破龍の儀と「聖女」
私とベルナは、とりあえず、それから数度の模擬戦を行った。
最初の模擬戦程本格的な物では無いが、やはりというか接近戦での強さは私の方が上……というより、やはり接近戦での心得はベルナはあまり無いらしく、杖で何とか防いだり避けるので精一杯だった為、上手く接近出来た時は勝ちを拾う事も出来たが、それでも負け越してしまった。
基本的に負けパターンは、いつも魔法を止めきれずに喰らうパターンだった。
やはりというか、単純な魔法技術と魔力による暴力の強さはやはり大きい。
この世界においても基本的に魔法使いという物は後衛が主なのだが、そもそも近づかせる前に魔法で潰すというのは強い魔法使いの特徴とも言えるであろう。
これは、専属騎士を雇わなくてもいいくらいに強いというのも自惚れではないと頷ける。
「ふう……今日はありがとう、ベルナ。私もまだまだ未熟だと今回で思い知らされたわ。今度……そして、本番の破龍の儀では負けないわ。」
「私も、ありがとう……私は、体術は、得意じゃないから……だから、もっと魔法を、上手く使えるように……頑張る……。」
「今以上に上手く、ね……私からしたら、今以上と考えたら恐ろしい所だけれど。」
「……そういえば、聞きたい事、あった……。」
「ん?なにかしら?」
握手しながらお互いを称えていると、ベルナからの問いに私は首を傾げる。
ベルナは、その問いを私にぶつけた。
「マルニは……誰と、破龍の儀に挑むの……?私は……シャル君か、ティエラと、組むけど……。」
「……それは……。」
私は、答えに詰まった。
……破龍の儀。
それは、このインフロールの守護龍神であるドラゴディオス様に、武を持って舞い、力を示す事で守護神の加護に対する感謝の奉納とするこの国の祭りであり、そして同時に大事な神事でもある。
この神事は、まず選ばれた人々が大会で戦い、優勝者を、人間の代表者を決める。
そして、その代表者に選ばれた人間が、守護龍神ドラゴディオス様と戦い、力を示す事で二年間のドラゴディオス様の加護を確約するのだ。
その大会に出る為の条件が幾つかあるのだが……その中に、ある条件がある。
それは、「二人一組で参加する事」、というルールである。
これには幾つか理由があるのだが……例えば神話的な歴史背景を語ると、歯抜けの歴史の中に、こんな逸話がある。
まだドラゴディオス様が、守護龍神ではなく、このインフロールの地を焼く荒ぶる神であった時代。
二人組の勇気ある若者が、ドラゴディオス様の怒りを鎮めたという逸話だ。
この時、もちろんドラゴディオス様との戦いになりはしたのだが……。
二人の若者達の力、そして何より、二人の若者達の互いを信じあう絆の心に、この国においてただ一人の荒ぶる神様であったドラゴディオス様の心を打ち、ドラゴディオス様はその心を鎮めたのである、という話なのである。
なので、ドラゴディオス様達の加護を得る為、そしてそれだけではなく、このインフロールの人々が絆を結んで行けるように、そしてその絆を示す為に、破龍の儀は二人一組で挑む事になっているのである。
因みに、歯抜けの歴史なのでその神事についても分からない事がまだあるのだが、その二人組の一人はこのインフロールの王族となり、インフロールの礎を築き、そしてもう一人の方は聖女と呼ばれ、人々に魔法の、そして心の光でこの国の為に尽くしたと歴史では書かれている。
……そして、ここからは私のメタ的な推測になるのだが、この世界、「やがて光の君と共に」は、乙女ゲーム、つまり恋愛ゲームだ。
そして、後に聖女と人々に呼ばれる主人公……つまり、ソルス。
そして、第一恋愛候補のリジャール王子……ことシャル王子。
このルートの為に作ったのがこの破龍の儀という物なのではないか、というのが私の推測だ。
