黒い夢と謎への追求
「妙な夢を見続ける、かぁ……。」
「そうなの、二人や先生は何か思い当たる事は無いかしら?」
「ふむ、生徒の質問には出来る限り答えたい所だが……これはなかなかに難題だな。」
「うーん……思い当たる物はあるけど、確証や説得力は無いね……。」
私は放課後、クラブで相談としてウルティハ、エスセナ、ジュビア先生に相談してみた。
一応ジュビア先生が居るので前世の話などは無論避けてだが、可能な限りの事は話した。
どうやら、三人ともなにやら思い当たる物はあるような反応だったので話した事に意味はあった……のかもしれない。
「うーん……アタシ様から意見を言ってもいいかい?」
「ええ、構わないわ。」
「僕は最後に言わせてもらうよ、あと、秘密の話だからちょっと二人には聞かないでもらう事にしてもらうけれど。」
「……?まあ、いいわ。」
「んじゃあアタシ様の推測だな。と言っても、多分先生と似た推測だと思うんだけどな。」
「おや、やはりそうかい?まあ、そうなると私達の推測が一般論、という事になるのかもしれないね。」
「ふむ……。」
そう言いながら、ウルティハとジュビア先生は黒板に文字を書き始める。
二人でお互いの意見を見ながら、意見は纏まったらしく、私とエスセナに書いた文字を見せる。
「アタシ様達の意見は強い魔力が人間の姿を取った姿ある、という説だ。」
「そして私の意見は、闇属性の精霊、もしくは神といった超自然的存在が語りかけてきた、という説だ。」
「なるほど……魔力が生物の形を取る、というのはわからないけれど……神様という話なら、ドラゴディオス様みたいな存在が闇属性や私の中に存在する、という可能性は無くはないという事になりますね……。」
この国インフロールの守護神であり、同時に破龍の儀で乗り越えなければいけない存在である守護龍、ドラゴディオス。
この世界には、現実として神様が存在するのである。
それを考えると、ある意味神様という存在は遠い物であると同時に身近な物でもある、というのがこの国なのだ。
「事実として、魔力が魔物や人間、自然に影響を与える事もあるという研究もある。って事を考えるなら、そういう何か概念的な存在が魔力によって形作る、って可能性も在り得なくはない、とアタシ様なら考えるなー。
「私としても、ドラゴディオス様以外にも神様の存在を証明しようとする研究もあるし、精霊、妖精といった超自然的存在の話を解き明かそうとする研究や祭りあげようとする宗教などの話も聞いた事がある。事実、他国である桜日などにも神が居る、とも聞くしな。」
「そういう研究材料もある、という事ですか……。」
「ただ……。」
「ただ?」
きょと、と私は首を傾げる。
それに対して、二人は顔を見合わせると言いにくそうな顔をする。
だが、決意はしたのだろう、ジュビア先生から話し始める。
「……マルニーニャ嬢、君は確かに騎士として模範的と呼べるくらい礼儀正しく、それにトップクラスとまでは言わないにしろ座学、実力、態度、どれを取っても平均よりも明らかに上位と呼べる程に優秀だ。」
「……?ありがとう、ございます……?」
「だが、確かに優秀ではあるが、所謂学園に名を残すような天才、と呼べるかと言われると、正直頷くのは難しいというのも事実だ。」
「あ……確かに、そうですね。単純な槍術だけならそうそう負けないですが、私の魔法込みの実力だと総合力では上は居ると感じてます。」
「そうだ、君がそういった神や超自然的存在に愛された存在……と呼ぶには、君には天才と呼べる程の才能を感じるかと言われると、少なくとも私は今は感じていない。無論、これから開花する遅咲きの華という可能性も無いわけではないが。」
「アタシ様も似た意見だ。」
ジュビア先生の意見を聞いて頷いていると飛んできたウルティハの声に、そちらに顔を向ける。
「ウルティもそうなの?」
「ああ……もちろん、闇属性っていう特異性がある、って点を加点して、しかも闇と雷の扱いはかなり上手いというのを加味しても、それでも他の属性が凄いわけでも無いし、魔法の扱いってだけならアタシ様やセナの方が上手い。」
「それは確かに否定出来ないわね……特に、私のような前線に出て戦う騎士が、魔法を専門にして戦う人達と同じくらい魔法が使えるというのはかなり例が少ないし、私がそれに含まれているとは思わないわ。」
「だろうなぁ……てか、魔法や魔力に愛されてるとか神様に愛されてるって存在なら、何でそんな存在がマルニに対して破滅の運命だのなんだのと攻撃的なんだよって話になるからな~。試練を与える神様、とかも居るのしてもなんかそういう感じじゃなさそうだし……そう考えるとこの推論は間違ってる気がするんだよなぁ。」
「「う~ん……。」」
「ふむ……確かに答えとして正しいのかはわからないけれど、そういう意見もあるという意味では助かるわ。ウルティ、ありがとう。ジュビア先生、ありがとうございます。」
二人にお礼を言う。
なるほど……確かに研究家である二人からすると、この世界……特にインフロールで有り得そうな可能性をあげるのは当然である。
そして、それと同時にそれ故にその例外的存在に私が当てはまるような可能性が見当たらない、と感じるのも。
そして、私もそれに対して頷いてしまう辺り、私もそう感じているという事なのだろう。
という事は、そういう神様だとか魔力の具現化だとか、そういう不思議な現象的存在ではない……という事だろうか?
