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運命の始まり 2

申し訳ございません、本当に申し訳ございません…書きたい展開はある程度決まっているのですがそこに至るまでの過程を書いていたらなかなか難産になってしまって大幅に更新予定から遅れて年末になってしまいました…。来年は沢山更新できるように頑張りますのでどうか皆様よろしくお願いいたします。ちなみにだいぶ予定の展開より長引いています…。

「ふう…。」

お昼休みの休憩に一息をつく。

といっても、自分達は慈善事業で来たのだ。

学校のお昼休みや、大人の人の仕事の合間のようなお昼休憩のようなものでは無く、どちらかと言えば幼稚園とかのような皆と一緒にご飯を食べる形である。

「マルニおねえさん、いっしょにたべよ!」

「おれもマルニとたべる!」

「マルニ様、一緒にご飯良いですか?」

様々な所から期待の視線を向けられて、一瞬固まるも子供のパワーに押されて…

「え、ええ…。私で良ければ、構わないわ。」

「「「やったーっ!」」」

つい答えてしまうと私は手を引かれてしまう。

歳的にはこの子達と変わらない筈なのについ体力というか精神的に疲れてしまうのは心が一応既に人生20歳を越えているからだろうか、それとも前世が病弱だったからやはり身体の体力に精神がまだ着いていけてないのか。

おかしい、私も身体の体力は同じくらいな筈なのに。

そんな理不尽を感じながらちらりとフレリスの方を振り向く。

「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」

屋敷では見ないような綺麗な笑顔を見せて私に手を振っていた。

私が振り回されているのを見るのが楽しいらしい。

前々から思っていたが両親に対しての態度とかを見る限り、フレリスはSの気質があるのだろうか?

普段はいつもありがたく思っているが今回ばかりは流石に少しイラっとした。

まあもちろんこんな事で怒ったりはしないが。

「私は令嬢、私は淑女…。」

周りに聞こえないように小さい声で自分に言い聞かせるように言うのであった。

「?マルニおねえさんへんなのー。」


孤児院には自分より小さい子供から大きい子供まで、様々な子供達が居る。

そして当然、孤児院というだけあって、運営している人以外の大人はほとんど居ない、居るのは大半が子供達だ。

家を追われた子も居れば、そもそも親を知らない子も居る。

自ら家を出た子も居ればここに流れ着いた子も居る。

様々な事情を持つ子供達が居て、それを気にせず生きている子も居れば、その心の傷に囚われている子も居る。

そして、当然、その中には悪い貴族や領主と言った偉い立場の人のせいでここに来た子も居る。

このスエティーラ大陸、インフロールの小さめな町、コミエドールにもそんな子供は居る。

そしてこのコミエドールを治める貴族がオスクリダ家だ。

そしてそのオスクリダ家は悪の貴族…そう、つまり。

「「「「「………。」」」」」

「え、っと…どうも、マルニーニャ・オスクリダです。マルニと呼んでください。今日は皆さん、よろしくお願いします。」

私は頭を大きく下げて挨拶する。

その自分を見る視線は、自分でも十分わかるくらいに、刺さるような痛い視線だった。

「オスクリダって…あの?」

「わるいきぞくのこだ…。」

「わたしこわい…。」

…様々な声が聞こえてくるが、やはりそれはどれも良い声は無い。

そう、この孤児院に、私を良く思う人は恐らくほとんど居ないだろう。

「お久しぶりです、皆様。マルニお嬢様もまだ子供故、私もお手伝いさせていただきますので、皆様、本日も宜しくお願い致しますね?」

「わーい、フレリスとあそべる!」

「わたしがさきにフレリスとあそぶんだから!」

「ぼくもあそびたい!」

わあーっ、わあーっ!

