この国の王子、この物語の王子様
というわけで、時はその一日後、つまりは今である……。
私達は王城の中に来たのだ。
なんでも、シャル王子……リジャール王子が、謁見する事を既に伝えているらしく、そしてベルナとジュビア先生も居るのもあってか、割と手続きなどはスムーズに進んだ。
……とはいえ、呼ばれたのが闇属性の使いの私、魔法研究家で変人で有名のウルティハ、そしてそのウルティハと仲良くしているエスセナという事もあってか、騎士達の視線は厳しいし、王城に居る従者や王城に住んでいる貴族からもどこか距離感を取られている感じがする。
まあ、それは仕方がない、というかわかってはいた事だ。
ただ……ベルナやティエラも、何処か貴族や従者達からも距離感があるのは気になる。
私達のように怖がられているとか気味悪がられている……というような物ではない気がする。
なんというか、対応に困る……というか、反応に戸惑っている、というような感じに見えるのだ。
……あくまでも推測だが、ベルナは次期王女候補だが、決定打にまだ欠けるからどう対応すればいいのか分からない、という部分はまだあるのであろう。
そしてその取り巻きであるティエラも、まだ貴族としての地位も歴史も浅いのもあって、どう対応すべきか分からない……という事ではないだろうか。
そこら辺はデリケートな問題だし、私達もあまりどうこう言えない部分なので、そういう事に口を挟む事は出来ない。
ベルナも、ああ見えて割と繊細な部分もあるので、恐らく気づいてはいるだろうがそこについては何も言わない。
ティエラは……もし気づいたら何か言いそうだが、言わないという事は気づいていないか、それとも口を出さないようにベルナに言われているのだろうか?
ティエラがいつもより口数が少ないのでそう考えるしか出来なかった。
「では、これより先が王子がいらっしゃる謁見の間です。王子のお人柄から考えて、大丈夫だとは思いますが、それでもどうかご失礼の無いように。」
「ええ、感謝致します。それでは。」
「いつも……ありがとう、ございます……。」
「「「「お疲れ様です!(ですわ!)」」」」
ジュビア先生とベルナが許可証が入った招待状を見せて、騎士から確認をしてもらうと私達は頭を下げて挨拶する。
そして、豪華に装飾された扉を開き……。
「やあ!ようこそ、君達!」
「わっ……!?」
「び、びっくりした……。」
「うん?ああ、いやあ、驚かせたならすまないすまない!」
扉を開いた先に、何と人が居た。
誰だ?、とはならない。
多分、この国の庶民であろうと、この人の事は分かる人の方が多いのではないだろうか、地方貴族の私でも当然わかる。
扉の前でサプライズしたこの人こそ……。
「改めまして……ようこそ来てくれたね、客人達。ボクがこの国の王子、そして、来年からは君達の後輩になる……リジャール・ルスフロルだ。……って、名乗りは不要だったかい?」
くすっ、と彼は笑った。
その微笑みすら、キラキラと輝くように美しい、細かい所作だけでも分かる端正さであった。
リジャール・ルスフロル……通称、シャル。
「やがて光の君と共に」の看板的な攻略キャラであり、所謂パッケージヒーロー……乙女ゲームではヒーローで良いのであろうか……まあ、そういう存在である。
ボブカットの輝く金髪、薄緑色の明るい瞳。
美しくも明るく見えるその端正な顔。
細身でありながらしっかりと鍛えられた筋肉のある引き締まった身体。
青を基調に黄色や白を混ぜた服も良く似合う。
そんな、まさに目を引く華やかな見た目に、爽やかで少しお茶目さもある性格であり、同時に王子としての資質も持つ、まさに中心に経って画になる存在。
それが私達の、私の目の前に立っている。
私もその美しさに目が離せないくらいだ。
そんなリジャール王子は、満足した、とばかりに自分の椅子に戻って座る。
「まあ、まずはそこに皆来てくれ。そう固くならなくていいからね。ボクから今回は呼び出したわけだし。ベルナやジュビア教師殿も一緒にそこへ。」
「はあ……まあ、では、失礼します。皆も来てくれ。」
「は、はい、わかりました。」
呼ばれたままに、王子の椅子がある所から少し離れた、階段の下の広い所に来ると片膝を着く。
ベルナだけは次期王女候補というだけあって、スカートの裾を摘まんで挨拶する。
「此度は、私を、そして私の生徒達をお呼び頂き感謝致します、王子殿下のご尊顔を拝見させて頂き光栄です。して、今回私達をお呼びしたご用件は如何な事でしょうか?」
「さてと……。今回ボクは君達を呼んだわけだけど……まずは言いたいのは、君達に罰を与えようだとか、唐突に命令しようというわけじゃないんだ。まあ、頼み事があるにはあるんだけど……それとは別に、呼んだ内容よりも、そもそも呼んだこと自体に意味がある、と思ってほしいんだ。」
「……?というと?」
