私についての世間話 ベルナ編 その1
ティエラと話はある程度はしたから、そろそろベルナとの話も聞きたい。
ベルナは学年が違う上に相手は上位貴族だ。
あまり時間が合わなくて情報収集が間に合わないのでは……と危惧もしていたが、そこは私の杞憂だったというか、ベルナ側から依頼した事だからか、優先的にこちらに時間を割いてくれるらしい。
まあ、王族との関係を取り持つ事は次期王女になる為の重要な要素でもあるのだから、セプレンディ家としてもおろそかに出来ない事なのだろう。
そういう意味では、私やウルティハ、エスセナもベルナのある意味後ろ盾や取り巻きみたいな存在になっている、という事なのだろうか。
(……なんだか、そう考えるとなおさら悪役令嬢度増してきた気がするなあ)
ともぼんやり考えたが……まあ、それも後々のソルスの為になっている、と考えれば、ある意味私の為にもなっている……と考えれば、いいのだろうか?
そんな事を考えていると、まさに丁度良くベルナと会った。
「あ、ベルナさ……じゃなかった、ベルナ。」
「マルニ……ご機嫌よう。」
「ええ、ご機嫌よう。」
しゃなり、と美しい所作で挨拶するベルナ。
前世でなら慌てたかもしれないが、流石に私も令嬢生活も長くなってきた身だ。
流石に教養やマナーなどのレベルは違うかもしれないが、私も手慣れた所作で挨拶を返す。
……考えてみたら最近まで周りに居たのがウルティハ、エスセナだったし、ティエラもまだ貴族としての振る舞いは練習中だから、こうやって貴族らしい振る舞いをする相手というのは私の周りの中では珍しい気もする。
そういう意味ではまた私とは違うタイプというか、まだ距離感を掴みかねている。
なのでこうやって日常的な会話からまずは色々掴んで行かなければ。
「今日は、クラブの方には顔を出すのかしら?」
「うーん……少し、難しいかも……今日は、魔法の訓練の日だから……。」
「あら、二年生どころかこの学園でも有数の魔法使いでも、まだまだ練習するのね。」
「私は、光属性……使えないから……。」
「……そうだったわね。」
リジャール王子との仲はまた別として、魔法の素養、魔力量、貴族としての地位。
政略結婚だとしても結婚相手としては十分な能力を持っている筈なのに、それでもまだ候補、で止まっている理由の一つ。
この国において光属性の重要さが嫌という程分かる。
「他の候補の方たちは、光属性を使える人も居るのかしら?」
「居る……ただ、魔力量が少なかったり、そもそも魔法の才能が私と大きく差があるから……何とか、今私が最有力候補で居られる……。」
「なるほど……。」
魔法使いとしての彼女と地位によってギリギリ保たれているアドバンテージ、という事か。
なるほど、魔法の重要性を考えれば、剣術、魔法、そして強力な光属性。
それらを持つソルスが一気に地位の差を跳ね飛ばしたのも理解出来る。
おまけに、意識はしていなかったが……ソルスの実力は、どうやら私との関わりによって原作の開始時点よりも高くなっている気がする。
もちろん私も大きく変化しているとはいえ、それを考えるとそのアドバンテージは原作以上に縮まっている可能性が高い。
そして光属性に目覚めれば……その差はひっくり返るであろう。
……ただ原作をなぞらせる、というだけなら適当にお茶を濁して、そのままソルスの覚醒を待てば良いのだが……。
「……ねえ、ベルナ。良ければ、一つお願いがあるのだけれど……。」
「……?なあに……?」
「ベルナが良ければ、一度リジャール王子と会って話してみたいの。良ければ、その取次をしてもらえないかしら。……あ、もちろん、リジャール王子の事を私が盗ろうなんて考えでは無いわ、そこは安心してちょうだい。」
「……その心配は、してない……してないけど、私だけの判断では、何とも言えないから……。だから、聞いてみて、それで返事を聞いてみる、ね……?」
「ええ、もちろんそれで構わないわ。リジャール王子は来年の入学の為に勉強や鍛錬とか、王子としての政務もあるでしょうし。」
「わかった……あ。」
「何かしら?」
「……なら、代わりに、一つ頼みがあるの……聞いてもらって、いい、かしら……?」
「……?ええ、私に出来る事なら手伝うけれど。」
こちらがお願いをするのだ、その見返りを求められるのは仕方がない。
というか、流石に私も自分のお願いだけを聞いてもらおうなどと図々しい事は思ってはいない。
さて、何を求められるのだろうか。
「その……良ければ、私の魔法の鍛錬に、付き合って、ほしい……。」
「魔法の……?別に構わないけれど……私の実力では何か教えたり、アドバイスするような事は出来ないわよ?」
「それは、わかってる……それよりも、貴女の闇属性が、理由……。」
「闇属性……?確かに私は学園でも数少ない闇属性使いだけれど……。」
「色々、研究や勉強をして、思った……光属性と、正反対の闇属性に触れれば……もしかしたら、何か光属性に目覚めるきっかけに……なるかも、しれない……。」
「そういうこと、なるほどね……。」
理由を聞けば納得するのと同時に……やっても報われない努力と分かっている分、複雑な気持ちになる。
人の努力を笑ったり無駄だと切り捨てたりはしない、普通は。
だが、この世界は原作という設定の元に存在している世界である筈だ。
そして私は、それが報われないと知っている人間だ。
そしてそれを当然ながら知らないベルナは努力や研究を繰り返し続ける。
それが報われないと分かるその日まで。
いや、もしかしたらその日が来ても、この子なら続けるのかもしれない。
こうやって、普通は忌避されて上位貴族は関わる事は普通は無いであろう闇属性の魔法に関わってまで、それを果たそうとするこの子は、それが出来る強さを持ってしまっているのだろう。
その強さが、必死さが、その想いが。
私には眩しくて、輝いて見えて、それと同時に悲しくて、辛くって。
どうにかする方法は無いのであろうか、と思わざるをえないのだ。
だから、私は……。
「……ええ、それくらいなら、私で良ければ。」
「本当……!?」
「貴女を知る良い機会にもなるし、ね。」
「ありがとう……嬉しい、嬉しいわ……うふふっ。」
私は微笑んでみせると、ベルナは嬉しそうに笑った。
その笑顔は、私よりもどこか幼げな、少女のような可愛らしい笑顔であった。
ベルナは元々どちらかというと可愛らしい寄りの顔立ちではあるけれど、それでも普段は淑女らしい立ち居振る舞いもあってか、美しいという印象の方が強かったから、なんだかこういう表情は少し新鮮に感じる気がする。
私も……どうにかして、この笑顔を守りたい、そう思ってしまった。
書いている途中でこれは世間話と言っていいのか……とも思いましたが、まあこれもベルナにとっては日常の一部という事で……。




