って、私を睨みながら言ってくれませんか?」

「・・・・・・はい?」

・・・・・・まあ、少々風変りな相手ではあったが。



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正直、後半の兄の「お前を幸せにしたい」という台詞はナシですね。 人の幸せを自分の物差しで決めてんじゃねぇ!とぶん殴りたい。 本当に幸せを望むなら、ルシアがどうしたいのかを聞き出してきちんと話し合うべき…
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