ネオ・ピリオド
数日後、新天馬村はたくさんのネオで賑わっていた。今はヘルメットと作業着を着用した何人もの男が、仮設住宅を建築している最中だ。一方で、この村にはすでに、玲玖の墓が建てられている。早朝から墓前で合掌しているのは、彼女の右腕にも等しかったあの男――更木和治であった。そこに通りかかったのは、片手に赤ワインの入った紙袋を携えた江真である。
「……何処でそのワインを仕入れたのですか?」
和治は訊ねた。全国で隔絶条例が適用されている現在では、ネオが買い物をすることは難しい。しかし彼の目の前にいる女は、確かにワインを手にしているのだ。
江真は答える。
「別に、全ての店員が常にネオの入店に備えているわけではないからな。ウィッグやマスクで正体を隠せば、意外とどうにかなるものだ」
何やら彼女は、供え物を手に入れるためだけに多大なリスクを冒したらしい。彼女は墓前に瓶入りのワインを供え、その場にしゃがみ込む。それから手を合わせ、彼女は目を瞑りながら頭を下げる。彼女もまた、玲玖の死を重く捉えている者の一人だ。
それから合掌を終えた二人は、少しばかり話をする。
「これから、どうするんだ? 和治」
「これからの私は、一人のネオとして生きていきます。それがあのお方の――最後に望んだことですから」
「一皮むけたな、和治。ようやく君も、玲玖から自立したんだな」
「ええ。今後はこの村を出られないとは思いますが、自立して生きることに邁進していく所存です」
「君なら出来る。君は優秀な男だからな」
江真は和治の頭脳を買っていた。玲玖も言っていた通り、この男には自力で生きていくに足る能力が備わっている。ネオが迫害されている世界で生きることは難しいが、それでも彼であれば生きていける――江真はそう確信していた。
続いて墓前に現れたのは、修也だ。
「やはりここに来ていたか」
そう呟いた彼もしゃがみ込み、合掌した。同胞にして英雄の一人である玲玖の死を弔う気持ちは、彼も同じなのだろう。修也は目を開き、その想いを口にする。
「御剣玲玖……最後の最後で、アンタは気高い意志を見せた。例え道を踏み外した過去があろうと、アンタはネオを救った英雄の一人だ。オレはアンタを、誇りに思う」
それはまさしく、彼自身の真の心を表した言葉であった。その後に続き、江真と和治も玲玖を称える。
「玲玖。この先、何があっても、私は君の勇姿を忘れない。この村が繁栄しようと、人とネオが共存する未来が訪れようと、君の活躍を絶対に風化させないことを誓おう」
「御剣様。この人生で、私は多くの知識を身に着けてきました。どんな教科書も、学問も、貴方の生き様には遠く及びません。貴方が身を以てご教授くださった生き方こそが、何よりも大切なことですから」
御剣玲玖という存在は、この二人にとって大きな意味を持っていた。
修也は話を切り出す。
「和治、アンタに一つ頼みがある。おそらく、これはアンタにこそ任せられることだ」
主を失った和治に、さっそく新たな使命が課されるようだ。和治は一度眼鏡を拭き、それを再び装着する。
「……なんでしょうか」
「江真がアンタの頭脳を評価していた。新天馬村を存続させるために、アンタの知恵を貸してくれ」
「お安い御用です」
村長から直々に託された使命を、彼は迷わず承った。事実、新天馬村の存続は、彼自身の生活にも関わる問題である。もっとも、今の彼であれば、損得勘定を超えた行動理念が備わっていてもおかしくはないだろう。そんな彼に続き、江真も誓いを口にする。
「私も全力を以てして、この村を守ろう。私たちはネオ――同胞だ」
その言葉に、修也と和治は頷いた。三人の間には、確かな仲間意識が芽生えていた。
――ネオの未来は、江真たちの手にかかっている。