フレリスが挨拶すると、私の時とは全く違う反応。

皆フレリスの事は大歓迎だ。

フレリスの孤児院時代の事を知っている人は流石に子供達には居ないかもしれない。

だが、フレリスは度々孤児院に支援したり遊びに来たりしているのだ。

この町の悪の娘と、そこで負けずに働く孤児出身では反応が違うのも当たり前であろう。

ソルスを見つけるというのが一番の目的ではあるけど、それはそれとして子供達やこの町の人達と友好関係を結びたいのも事実だ。

それは私個人の願いでもあるし、オスクリダ家の罪の個人的な贖罪に少しでもなると思うから。


孤児院ではどのような事をするのかと思っていたが、言ってしまえば幼稚園や保育園のようなものが半分、子供でも出来るような労働が半分と言った所だった。

文字の読み書きが出来るように勉強したり、数字の計算の勉強だったりのような授業のようなものがあったのは個人的に少し驚きだった。

何せ前世でもニュースで教員や保育士などが不足している事を聞いた事はあったし、日本以外の国では識字率がどうとかという話も聞いた事がある。

それに自分が読んだファンタジー物の小説やゲームにも教育についての話もあったりした記憶がある。

この世界についてはそういう話は確か無かったとは思うが…もしかしたら設定資料なんかには書いてあったのかもしれない。

どちらにしろ、この世界は貴族の教育が自分にとっては教育環境の基本だったのだ。

それは前世であまり教育を受ける機会が無かったのもあるし、「やがて光の君と共に」の舞台が貴族の学校だったからというのもある。

ソルスが人一倍勉強を頑張って学校に入ったのは紛れもない事実だとは私も思うが、それを出来るようにする土壌というか基盤はここにあったという事である。

ソルスの事にしろそれ以外の子供達の事にしろ、そういう環境があったという事実は私は嬉しかった。

この孤児院の職員は流石に教師などではないが、職員やコミエドールの町の大人達や勉強をしている人達が頑張って子供達に教えているのであった。

それならば、私も多少は出来る事はある。

幸いにもこの世界の言葉や計算の仕方は日本の勉強方法でも通用する事は家庭教師やフレリスの個人授業でわかっていた事だった。

もちろん流石にあまりにも成績が良すぎて持ち上げられて後から周りからの評価に追いつけない…なんて事にはならないように注意はしていたので、周りからの評価は「飲み込みが早い」くらいで済んでいたが。

そういうわけで、マルニの私と歳が近い子供達に勉強を教える事にした。

多分、平民の一般的な勉強より貴族の勉強の方が進んでいるという認識は私も子供達の認識も同じのようで助かった。

「現出…!」

「おお…。」

「……。」

フレリスに教えてもらって、もうだいぶ慣れてきた現出のやり方を見せる。

「闇属性の力は子供達を怖がらせるかもしれないので使わないように」と事前にフレリスに言われていたので、今出したのは雷属性の力のみを使った小さな、警棒みたいな形の棒だ。

