壊滅的な現状の把握
「デート、ですか?」
「そう、デート……よ。」
自室に帰って食事しながら、フレリスと話をする。
フレリスなら、お姉さんなのでもしかしたらそういう事も経験あるのでは?という推測であった。
「ふむデートですか……お嬢様もついにデートをするようなお年頃に……。」
「待って、私じゃないわ。今回のデートをする人は……。」
「……する人は?」
自室なので当然私達以外居ないが、一応内密な話であるのでつい周りを気にしながら、声を小さくして言う。
「絶対、絶対他の人には秘密よ?」
「私に言っても大丈夫な事であれば、もちろん秘密は守りますわ。」
「……ベルナ次期王女候補と、リジャール王子よ。」
「まあ……それは確かに大事ですね。」
フレリスにしては珍しく明らかに少し驚いている辺り、流石に予想外であったのだろう。
「一体どういう経緯でベルナ次期王女候補とリジャール王子の逢瀬の手伝いなどとという運びになったのです?」
「それが……。」
私は経緯を話した。
元々クラブは王族を入れたいという話があった事。
そこにちょうどよく、ベルナとティエラが困っていた為その助けをする代わりにクラブに参加してもらう運びになったという事。
ベルナとティエラは他の貴族はあまり頼れないから変わり者と言われる私達に頼るしか無い上にデートなどそういう経験も無く、リジャールとどう接すればいいかわからないという事。
「……と、こんな所かしら。」
「なるほど……これはまたなかなか難題ですね。」
フレリスも考え込むような仕草をする辺り、今回はエスセナとの事とはまた違う方向で大変な事なのだろう。
実際、私も頼れるのは前世での知識だけだ。
「……とりあえず、私から言える事が二つあります。」
「何かしら?」
「まず……お嬢様の事ですから、この後ソルス様とこの件についてお話するでしょうけれど、この事はなるべく仔細はぼかして話すようにしてくださいね、万が一にも王族の動向が周囲に知られるような事があったらいけませんから。」
「うっ……わ、わかっているわよ。」
一応それはわかってはいた。
自分も貴族として今世では暮らしてきたのでそういう偉い人の動向が簡単に人の耳に入るなんて事はあってはいけないというのは非常に実感していたからだ。
それこそ王族だからって暗殺だとか窃盗とか誘拐とかを考える人だって居るかもしれないのだ。
もちろん、そんな事簡単にされないくらいにリジャールは強いし、ベルナも強いのであろうが……。
それに一応釘を差してきたという事は、私達の事、特に私の行動を見透かしたうえでの言葉だ。
まあ、フレリスはお姉さんのような存在だ、やはりそういう所は気にしないわけにはいかないのであろう、メイドとしても主従としても。
だから鬱陶しいとかは思わない。
「……それで、もう一つの言える事ですが……今回は私はあまり力になれないかもしれません。」
「……?それは、どうしてかしら?」
「理由は二つあります。まず私は孤児院出身の身です。言うなれば、社会の地位においても底辺に近い身分の出身です。」
「……そうね。」
それは否定のしようの無い事実だ。
なんならソルスもそうだ、だからソルスはそこから這い上がり、結果的に成り上がったのだから。
そしてだからこそ、王族や騎士、貴族の攻略対象と心を通じ合わせていくのが「やがて光の君と共に」なのだから。
「そして、もう一つ、なのですが……。」
「……フレリス?」
どうしたのだろうか?
なんだかフレリスがそわそわして、フレリスにしては珍しく頬が赤くなっている。
今日はフレリスの珍しい表情がよく見れるな……ではなく、そんな顔をする理由がさっぱり想像がつかない。
その疑問の答えを、フレリスは深呼吸して赤い頬のまま少し小さな声で言った。
「その……私も、そういう色事に関する知識や経験はあまり無く……お役に立てず、申し訳ありません……。」
「なっ……!?」
なん……という事だ……。
頭を小さく下げて謝るフレリスを見て可愛いな……とか思っている場合ではない。
(この美人で頭も良くて気が利いて武術の腕もたつフレリスが恋愛経験無し……!?)
私は果たして、驚く……というか、軽く絶望したようなこの感情を果たして顔では隠せているだろうか。
それくらい予想外の言葉だった。
人生的に色々お姉さんだったあのフレリスでも教えれない未経験な事があったとは……。
「そ、その、好きな人が出来たりした事は、流石にあるわよね……!?」
「いえ……その、今まで仕事などをやるので時間を費やしてきたので、そういう気持ちなどを持った相手も居らず……。」
「そ、そうなの……。」
赤い顔を逸らして言いにくそうにしながら話すフレリス。
今まででこれほど初々しいというか可愛らしいようなフレリスは見たことが無いかもしれない。
……いや、それどころではない。
これは困った、私の身近で一番頼れそうな柱があっさりと折れてしまった。
『デート、ですか!?』
「そう、デート……よ。」
『マルニ様、誰かとデートするんですか!?』
「私では無いわ……ある貴族同士、恋愛結婚として結婚したいという話があったから、聞いてみたの。」
『ほっ……なんだ、良かった~……。』
「わ、私じゃなくてごめんなさい。」
『いえ、むしろ安心したというか、嬉しいですっ!!』
ソルスは何故こんなに取り乱しているのだろうか……?
まあ、私も誰かと恋愛したりしたら、その人に時間を使う事になるだろうから、多分ソルスと話す時間も減りそうだからやはり寂しいのだろうか。
そう考えるとやはり可愛い子だ、そんな心配なんてしなくてもちゃんと時間は作るのに。
(やっぱり好きだなぁ、ソルス。)
『でも……すみません、マルニ様、私もそういう経験とかじは全く無くって、お力にはなれないかもしれません……。』
「そ、そう……その、孤児院の誰かかっこいいなぁって思ったりした事は無いかしら?その、あ、アルデールとか……。」
『アル君ですか?うーん……そういう風に見た事は無いですね。むしろ家族、兄妹って感じですから。』
「あ、あはは……そ、そう、なのね……。」
とほほ……。
これで周りに居る女性陣がそういう方面の経験や知識がほぼ壊滅的だという事が確定してしまった。
更についでに言うとソルスが何となく、アルデールのルートに入る気配は無い事もほぼ確定してしまった。
まあ、ソルスは原作でもサンターリオ学園に入ってからがゲームのスタートだったのであまり期待はしていなかったが……。
『でも……そういう恋って気持ち自体は、分かっていると思います……。』
「……ソルス?」
『ああごめんなさい!今のは、気にしないでください!さ、さあマルニ様、きょ、今日は早めに寝ましょうか、おやすみなさい、良い夢を!』
「へ……?あ、そ、そう……おやすみなさい……?」
どうしたのだろうか?
ほぼ一方的に話を切り上げて今日は終わってしまった。
……何か、聞かない方が良い事を聞いてしまったのだろうか?
(うーん……変な事聞いたからかな……それなら謝るべきかな、それともそっとしておいた方が良いのかな……)
私は困惑で少し悶々としながら、今日は寝る事にした。
(それにしても、デートってどうすれば良いんだろ……)
時間がるときになるべくお話を進めておきたかったので、この三日間で5話も投稿出来てよかったです。これからもここまでのハイペースは無理ですが良いペースで執筆出来ていけたら良いなと思います。