だって、そうすれば光属性に目覚めた心優しい聖女のような主人公が、破龍の儀を乗り越えてこの国の王子と結ばれてハッピーエンド、という流れは非常に王道だからだ。
隠された才能が目覚めて成り上がり、最後は幸せにお姫様として結ばれるシンデレラストーリー、それがシャル王子ルートだからだ。
そう考えると、二人で組むというのはカップルとしての絆……愛を深めるのにも大きく関与するし、歴史において片方が王族、片方が聖女と語られるのも納得の行く話なのだ。
……と、ここまでが破龍の儀についてだ。
そして、その問題は私にも当然ながら立ちはだかる。
私には、今のところ組む相手が居ない。
ウルティハとエスセナは間違いなく二人で組んで参加するし、ティエラと組む可能性もベルナ以外とは組まないと言う可能性がある事を考えると正直期待は出来ない。
ジュビア先生は当然そもそもルールで参加出来ないし、フレリスももちろん参加出来ない。
今現在、私は闇属性の影響で親交が深い人も正直他は浮かばない。
後は可能性があるとしたら、来年入学してくるであろうアル君くらいなのだが……万が一にもシャル王子ルートに行かない可能性も考えると、安易に頼るわけにもいかない。
そして、当然ながら破龍の儀の成績は将来の騎士としての地位にも影響してくる。
だって、神事であり、武を、力を示す儀で活躍するのが将来の王族専属騎士や高位の貴族の専属騎士になる道への近道であるというのは言うまでもない。
それを考えると、絶対に参加したいのだが……。
「……まだ、誰と組むかは決めてはいないわ。良いコンビを組める人が居たらいいのだけれど、ね。」
「……そっか……。紹介とか、出来たら良いんだけど……私は、人脈無いから……ごめんね……?」
「気にしないで。自力で誰かと親交を深めるのも大事な事と思えば、これから努力するべきことよ。」
「……そっか……なら、何か、手伝えることが、あったら……言ってね……。」
「ええ、ありがとう。どうしようもない時は、その時は頼る事にするわね。」
……こう答えはしたが……。
実は、一瞬だけ、頭を過った選択肢がある。
だがそれは、私が選択すべきではない選択肢だ。
だって、それは私の幸せの為の選択肢だ。
あの子の為の、あの子の幸せの為の選択肢ではないのだから。
「……ねえ、ソルス。ソルスは、破龍の儀には興味があるのかしら?」
『え、破龍の儀ですか?……うーん、そうですね……。難しい質問です……。』
「急な質問でごめんなさい。でも、貴女も関わる事ではあるから、聞いてみたくて、ね。」
『そうですね……興味があるのか無いのかで聞かれたら、興味はあります。もちろん、ドラゴディオス様に挑めるとまでは思っていないですけど、どこまでやれるか確かめてみたいっ、とは思っていますっ。』
「そうなのね?ちょっと意外だったわ。ソルス、結構試合は好きなのかしら?」
『そうですね……人を傷つけたりする事は嫌ですけど、ちゃんとした試合だったら嫌じゃないかもしれません、破龍の儀は魔力体に身体を変換しますしっ。』
「確かにそうね、ルールで魔力体に変換が出来ない人はそもそも参加が出来ないし。」
『でも、試合がどうとかというよりも、私が頑張る事でドラゴディオス様が喜ぶ結果になったら嬉しいなあって思いますし、私が頑張る事で一緒に組んでいる人が喜んでくれたりしたら嬉しいですから、そっちの方が理由としては大きいかもしれませんっ。』
「……なるほど、貴女らしい、優しい理由ね。」
『えへへ……そう言ってもらえたら嬉しいですっ。』
「なら、しっかり勝ちぬいて行けるように、しっかり鍛錬も頑張るのよ。」
『はいっ。それじゃあマルニ様、おやすみなさいっ。』
「ええ、おやすみなさい、良い夜を。」
ティエラのバトルシーンを書いていない事に今になって気づきました……ごめんねティエラ、後で活躍シーン増やせるように頑張るから……。




