新たな出会いと出された難題
そんなこんなで、夢で言われた近いうちに訪れる破滅、という物が結局何なのかわからないまま日々が過ぎて行って季節は秋のある日の事。
「マルニーニャ嬢、少し良いだろうか?」
「はい?どうかしましたか、ジュビア先生?」
「重要な話があるので、今日は必ずクラブの方に顔を出してほしい。予定は大丈夫だろうか?」
珍しい。
ジュビア先生は基本的にはクラブの活動に口出しはしない方針なので結局私達のクラブ活動は魔法の研究や新しい魔法の開発、魔導機などと言った魔法道具の研究や、私が主体で接近された時の武術や体術を教える、という感じで過ごしてきた。
そんな感じで、特に明確な目的も無い状態でも活動してきた私達に、連絡する事があるとは何なのだろうか?
……まあ、考えても仕方ない。
「はい、大丈夫です。」
「良かった。なら、良ければウルティハ嬢とエスセナ嬢にも伝えておいてくれ。よろしく頼む。」
「わかりました。」
予定があるわけでもないので断る理由も無い、
私は頼みを了承する事にした。
そして放課後。
三人で先に集まって、今日は雑談しながら待つ事にした。
「私達に大事な用事って、一体何かしら?」
「あん?マルニわかんねーの?」
「……そう言うって事はそっちは大体見当がついている、って事かしら?」
「僕も大体あれかな、って思う事はあるよ。むしろ当初の想像より遅かったくらいだ。」
「つまり私だけ分からない状態って事ね……魔法や武術に関する事は自発的にやってるし、勉強に関しては私達は特に問題のある成績じゃない……どころかウルティは成績トップクラスだし……となると、全く違う事で、かつ先生が関わらないといけない事……という事かしら。」
「なかなか良い読みだけれど、それだけじゃまだ材料が足りないんじゃないかな。」
「ま、答えはもうすぐわかんだろ。……そら、来たぜ。」
ウルティハの言葉で廊下からの足音に気づき、私達は姿勢を改める。
足音は……複数?
どうやら一人だけではないらしい。
予想通り、入ってきたのはジュビア先生だった。
「すまない、待たせてしまったね。」
「いえ、こちらも集まってそれほど時間は経っていませんから。それより、重要な話というのは?」
「ああ、その事なんだが早速だが……二人とも、入ってきてくれ。」
教室……私達クラブの活動教室から外の廊下の方に向かってジュビア先生は声をかける。
先程歩いてきた複数の足音の正体……二人の女の子は、片方は静かに、しかし上品に歩いてきた。
もう一人の女の子は、その女の子の真似をしようとしている……らしいが、何処か無理をしているのか、なんだか動きがぎこちない。
そして、入ってきたその二人の顔を見る。
(えっ……!?)
私は心の中で声をあげた。
だって、その女の子のうち一人、お上品な方の人は……
「では、自己紹介を頼む。」
「はい……あ、えっと、私は……ベルナ・セプレンディです。知ってはいてくれてると思うけれど……この国の、次期王女の予定、です……。」
「アタクシはティエラ・バレンティアですわ!ベルナ様に憧れて、ベルナ様の隣に合う立派なレディ目指して修行中ですわ!皆さま、よろしくしてくださいませ、おーっほっほっほ!」
(べ、ベルナ・セプレンディ……!?)
私より明るい、明確に紫色と言える少しふわりとした長い髪に、白と水色のグラデーションの瞳、どこか眠たげにも見えるとろんとした落ち着いた目、絵本の中のお姫様といっても不思議に感じないくらいに可愛らしさと美しさを兼ね備えた美貌、私やウルティハよりも大きな胸やお尻に対して細い身体、それでありながらどこかふわふわとした柔らかい印象を与える雰囲気。
制服も二年生を示す明るい緑色のフード付きマントに、独自の改造を特別に許されているらしく、袖やスカート部分には白いフリルが追加されている。
サンターリオ学園での恰好は初めて見るけれど……間違いない。
この人が、原作ではいずれリジャール王子とのルートで婚約を破棄される次期王女……になる筈『だった』貴族、ベルナ様だ。
彼女は原作ではソルスが現れるまでは次期王女最有力候補であり、事実リジャール王子以外のルートではそのままリジャール王子と結婚する次期王女が決まっているような存在だった。
だが、リジャール王子とのルートでは『ある大きな欠点』が故にソルスが次期王女として指名され、その結果ソルスが王女となる。
……その欠点は、確かに王族にとっては大きな理由になる物だった。
もう一人の女の子……ティエラは、どうやら私と同級生らしく、同じ一年生の黒めの青のフード付きマントを着ている。
緑色のボブくらいの髪をツーサイドアップで結び、活発そうな明るい茶色の瞳を輝かせてお嬢様らしい高笑いをあげている。細すぎる、という印象はあまり無い程よく太さのある身体は、だが余分な肉では無く少し筋肉質に感じる。スポーツ女子、って感じの印象に近いかもしれない健康的な肉体は、女性的な柔らかい印象のベルナとはある意味正反対に感じる。だが顔はどこか幼さも感じるくらいに可愛らしい女の子だ。