「そうだな……ベルナ、君とボクの事を話す事になるけど、ある程度話してしまっても構わないかい?」
「……?はい、大丈夫……です……。」
「ありがとう。そうだな、まずは何から話すべきかな……。」
ふむ、と少し考えて、やがて考えが纏まったのか、リジャール王子は頷く。
「まずは、ボクとベルナとの現状について話す事にしようじゃないか。少々話が長くなるけど、構わないかな?」
「もちろんです、王子殿下の思うままに。」
「わかった。」
そうジュビア先生とやり取りすると、リジャール王子は話を始めた。
「まず君達は既に知っているだろうけど、ベルナは現在、ボクと結婚する相手、つまり、次期王女候補の中で最有力の候補だ。それについてはボクももちろん把握している。だが、ベルナは少なくとも現在、王族の求める物……つまり、光属性に目覚めていない。今までの歴史でも、光属性を扱える者が居ない世代や、光属性の扱いが上手い者が居ない世代もあったらしく、そういう場合は、魔法の才能、家柄や血筋、性格や勉学などの資質、そして王家との親交の深さなどといった様々な観点から考えて、最も優秀と判断された令嬢……極々稀に庶民からも選ばれる事もあるが……とりあえず、そうやって選定されて、我がルスフロル家は代々血を繋いで来た……ここまではいいかな?」
「はい、もちろん。優秀な血を残すのも、王家の重要な役目ですから。」
「そうだね。……で、今代であるボクの代が今まさにその状況だ。今のところ、光属性の優秀な使い手の女性は見つかっていない。なので、勉学などにおいても礼儀作法にしても魔法の才能にしても、最も優秀な存在なのが今のところベルナなんだけど……。」
ここまではもちろんわかっている。
光属性の重要性は破龍の儀から始まった物だし、その光属性の使い手として優秀だからソルスは平民の身でありながら一気に舞台に立てたのもある。
だが、そこから先は、私も詳しくは把握が出来なかった事だ。
「ベルナには悪いが、ベルナにはもう一つ欠点があった。……それが何かわかるかい、ベルナ?」
「え……?えっと……後ろ盾や、支援者が、他より強くない……?」
「それも確かに考慮すべき点ではあるけど……今回の場合はそこじゃないんだ。……他人が居る前でこういう事を言うのは心苦しくもあるけど……君は、あまり王家、特に、ボクと親交を深めてないだろう?」
「あ……気づいて、いたの……?」
「もちろんさ。何より、ボク達当人同士が一番感じていたのだろうと思っていたからね。……次期王女候補は他にも居る。その中で一人を優先する、というのは、王家としてはあまり褒められた事では無いかもしれないけど、恋愛的な結婚という意味では本来誰かが優先されるべき、という見方もあると思うんだ。」
「それは……まあ、何とも言いにくい話ですね。」
「だから、ボクは次期王女候補の令嬢達にも、問題ない物にはなるべく付き合うようにしていたんだ。世間を知るという意味でも必要だし、相手の内情を知る事によって次期王女候補の選別も出来るからね。……その中で、ベルナは押しが強いタイプでは無いからね。今までボク達王家の人間にもあまり積極的に話せなかったんじゃないかい?」
「……うん……私、話すのは……得意じゃ、ないし……。頭は、働くかも、しれないけど……それを、伝える勇気は……あまり、無い……です。」
「だろうね……だからこそ、さ。」
正直、今までの言葉は、ベルナには、耳が痛い言葉であったであろう。
否定したくても事実だからこそ刺さる言葉だ。
だが、それでもリジャール王子は責めてるような素振りは少しも見せない。
その目は冷たくなく、寧ろ暖かくて、優しく微笑んだ。
「だからこそ、気になったのさ。ボクにこの国の花を見て回らないか、一緒にデートしてくれないか、って勇気を振り絞って誘ってくれた事が。友達と一緒に考えて、ボクの為に頑張ったんだ、って。」
「それは……つまり、呼び出した事自体に意味がある、という意味は……。」
「そう言う事さ。今まで引っ込み思案で、勇気を持てなかったベルナが勇気を振り絞るきっかけになった彼女の友達とは、どんな人なんだろうか、ってね。」
ようするに、とリジャール王子は言葉を続けた。
その微笑みは、優しく、でも何処かまだ子どもっぽく、明るい薄緑の瞳hあ宝石のように輝いて見えた。
「君達の事をボクは知りたいんだ。将来の先達としても、そして妃になるかもしれない人の友達としても、ね。」
元々の予定より早くなりましたが、最後の攻略対象であり「やがて光の君と共に」のパッケージキャラであるリジャール・ルスフロルの登場です。今までも散々書いてきましたが、この作品は乙女ゲーム世界への異世界転生作品です。なので乙女ゲームらしく、攻略対象達が魅力的に観えるように、そして、その世界の中で百合を貫く作品であるからこそ、その百合が魅力的に観えるように頑張って書いていきたいと思います。




