運命の始まり 1
コミエドールに着いた私達はまず最初の活動場所として、フレリスの育った孤児院を選んだ。
すでに活動の内容と日時などは連絡して許可は取っていたから大丈夫なのは分かっている…のだけど、やはり初めてのこういう奉仕活動ようなものに緊張する。
でも、楽しみでもある。
前世では当然身体の関係でボランティア活動なんて出来なかったし、子供たちと触れ合うなんて当然機会は無かった。
…今は自分も歳の変わらないくらいの子供の身体だけど。
それに何より、ソルスに出会えると考えると、緊張と嬉しさで手が軽く震えるし、肩に力が入る。
「お嬢様、ここが私の育った孤児院でございます。」
「こ、ここは…。」
フレリスの育った孤児院、スエルテ孤児院に到着した。
孤児院、と聞いていたので、ある程度寂れているのは覚悟していた…が、思っていたよりはそこまで寂れている様子は外観上は無い。
屋根や壁の木材に修繕の跡があったり、庭のあちこちに土が荒れている所があったり、遊具などが壊れていたり…まあ、気になる点が無いわけでは無いが。
流石に孤児院を運営中だけあって、風が吹いたら簡単に壊れそうなボロボロ、とまでは行かない事は安心した。
様子を見ていると一人の女性が私達に気づく。
「あら?あらあらあらぁ、フレリスじゃない。」
歳はフレリスより上…フレリスが確か25歳くらいだったと思うから、この人は多分40歳行くか行かないか、というところだろうか。
だがおばさん、という雰囲気はあまり感じない。
むしろ綺麗な中に可愛さを残した、お姉さんといった感覚に近い人だ。
栗色の編んだ髪に、髪より少し明るい瞳が綺麗で、フレリスより少し背は小さい気がする、並ぶとあまり変わらないような気がするから小さく感じる印象なのだろう。
自分の気のせいかもしれないが、この世界…ディアーユの人間は歳の印象が地球の人間より少し若く感じる。
というか、顔が平均的に整っている人が多めな気がする。
私の父親はあまりそうでもないが、やはり母親は綺麗な顔をしているし…。
改めてやはりここは乙女ゲームの世界なんだなとひしひしと実感する。
自分の容姿も整っている方で良かったと心から実感する。
「少しお久しぶりでございますね、お母様。」
フレリスが深々とお辞儀をする。
「お母様なんて、そんな大袈裟だわ、フレリス…と言っても、確かに今はそうするのがお仕事だものね。…そして、もしかしてこちらのお嬢さんが…。」
「はい、マルニお嬢様でございます。…マルニお嬢様、こちらがこの孤児院を運営している…私の母親代わりと言える方、ノスタル様でございます。」
「は、初めまして、オスクリダ家令嬢、マルニーニャ・オスクリダです。マルニとお呼びくださいっ。」
「あら、可愛らしいお方、それに挨拶ももうしっかり、偉いわね、フレリスから聞いた通りだわ。改めて、挨拶するわね。このスエルテ孤児院で院長をやっています、ノスタルです。今日はお願いね?」
「あ、はい…その、私からお願いしたのにおかしな事聞きますけど…その、私が、オスクリダ家の人間が怖くないのですか?」
「んん?」
ノスタルさんは少し驚いたような反応をする。
そこまで予想外な質問だったのだろうか。
ちょっと考えるような仕草の後に、ノスタルさんは答えた。
「そうね…怖いとは違うかもしれないけど、確かにオスクリダ家が原因でここに来ざるをえない子供達も居るから、何も思わないとは言えないわね。孤児院の運営も大変だし、私もそれなりに苦労したから。」
「…そう、ですよね…。」
落ち込みはしない。
なんというか、そうなんだろうなとは思っていたし、そうであってもおかしくはないと思っていたから。
そもそもオスクリダ家は、コミエドールの町を牛耳る、言わばこの町の悪、この町の膿、この町の癌とも言える存在であろう。
賄賂を受け取る兵士や役人、ご機嫌取りの他の貴族や、裏のあくどい商売をする悪徳商人。
そういう相手には喜んで笑顔を向けるが、普通の市民や善意の人は平気で傷つける。
そういう親であり、そういう人達なのだ。
そして、転生してなった身ではあれど。
自分も紛れもなく、その一人なのだから。
だけど、何も思わなくは無い、ただ、それだけの事だけだ。
「でも、貴女を責めようとは思わないわ。」
「…っ?」
その言葉に思わず反応する。
「………何故ですか?私は、オスクリダ家のなのに?」
思わず聞いてしまう。
今の私の対応は、反応は、言葉は、果たして子供らしいのだろうか。それとも、貴族や令嬢らしいのだろうか。
そんな事も考える暇も無いくらい瞬間的な反応だった。
「だって、貴女から何かをされてはいないもの。むしろ貴女は、私達のお手伝いをしてくれるというのでしょう?だからフレリスも、貴女を信用しているのだと、私はそう思うわ。私も、フレリスを信用しているから。」
「………そう、ですか。」
なんというか、不思議な感覚だった。
その血筋を受け継ぐ者である事と、個人の事は別である。
それは頭ではもちろんわかっていた。
でも、心がそれを今まで受け入れていなかった。
その違いを理解して受け入れる。
それが出来る人が居るという事を初めて自分で実感した。
当たり前の事かもしれないが、それは当たり前ではない。
だからこそ。
それが私にはとても嬉しい事に感じた。
「…ありがとう、ございます。」
つい笑顔が零れてしまう。
ノスタルさんは私に笑顔で返してくれる。
「こちらこそ、来てくれてありがとね。…やっぱり、聞いていた通り、可愛い笑顔だわ、マルニさんは。」
フレリスは私の事を話していたのか。
どんな風に話していたか気になるし、自分の話をしていた事、可愛いと言われた事が恥ずかしいようで、照れるようで…でも、それ以上に嬉しかった。
ああ、やっぱりフレリスとここに来て、フレリスに頼んで良かった。
今日は頑張れる、色んな事を頑張ろう。
そう思った瞬間であった。
おかしい、この話で幼少期編が終わって次から中等部編な筈だったのに何故まだ幼少期編が続いている…そしてなぜ一ヶ月も投稿が遅くなっている…(ゲームで遊んでたのもある)。頑張って投稿スピード上げます…ごめんなさい。