私についての世間話 ベルナ編 その2
放課後になり、場所は訓練場。
既に場所のレンタルはされており、使用スペースはセプレンディ家の使用人が数名用意していた。
「マルニーニャ様、本日はベルナお嬢様の訓練にお付き合いしていただき、誠に感謝致します。私、ベルナ様の専属メイド長、ボニー・リベルタです。」
「いえ、こちらこそ、ベルナ様との訓練のお相手、身に余る光栄です。」
セプレンディ家のメイドさん……可愛らしい二つ結びの髪と可愛らしい顔に対して、表情は固い、そしてモノクルを掛けた、可愛らしさと美しさが混じるメイドさんだ。
「お嬢様が誰かを魔法の訓練に同じ学園の生徒を選ぶという事はこちらとしても珍しい事です。お嬢様は見ての通り少々コミュニケーションが得意な方ではありませんので、周りの貴族の方々とのコネクション作りもあまり得意では無いので。」
「い、いえ、そんな事は……。」
「ご気遣いは無用でございます。お嬢様は誰かにグイグイ引っ張られるくらいの方が丁度いいと思いますので、今日の訓練も、闇属性だけではなくマルニーニャ様の槍でビシビシと接近戦の対応方も鍛えてくださいませ。」
「は、はあ……そうですか……。」
「あ、私も闇属性に関しては今はお嬢様の為になりふり構っていられないのでお気になさらず。」
カチャリ、とモノクルを直しながらにやり、と笑って言うボニーさん。
……私の認識が美人なメイドさんから、フレリスに似たタイプのメイドさんに変わった。
フレリスもボニーさんもジョークやからかいが好きなタイプなのだろう、多分違いは私とベルナのリアクションの違いだろうが。
……そういえば、ベルナは人を振り回すタイプなのだろうか。
少々のんびり者でマイペースな所があるが、割りと常識的な気がする……。
この学園に入って最初に友人になったのがウルティハとエスセナだったので散々私は振り回されたし、ティエラもどちらかというと真っすぐ……というか、突っ走るタイプに見える気がするので、もう一人くらいツッコんでくれる人が居てくれるといいのだが……。
なんて少し関係ない事を思いながら、訓練用の槍を持って、ベルナの向かいに立つ。
向かいに既に立っていたベルナは、布地を減らして動きやすくしているのであろう戦闘用のドレスであろう姿であった。
杖には触媒として、そして魔法の為の魔法式用刻印に宝石が使われている。
魔法が循環する物、という考えの元なら魔法の素早い発動や魔法の強化で現出に使う触媒にこういった強化を施すのは割と常套手段だ。
まあもちろん魔力が強い人が使わなければ宝の持ち腐れになる事も多いし、上等な宝石を使うならお金もかかるし、触媒になる武器を使わない方が基本的に現出ですぐに戦えるという携帯性という面で不利なのでどっちが良いかと言われると諸説あるのだが。
「……それが、バレンティア家の宝石を使った杖なの?」
「…………?……ああ、ティエラに聞いた……?」
「そう、ティエラがバレンティア家の宝石を使ってる杖を見せてもらったって。」
「そうね……この杖は、その時の杖よ……。今、私が使ってる杖は、バレンティア家の宝石で新しく作って貰ったから……これは、練習用にしたの……。」
「そうなの?貴重な物を見せてもらったわね。」
「ふふ……練習用だけど、ティエラと、会わせてくれたから……大切な、物……。」
「ふふ……なら、壊さないようにしなきゃいけないわよ。……現出。」
すっ、と訓練用の刃引きされた槍を構える。
現出し、訓練なので身体を魔力体にして。
それに対してベルナは……ふ、と笑った。
いつも通りの、優し気な微笑みで。
「大丈夫よ……簡単に、近づける程……次期王女になる私は……甘く、ない。……現出。」
現出の言葉と同時に、ベルナの杖が魔力で変形する。
触媒の宝石を中心にまるで星のような装飾が付き、杖も長くなる。
美しく輝くひらひらとしたレースの装飾もついて、美しい賢者の杖のようになる。
また、魔力体に変える時に、衣装にも変化をしたらしく、スカートや胸元、背中に紫のリボンのような装飾が付き、紫と透明のグラデーションで、まるで魔法少女のようにも見える姿になった。
……正直、魔法少女のような姿をこの世界で見る事になるとは思わなかったから、ちょっと新鮮な気分だ。
だが、そんな思いはすぐに吹き飛ばされる。
何故なら……。
「くっ……!」
「……破龍の儀じゃないから、まだ、本気じゃないから……だから、本気で来て、いいよ……。」
吹雪のような凍えるような風が吹きすさぶ。
足元から凍りそうなくらいに寒さが襲う。
ベルナの得意な属性、氷。
眼は氷の水色に輝き、杖の宝石も同じように輝く。
その姿はまさに氷の女王とでも呼ぶべき威厳と美しさがある。
辺りには、室内でありながら雪がちらほらと舞い散るくらいだ。
そんな中、寒さも感じさせないくらいに堂々とした佇まいで、言葉を紡いでいく。
「氷の壁、逃げれぬ者には棺の眠りを、逃げる者には足枷を……。」
「っ、いきなり詠唱……!?……黒槍・瞬奪!」
魔法を省略無しに詠唱する人はこのインフロールでは少ない。
詠唱ありが当たり前の国もあるが、この国では省略や無詠唱が当たり前だ。
この国ではどちらかと言うと威力や範囲より速度の方が優先される。
どちらが優れているか、という事では無いが……だが、大魔法使いとも言うべき魔法使いなら話は変わるであろう。
魔法の性能は、魔力量、詠唱などの技術、魔力操作……そして、なにより才能としか言い様の無い、感覚的な才覚。
それらが織り交ぜられた、それは、まさに魔の法と言ってもいいだろう。
「……氷の城・改【イエロ・カスティ・レフォル】。」
「これは……!?」
氷の城壁と呼ぶべき壁が複数現れる。
前、右、左にと。
本来この魔法は城、と名が付く通りにどちらかと言うと防御用に使う魔法だ。
だが、その壁が動き出す。
私を囲むように、そして圧し潰そうと城壁は動く。
「このっ……!」
普段の戦術の組み立てなら、私なら壁を蹴って跳び回って距離を詰める。
だが、先程の詠唱に含まれた一節……「逃げる者には足枷を」。
それを考えると……。
「はあっ!!」
「……へえ。」
私は雷の魔力を強く使いながら壁に突っ込んだ。
そして、ぶつかった瞬間に闇属性の魔力を強く使う。
そうして、力任せに、貫いた。
訓練とはいえ槍ならお構いなしだ。
そして……。
(くっ……やっぱり!)
城壁を貫いた瞬間、妙に身体が重く感じる。
ちらり、と足元を見ると、肩や足に氷が付着していた。
(魔力の氷……触れるたびに動きを遅くするって事……!)
視線をベルナの方に向ける。
微笑みを変わらず浮かべながら、私の方を見ていた。
余裕の笑み、という事だろう。
次期王女候補であり大魔法使い。
その魔法がこれで全てなわけが無いのだ。
(これは……今まで以上に苦戦しそうね……!)
私も、心の中で小さく笑った。
この訓練は、下手な実戦よりも厳しそうだ。