フレリスから魔力のコントロールのやり方は細かく教わった。

闇属性の魔力を持っている事は間違いなく周りに目を付けられやすいし、自分に合う現出した魔力の形を知る必要もあったからだ。

剣の形にしたり斧の形にしたり色々してみたが、個人的には槍を現出させるのが一番やりやすい。

何より、槍が一番扱いやすいのだ。

理由は自分でもよくわからない。

確か原作でのマルニーニャ・オスクリダの現出した武器は、「指揮棒のような小さく細い剣」だったと記憶している。

文字通りタクトを振るうように魔法を操る闇の魔法使い。

そして時にその細剣で布を裂くように斬り、針のように貫く。

美しく優雅、だけどどこか冷たいようなスタイルだったと記憶している。

つまりは、だ。

この槍が手に馴染むスタイルは私のスタイルなのだろう。

前世で槍術に何か縁があったわけでは無いけど、これがこの世界の中での私の個性だと、この世界における私という存在の証明の一つなのだろうと思うと愛着が湧く。


「…ふふ。」

「?おねえさんわらってるの?」

女の子の声に思わずビクッ、となってしまった。

いけない、ついつい考え事をしていたらつい悦に浸っていたらしい。

「…何でもないわ、気にしないで。それより、貴方達は現出の練習はしているのかしら?」

すぐさま令嬢モードに切り替えて対応する。

ソルスを導く、布いては平民達を導く為にこの令嬢モードの話し方を作るようにしているがまだ未だに慣れてない。

この令嬢モードを作る理由は他にもあるが…まあそれは今は置いておく。

「うん!みてて!…エイッ!」

そう言うと元気な女の子は手に魔力を込めると、緑色の魔力が集まっていく。

魔力が弱いのかコントロールがまだまだなのか、そよ風のような弱い、でも風属性の魔力が集まって女の子の手に集まって行く。

やがて魔力は小さな片刃のナイフの形になっていく。

「…ふう。わたしはこれくらいしかできないけど!」

現出が終わった女の子は魔力の行使で少し疲れたのか一息つくも、すぐに元気な顔を見せて魔力で作ったナイフを見せる。

元気だけど振り回したりしない辺りちゃんとその辺り、危険な物という事は教育されてるのだろう。

「うん…よく出来てるわね。ナイフなのは、一番得意なのかしら?」

「ううん、いちばんべんりというか、いちばんつかうから!」

「一番使う?」

私が首を傾げると、近くに居た職員さんが疑問に答えてくれた。

「この孤児院での作業に使うんですよ。ナイフは人や魔物に対する戦闘や護身に使いやすいというものもあるのですが、それ以外にも植物の採取や伐採、動物や魚の解体、工作や作業の手伝いにも使えますから。ナイフ以外にもハンマーの現出や鎌の現出も教えたりしてます。」

「なるほど…。」

確かに物理的な実物を持たせるより、魔力を消費するとは言え、そういったものをその場ですぐに作れるのは効率的だし便利だ。

それに実物の刃物を持たせたりするより怪我させたりする危険性も少ないだろうし。

しかし、それとはまた違う疑問が湧いてきた。

「個人個人に合わせた現出の練習はしないのですか?」

「そうですね…本当はそういう風に個人に合わせた練習もさせたいんですけど、やはり今後孤児院を出て行っても生き残れるように、という事を教えれるようにする方が優先しているんです。」

「そうですか…。」

つまり私のように個人の適正を探すような練習はしていない、基本的な生活に必要な最低限の力や技術があればまずは良い、と…。

(なら、私がやるべきことは決まったかな。)

そう思って「教えてくださりありがとうございます。」とお礼を言うと、私は子供達の方に向き直った。

「なら、私が今日は、一人一人に合った現出のやり方を教えて行くわね。全員すぐに出来るようにはならないと思うけど…出来る限りの事はするわ。」

「ほんとぉ!わーいっ!」

私の言葉に、先程現出を行った元気な女の子は喜んで跳ねまわった。

「はっ、どうだか。」

だが先程からずっと黙っていた、女の子より少し大きな、少しぶっきらぼうな男の子が一歩前に出て口を挟む。

「おしえるっていって、ちゃんとしたまほうをおしえないことだってできるからな。」

そう言う男の子の目には明らかに警戒…というか敵意のような感情が見える。

まあ予想はしていたというか、当たり前の反応だと思う。

悪徳貴族の娘が急にボランティアに来たかと思えば自分達の魔法の講師代わりになろうというのだ。

多分私が同じ立場でも、嘘や変な内容を教える気ではないだろうかと考えるだろう。

ここで私には納得させることの出来る言葉を持っていない。

「貴方が納得するような魔法にしてみせるわ。」

「……。」

だからこそ、行動で示すしかない。

私は自分が現出していた魔力体に更に魔力を加える。

更なる魔力を受けて棒状だった魔力体は、私の一番得意な槍の形になる。

形を変化させて現出させた槍をくるりと軽くバトンのように回す。

自由に、舞うように。

そう出来ることを示すように。

私は小さく笑ってみせると、ぶっきらぼうだった男の子は小さくピクリ、と反応する。

自分もそういう風に魔法を扱ってみたい。

そう思ったのか、魔力体の槍と私を交互に何度も見つめる。

「マルニおねえさんのげんしゅつ、かっこいい…!」

元気な女の子は目を輝かせている。

純粋にそう思ってくれる子供がいてくれてありがたい。

そして、その反応が助け舟になったのか、後押しになったのか。

「………わかった。やってみろよ。」

男の子は小さく頷いた。

「ええ。一緒に頑張りましょう。」

私は頷いた。

多分私の今の顔は、きっと作った笑顔以上の笑顔だっただろうと思った。




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