私に何か特別な可能性がソルスみたいに眠っていて今はそれが目覚めていないだけ……というなら、私としてはありがたいとも思うが。
「……エッセは、ここまでの意見とは違う意見なのよね?」
「うん、そうだね。僕の意見は、二人とは違う意見だよ。」
「うーん……全く想像がつかないけれど……。」
「僕も、あくまでも想像で、全然自信は無いんだけどね……二人には聞かせられないから、ちょっとこっちに来てくれるかい?」
「ええ、わかったわ。」
何だろうか……?と思いながら、呼ばれるままにエスセナの近くに来る。
そのまま手招きされたので、少し屈んで背の低いエスセナに合わせて耳を近づける。
エスセナも口元を耳に近づけて、ひそひそと話し始めた。
「……僕と君がこの世界において、特異な部分が一つある。それは、僕と君は前世の記憶がある、って事だ。」
「……!それって……。」
「具体的な考えがあるわけじゃないけど……前世での事に、何かヒントがあるんじゃないかな?」
「……なるほど、そういう考えもあるのね……。」
なるほど、それは考えていなかった。
この世界における特異性。
私は前世、黒野心の記憶も心も引き継いでいるという事。
そして、エスセナ……そしてその前世、水嶋エンジェ王姫。
この二人は同じ特異性を持っているにも関わらず、同時に私、黒野心にはあって、水嶋エンジェ王姫には無い物がある。
エスセナにはまだ話していない……話す事にならないかもしれないが。
それは、私は、この世界が乙女ゲーム『やがて光の君と共に』と同じ世界観であるという知識を持っているという事、そして、私がマルニーニャ・オスクリダというその原作にも登場する存在の役を被った存在であるという事だ。
だとしたら……あの夢に出てくる私は、本当は私ではなく、原作のマルニーニャ・オスクリダその人である、という事だろうか……?
こればかりは原作でも姿が出てこなかったので確かめようが無いので想像でしかないが。
だが、疑問点もある。
それは、仮に彼女が原作のマルニーニャ・オスクリダその人だったとして、彼女は原作では破滅する人生を送るのだ。
そんな彼女が、何故破滅を望むかのような事を言うのであろうか?
それに、何故私は闇属性以外の魔法も使えるのだろうか?
……他にも色々と気になる所が多くて、やはり何かが引っかかるというか、やはり納得出来るような答えには至らなかった。
「意見ありがとう、エッセ。もう少し考えてみるわ。」
「どういたしまして、まあ、僕も力になるから、いつでも頼りたまえ!」
とりあえず三人の意見を頭に入れてあれやこれやと考えながらも、やはり答えには辿り着けず。
どこかすっきりとしない気分を抱えながら、私の時間は過ぎていくのであった。
時間があるうちにお話を進めたいので一日に二つ目を投稿しました。沖牟中奇譚の方も進めたいのですが、今は転生悪役令嬢の方が進めたいのでこっちをなるべく先に進めようかなぁと思います。早く新キャラが書きたい……!