この子は原作に出てきてはいない……と思うが、確かベルナ様の登場シーンでモブにお嬢様口調の人が居た気がするので、もしかしたらこの子がその子なのかもしれない。
だが、バレンティア家、というのはサンターリオ学園で過ごしている間に聞いた事がある。
確か、宝石採掘で一山当てて一気に社交界に這い上がってきた新しい……悪く言えば、成りあがりの貴族だ、と噂されていたと記憶している。
次期王家に入るであろう候補筆頭のセプレンディ家の令嬢によく絡んでいる……とは聞いたが、まさかこうやって一緒に行動しているとは。
何か政治的だったり金銭的な理由では……と噂されていたが、どうやら違うように私には見える。
「え、えっと……お初にお目にかかります、ベルナ次期王女、ティエラ様。」
「ん……次期王女は、不要よ……同じクラブに入るのだから、ベルナでいい……はふ。」
「ベルナ様と右に同じですわ!それにベルナ様は二年生ですけれど、アタクシは皆さまと同じ一年生!アタクシも同じくティエラでよろしくってよ!!」
「……ティエラ、貴女も、私を様って呼んでるわ……。」
「ベルナ様はベルナ様ですから仕方ありませんわ!おーっほっほっほ!」
「うっし、ならベルナにティエラだな!アタシ様は天才魔法研究家、ウルティハ・インベスティだ、よろしくな!」
「僕は、私は、偉大なる大女優!エスセナ・デ・ヌエ・アクトリスさ!演劇を見たいなら僕を呼んでくれると嬉しいね!」
「ちょ、ちょっと二人とも……!……もう。えっと、私はマルニーニャ・オスクリダと申します。改めて、よろしくお願いいたします、ティエラさん、ベルナ……様。」
「うん……まあ、構わないわ。ゆっくり慣れてくれたら、私も嬉しいわ……。」
「アタクシもよろしくお願いいたしますわねっ、ウルティハ様、エスセナ様、マルニーニャ様!」
(くっ……!私には、簡単に先輩を、しかも次期王女という立場の人を呼び捨てなんて出来ない……!そういう意味ではあっさり簡単に呼び捨てが出来るこの変人コンビが羨ましい……!)
そんな事を心の中で思ってついぐっと強く拳を握る私であった。
とはいえ、なんだか予想していたベルナ様の人物像とはなんというか、あまりにも違いすぎて驚いた。
……まあ、こんな普段はどこか眠たげでふわふわとした雰囲気の人が動揺する程に、婚約破棄の瞬間の衝撃は大きかったのだろう。
『あの欠点』については、コンプレックスもあったのかもしれないし。
それに所謂取り巻きに当たるであろうティエラも、少々声がでかい……というかやかましいくらいに声がでかいが、それでも悪い印象は持たない。
むしろ、元気で快活で良い人そうに見える。
そういう意味でも、ゲームで見る印象からはかなり変わるなと思った。
「さて、よろしく……という事でもうわかったと思うが、ベルナ次期王女とティエラ嬢もこのクラブに参加してもらう……といっても、今は仮参加だが。そういうわけで、挨拶してもらったというわけだ。」
「さっすがジュビアせんせー!よくアタシ様が呼びたい人が分かったな!」
「まあ、君達を見ていて大体想像はついたからな……。」
「ああ、なるほど、前に言っていた……。」
そういえば確かに、以前王族との繋がりを持ちたい、と言っていたが……なるほど、次期王女と繋がりを持つという事にしたのか。
しかも、ベルナ様なら……なるほど、納得する物はある。
「でも、よく勧誘できましたね、ジュビア先生。ベルナ様は次期王女、簡単に近づくのは教師でも出来ない筈なのに……。」
「ああ、それだが……先程も言った通り、ベルナ次期王女は仮参加だ。つまり、正式な参加には条件がある、という事で、今回はそれを君達にどうするか考えてほしい、というのもあったから集まってもらった。」
「条件……?」
「ええ……他に、条件を飲んでくれそうな人が、見当たらなかったから……。」
もじもじ、と、先程までは眠たげに見えたベルナ様は少し頬を赤く染めて頷く。
その姿はまさに恋する乙女、とばかりに可愛らしく見える。
本人に言ったら失礼かもしれないが。
「……それで、その、条件とは?」
「うむ……ベルナ次期王女、どうぞ。」
「ええ、そうね……。」
ベルナ様は大きく深呼吸する。
どうやら緊張するような内容、らしい。
意を決して、私達の方を見ながらベルナ様は口を開いた。
「私と、シャル君……リジャール王子との仲を深める、手伝いを、してほしい……です……。」
「…………へ?」
というわけでついに出せました、新キャラ、ベルナとティエラ、そして「ベルナ&ティエラ編」、開幕です!新キャラを加えてこれからどうなっていくか、ぜひ見守ってください!




