背中
江真が目を開くと、そこには炎の壁を生み出した女の後ろ姿があった。目を疑う江真は、唖然とした表情で瞬きをする。
「玲玖! どうしてここに……」
――そう、この場に駆け付けてきたのは、御剣玲玖その人だったのだ。玲玖は握り拳に力を入れ、鋭い眼光を光らせる。
「アタシはあの男に貸しがあるんでね」
あの日、自らの支配している街から追い出された恨みは、相当のものだ。そんな彼女を見て、修也は彼女の正体を察する。
「……アンタがRか?」
「何故そう思う?」
「オレは江真から、Rがネオであることを聞いていた。そして、アンタと江真には面識がある。そして何より、アンタは自らこの場に赴いた。積極的に戦地に赴くようなネオで、尚且つ江真と面識があるとなれば……アンタがRであることは明白だ」
確かに、Rと呼ばれる者以外で、積極的に戦地へと赴く者はそうそういないだろう。玲玖は苦笑いを浮かべつつ、肩をすくめる。
「ククッ……お手上げだよ。偽名でも使ってアンタの村に仮拠点を設ける算段だったんだが、叶わねぇ願いだったみてぇだ」
「オレのことを知っているのか?」
「土地を支配するってことは、情報を支配するってことだ。妙な動きがありゃ、嫌でも耳に入ってくる」
何やら彼女は、元から天馬村の情報を把握していた様子だ。その支配者たる所以に、修也は脱帽するばかりだ。
「抜かりないな……流石はRといったところか」
しかし今は、悠長に話を進めている場合でもないだろう。
突如、泰守は炎の光線を放った。玲玖もまた光線を放ち、応戦する。二本の光線が火花を散らしつつ、互いを押し合っていく。ほんの一瞬でも気を抜けば、凄まじい爆炎に呑まれることとなるだろう。
玲玖は指示を下す。
「修也、江真を連れて天馬村に行け。この場はアタシが引き受ける」
「どういうつもりだ……?」
「良いから、行け! 道がなければ、山を削り取ってでも作れば良い!」
どういう風の吹き回しか、彼女は一人で強敵を相手にするらしい。修也は急な壁に向かって光線を放ち、その表面をえぐり取った。
「行くぞ、江真」
「し、しかし……玲玖が……!」
「良いから行くぞ!」
修也は江真の手を引っ張り、彼女を車に乗せた。それから車は急発進し、先ほど作られた「道」を走り抜けていく。
「玲玖! 玲玖ぅ!」
車内には、江真の叫び声が響き渡った。それでも修也は、決して引き返そうとはしなかった。
直後、残された二人の放っていた光線は、ちょうど間合いの中央で爆発した。一先ず泰守は、力負けしなかった玲玖を褒め称える。
「ほう。俺の力を耐え抜くとは、今まで裏社会で勝ち抜いてきただけのことはある」
「アタシは成長の早さにだけは自信があるんだよ。そろそろ、アンタを狩れるくらいには実ったんじゃねぇかな」
「大した驕りだな。せいぜい、その驕りが身を滅ぼさないことを祈ろう」
やはりどこまでいっても、この男は自分が優位に立つと思っている。その事実はただひたすらに、玲玖の神経を逆撫でする。
「侮るな!」
そう叫んだ彼女は瞬時に間合いを詰め、眼前の強敵にボディーブローをお見舞いする。それから後方宙返りをした彼女は、そのまま相手の顎を二発ほど蹴り上げる。コンボの仕上げは、強烈な炎の光線だ。
泰守を巻き込む形で、光線は勢いよく爆発した。
玲玖はまだ、勝利を確信していない。
「まだやれるだろ? 真嶋泰守。かかって来いよ」
相変わらず、彼女は強気な女だ。眼前で消えていく煙の中で、人影が徐々に鮮明になっていく。姿を現したのは、依然として無傷の泰守である。
「まだやれるか? 御剣玲玖」
「む……無傷だと……!」
「惨めだなぁ。己を特別だと過信してきた奴が、実は俺に傷一つつけられない凡夫だったんだ」
その言葉に、玲玖はやり場のない絶望感を覚えた。




