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1.選ばれたのはアッパラパー

(※こちら『超』不定期連載です。よろしくお願いいたします)

「いいか、落ち着いて聞くんだ、へロルフ―――――お前の婚約が調ってしまった」


我が子ではなくお相手側の不憫さを忍んでいるであろう沈んだ声で、父親がそんなことを言うのをへロルフは黙って聞いていた―――――けれども、そのまま待ってみたところでどうにも進展はなさげだったので彼は喋っていいのかなあと思いながらも口を開く。


「そういうのはよくないですよ父上。こんな頭がパァな男を他人様に押し付けようだなんてちょっとどうかと思います」


へロルフ・エッセリクは己のことを下げるつもりもなくそう言った。

ただ純粋に自分はパァだと思い知り受け入れているからこその堂々とした態度だったが、そんな息子を持った父の心労は計り知れやしない。エッセリク伯爵として長らく家と領地を守り続けた男は溜息を吐きたいのをぐっと堪えてとりあえず思いっきり天を仰いだ。天井の木目を数えたところで現実は何も変わらないのですぐさま視線を息子に戻してとりあえず真剣な表情をつくる。


「正直、私もどうかと思う。だがどうしようもないことになんとお前をご指名なんだ―――――三番目の息子はかなりのアホです、と懇切丁寧に説明したのだが『問題ない』とのことだった」

「いや問題しかないでしょうよ。かなりのアホ、なんてマイルドな説明じゃヤバさが伝わってなくないですか? 『うちの三男は完全無欠のアッパラパーです』くらい言わないと駄目だと僕は思います」

「自分で自分をアッパラパーとか言うことに抵抗はないのか息子よ」

「事実を事実として口に出すことにさしたる抵抗はないですよ父上」

「会話は一応成立するのにこれで頭がパァなんだよなあ………」


不安だ、と頭を抱えて身体を丸める父親を励ますべくソファを立とうとしたへロルフの肩を、両側からガッと力任せに抑え込んだのは気配を消していた二人の兄だ。何事か、と思って見遣ればどちらも青い顔をしていて、これはただごとではないっぽいなとようやく認識した彼はとりあえず兄たちに抑えられたまま対面の父親へと声を掛ける。


「もしや僕はどこぞの好事家に売られて弄ばれる的な?」

「違う、へロルフ。そうじゃない」


即座に否定して首を振ったのは伯爵家を継ぐ長兄だった。不安に苛まれるあまり使い物にならない現当主の代わりに説明役を買って出る気になったらしい彼は困惑気味に、それでも端的に答えを述べる。


「お前を婿にと望まれたのは畏れ多くも帝室だ―――――アウフスタ皇女殿下の伴侶にへロルフ、お前が選ばれた」

「え、こんなパァをお姫様の婿にだなんてやばくない? 絶対正気じゃないでしょ帝国。これって滅亡フラグじゃないです? 亡命するなら早めにしません?」

「ほーらやっぱりへロルフに未来の女帝の伴侶とか無理があるよなあ知ってた!」


破れかぶれじゃい! みたいなノリで頭を抱えていた父が叫ぶが状況は何も好転しないし絶賛混迷を極めている。弟が帝室に求められたと聞けば世の兄たちは妬心なり何なり鬱屈したものを抱くものではないかと思うがへロルフの兄たちの胸にあったのはシンプルに恐怖と戦慄だった。


だって彼らの弟は嘘偽りなく『パァ』なのだ。


演技でも何でもなく本当に素で馬鹿っぽいというか言動がとにかく馬鹿のそれ。口を開くことがなければ落ち着いていると思われがちな顔立ちをしているが実際は何も考えていないだけだしその場その時その瞬間をノリと直感で生きているので常人からは「嘘だろこの馬鹿こんなに馬鹿なことってある!?」としか思われない仕上がりになっている。


そう、仕上がってしまっているのだ完全無欠のパァとして。


遠く離れた中央政権にまでは知られていないかもしれないが、お付き合いのある近接領には名の知れた筋金入りのアホ。

そんな馬鹿が帝室の―――――それも次期女帝のお婿さん。


「いやあ、無理があるでしょう。百歩譲って結婚してもすーぐやらかしますよ僕は僕のアホさってものを一番分かってますからね。まず間違いなくやらかしますよ。具体的になにやらかす気だって聞かれても今は困りますけど自分のせいで御家断絶とかは流石にちょっと気が重いなあ。僕の首ひとつで済むかしら?」

「うーん、アホの子ながら自分の首で贖うことに一切の躊躇いがないその姿勢はもしかしたら帝室向きかもしれない………?」

「やだなあ父上、褒め過ぎですよ。極端な話アホでもパァでも自分の尻くらい自分で拭きたいお年頃ってだけですし?」

「どうして選ぶ言葉のすべてが馬鹿っぽいんだろうなお前は………いかん、ドッと疲れてきた………はぁ。へロルフ。よくお聞き。無理でも何でも決まったことだ。そういうわけで近いうちにお前は中央へ召し上げられる。急な話ではあるが、エッセリク伯爵家に生まれた者としての責務を果たしなさい―――――すまん。どうしても断れなかった。不甲斐ない父を許しておくれ」

「許します。ので、僕のせいで御家が取り潰しになったらおあいこってことで許してください!」

「それとこれとは話が別だ笑顔でアホ抜かせ馬鹿息子ォ!!!!!」


ふんわりとした次回予告

「ヒロインが出る」←予定

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― 新着の感想 ―
[良い点] さいこう [一言] 冒頭から、いやいやあらすじから既に面白いってどうなのこれ本当にハッピー! 現段階ではパァの片鱗はひとすじも見えませんが、皇女殿下とのボケツッコミを期待していいんでしょ…
[良い点] 自分の事をちゃんとわかってらっしゃるとこ。 [気になる点] 完 全 無 欠 のアッパラパー??? [一言] 知ってた←父親の放ったこの一言に全てがつまっているような? 一応、対応は!…
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